王都では
―◇―
そ・の・こ・ろ。
王都でマリア像の発注先を訪ねたリオフリッチ伯爵は、妻の等身大に作らせた像の出来栄えを前後左右から堪能していた。
彫刻師は伯爵の賛辞と潤沢な褒美ににやにやしている。
「聖マリア像の髪色はブロンドのご依頼が多いのですが、私は濃いめが正しいと思っております。東の聖地のご出身なのですから。伯爵様のご依頼は斬新にして正鵠を射ておられる……」
ごますりがてら揉み手をしていたが、ふと思い出し、知り合いから預かった羊皮紙を上客に手渡した。
伯爵は、自分の街での催しの知らせを見て、驚愕した。
「な、何だと!?」
「いいではありませんか、この聖マリア像を台座に載せてしまう前に街の中でお披露目する。彫師冥利に尽きるというものです」
「違う!」
「違うとは伯爵、どういったことで?」
彫刻師は内容を読み上げた。
「9月15日 悲しみの聖母の日、真のマリア様がコヴェントリーの街に降臨される!!! 純潔にして高貴、無原罪のお宿りより乙女になられた、生まれたままのそのお姿、頭を垂れて拝み、お迎えせんことを」
伯爵が苦しげな声で遮った。
「わかっている、わかっているから。見せびらかさずとも、おまえが美しく清らかな乙女であること……。あんなことを言ってしまったのは、他の男たちに嫉妬しただけだ、私はただ、嫉妬しただけなんだよ……」
普段は感情を見せない男が頭を抱え、彫刻台にのめるように上体を支えた。
「これでは誰がオリジナルで誰が偶像かわからぬではないか。彫像もマリア様ご自身も、おまえほどには大切じゃないと何故にわからぬ……?」
「リオフリッチ様?」
「止めなければ、止めさせなければ……。堪えられないと言っただろう? おまえが衆目に晒されるだけで我慢ならぬのに、どうしてこの様な……。それも聖堂のためなのか、皆に税金を負担させないためなのか? そこまでする理由は何だ?」
「リオ様、『おまえ』とはどなたのことで?」
「妻だ、私の最愛の、真のマリアのような! 早く荷造りをしてくれ。この像を一刻でも早く持ち帰り、すり替えなければ」
彫刻師は頭を傾げながら、マリア像をぐるぐると布に巻き込んでいく。
「すり替えるとは? ちなみに遅れるとどうなると?」
「妻はマリア様の代わりをするつもりだ」
「それはそれは、さぞかしお麗しいお披露目に……」
「生まれたままの姿だぞ!?」
―◇―




