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しんじられなくて。



「明日からゴールデンウィークだね、遥ちゃん」

「……は?」


 最近の日課となりつつある屋上での樹との時間。

 春から初夏へと移り変わってくるこの時期に、わざわざ強い日差しを浴びようと屋上まで上がってくる人は僕たちを除いていない。


 そもそも校舎の外にもベンチとかがあるわけで、屋上まで階段登るなんて労力かけるのはオールシーズン僕たちくらいなんだけどね。


 そんなわけで他の人には見えない樹とダラダラお喋りするのに屋上はうってつけ、ってわけ。


「たしかに明日からはゴールデンウィークだよ? でもさ、樹は出かけられないわけだし関係ないんじゃ……」

「いやでも僕がいないと遥ちゃん、出かけないじゃん。僕、遥ちゃんが友達と仲良く出来るか心配で心配で……」

「出来るわ!!」


 樹は僕をなんだと思ってるんだ!!

 樹なんかいなくても友達と仲良くしてるわ! ……心配で?


「あ! なあ、樹。樹は僕のこと心配だから幽霊になって残ったんじゃないのか?」

「ん? え、うえっ!? ぼ、僕が遥ちゃんのこと心配だなんて……そんな!」

「樹も相変わらずお母さんみたいだなー。そんな心配されなくてもいいのに」

「お、おか……お母さ……」


 なんだか樹がぶつぶつ呟きながら固まってしまったので樹の目の前で手を振ってみる。

 お、気づいた。


「は、遥ちゃん!?」

「さっきから一緒にいるじゃないか……」


 だいたい、おしめの頃から一緒にいるんだから僕にとって樹のそばは当たり前だし、昔から樹は僕のお兄ちゃんのようなお母さんのような存在だったじゃないか。

 いったい何にショックを受けてるんだか……。あ、もしかしてお母さんじゃなくてお父さんが良かったのか?


「違うそうじゃない……」

「何が?」


 樹ははぁ、とため息をつくとなんでもないと首を振った。


「やっぱりさ、幽霊になるってことは未練が残ってる、っていうのが定番じゃない?」

「未練かー。僕そんなの心当たりないけど……」

「僕のこと心配って言ってたじゃないか」

「いや、それとこれとは別というか!!」


 樹の未練、……バスケ部のこととか? でももうすぐ引退だったし。……受験のこと? でももう意味無いし樹、適当だったし。


「……あ」

「ん? なんか分かったの? 遥ちゃん」

「僕がこの前樹秘蔵のプリン食べちゃったこととか!」

「あれ、犯人遥ちゃんだったの!?」

「あ、やば」


 ごめーん、って手を合わせたら樹は簡単に許してくれた。昔からだけど樹はチョロい。


「やっぱり未練って僕の事じゃないのー? お母さん、心配で心配でッ!! みたいな」

「だから僕はお母さんじゃないって……。別にみんながみんな未練があるから幽霊になるってわけじゃないと思うけど、遥ちゃんが一人でもやっていけそうなら安心出来るかなぁ」


 一人でも、か。

 樹はいつまでもここにいられるわけじゃない。長くても三ヶ月、短ければもしかしたら明日にでもいなくなっちゃうかもしれない。

 一瞬下がりかけた顔を持ち上げて、口の端を持ち上げる。


「んー、それなら僕の教室にいれば僕がいかに友達と仲良くしてるのか見れるんじゃない?」

「そうだねー。僕も遥ちゃんいないとつまんないし」


 じゃあ明日からは教室うろちょろしよーっと、と楽しそうに笑う樹。あいつ、本当にユーレイかよ。


 でも楽しいついでに屋上をふよふよと飛び回る姿はやっぱり人間では有り得なくて、ユーレイなんだよな。

 ついこの前、フェンスから落ちかけて肝を冷やしたのが遠い昔のようだ。


 しばらくふわふわと浮いている樹を羨ましいなー、とか思いながら眺めていたが、いい加減日も落ちてきたし帰らないと。

 いくら夏が近づいて日が長くなったとはいえ、夕方になれば暗くなっちゃうし。


「おい、樹! そろそろ帰――」

「――遠藤さん?」


 樹に声をかけようとしたところで、他に誰もいなかったはずの屋上の扉から見知らぬ声が飛んできた。

 慌てて口を噤んで振り返ると、屋上の扉の影から一人の男子生徒が出てくるところだった。


「誰?」

「あ、急にごめん。俺……」


 扉の影から完全に出てきたその姿を見て、ほっと無意識に入っていた力を抜いた。


「なんだ、西島くんか」

「よかった、忘れられてたらどうしようかと思った」


 人懐っこい笑顔を浮かべる彼は西島にしじま拓也たくやくん。今年も同じクラスで、樹のバスケ部の後輩。

 西島くんは笑顔から一変、すごく悲しそうな表情を浮かべながら口を開いた。


「その、俺が言えたことじゃないかもしれないけどさ、井上先輩のことは本当に残念だったとしか。井上先輩のことはなんというか、すっげえ尊敬してたし」

「うん」

「だからさ、こんなこと言うのも失礼かもしれないけど、遠藤さんが可哀想で」


 ――――え?


「僕が、可哀想?」


「俺も井上先輩のこと聞いたときは悲しかった。だけど、まるで井上先輩がそこにいるかみたいに話しかける遠藤さんは、見てて辛い」


「なんのこと?」


 違う。

 樹は他の人には見えないだけで、僕にはちゃんと……


「だって最近、遠藤さんは何かを追いかけるように見てるだろう?」


「それはほら、ちょっとぼーっとしてて」


「それに一人でいることも増えた。今日も屋上で一人で来て、喋ってたし」


 僕は西島くんから目を逸らし、振り返った。

 そこにはちゃんと、困った顔して笑う樹がいる。


「ほら。また何も無いとこを見てる」


 西島くんが動いて、僕と樹の間に割り込む。


「遠藤さん、辛いかもしれないけど、井上先輩はもう……」


 ユーレイになった樹。クラスメイトの西島くん。


 ――――どっちが本当なのかなんて、それは。



西島、おい。

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