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20-2. 王国の秘密 2

 あたしらは全員、目隠しをされて、車に乗せられた。どこに連れていかれるのか。

 着いたところは、トンネル、というか、地下坑道のようだ。

「この奥です」

 坑道を歩いていると、女王様が話しかけてきた。

「ねえシャールカ」

「シャールカじゃないラトカだ」

「そうでしたねラトカ。シャールカというのは、『乙女戦争』の登場人物ですよね」

「そうらしいな」

「ベドルジハ・スメタナという人は、知っていますか?」

「いや」

「じゃあ、アントニン・ドヴォルザークは? レオシュ・ヤナーチェクは?」

「誰だ? 政治家か?」

「知りませんか。いずれも、19世紀のチェコの作曲家です。ああ、そういえばグスタフ・マーラーもボヘミアの生まれでした」

「クラシック音楽か。聴かないからな、あたしは」

「スメタナが作曲した『わが祖国』という連作交響詩がありますが、その第3曲は『シャールカ』という曲で、勇壮な場面あり、楽しげな場面ありで、ドラマティックな聴きごたえのある曲です。聴いたことありますか?」

「……いや」

「ラエティア民族解放同盟は、『ラエティア』といいながら、実際はボヘミア、モラヴィアあたりの方々が中心になって、文化や伝統、独立を守ろうと言っていますよね」

「まあ、あたしもそうだけど。方便ってやつだよ。王国領内に間借りしながら、反帝国運動をしてたわけだし」

「それなのに、誰も故郷の音楽のこと、あなたに教えてくれなかったんですか?」

「……」

「はぁ~ なんて嘆かわしい! 『わが祖国』は、『モルダウ』は、ボヘミアの魂ではなかったのですか? そうでしょう」

 そうなのかな……? いや、そうだとしても、あんたがそんなに熱くならなくたっていいじゃんか。

 女王様は、何が言いたいんだ。

「あなたのことは、ラエティア民族解放同盟の説明を聞いて、前から知っていました」

「そりゃどうも」

「でも、わが国が開戦する少し前、解放同盟の武装闘争派は、帝国軍の越境攻撃で壊滅したそうですね。あなたが今、帝国軍に協力していることと、関係があるのですか」

「それは…… 恥ずかしい話だが、組織の内紛で、あたしの父親が武装闘争派の連中に捕まって、命が危なかったから、帝国軍の力を借りたんだよ。帝国に情報を渡したのはあたしだ」

 よこしまな理由で仲間を売ったわけじゃない。あたしは正直に言った。

「なるほど。毒をもって毒を制したわけですね」

 そうだ。そのせいで、今こんなところにいるんだけど。

「そうすると、わが国が戦争を始めたのは、あなたの影響も、あるかもしれませんね」

「は?」

 王国は勝手に戦争を始めたんだ。関係ないだろ。

「わが国領内を拠点にして解放同盟が反帝国テロ活動をしていたので、帝国から追及され、正直、わが国は厳しい立場に置かれていました。軍事的な圧力を背景に同盟締結を…… 我々は『従属』だと言っていましたが…… 帝国から求められて、やむを得ないという雰囲気もあったんです。でも、帝国軍の攻撃でテロ組織は壊滅しました。わが国が帝国に従属する理由がなくなったので、帝国の強引な要求に対する国内の反発を、抑えきれなかった。それで戦争になったのです」

「何だよそれ……」

 思わず立ち止まってしまった。

 あたしにとっては、わりとショックな話だった。あたしの行為は仲間を敵に売り渡しただけじゃなく、戦争の引き金にもなってたってのか。戦争がなければ、王国の人間も帝国の人間も、あのセリアの両親も…… 死ななくてよかったのか。

「女王様、今のはこじつけに近いと思いますがね。いろいろお考えのところはあるかもしれませんけど、ご自身のモヤモヤを、いたいけな少女に当てつけるのは、やめましょうよ」

 フェリックスの言葉で気づいた。なんだよ。女王様だってイラついてるんじゃないのか?

「別に当てつけているわけではありません。ただ、世の中の出来事というのは、思いもよらないところで複雑に関係しているものです。それを言いたかっただけですよ。開戦の責任が第一にわが国にあるのは明白です。他の誰かを責めるつもりなどありません」

 ……じゃあなんでそんなこと言ったんだよ。女王様はまだ続ける。

「それから、ラトカ。あなたのお母さんは、当時のフリーダー大尉が指揮する王国軍との戦闘で亡くなったそうですね。彼女を恨んでいますか」

「そりゃ、恨んでるよ。王国にとってはどうだったか知らないけど、あたしにとっては大事な、一人しかいない母親だったんだから。……あのとき、なんで邪魔したんだ」

 この女王様は、あたしがフリーダーに向けた銃口の前に立ちはだかったんだ。

「そうですか。でも、あなたが恨むべきは、彼女ではありませんよ」

 女王様は、またよくわからないことを言い出した。どういうことだ?

「彼女は、わが国の軍人として自らの職務を遂行したにすぎません。彼女を恨むのは筋違いというものです。あなたが恨むなら、彼女個人ではなく、王国です。そして王国というのは、わたくしが象徴しているもののことです。つまり、恨みたいなら、どうぞ私を恨んでください」

「は?」

 なんでそうなるんだよ。

「女王様。それって、僕の受け売り……」

「殿下の理論、パクらせていただきました」

 女王様とフェリックスが何やら話しているけど、よくわからない。

「女王様。あんたは8年前、女王じゃなくて、王族でもなくて、王国の国民ですらなかったんじゃないのか。なんであたしがあんたを恨まなきゃならないんだ?」

「国家の責任と王族というのは、そういうものだからですよ。ねぇ殿下」

「僕に聞かないでください。またあなたはそうやって、全部抱え込もうとして……」

 あたしは、ブロイティガム少佐が、皇族は難儀なものだと言った理由が、少しわかったような気がした。

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