それでも。
これでこそ、浩樹お兄ちゃん
次の日の放課後、僕は嫌がる樹を無視して樹の家に来ていた。
樹とは少し歳が離れた浩樹さんは現在大学三年生。帰ってくるまでにはもう少しかかるらしい。僕は元樹の部屋に上がらせてもらって浩樹さんを待つことにした。
「ねえ、遥ちゃん、帰ろうよー」
「なんでよ。どうせ浩樹さんには樹のこと見えないじゃん」
樹の家に来るときからぎゃーぎゃーとうるさい樹。
自分ちなのにそんなにいやか?
「いやー、兄さんなら見えなくても何かしてきそうで」
「まさか、さすがの浩樹さんでも……」
「なんとか出来るように頑張ってるんだけどねぇ」
「うぇ!?」
僕の後ろからひょい、と顔を出した浩樹さんに僕(となぜか樹)が飛び上がった。
「いらっしゃい、遥ちゃん。あとどうせ樹もいるんだろ? 遥ちゃんにべったりだったし」
「……あの、浩樹さんは、本当に幽霊がいるって信じてますか?」
僕がそう問いかけると、荷物を片付けていた浩樹さんが「え?」とちょっと間抜けな顔で振り返った。
「俺、前にも遥ちゃんに彼方の話しなかったっけ」
「浩樹さんの友達の話は聞きました。だけど、自分にしか見えない存在なんて」
「自分の妄想なんじゃないか、って?」
浩樹さんの言葉にこくりと頷けば、うーん、と唸りながら僕の前に座った。
「そうだね、たしかに俺にしか見えなかったけど、俺にはそこにいる、って感じられたから」
「え?」
「はは、遥ちゃん間抜け面になってるよ」
兄弟そろって僕のあほ面に突っ込むの好きだな!
……じゃなくて、幽霊の存在? が、感じられる?
「幽霊の存在感……まあ、たしかに樹は存在感にあふれてるけど」
「んー、そういう意味じゃないんだけどなぁ」
残念な子を見るような目で見てくる浩樹さんから目を逸らした。
そんな僕を見てまたはは、と笑いをこぼすと浩樹さんはまた口を開いた。
「彼方のことは、俺が一番分かってるから」
そう、ちょっとだけ恥ずかしそうにはにかんだ浩樹さんは、いつもと違ってちょっとだけかわいく見えた。
「彼方の時には何も出来なかったからさー、樹には何かしてあげようと思って……」
「……ん?」
急に方向性が変わった浩樹さんの笑みに、直接的被害は受けてきて来なかったはずの僕ですら一瞬固まったのだ。隣に目をやれば樹がびきりと固まっていた。
何かごそごそとカバンの中を探っていた浩樹さんは、目的のものを見つけたのか嬉しそうに「あったあった」と取り出した。
「じゃじゃーん!」
「え、なんですかそれ」
浩樹さんの手には何やら怪しげな黒い本。
隣にいたはずの樹はいつの間にか僕の後ろへと隠れていた。
「樹ぃ? 遥ちゃんの後ろに隠れるとか男として恥ずかしくないのかぁ?」
「兄さん僕のこと見えないはずじゃ!!」
「はは。これでもお兄ちゃんだからね。樹がとりそうな行動なんてお見通しさ」
「心まで読まれてる!?」
さっきから樹が可哀想なくらいガクガクと震えながら冷や汗を垂らしている。……いや、お前幽霊なのに冷や汗とか。
「さすがに親友には試せなかったからさぁ、せっかくだから樹で試そうかな、って」
「死んだ弟に対してせっかくだからって何するの!?」
これもう浩樹さんに樹は見えてるんじゃないの?
楽しそうに笑う浩樹さんとまだガクガクと震えている樹から目をそらして、浩樹さんが持つ黒い本の背表紙へと視線を向けた。
「えーっと、なになに。『簡単! 黒魔術初級 ―悪霊を使役する方法―』?」
あれ? 樹って浩樹さんの弟……あれ?
「強く生きろ……!」
「遥ちゃん、僕はもう死んで……兄さん!? なんて本持ってるの!?」
もうやだこの兄さん、って樹の泣きが本格的になってきたのでそろそろお暇することにした。
「あの、浩樹さん。そろそろ遅くなってきたし、僕帰りますね」
「あ、もうそんな時間? 送っていくよ」
「家近いんで大丈夫ですよ」
これ以上浩樹さんといると樹が明日以降本格的に面倒臭くなりそうだったから丁重にお断りし、樹の家を出た。
「兄さん怖いぃ」
「そう?」
樹とすっかり暗くなったすぐそこの家までの帰り道を歩いた。
怖いと言いながらも樹の顔は少し緩んでいる。
「……本当に、この兄弟は素直じゃないんだから」
「遥ちゃん、何か言った?」
「ううん。なんでもない!」
怖いと言いながらも顔を緩める樹。見えないのに樹に目を合わせようとしながら、目尻を涙で光らせていた浩樹さん。
「また浩樹さんに会いに行こうね!」
「絶対やだ!」
……とか言って文句言いながらも絶対についてくるんだよな。
いつもは僕よりお兄さんな樹の子どもっぽいところが見れて、なんだか楽しかった。
……樹がなんと言おうと、また浩樹さんには会いにこなきゃな。