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八百屋の若旦那

 

 ある日お茶会で、メルが

「夏野菜がどれ程余るか、今なら予測がつきますけど、どうします?」

 と訊いてくれた。


「少しでもたくさん収穫して街に持って行きたいわ」

 と答えた。

「じゃ、明日収穫手伝ってくださいます?」

「もちろんよ!」


 一番多かったのは、ベニバナインゲンだ。平べったく長い豆で、鞘ごと食べるから保存がきかない。私の身長より高く蔓を伸ばし、4つ5つと束になってここかしこ、ぶら下がっている。

 そしてエンドウ豆。冬季保存用はもっと熟してから摘むのだそうだが、それでも余る分を旬のうちに収穫した。花もまだ咲いていて、これからも余分ができる由。

 後は、アサツキがたくさんと、マローと呼ばれるズッキーニのお化けのようなもの5つ。


 リオは一度野菜畑に顔を出し、「おまえがそんなことをしなくても」とぶつくさ言ってうろついてから書斎に戻った。

 

 馬に乗せてもらうことがなくなったので、てんで密着していない。

 日曜日の朝、裏の聖ミカエル礼拝堂で隣り合って座った時だけ、そっと手を握ってきた。

 

 キスもハグもされてない。可哀想な夫だとは思う。


 それより今は、聖堂を建てる方が大事でしょ。


 リオはもう既に土木作業に着手した。自分のお金、六千ピーでできるところまで進めるつもりだ。

 私のお金が間に合わなかったら、その場で税の徴収を宣言しかねない。



 初めて会話した八百屋の若旦那はかなり口の悪い、やりにくい相手だった。

 伯爵夫人という肩書に敬意を払ってもくれない。


「そっちの野菜とこっちの野菜、分けて売るなんてできねえんだよ。お屋敷モンでモノがいいってのは見てわかるよ。それを安売りされちゃ、こっちの商売あがったりだ。そっちがベニバナインゲン1ピーなら誰がこっちに2ピー払うんだよ?」


 ごもっともだ。価格破壊することになる。

「あの、今まではどうしていたの?」

「仕立て屋が持って来た時に金渡してた」

「うそ? 前払い? できるの?」


「金額にもよるさ。それでいくら欲しいんだよ?」

「ベニバナインゲンが10本あるから20ピー」

「それなら何とかなる。他のもんは?」


「へ?」

「そっちのマローとかアサツキはいくらかって訊いてるんだ」

「全部で20ピーよ」

「そんなバカな」


「いいのよ。お屋敷で食べきれないの。私が儲けたいんじゃなくて、あなたに儲けて欲しいの。好きな値段つけて売ってちょうだい」


「何だよ、それ。儲けの無い商売するんじゃねえ」

「儲けはあるのよ。20ピー貰えれば」


 気風(きっぷ)のいい八百屋の兄ちゃんは、「ほんとにいいんだな? 礼は言わないぜ?」とうっすら笑顔を浮かべ20ピー渡して寄越した。


 パン屋では25ピー貰えた。日毎に増える取り分は、少しずつ、みんなにお金が渡っている証拠のように思える。


 もちろん、これはリオが聖堂建設を始めたから、現場で働いて臨時収入を得る者が出てきたお蔭でもある。


 となるとだ、次に考えるのはその作業員たちの食事じゃないだろうか。

 領民ならうちで家族と食べるだろうけれど、他の街から来て働いていたら。

 もらった日当を使わずに持って帰ったり、家族に仕送りするかもしれない。

 リオのお金はこの街で使って欲しい。

 

 お料理だ。元手のかからないお料理をして仕出しをする。

 建築現場の近くに出店を開く。

 働く合間に食べられるような、ハンバーガーみたいに手軽な何か。

 

 これはベックスと相談しなくっちゃ。



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