表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/39

街の目抜き通り

 

 水車小屋のある川を渡り、道が広くなる。角を曲がると突然、木造の家の並びが連なった。

 

「ハイ・ストリートだ。街の中心を貫いて、王都に繋がる街道。どん突きに、マリア聖堂を建てたいと思っている空き地がある」

 夫はそこまで案内するつもりなのか、馬をゆっくり歩かせる。


「ルツのご主人の仕立て屋さんはどこ?」

「もっと先だ。後で寄る。この街は元々宿場として民が住み始め、交易が栄えた。うちの屋敷で余った物などを売ったりもするが、こちらが何か買ってやると民はもっと喜ぶ」


 そりゃ、お金が貰えるもの。


「私から得た金で買い物をし、またその者が他の物を買う。すると街は繁盛するらしい」


 あ、そうか、わざわざ王都へ買い物に行くのも楽じゃない。お金はぐるぐるうちの街の中を巡るんだ。金は天下の廻りもの、でちょうど良い。


 だったら、税金を上げてみんなの購買意欲を殺ぐよりも、皆に儲けさせてあげて、儲けた分から少しずつ返してもらうほうがいいじゃない。

 

 聖堂を作るなら、雇用が増えて、今まで無職だった人がお給料を貰う。所得税という考えはないのかな?

 お店の人からは税金とってない? 事業税とか法人税とか? 法人はまだか、ギルドとかはあったのかな?


 税を上げずに聖堂を建てる方法は絶対ある!


 街外れのマリア聖堂予定地を馬上のまま見廻った。

 リオにはどこが尖塔でどこが礼拝の広間か、建物の形が目に見えているようだ。

 

 一周してハイストリートに戻った。

 たった数分で、通りには溢れんばかりの人々がたむろしていた。


「おめでとうございます!」

「リー・オフ・リッチ! リー・オフ・リッチ!」

 パッと見、薄汚なそうな子どもたちが、声高らかに馬を取り囲む。


 リオは片手を上げて、「ありがとう、ありがとう」と繰り返した。


「えっと、何の騒ぎ?」

 群衆の勢いにのまれてしまった私は、一瞬、夫の胸に縋ってしまったが、そっと顔を上げて訊いた。

「私たちの結婚を祝ってくれているんだ。皆はおまえを見るのが初めてだから」

 赤面してしまった。


「あなたの名前がリー・オフ・リッチ?」

 お金持ちそうな名前。

「リオフリッチ。まあ、子どもはみんな、私に小銭をバラ撒いて欲しいんだよ」


「きゃあ!」

 奇声を上げてしまった。誰かが私の足指を触った。


「触るでない!」

 リオのドスの効いた声が響いた。


 馬の近くにいた男の子がビクッとして泣き始めた。人混みを掻きわけて母親が駆け寄ってくる。地面に膝をついて両腕で息子を抱きしめると、慌てふためいたまま

「お許しを、どうかお許しを、お手打ちだけは……」

 と頭を下げた。


「お手打ちって、リオ、こんなことで人を斬ることがあるの?」

「ないよ」

 夫の囁き声はリラックスしていた。

「帯剣もしていない」


 ああ、よかった。ほっとした。

 私は両脚を揃えて、滑り台のように馬から降りた。

 

 目の前の男の子に、

「ごめんね、ちょっとびっくりしただけよ。泣かなくていいから」

 と話しかけた。

 

 母親が顔を上げる。

「お許しいただけるのですか?」

「足が目の前にぶらぶらしてたから、ちょっと触ってみただけでしょ? 何でもありません」

 母親は涙目を拭っている。


「ボクは何て名前?」

「トマス……」

「お父さんのお仕事は?」

「パン屋さん」

「わあ、いいなあ、お店、連れてってくれる?」

「お父さん、もう寝てるよ?」

「うん、いいの。お店を見せて?」


 トマスと手を繋いで歩き出そうとしたらリオが止めた。

「イーヴァ、仕立て屋に行く約束だ」

「先に行っていてください。合流します」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ