15話
「先輩。どうしましょう。名付け親になってしまいました。」
「そだねー。」
これは、ボケているのか。全然嬉しそうでもいやそうでもないのだが。
あと、名付け親は、えらいひと、だよ。
家族だから知っているのだろう。知人を自称する結さんが知っているのだから。
「む~。いいです。」
間違ったようだ。そうか。わからん。
「それでわざわざ名前の由来を聞きにいたわけではないと思うのですが。ご用件は。」
先走って勝手に話を進めたのはこっちだけどな。名前を出した時点がルート分岐か。
「では、明日のイベントについてイベント開始時間12時の1時間前から御二方を強制隔離いたします。公平性を維持するためです。時間は現実時間で24時間。
このイベント公式主催ですが、異変が始まるのが12時からで本始動が1時を過ぎた頃を予定しています。公式発表は本始動後。事後処理もあるので休息宣言は出しますが終了宣言は出しません。本当に終わったと判断して終了します。」
「隔離はわかるんだけどな。」
また余計な情報も入っている。これはもう仕様と考えてもいいのではないか。
いや、事後の話も聞いてたから言ったから話しても大丈夫ってことになっている? それならありか。けどなぁ。
さっきの漫才の一環じゃなくてガチで言っているしな。
隣を見る。
気にするつもりはないらしい。抹茶飲んでいるし。イベントは関係ないし。
「時間経過したのに丁度よい温度を保てるものなのですね。運営経営の店舗だからでしょうか。」
他の事考えているし。あっ、御菓子食べた。
「その後一部行動の制限が付きます。」
こっちはこっちで気にしていない。ただ、僕が気にしすぎなだけか。
「それあれでしょ。終了宣言が出されるまで下水道に行けない。」
「はいそうです。他には消毒液の購入。毒消しは別でかかる恐れがありますので購入できます。アルコールも対象に入るのですが年齢で販売拒否されます。購入しようと思えば一応できます。下水道も行けますが、入った瞬間に転移でどこかに飛ばされます。」
テーブルの上に置かれたアクセサリー。これをつけろ。ですね。わかります。
つけるというよりは掛けるかな。骨だし。
永久に借りることはできるのだろうか。
「これはもらえるのですか。」
「時間経過で回収されますのでお気になさらず。イヤリングだからといって耳に飾る必要はありません。身に着ければいいので。」
自動回収機能がついていた。残念。
「次にスキルについてです。」
「まがい品のお詫びですか。」
「さぁ何のことやら。えらいひとが出したものですよ。」
否定もしなければ工程もしない。ただ、他人に押し付け公認と言い張るように見える。
確実に彼女が出したものではなないのは知っている。予め仕込んだとしか思えないが。すべてをシミュレートできるわけじゃない。そこまで万能ではないと思う。
一体いくつ仕込んでいた?
それにしてもこの2人が話をしていると、悠木さんをベースの一部に使用しているせいか、同じ人が話している気がする。
なんか綱引きをしている感じがしてヒリヒリする。
「お詫びといえばお詫びなのでそこは間違っていないですね。」
「さて、キャラクターデザイン時スキル構成による一部プレイヤーの誤作動、規定数を1超えたスキル保持プレイヤーを確認しました。その結果、誤作動プレイヤーを除く全プレイヤースキル一つがボーナスでつきます。付与期間は、現実時間、今日午後10時から30日後の午後10時まで。場所は運営が提供している初期施設。つまり、この町ならここです。」
「普通に仕事で来てた。」
自然と声が出た。2人に黙って。という目つきで見られた。ライフが削られそう。
場違いでごめんなさい。
22時からというとまだ45分ある。ピクトさん劇場が濃すぎて忘れていたが、滞在時間1時間15分。
それ以上いる気がする。
「時間的には少し早いですが、誤差の範囲ですのでお気になさらず。次にチュートリアルの件ですが。こちらも誤作動です。」
バグかぁ。あと少しの基準が違う。
サービス開始日からかよと、2つは少ない方、のどちらをとるべきか迷う。
この手の物にはバグがつきものと、考える方なのでまだ少ない方でもいいか。
今のところ動きにノイズが入っている感覚はない。進めるうえでは問題があるがそれほど重要ではない。
「先ほどウィンドウを共用していました。素体回収によりチュートリアルが終了した、とシステム上認識しました。チュートリアル終了後、プレイヤーの項目は消滅、経歴を運営で記録管理しますが。この両方が揃わないとエラー報告が着ます。」
そっか、エラー来ちゃったか。
割符のような感じかな。確か文字か絵を半分に切った物を合わせるし。揃わないから原因の調査。本当に仕事だ。ちゃんとAIしているんだな。
「最後、中央広場で捕り物がありました。その際、先に逃げた御二人にはスキル、足運び。気配希釈。気配希薄。忍び足。隠密。の内どれか一つかもしかしたら職業に暗殺者を取得しているかもしれません。これを気配希釈(中)か、足運びのどちらかにしてもらいます。なかったら選んでください。」
「あの劇団の方捕まったのですね。」
話してもいいらしい。最後だからね。後、逃げてない。場を離れただけだ。
どれか、というのは変な感じがする。運営でデータを確認しているのだから特定は簡単なはずだ。AIさんはついでか。
「劇団員の人じゃないと思うよ。それと希薄と希釈の違いが判らないのだけど。」
ナンパしに来た人たちをヒーロー候補生が仕組んだらそうだろうけど。2人とも捕まっているなら違う気がする。
町中で剣を振り回したのだからたとえ仕込みだったとしても捕まるな。
現実でも包丁を袋から出して街中を歩いているようなものだし。ちょっとそこまで確定。
彼らはしばらく牢の中か。罰金か。仕込みだったとしても痛い出費だ。
「薄めることと薄いですね。行動し薄くするか、元から薄いかでよろしいかと。この世界では希釈より希薄が上位です。レベルで測るには適していないので大中小微で測ります。」
なるほど。イメージ的には隠密と希釈が同じかな。
「隠密と第二職業で暗殺者があります。」
「えっ。足運びなんだけど。必ず同じにならないのか。構成によるのかな。」
いろんな意味で驚いたが不自然にならないように話をもって行けたと思う。実際、それも思ったし。
種族、スキル構成、職業と違うのだから、それに即した優先順位があってもおかしくない。
戦士なのに農業系スキルは無駄ではないと思うが、使う機会が少ないはず。
が、この違いは何? 第二職業って何?
物騒な職なのですけど・・・何を選んだ。
「現状全プレイヤーの行動範囲がこの町周辺ですので運営の管理体制が集中しています。騒動が起きれば管理部門の誰かしら見に行きやすい状態です。」
あっ、分かった。ツッコミと一緒だ。誰か見てた。
管理が集中しているのなら運営評価基準でスキルがつきやすいのか。
第一陣の最大のメリットだな。
スタート税ともいえばいいのかな。ただ、開始直後で興奮していて冷静ではない場合もある。
運営は暇なのではなく、仕事が一極集中してただけだった。始めたばかりだからな。今後、進めていくと運営に連絡で初めて発覚ということになると。
「それにしても第二職業ですか。PK職や盗賊系以外だと生産をメインにするプレイヤーなら素材集めで早いうちから出るのですが。」
そこを触れるのか。スルーが答えではない? ツッコんだら負け? PK職、盗賊と物騒なのですよ。
メインとサブ。行動の結果でつく感じか。けど、それだと合わないな。どんな形でも戦闘をしていない。
「騒動を見ていた運営側は2人。しかもインカムをオンにしたまま。それを見た雑談で話したスキルがシステムが認証しました。」
「マジで?!」
「高性能なのですね。」
「そこ?!」
いや、高性能なのは間違いない。雑談を正確に聞き取ったのだから。
ただなんかこう。びっくりしたとか、運営のせいかとか思うことがあると思う。適当についたわけだから。
見られているから付きやすい。けど、それがすべていい方に働くわけではない。ツッコミがいい例。
「私にも言えることですが無駄に高性能ですからね。雑談からシステムが認証するなんて思ってもいなかったようですよ。いままでもインカムをつけて作業をしていたことはありますが、誤作動はありませんでしたから。システムの負担が減ったことでこちらに処理能力を回せた結果ですね。」
ゼロから総てを創るという作業が稼働や修正を中心にした項目に移り余力ができた、と。
元々それを簡単にできたスペックなのにそこに気づかなかった運営。忙しくて頭の隅に行っていたか。単に忘れていたか。知らないことはないだろうし。
「そこまでの性能があるのならチュートリアルを戻すことも簡単ですね。スキルは気配希釈(中)で。」
早く帰れを全面的に押し出したような雰囲気を出している結。しかも笑顔で。器用だな。キャラデザ時のスキルはいいのか?
「僕も希釈かな。足運びは何とかなりそう。けど、それをそのまま受け入れていいものかどうか。キャラデザ時は、リストある?」
その実例が目の前にいるわけだし。そもそも、それほど高性能ならここに人をよこす必要はない。
ここにいる意味がある。そういうことだろう。
「その通りです。スキルはアバター管理に直結しますから運営自身が自身に課したルールでなるべく手を出さないと決定しました。代替処置としてシミュレーターと処理を同じくする私たちが運営から修正プログラムを受け取り対処します。」
「あ~。いろいろ納得した。」
そうでなければ、いくらモデリングに身内を使ったとしてもここまで放置されるわけはない。修正不可避。
なるほどねぇ。そういうことか。
「先輩。気を付けてください。」
「何を。」
「チュートリアルの代わりに来たのなら戦闘があります。アレ地味に強いですよ。」
「運営側が管理用として用意したのだから、ピクトさんじゃなくてもそれは当然だろう。」
プレイヤー限界値がどこにあるのかわからないが。現状運営が用意した特別に勝てるとは思えない。
その辺にいる敵ではないのだから。負けて当たり前。勝つことができるのはリアル格闘家。しかも上級者なだけだと思う。
「そうです。けれど、そういうことではないです。もう1人が誰なのかわかりませんが、それを勘案しなくても私と彼女、護身術を習っています。しかも、合気道8割空手2割の護身術です。」
「つまり、モデリングした者そっくりそのままだから普通に強いと。」
「強いです。もしかしたらうまいの方があっているかもしれません。普通よりも数段上です。護身術の他にどこで見つけてきたのかわかりませんが、戦扇術を習ってますから。攻防一体に秀でています。観察が好きからかどうかわかりませんが、目もいいです。」
「行動をよく見ているから隙を突くのにたけている。たまに攻める。だけじゃダメなの。」
それは護身術の範囲を超えているのではないかとか戦おう術というのが何を指しているかわかないと思うところがあるがが。無暗に突撃しなければいいだけだろう。
それでも勝てるとは思えないけど。
いまいち要領がつかめない。
「相手に合わせやすいんです。いまイメージしている以上と考えてください。すいません。言葉が足りなくて。とにかくうまいです。」
「謝ってもらうことはないよ。十分情報をもらったし。感謝する側にいるk」
「私、護身術の他に剣道をほんの少し齧っていますが、立ち合いができるようになっていままで一度たりとも彼女に勝ったことがないです。」