8話
「申し訳ございません。」
会うなり頭を下げてた悠木さん。
冷たい視線を向ける女性。面白そな顔を向ける野次馬。面倒事にはかかわりたくない、と言いたげに、全く気にしないその他大勢。おまけに、可哀そうな人を見るような視線を向ける女装男子。またか、という雰囲気を出している同じ学校の人々。分別するとこんな感じだろうか。たとえ、分別してもゴミ箱に、ポイっ、出来ないけどね。
「僕は無実だ。」
「何だかわかりませんが、はい、そうです。」
これで、言質を確保。捕まったら高確率で有罪になるとかどうとか。警察機関は大変優秀なのだろう。これで、一安心。多分。
「何もしていないのが悪いが残ってるけどね。むしろ。それしかない。もしくわ、知らないうちにやらかしたか。」
男の娘が何か言ってる。けど、気にしない。言質はすでにある。
「で、何の話?」
「ゲームです。ゲーム。昨日話したばかりなのに。もう忘れたんですか。」
「ボケたか。」
「主語がなかったから。」
「先輩の分も用意してたのですが。昨日、来客がありまして。」
どうやらスルーされる方向らしい。申し訳ない、というよりは、暗くイラついた雰囲気が関係しているのかな。うん。そうしておこう。黒いオーラが可視化しそうな勢いだし。この子はきっと気を使える子。
それにしも、よっぽど会いたくない客だったのが、いやでもわかる。普段から、空気を読むという高等技術を持ち合わせていないけれど、これはわかる。
「いい天気なのにな。雨降りそう。」
「今日は晴れですが。」
「あ、おう。うん。ありがとう。」
「馬鹿め。」
余計なことを言うから、ルビが振ってありそうだ。
「・・・・・・他人事だとさ、強く出れるのは何故だろう?」
「他人事だからじゃにでしょうか。」
状況が掴めない悠木さんが言う。そうなんだけれども。そうじゃない。
「そんなもんだよね。」
なんとなく察する女装男子。これが、付き合いの長さか。まぁ、それはともあれ、
「ゲームだけど、成り行きで手に入ったから大丈夫。」
「はぁ⁈」
「本当ですか⁈」
「耳元で大声を出すな。顔を近づけるな。」
外野が、別な意味で盛り上がっている。どっかのファンとそうじゃない方の盛り上がりも気になる気になるが。ところどころに、やっぱり、と聞こえてくる。不思議だ。これは気にしたら負け?
「どこで!?」
こいつは、自分で知らないところで何かやらかした、らしきことを口走っていたのに。言ってて驚くとかやめてほしい。
「酒屋。商店街の会長さんが貢ぎ物にしようとしたのだと。」
「マジかよ。じゃあ、おとなしくパシらせれていれば、タダで。」
「って貢ぎ物、・・・・・・確かキャバの。」
大翔は心当たりがあるようだ。もしかして、意外と有名?
「へぇ〜。」
気温がさらに一度下がったかな。雨通り越して雪かな。
「物には罪がないからね。それに金を払うからただじゃない。」
実際は、親が僕の通帳から引き出しで払いに行くのだけど。そう、僕の貯金でね。銀行だと預金になるのだったかな? 事故の見舞金等のおかげで潤っているので仕方がない。仮に潤ってないと親が立て替えて小遣いから少し減らされるというのは姉の言。減らされたのか。
「転売。いや、この場合、押し売りか。」
「確かに物にも罪はないですね。わかりました。」
なんでこの娘は、も、を強調した。まるで、僕も同罪みたいじゃないか。まあ、取り立て口に出すほどのことじゃないからいいけど。別に怖いからではない。ホントだヨ。
「これで一応は、開始時に一緒に遊べますね。先輩。スキルは何を取りましたか? 差し支えなければ教えてください。私は、」
「ちょい待ち。こういうのって簡単に教えていいものなの? どうよゲーマーさん。」
「個人の自由。ただ、言わない人の方が多いかな。動画配信している人や、プロは例外だけれど。俺個人としては、止めた方がいい、に傾く。ノーマルならともかく、レアや、他よりも特別仕様は、昔からいろいろと話題性に事欠かないからね。」
妬み的な感じのものだろう。賞賛、憧れを通り越して反対側に走って逝ったのだろう。
「ただ、これの場合、掲示板で、英雄か、勇者のオーラ、ってスキルを手に入れた。こういうのが、けっこういたらしいから、別な意味で話題になってる。はじめに書き込んだ奴は、さぞ残念だったろう。」
「自慢にならないからな。」
大翔は、口にしていないが、ざまぁ、という空気を隠そうとしていない。だって、頬が上がっているのだもの。
勇者大戦や、英雄伝説とサブタイトルになるぐらいいた? 特別になりたいという願望はあると思う。けど、英雄になりたいという願望を持っていたのが思いのほかいるようだ。
「他にも、賢者だ、とか、聖騎士だ、とか、海賊王だ、とかもいるらしい。そのおかげでで、先に公式が出してた種族が最高4つ選べるの方がいまだに祭り状態。」
どこかで、聞いたことがあるような気がする。黙っておこう。
「ヒントは、アバターの製作らしいです。けれど、アバターを作る行為はプレイヤーなら誰でもしますから、ヒントらしいヒントではないようですよ。」
この時点で重ね掛けの考えが出ていない? それとも、ただ情報を出していないだけか。僕もそうだし。まぁ、いまだしても、やり直しできるだけの理由になるかどうかか。
「で、どうだった。」
「何が。」
「お前なら、何かしてそう。現にさっきフラグ回収したし。」
これだから幼なじみは。中途半端に鋭いな。そして、バカだな。さっきいい具合に話題が変わったにまた戻そうとするなんて。お前の危機回避能力は張りぼてか。自然とため息が出る。
「何故かバカにされた気がするのだが。」
「気のせいじゃない。それで、それを聞いて僕が本当のことを言うとでも。」
「先輩。それ、答え言っているのと変わりませんよ。」
残念そうな目を向ける悠木さん。不思議だ。
「なるほどね。」
そして、納得した大翔。解せぬ。
「もう少しヒントはないは。」
「君はさっきの話を聞いていたのか。」
もったいぶった言い方をする大翔。呆れ顔でこっちを見てくるのはやめてほしい。遠くで、パシャッ、という音が聞こえるのだが。どこにフォーカスしているのか、怖くて気にもしないようにするのは、意外と大変なのだ。
「種族、スキルについての書き込みはあります。ですが、元から公式掲示板は仕様のようですが、公式掲示板以外も含め、アバター製作の根本にかかわる部分は見つけ次第、削除しているようです。誰か、つぶやいて、いたようでと書き込みがあったようです。」
「なにその、あいまいな感じ。」
「ネット情報ですから。」
うん。まあ。そうなんだろうけれど。何だろう、このもどかしさは。言ったのが悠木さんだからかな。きっと。大翔なら、へえー、ぐらい?
「あと、運営問い合わせに、なんでもかんでも同じじゃつまらない、とか、ggっても答えは見つからつと思うなよ、とか、返ってきたってってあったらしいよ。」
大翔も情報収集に抜かりがないようだ。こいつ、説明書は読まないタイプだったはずだけど。ただ、
「会社の返信として、正解なの? 名前の重複、大丈夫なのに?」
「ようやくしたんじゃない? 知らなんけど。」
「名前なんて、専用の辞書を使わなくても同じよいうなの選ぶ人、最低1人か2人はいる理由だ。それと一緒。毎年、人気度ランキングなんてやってるし。」
「そういえば、ありましたね。公式に集計中の文字があるページにランキングが。」
あったのか。アニメや漫画の名前とか多そう。個体名考えるの意外と難しいんだよね。センスが問われるし。
「で、どうなの。」
「何が。」
「だから。」
「君は、秘匿賛成派でしょ。」
「それはそれ。これはこれ。」
いい言葉だ。舌の根の乾かぬ内、というのはこういう事を言うのだろうか。
「そもそも参考にする気ある?」
「わからん。ただ、貰えるものは貰う。けど、必ず必要かって聞かれたら貰えたからの程度だしな。むしろ、詰め込み過ぎてハンデになる可能性も。そうだよ。それもある。どうする?」
「知らん。」
本当に知らん。ハンデなんて全く考えていなかった模様。僕も思いつかなかったけどね。必ずしも、それが、プラスの特典だけではない、ということだろう。開始早々マイナススタートになると思えないけどな。ユーザー離れるし。
それにしても、話の流れから大翔がアバターを作ってないのには驚いた。
「いち早く真っ先におわしていると思った。」
「情報は大事だよ。まだ、時間あるし。スキル以外に職業もあらかた調べてからかな。」
「ちょい待ち。」
僕が、情弱なのはいいとして、いま、スルー出来ない単語があったぞ。
「職業ってなに?」
「職業は職業だよ。」
「そんなん知らん。」
「ちょっとお伺い、」
何やら、電話をした悠木さん。10時前、9時にもなっていない。流れても音声ガイダンスかな。
「マジで?」
「本気とかいてマジで。」
大翔との間に、?、が浮かぶ。
「はい。わかりました。確認します。」
電話を終えた悠木さんは、今度は端末を操作して画面を見せてきた。公式ホームページ。この会社の始業時間が気になる。徹夜か。
「え〜と。基本的に職業は無し。条件により開始職業を設定。そこから特別な職業になる可能性。ねえ。」
他にもいろいろ書いてあるが。必要なのはこの部分であろう。
「これか。なるほどね〜。」
大翔は大翔で別の端末で見ている。つまり、僕のだが。悠木さんにファンの視線が向かないように気を使ったと思うのだが、僕の端末を使うなら、もう学校に持ってくるといいと思う。そして、顎で使われればいいと思う。
「ありがとう。」
「いえ。どういたしまして。」
職業がないのが普通。つまり、可笑しいのは僕じゃない。他のプレイヤー、ということかな。これもアバター関係に影響するのだろうか。けど、これ公式発表だしな。
AIさんが言うには、住人にできる事はだいたいプレイヤーにもできる、だったかな。
「勇者の職業ってマジ勇者?」
「確か、戦士だったはずです。」
「そこから育てろと。・・・・・・もし戦士から戦士に変えて場合、勇者に慣れないとかるのかな。」
「開始設定した職業意外はいまのところ無理らしい。」
大翔から受け取った端末が、出していたのは公式サイトにあるQ&Aコーナー。これ変更するとどうなるの、という好奇心に負けて、有利性を無くして、ユーザーが離れていくのを防止でもするのだろうか。協調しているのだが。ただ、現状とあるのが、気になる。
「これだけじゃ、何とも言えないな。」
「開始日異なりますが、昨日発売日は昨日ですからね。私もよくわかりませんが、こういうのもではないのでしょうか。」
この手のゲームに疎い2人して、詳しそうな方を見る。ついでに端末を回収。
「基本システムは普通に載せる。あと、世界観に、簡単なスキル。武器防具。宣伝トレーナー。質問コーナーの回答に今の時点で回答は、あまり載らないはず。」
「なるほど。ガイダンスであって、攻略本じゃないしな。」
「そういうこと。まぁ、何とかなるんじゃない。さっきのだと開始は、基本なしが普通なんだし。無職君。」
別に無職の僕が悪いわけではない。設定が悪い。世界が悪い。僕は悪くない。はず。
「そういう、君は何職になる予定なの?」
「HAHAHA。」
流された。こいつ、もしかして、調べるだけ調べて肝心なところを考えてなかったな。
「冒険者かな。」
「こういうゲームって生産活動よりも冒険をする人が多いのでは。」
「なんだ、お前も、無職か。」
こんなオチ?
2019.04.12. 訂正