金は天下の廻りもの作戦
次の日から急に忙しくなった。
調べなければならないことがあり過ぎる。
リオがいつ誰からどの様に税金を取っているのか。
リオはリオで王様に税金を納めなければならない立場だ。
それは定期的?
デーン人との戦いに要り用になれば不定期の税もあるようなことを言っていた。
お金がいくらあれば聖堂は建てられるのか。
リオが戦いに駆り出されることはあるのか。
そして昼間はベックスのご主人、馬番頭のバートに乗馬を習った。
勝手なことをし始めた私に、リオは少し淋しげだ。
聖堂の予算について問い質したときの答えはこうだった。
「マリア聖堂には一万ピーの資金を用意したい。小麦やヒマワリ油を積極的に王都や侯爵領の市に持って行き、高値で売ったとして私が作れるのは六千ピー、後の四千ピーは民に負担してもらう」
「その四千ピー、私に都合させてもらえませんか?」
「都合? おまえの実家はあてにならぬぞ?」
「親に無心するのではありません。儲けるのです」
「儲ける? おまえが商いをするのか? 伯爵夫人のすることではない」
「リオは王様が勝手に税金を上げると困ると言いました。民も、リオが勝手に税金を上げると困ります」
「それはわからぬでもないが……。四千ピーがどれ程の金額か、おまえにわかるのか?」
「アルバン・パン・ケーク四百個分です」
「いや、千二百個分だ。ケークを作る費用がかかる」
「あ、そうか」
元手がかかることをすっかり忘れていた。
ベックスとたくさんパン・ケーク焼いて売り歩けば四百個なんてすぐな気がしたけれど、小麦、卵、蜂蜜のコスト。そしてひとつ10ピーでは高すぎて売れないんだった。
トマスの顔が思い浮かんだ。カビが生えるのを待っているともじもじしていた。待つ必要なんてない。もともと私たちのお茶会の余り物だ。
余り物なら元手の心配がない。
「お屋敷の余り物で街に出しているのは何ですか? お菓子の余り、お庭で採れた野菜、切り花、他には?」
「肉もだな。羊や鶏、その卵。狩猟したイノシシ、鹿、ジビエ。これらは肉屋だ。ベックスの料理の残りはたまに旅籠に出す。湖の魚を卸すこともある」
「それを私にやらせてもらえませんか?」
「やるって何を?」
「物を運んだり、値段を決めたり、お金を集めたり」
「仕立て屋がルツを迎えに来る時にしてくれている。馬車でくるから」
そうだ、お肉は運べない、運びたくないかも。
「じゃあ手始めに、お菓子だけ、私にやらせて」
「馬で行くのか?」
「はい」
「止めても聞かないんだろうな」
「はい」
八月も二十日になっていた。日本では夏休みの宿題に追われる頃。
私は無から四千ピーを捻出するという課題ができずに、真っ青になっている子供みたいだ。
毎日、お茶会の後で残ったお菓子をバスケットに詰めて街に行くのが日課になった。
トマスのうちのパン屋さんに持って行き、安く売ってもらう。
アルバン・パン・ケークはひとつ3ピー、ビスケットは1ピー、ハニー・ロースト・アーモンドは五つで1ピー、茂みで摘んだブラックベリーのジャム5ピー、などなど。
そして前日の売上分を折半した。
売れ残った物はもっと安売りしてもいいし、お客さんに試食してもらってもいい。
売れればパン屋さんも儲かる。
だからトマスのお母さんも、お屋敷のお菓子を気を入れて売ってくれるようになった。
毎日少しだけ収入が増えるようになったおかみさんは、トマスの服を作ってやれると嬉しそうだ。
その繕い物を頼まれるお婆さんはお金をどう使うのだろう。生地屋さんはどうだろう?
私の取り分は今のところ、一日10ピー程度。これでは目標達成まで1年以上かかる。
が、私の意図はこの10ピーを貯めていくことじゃない。「金は天下の廻りもの作戦」なのだから。
手に入ったお金の半分は、街で買い物をした。
何日分か貯めて、リオにあげる馬の鞭を買った。
靴屋さんがリオのサイズどころか、足型を持っていたので、冬用の室内履きを作ってもらうことにした。
毎日靴屋さんにいって、少しずつお金を払い込んでいくのが、喜びだ。払い切れた時には出来上がっているだろう、持って帰ってリオにプレセントする。
もっと街全体にお金が行き渡るようにしなくては。お金がぐるぐる廻ってどんどん活気が出るほどに。
そして千人の民みんなが、ひとり4ピーならちょっとやりくりして、マリア聖堂に寄付してもいいなって思えるように。
この聖堂の石1つ分は、自分の思いでできているんだって、見上げることができるように。




