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サラの提案

 

 サラが口を開いた。

「お茶会を当分やめようかと思うんだけど」

「へ?」


 焦った。

「か、帰れなかったのは悪いと思ってるわ。みんなのこと蔑ろにしたんじゃないの。旦那様が懸命に建てようとしている聖堂のお手伝いがしたかっただけ……」


「まあ、今のところ侯爵のお嬢様方に来てもらう状況でもなし」

 ルツが呟いた。


「あの、みんなはお茶すればいいんじゃない? 私はできればお茶菓子を、自分で食べるより街に持って行きたいけど」


「お屋敷を守っていくのに、奥様と私たち4人が連絡を密に取るのはいいことなんですが、今のところ、敢えてお茶会で顔を合わさなくてもそれはできているようなので」

 サラの声は昨日から温まってない気がしてしまう。


「そりゃ、奥様煩いくらいにキッチンに下りて来られるし、野菜畑だって」

 ベックスが笑ってくれた。


「うちの人、昨日街に出たんだけど、すごく賑わっててびっくりしたって。奥様が何か魔法を使ってるみたいだと笑ってましたよ」

 メルが微笑みかけてくれてほっとした。

「それは、建設現場に働きに来ている人がたくさんいるからよ」


「雑貨屋も儲かってるとのことです」

 サラが一言添えると、

「そりゃ、詳しいわよね、昨日会いに来てたもの」

 とルツが冷やかした。

「配達があっただけ」

 雑貨屋の跡取りさんがサラにアタック中かな。


「本題は、そんなことじゃないわ」

 サラがムッとしている。

「街でお茶会をしないかってことなんだけど?」


「街で?」

「お茶会?」

 ベックスと私が驚いた。


「今日から9月でしょ? 次のマリア様の祝日は8日」

「あ、えっと、お誕生日だったかしら」

「そうなのよ」

 サラとルツは話が見えているようだ。


「うちの人が言うには、旦那様、マリア様のお誕生日までに聖堂を建てたかったのだけど、金策に苦労してるって」

「あ、それは私が、足らない分は都合するって大見栄切っちゃったから、困らせてるの」


「税金取るとおふれを出して、さっと集めてしまえば間に合った」

 というサラにベックスは顔を曇らせる。

「税金は嫌だよ、マーシア・パスティならいくらでも焼くけど」


「だったら、パスティだけじゃなく、もっといろんなお菓子を焼いて下さいな」

 サラが微笑んだ。

「今から作り置きできる、ビスケットやクッキー、スコーン、日にちが近付いたらパン・ケークにタルト、甘くないのも欲しいから、キッシュもね」


「それらをみんな街に持って行って、できかけの聖堂の前でマリア様のお誕生日会をするの。お代はどんどんコッファーに入れてもらう。どうですか、奥様、この案は?」

「スゴイ……」

「王様の戴冠式とかあると、ストリート・パーティって結構あちこちで開かれるものなんですよ?」


「うちの旦那の馬車に加えて、旦那様の荷馬車をメルのご主人が御してくれれば、大量のお菓子が運べるわ」

 ルツが笑う。


「テーブルとかイスも1セット持って行って、後は旅籠や各家庭から持ち寄りで、ハイ・ストリートに延々と並べる」


「ティーポットは借りられるかもだけど、お茶っ葉はいろいろ取り揃えなくちゃ」


「お世話する奥様がうちにいなくて、私が何をしていたと思うの?」

 サラはドヤ顔。


「痛い思いしてネトルの若芽を摘んで、あちこち歩いてノイバラのローズヒップ集めて。カモミールとレッドクローバーも野原で見つけたのは摘んで陰干ししておいた。後はメル、ミントやらタイム、ローズマリーをお願いね」


「やられた。ほんとサラには敵わないのよね、私」

 メルが頭を抱えて、みんなで笑った。


 ああ、私は独りで空廻ってた。もっと早くからサラに相談したらよかった。

 もしかしたら、お世話係という立場を下に見ていたかもしれない。小間使いとか下女とかそんな言葉が脳のどこかに点滅していたのかも。

 

「私は貴族だ」と言いたくなったということは、私の態度のどこかに、そんな雰囲気があったのかもしれない。

 自分の方こそ平民も平民、伯爵令嬢なんて大ウソなのに。


「ごめん、サラ、ありがとう……」

「何がごめんかわかりませんわ、奥様。それとメルに訊いたら、旦那様、今王都に行かれてるそうですよ。聖マリア像に定評のある彫刻師のところへ」


「さみしくても我慢して下さいな」

 ベックスに冷やかされた。


 サラは、昨晩の私の「淋しい」という涙を、旦那様がいないからだと理解したらしい。

 もう誰も家族は残っていないのだろう、サラには。


 私が泣いたのは、リオの姿が見えないせいというよりも、自分がどうしたらいいかわからないせいだった。

 リオがいても、あの夜のように「抱く」と宣言されたら、私は縮こまってしまう。

 今はまだ。



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