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4-3. 帝国の犬 3

 あたしは、武装闘争派の連中に囲まれて、父さんが連行された、奴らの隠れ家に来ていた。森林の樹木が密集して、容易には見つけられない場所だ。

「来たな、ラトカ。ようやく俺に従う気になったか」

 部屋に入ると、スヴィーチルが座っていた。あたしは、奴の質問には答えず言った。

「父さんはどこだ」

「連れてこい」

 スヴィーチルが命じると、連中に連れられて父さんが現れた。

「無事だったんだな」

「ラトカ。来るなと言ったのに」

 あたしは父さんの近くに寄る。

「大丈夫だ。あたしが助けるから」

 父さんは、スヴィーチルに言う。

「娘には手を出すな」

「安心しろ。貴様の娘には大事な広告塔になってもらうのだからな」

「私は何と言われようと、路線変更の要求に応じない」

 父さんが答えると、奴は、笑みを浮かべて言った。

「娘が弄ばれるのを見て、いつまでそう言っていられるか、見ものだな」

 こいつ…… 吐き気がするな。あたしは言ってやった。

「うるせーよクソ野郎。お前に従うぐらいなら、帝国についたほうが百倍マシだ!」

 次の瞬間、建物の外で破裂音がし、部屋が真っ暗になった。

「目を閉じて耳をふさげ」

 あたしが父さんに指示した直後、すさまじい爆音がしたかと思うと、窓と入口が破られた。このとき、同時に強烈な閃光が走り、奴らの視覚・聴覚を奪っていたはずだ…… あたしは目を閉じていたのでわからないが。突入した帝国軍の兵士たちが、奴らを素早く制圧した。


 あたしらがいた建物以外に対しては、容赦がなかった。まず、警戒のため展開していた歩哨は、静かに始末されていた。突入と同時に、武装闘争派の奴らが詰めていた他の建物には、砲弾やロケット弾が撃ち込まれ、火柱が上がった。運よく逃げ出した者にも、包囲していた中隊の兵士たちから銃弾が浴びせられた。


「くそっ、どうなってやがる?」

 外に連れ出されたスヴィーチルが喚いているところに、少佐が現れた。

「よう、スヴィーチル。元気か? あまり元気じゃなさそうだな」

「てめえはブロイティガム! どういうことだ? ラトカの奴が俺たちを売ったのか?」

 すべてを察したスヴィーチルは、呪いの言葉を吐いた。

「ラトカ! 帝国に魂を売りやがって、この恥知らずめ! お前も母親と同じように、惨めな最期を迎えるぞ!」

「うるせーな夜中だぞ、静かにしろよ。お前は州政府に引き渡す。お前がテロで殺した人たちの遺族に、法廷で詫びるんだな」

 少佐が言う。

「連れていけ」

 スヴィーチルたちは帝国軍の歩兵機動車に押し込められ、連行されていった。


 まずあたしが奴らのもとへ行き、父さんの所在を確認しつつ安全を確保する。そしてあたしの合図で電力供給を断ったうえで、帝国軍の部隊が突入する…… というのが、今回の作戦だった。合図の言葉は、『お前に従うぐらいなら帝国につく』に決めていた。

「『帝国についたほうが百倍マシ』とはよく言ってくれた。人生初のスタングレネード体験はどうだったかな?」

 少佐が言う。『百倍』は思わず出たアドリブだった。

「二度とごめんだな」

 まだ耳鳴りがする。

「スヴィーチルの言うことは気にしなくていいぞ」

「いいさ別に。あたしが裏切り者なのはその通りだし。奴はあたしを非難する権利がある」

 気になるのは、父さんの方だった。

「ブロイティガム少佐」

 父さんが話しかける。

「スピルカ代表。お怪我はありませんでしたか」

「おかげさまで命は助かったがね。礼を言った方が良いのかな?」

「お気になさらず。我々も、考えあってのことですので」

「私のことも、逮捕するのかね?」

「いいえ」

「恩を売ろうということか。反帝国活動をやめろとは、言わないのだな」

「同盟国の法が許す限り、ご随意に。解放同盟が完全に武装闘争を放棄し、健全に生まれ変わることを期待しておりますゆえ」

「いいだろう。私にできる限りのことはしよう」

「それがよろしいでしょう。ただ、娘さんはうちでお預かりします」

 父さんはあまり表情は変えなかったが、あたしを一瞥して言った。

「やはり今回のことも、この子が何かしたのだな?」


 あたしは、『人生を帝国に捧げる』という条件を、飲んだのだった。

 帝国の犬になったわけだ。

 具体的には、あたしが自由に動かせる戦力、といっても1個小隊程度しかないが、これが帝国軍の指揮下に入ることになった…… というのは建前で、体よく人質にされたと思った方がいい。別にあたしひとりでもよかったんだが、ミロシュたちがついていくというので、こうなった。あいつらには感謝しかない。


「娘さんの身の安全は保障する…… とは言えませんが、無下に扱わないことと、政治利用しないことはお約束します」

 少佐の言葉を聞いて、父さんはあたしに言った。

「ラトカ。お前は帝国と悪魔の取引をしたようだな。私が助かったことは確かで、礼を言うが、お前を組織に置いておくことはできない。自分がしたことの責任を果たすがいい」

「……わかってるよ」

 あたしは勘当された。


 帝国軍は、施設を破壊した後、律儀にも延焼防止のため、くすぶる炎を消火してから現場を後にした。

 あたしは、ブロイティガム少佐とレイスコヴァー中尉に挟まれて、指揮車両の後部座席に座る羽目になった。

「中尉。わが方の被害は?」

「死者はありません。爆発に巻き込まれた負傷者が3です」

 ほとんど一方的に帝国軍が攻撃したのだから、当然だ。

「相手方の状況はどうだ」

「7人を取り押さえ、投降した18人を捕らえました。15人程度を取り逃がした模様です。死者は35人程度で、うち4人は自決しました。手榴弾で自決を図った者がおり、先程の負傷者はそれによるものです」

「うむ」

 少佐は顔色も変えずに言った。

「きみの仲間を殺した。これで満足か」

「……」

 あたしは何も言えずに奥歯を噛みしめた。

 軍隊は警察組織と違う。犯人を拘束するんじゃなく、敵を無力化するのが任務だ。わかっていたことだ。あたしは彼らの死に加担した。受け止めなきゃならない。

「これでよろしかったのですか、少佐」

 中尉が言う。正直、少佐があたしの頼みを聞き入れるのは、絶望的だと思っていた。なんで選択肢『その3』をとったのか。

「ああ。今回は過激派の連中を解体するまたとない機会だった。『情報提供者』がいたからな。傍観し放置する手はない」

 『情報提供者』というのは、あたしのことだ。

「あとはどういう手を使うかだ。『兵は拙速を尊ぶ』という言葉がある。聞いたことがあるか?」

「作戦を練るのにウダウダ時間を食うよりも、とりあえず動いて勝った方がいいって話だろ」

 あたしが答えた。

「そういうことだ。人的被害を出さないことが確実な『その2』のような方法をとることも考えられるが、残念ながらわが中隊は無人機や巡航ミサイルのような大層な装備を備えていない。必ず他の部隊の力を借りなければならない。俺はこう思う。『めんどくせーな』と」

 帝国軍は王国との条約で、地上配備型の巡航ミサイルを備えていないから、使うとなれば水上艦から発射しなきゃならない。それはともかく、めんどくせーって何だよ。

「話が上に行くほど判断に時間がかかるし、王国との関係を考えれば攻撃を躊躇する可能性も高いしな。時間が惜しいから、中隊だけで動くことにした。それに、空爆だけで敵を殲滅するのは、やはり無理だ。地上部隊が絶対に必要だ。今回空爆のみに頼っていたら、もっと多くを取り逃がしていただろう」

 やっぱり、スピードを重視したということか。

「あとは、実現可能性の問題だな。王国の防空網はかなり強固だから、航空機や巡航ミサイルを飛ばしたら、すぐに発見され、撃墜されるおそれが高い。地上からこっそり進入した方がいい」

 こっそりって言ってもな。今回は結構派手にやっていると思うが。

「少佐。私が申し上げたいのは、少佐のお立場のことです。中隊長の独断専行で、王国領内に侵入し戦闘を行いました。お咎めを受けるのでは?」

 ……そりゃそうだよな。あたしもそのことを考えなかったわけじゃないけどさ。

「今回作戦は成功し、目的を達することができた。必ずや帝国と同盟国の利益になると信ずる。王国との関係とか、そのへんは上のお偉いさん方が考えるべきことで、俺の役割を超えている。俺は指揮官として、自分の部隊のことを第一に考え、できる範囲で最善を尽くしたに過ぎない。その結果クビになったとしても、まあ、仕方ないさ」

「……悪かった」

 あたしが言うと、少佐はあたしの頬をつねって言った。

「謝るんじゃねーよ、お前がやらせたことだろうが」

 それはそうなんだけどさ。というか、痛いからつねるんじゃねーよ。

「なんであたしの言うことを信じたんだ。罠かもしれなかっただろ」

 あたしが少佐の手を払いのけて聞くと、少佐は答えた。

「その可能性はあったが、代表が拉致されるとか、娘みずから助けを求めるとか、そんな凝ったシナリオを用意する必要がない。それに、きみの様子を見ていれば、本当かどうかはだいたいわかるさ。演技なら大したものだ。とりあえずは、きみを信じることにした」

 見透かされていたんだな、あたしは。

「『帝国軍に助けを乞うのは、反帝国活動の一環だ』とか、言わないだろ、普通」

 少佐が笑いをこらえながら言った。

「うるせえよ」

 ……恥ずかしいからやめろ。

「そう言うきみだって、俺たちに正確な情報を伝えただろ。我々が裏切って、全員を始末するとは思わなかったのか」

 そんなことか。

「本気でそうするつもりなら、あたしに『その1』『その2』とか、ご丁寧に説明する必要がないだろ。黙って協力するふりをすればいい。お前が素直にあたしの言うことを受け入れてたら、胡散臭く感じて信じなかっただろうな。お前はあたしが聞きたくないことまで説明した。その時点であたしはお前らを信用することにした。それだけだ」

 少佐の奴、ニヤニヤしてやがる。

「いやぁ、きみに信じてもらえるとは、帝国軍も大したもんだ」

 それはちょっと違うな。別にあたしは帝国軍全体を信用したわけじゃないんだが。だから、

「きみの母親は人々の暮らしや権利を守るためには、武力の行使も必要だと考えていたんだろう。帝国軍は、そのための組織だ。目的は同じなのだから、きみも協力しろ」

と少佐が言っても、あたしには響かなかった。

「それはきつい屁理屈だと思うぞ」

 あたしが答えると、

「やっぱりそう思うか?」

 少佐は苦笑した。


 ともかく、日が昇るころには、すべてが終わっていた。

 あたしは組織を裏切り、多くの命を奪って、望んだ結果を得た。でも、そこまでして助けた父さんには、もう会うこともないかもしれない。

 これでよかったのか…? 母さん。

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