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4-2. 帝国の犬 2

 数時間後。夜も更けたころ、あたし達はマンハイムに戻っていた。

 いつも通りなら、街の外れの兵舎に、あいつもいるはずだ。

「やはり行きますか、お嬢」

 ミロシュが心配そうな顔をするが、もう心は決まっていた。

「ああ。これしか方法はない。行ってくる」

 あたしはこれから、無謀にも、ひとりで、帝国欧州軍第61偵察中隊の兵舎を直撃しようとしている。しかも丸腰で。

 物陰から出て行ったところで、案の定、すぐに歩哨に発見された。

「止まれ。何の用だ」

「ラエティア民族解放同盟のラトカ・スピルコヴァーだ。中隊長に会わせてくれ」

「なに?」

 歩哨は、一瞬戸惑ったようだったが、すぐに言った。

「お前を拘束する。来い」

 そしてあたしの手をつかもうとしたので、思わずそれをはねのけた。

「触んなよ」

 すると彼は、持っていた突撃銃の銃床であたしを突き倒そうとしたのだろうが、あたしは反射的に相手を投げ飛ばしてしまった。

 ……こりゃヤバイな。

 すぐにほかの兵士たちが飛んできて、あたしは地面に押さえつけられた。

「おい、やめろ! ブロイティガム少佐に会わせてくれ!」

「騒ぐな! 立て!」

 あたしは両脇と腰を女性兵士につかまれ、身動きできない状態で連行された。

 だが、こんなところでぐずぐずしてはいられない。

「おい! 解放同盟のことで重要な話がある。早く少佐に会わせてくれ! 直接話す!」

「うるさいぞ。何時だと思ってる」

 あたしはなるべく騒がなければと思い、喚いた。すると、奥から士官が現れた。

「何の騒ぎだ?」

「ああ、中尉」

 この女は、中隊副官のダリナ・レイスコヴァーだ。

「この娘が、中隊本部に現れたので、拘束しました」

 彼女は、あたしの顔をまじまじと見てから、言った。

「ふむ。お前は、ラトカ・スピルコヴァーだな?」

「そうだよ。さっきから言ってるが、少佐に話がある。早く会わせてくれ」

「少佐は今、おやすみ中だ。私が代わりに聞こう。言ってみろ」

 今回はお前じゃダメなんだよ。

「重大な話だ。少佐に直接話す」

 するとこの女は、妙なことを言い始めた。

「うーむ、少佐に直接想いを伝えたいのはわかる。しかし、まだ若いのだから、あと5年くらい待った方が良いぞ」

 何言ってんだこいつ。

「冗談言ってる場合じゃねえよ! 早くしないと、父さんが……!」

 こっちは気が気じゃないんだ。早く何とかしてくれ。

 動揺するあたしの様子を見て、副官は言った。

「いいだろう。曹長、少佐を起こしてこい」


 しばらくして、ブロイティガム少佐が現れた。というか、私服のまま、頭を掻きながら眠そうな顔で来やがった。

 夜中で寝てたのはわかるけどさ。

「確かに俺は、いつ来てもいいと言ったが、残念ながら今は、きみの想いを受け入れることはできない。あと5年くらい経ってから……」

「そういう話じゃねえよ!」

 少佐が開口一番に妙なことを言い出したので、遮った。この中隊の連中は何なんだ。

「きみのところの組織の話だそうだな。聞こうか」

 あたしが周囲の様子を気にしたので、少佐と中尉だけが部屋に残った。

 あたしは、組織と父さんが置かれている状況を話した。

「なるほどね。今まさに、西安事件のようなことが、起こっているわけだな」

 少佐は腕組みして言った。

「で、我々に何をしろと?」

「悔しいが、あたしらじゃ力が足りない。あんたのところの部隊を動かして、父さんを救出してくれ」

 あたしが言うと、目の前の2人は顔を見合わせた。そしてため息をつき始めやがった。

「うーん…… 今思いついた、我々が取りうる選択肢は」

 少佐が言う。

「その1、そのまま静観する。強硬派がきみの父親を始末すれば、解放同盟は内部分裂し、帝国を攻撃するどころではなくなるだろう。だが強硬派のもとで組織が一本化された場合、帝国と同盟国に対する害が大きくなるおそれがある。

 その2、きみから強硬派の居場所を聞いた我々は、無人機か巡航ミサイルでその場所を攻撃する。解放同盟のトップと厄介な連中をまとめて始末することができる。わが軍の兵士を危険にさらすこともない。しかし、王国の領内を攻撃するので、王国との関係に問題を生じるおそれがある。

 その3、きみの求めに応じて、部隊を派遣し、ズデニェク・スピルカ氏を救出する。

 こんなところだな」

「ぜひ、『その3』を頼みたい」

 あたしは即答した。

「その場合の問題は…… もちろんわかっているな」

「帝国の兵士を危険にさらして、王国に侵入するんだから関係も悪くなるってことだろ」

「そうだ。特にいま帝国は、王国を傘下に収めようと交渉しているところだからな。我々の動きが微妙とは言えない問題を生むおそれが強いだろう」

 交渉ね…… 恫喝のまちがいじゃねーのか。

「中尉。貴官ならどうする?」

「『その2』ですかね。やはり人的損失のリスクなく、危険分子を排除できるのが大きいかと」

 ……やめてくれよ。

「父さんは危険分子じゃねーぞ! もうテロやゲリラに頼らず、広く支持を得て帝国と向き合おうとしてたんだ。お前ら、それをつぶしてもいいのか?」

「帝国にとっては、反帝国の組織はなるべく少ない方がいいのは当然だ」

 中尉が言った。

 だが、こんなところで引き下がるようなら、ここまで来ていない。

「あたしが、バカなことをあんたらに頼んでるのはわかってる。自分たちが攻撃してきた相手に、助けを求めてるんだからな。でも、あたしは父さんを助けるためなら何でもやる。この際、大義とかは二の次だ。母さんは王国と戦って死んだ。あたしにとっては、もう肉親は父さんしかいないんだ。どんなことをしても助けたいんだ。頼むよ…!」

 あたしは必死に訴えた。

「家族を捨てて大義を選ぶなら、帝国の奴らと同じだ。あんたらの司令官も、そうなんだろ」

 帝国欧州軍の司令長官は、確か皇族だったが、作戦遂行を優先して、自分の家族を殺したと、聞いたことがある。

「立派だと言う奴もいるかもしれないが、あたしは認めない。あたしは父さんを助けるためなら、敵の手も借りるぞ。帝国の奴らとは違う! だからこれはあたしの反帝国活動の一環でもあるんだ!」

「プフッ」

 少佐の奴、吹き出しやがった。

「大義を捨てても家族を守ることで、反帝国という大義を貫くってことか。面白いことを言うじゃないか」

 ……確かに、自分で言っててもワケわかんない感じになったけどさ。そんなに笑わなくたっていいじゃないか。あたしは恥ずかしくなった。

 が、少佐はすぐに反論した。

「だが、我々に何の得がある? 王国との間に問題を生じさせてまで。きみたちが殺した人たちにも、家族がいて、肉親がいた。部隊の兵士の中にも、仲間や家族・知人を失った者がいる。それでも部隊の者たちは、指揮官が命じれば、どんな任務も勇敢にこなすだろう。彼らに何と言えばいいんだ? 彼らが命を落としたら、きみには何ができるというんだ?」

「それは……」

 少佐の言うことは正しい。それでも、あたしは頼みに来たんだ。

「あたしにできることなら、何でもする。一生のお願いだ。きいてくれ。頼む」

 あたしは立ち上がると、頭を下げた。

「まだ16年くらいしか生きてないだろ。一生のお願いを今するのは、まだ早くはないか?」

「あたしは今が使い時だと、信じる」

「そうか」

 少佐は立ち上がると、近くに寄り、頭を下げていたあたしの顎を持ち上げると、顔をのぞき込んで言った。

「きみは、人生を帝国のために捧げる覚悟はあるか」

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