16話
アリス・パンドーラが腕を上げる。
辺りが見るからに訓練所という風景に変化する。
「特別な空間の応用です。」
応用というからには立花さんがした用とは別。明確に誰がしたを明言していない。けどね。
似たようなことは1時間以内に体験しているから間違っていないはず。
隔離空間。
フィールドに直接影響を与えたそれ。
きっと、この建物内がそうか。一部屋一部屋がそうなっているのかわからないが。より効率的にそれを起動する要素がある。
「ダウングレードしたんじゃないだ。」
「運営運営する施設ですから。」
が、抜けている。二回続けると紛らわしい場合がある。覚えておこ。メモメモ。
「彼女たちにとってのテリトリーということでしょう。いうなればここはボス部屋ですね。宿屋に扮した罠といったところでしょうか。運営汚い。」
「是非、運営を通報してください。」
この子、本当、運営に対するあたりか強いな。いい感じになった結果と運営設定だけか? 素体回収の逆恨み入ってない?
反抗数値が高すぎやしないかい運営さん。
「初戦闘と考えるとあれよりはましですから。いいですけど。」
「ピクトさんAIならストレス耐性つくと思うよ。付くまで持たないけど。」
光の束を受けきる能力がない以上ワンパンキル。絶対、雑魚がヽ( ´ー)ノ フッっ、て出る。想像しただけでうざい。
「先輩。前の体じゃなくて受付にいたもう1人のことですよ。」
「ましなの? 君ら善人って言っていなかった?」
「善人であって聖人でも聖職者でもないです。必要なら嘘もつきますし、場合によっては相手を傷つけます。立っている側と反対側は敵ですから。誰かのヒーローになれてもみんなのヒーローになれません。
ついでにいいますとオリジナル、護身術の他に弓道とクレーン射撃習っている上に趣味モデルガンです。遠近、抜かりないです。魔法もあるゲームですので火力に任せた広範囲殲滅ってこともできる可能性もありますね。運営設定AIなので生身よりも断然性能はいいはずです。
本人は、ガンシューティング系を主にしているからここに来ることはないですけど。」
「君らさ。いいとこのお嬢様だよね。」
無駄にフラグがたった気がする。
笑顔で銃殺している映像が浮かんだ。怖い。怖いのには間違いなのだが。想像の域を出ないせいか、逆に冷静になる。
「昔から変質者に襲われたとか、誘拐されそうになったとか、話がありますからね。使えるかどうかは別にして自己防衛は必須ではないのですが習わせる家が多いんですよ。」
あれ。もしかしたら俺助ける必要なかったんじゃ。むしろ、彼女一人でどうにかなった? 1年無駄に治療費使わせた?
「私は準備が必要なタイプです。動体視力がいい方ではありませんから。」
「何が?」
「独り言です。」
気を使わせたか。動体視力の比較対照がきっと高い。
「それよりお茶とお菓子飲んだ方がいいですよ。能力向上します。向こう側が準備しろといっている気がします。成り行きで初日でボス戦とは。何を考えているのでしょうか。いい趣味してますね。」
「はぁ~。距離を保てれば時間だけは稼げるか。あっ、おいしい。」
渋いみがうまみを引き出しているのかな。
「よしっ。食べたし帰るか。」
「できませんよ。ログアウト灰色になってますから。押しましたが、反応しません。」
「特別イベント仕様です。デスゲームとか、ゲームの世界に取り残されるとかではないですよ。特別サーバーではないので時間経過は他のプレイヤーと同じですのでご安心ください。」
帰れなかった。ことごとく先を読まれている。
そして、すべにおいて不安に思ってください、といわれた方がしっくりくるのは何故。
「痛いの嫌だから生産系になりたいんだけどな。」
「いまはあきらめた方がいいですね。」
「盾は使わないのですか。」
「あなた相手に無意味です。」
結は腰にある刀剣の他にもう一本短めな刀剣を持ち木靴を脱ぎ裸足に。
長さは、お土産屋さんで売っている木刀より細く反りがある。刀剣。片刃なら形から日本刀でも通じるが両刃なのでわからん。
もう一本は刺身包丁を長くした方刃剣。こっちは反がなくまっすぐ。
二刀流は上位か特別なイメージがあるから、刀剣と短剣のそれぞれのスキル? それともリアルスキル?
剣道をかじっている、と言っていたが。二刀流は剣道あるのか。
「乗る気しない。」
言いつつ。靴を脱ぐ。
靴下はそのまま。走っているときに足がバラバラになって自滅はちょっと。
棒を取り出したのはいいが。マントをどうするか。腕を動かすとヒラヒラした感じがはっきりって邪魔だ。
スーツの上に着るコートのようにぴったりならよかったんだが。アニメと漫画ではかっこよく動いていたのにな。レベルが足りない。とりあえず、準備運動。
「さてとどうしよう。」
棒を大きく八の字を描くように前後左右に振り回しながら持ちてを交互に変える。そして、最後に上にはじくように回し投げる。キャッチしたらライフが1減ったのだがこれ如何に。
「先輩。上手ですね。」
「ちょっとだけね。さてと。」
個人的にこれの3分の1いらない。膝から太ももの半分程度の長さがいいのだけど。
「連携とか無理そうだから。交互にしようか。」
異論の声はない。2人とも同じなら別だけど。こっちは振り回すから邪魔になるんだよな。
「先に出ます。」
なんか出てる?!
透明な白い霧のような何か?
汗が体温で蒸発すると体から湯気がでるだったか、お風呂上がりで外が寒いと湯気が出ているように見えるだったか。それに近い何かだったような気がしたけど。ここゲームの中。しかも汗の一つも出していないし、寒くも暖かくもない適温。スキルだよね。普通に考えて。
体からあふれ出す魔力かな。人魂の時、魔力で構成していたし。
それにしても、舞う様に戦うな。
結さんの戦いは業より軟。右手の刀剣を縦横斜め大きく振るっているのに左手の短剣を横縦と小さく腕を振い、刀剣の筋を交差するかのようにカバーしている。そして、足は地面を踏みしめるというよりも独楽が回る様な軸として、時に蹴りを交え、刀剣と短剣のカバー。回るように体を動かすから反動で威力が増す。全身をバネのようにしているみたいだ。
対してアリス・パンドーラ。刀剣をギリギリでかわすかのように足を少し後ろに動かし体をそらす。短剣の間合い分詰めるのに合わせて前に出ては蹴りの威嚇で元の位置に戻る。右手と左手に黒い手袋。さらに右手には掌より少しながらい厚みがある真ん中が膨らみ先に行くにつれ萎んでいるように見える棒。
一回も使ってない。しかも、両腕とも体の横で伸ばしたまま。棒で刀剣や短剣をはじく、軌道をそらす、刃を滑らせる、突くというったことができるのにしていない。足でけられた時も左手で足首をつかむことだってできるだろうにしていない。
遊ばれているな。
個体差。基本的な数値が違いすぎる。流石運営。まあ、それについていく結のリアル身体能力もたいがいだけど。護身術の範囲を超えている。今日日のお嬢様は一体何と戦っているんだ?
「おかえり。」
「はぁ。はぁ。はぁ。ぃ。はぁ。」
「無理に返事しなくていいからね?!」
浅く荒い呼吸の合間にかすかに返事をしたが。それがちゃんとした返事を聞き取れたのか自身がない。
汗に荒い息。体力がもうないのは見ていてわかる。それでも、目線は依然として前を見、手に持つ武器を離さないのはすごいの一言に尽きる。体からあふれ出ていた何かは白が消え薄っすらとある気がする程度。
「はぁ~、なんだかな。」
たかがゲーム。されどゲーム。たまたま手に入ったからだったのにな。結の前に立つ。
前後の足幅を肩幅と同じぐらいに常に保つよう意識する棒は真ん中あたりを両手で持つ。体を回すのに合わせて腕を大きく振るい棒も回転させる。これで棒の先端あたりが上下にぶれているならゴム製の健康器具を使っているように見えるんだろうな。
人一人分を寝かせた距離でアリス・パンドーラに向かって棒前に滑らせ柄を押し出す。同時に体を前にある左足と体をまっすぐするために右膝を曲げた太ももを振り子のように後ろから前に出し反動をつけた。つま先立ちで体が前よりに行った時には反動で上げた足が方の高さにまで上がっていた。これにはやった僕もびっくり。骨が外れている感じはしない。ウエットスーツもどきのサポート性能がすごすぎる。I字バランスに近い形までできた。
お辞儀をするように体を前に倒して足を延ばしながら落とし飛び出した棒の柄を踏む。喉に向かっていた棒の先端はシーソーのように。体が前に行く力と踏まれた力が合わさり勢いよく反対側の先が持ち上がる。
アリス・パンドーラは後ろに数歩。体を横に傾け立ったまま状態反らしをするように上半身だけを後ろに。ただ、こういうデータはなかのか、ギリギリの形で今まで交わしていたのが染みついていたのがあだとなったのか、わからない。
急に向かってくる棒の先端を急ぎ後ろに重心を傾け顎を上げ踵に力を入れ後ろに飛ぶように避けられる。遠心力により真上よりもやや僕の側に向かって飛ぶ棒。躱されることは当たり前。むしろ、当たる方が、マジで?! と驚く。目的は別にあるが、それも運が良ければ。空に上がった棒を見てもうまくいったような気がしない。第一運営用意した体に脳を揺らすということができるのか疑わしい。
足を前後に伸ばして地面に近いところで手をついて上に飛ぶように立つ。地面に思いっきり手を突いたせいか手首が腕、肘、二の腕、肩を押し上げるような衝撃が伝わる。骨だから実際、押し上げているかも。大きく手を叩くとドットでライフ減るし。
新体操をしているかのような動き。テレビのスポーツだったか、ドキュメンタリーだったか、忘れたがそれでしか見たことはないその動きと同じことを実際やったら膝位置まで腰が沈めばいい方。これがリアルならまた裂きからの股関節脱臼も不思議じゃない。性能と見た目は比例しない。それがこのウェットスーツ風装備。
顔を上げ数歩後ろに下がり棒をとる。結の時も特別に前に出ることはしなかったから僕も大丈夫と判断してできる動き。そうでなければ当ててくださいと言わんばかりの格好をしない。対するアリス・パンドーラは、尻もちをついている。もしかして、掠った?
「先輩。何したんですか。」
「当分先の運を使っただけなんじゃないかな。」
隣に着ていた結にこたえる。人型を模った素体。形だけじゃなく中身も人に近い模様。
「一つお聞きしても。」
うなずくしかできない。さっきまで尻もちをついていたアリス・パンドーラは一瞬消えたかと思ったら目の前に。喉には短い棒の先端。これがこの状態での本来の性能なのだろう。
急いで刀剣を突き出すが体を横に傾け反らし棒を左手に持ち帰ると右手で下から刀剣の刃をつかみ引き抜くくようにて結の体を強引に前に崩し引っ張る。右手を離して左足を軸に後ろに回転し崩れた背中に踵からの蹴りを入れ強引に地面へと落とす。地面に音をたてながら横たわりポリゴンが砕けるように消える結。
「マジか。」
「話を聞いてました。」
頷くしかな。雉も鳴かずばというやつが一番しっくりくる。
「どうやったのですか。」
「顎掠って脳上下?に揺れただけだよ。ボクシングでたまにあるらしいんだけど。フックを交わしたつもりが掠っててダウンするってやつ。」
「なるほど。理屈は理解できました。隠したとみて油断しギリギリで行動したのがあだになったということですか。」
「まぁ。だからといってここままで終わす気はないのであしからず。」
アリス・パンドーラに距離を詰められ今にも顔がつきそうになる。掌で触られたような気がすると感覚が一息でどこかに持っていかれた。
死に戻ったのは言うまでもない。