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伯爵様のアイディア


 昼食後、書斎で旦那様はちょっとテレ気味に話した。

「願をかけていたのだ、マリア様に。妻を授かるように……」

「それが、私、ですか?」

「ああ。そのお返しがまだできていない。叶えていただいたのだから、相応のお返しを……」

 

 重厚な書き物机の後ろの大きなイスに、リオは座った。

「私は公正な判断ができるよう聖ミカエルを信奉し、屋敷の裏に礼拝堂を持っているのだが、伴侶のこととなると畑違いな気がしてな、侯爵が建てた聖マリア教会まで拝みに行っていたのだ」


「遠いのですか?」

「馬で速駆け二時間だな。だから宿泊させていただいた。もっと身近なところ、領内にマリア様をお祀りしたい。毎日でも感謝を捧げられるよう」


「ここの礼拝堂の聖ミカエル様のお隣に、マリア様の御像みぞうをお供えすれば?」

「それでは私の感謝の想いに足りぬ」


 リオは真面目な顔で続けた。

「新しい聖堂が欲しい。さもないとマリア様にも失礼だろう」


「人手や石などお金がかかりますね」

「ああ、だが小麦も豊作だし、ヒマワリ油もたくさん採れそうだ。何とか都合してみせる」

 夫は帳簿を開いて楽しそうだ。


「税金は上げないでくださいね」

「いや、そうはいかない。おまえに不自由させたくないから家計を絞るには限界がある」

「だからといって、領民の家計を絞ってはいけませんわ」

 できる限りやんわりと言ってみた。


「領民? 私の土地に住む民のことか?」

「はい。小麦を育てたり羊を飼ったり」

「忖度に値しない。ヤツらは勝手に住みついて、気に入らなければ去っていく。毎月、長屋に居る者に手間賃を取らせている」


「は? 出稼ぎじゃあるまいし、何年も旦那様の土地を耕してくれているのでしょうに」

「誰でも構わない」


「ウソでしょ?! 小作農だって生活がある。彼らには彼らの家族があって家計があるはずです」

「男手だけのほうがいい。家族がいるとつい多めに褒美をやってしまう」

「何ソレ!」

 だめだ、これは話にならない。税金以前の問題だろう。


「えっと、旦那様はお嫁さんが欲しかったんですよね? 民の皆も奥さん欲しいでしょう?」

「別に民は増殖してくれなくていい。それでなくとも勝手に増える」


「ゾウショク? ええとぉ、旦那様が私と結婚したのは私が貴族だから?」

「リオと呼んでくれるのではないのか?」

「はぐらかさないでください!」


 フランス革命も人権宣言もまだな時代なのはわかっている。マグナ・カルタでさえ無さそうだ。

 それでも、絶望的だ、旦那様を好きになれるかどうかわからなくなってきた。

 

「失礼します」

「イーヴァ! 何でおまえはそう機嫌がくるくる変わるんだ?」


「お茶の時間ですから」

 そう言い捨てて書斎を後にした。


 自分の部屋に向かって、ズンズン歩く間に少し気が落ち着いた。

 焦っちゃだめだ、まだこの世界二日目。

 

 まずは領内にどんな人々が住むのか知らなければ。自分の夫らしき人が、どんな人々からお金を巻き上げようとしているのか、把握するのが先だ。


「トランプ顔の旦那と比べりゃ、誰だって機嫌がくるくる変わりますようっだっ!」


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