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きみが。



 翌朝、僕はなんだかすっきりしない頭のままぼーっと座り込んでいた。

 頭の中で浩樹さんが話してくれた、亡くなったという友人の話がぐるぐるしていた。


「三ヶ月、か……」


 浩樹さんの友人は幽霊のまま三ヶ月ほど過ごし、浩樹さんに別れを告げたあとそのまま姿を見せなくなったそうだ。

 なぜ幽霊になったのか原因は分からず、ただ最後のやりとりから友人は成仏したのだろう、と悲しそうに笑っていた。


「朝からぽけーっとしてどうしたの、遥ちゃん?」

「ふぇおわ!?」

「何その女の子捨てた声。というかヨダレ垂れてるよ?」

「!!!!」


 慌てて口の周りをゴシゴシと拭いてからびしっと指を差した。


「い、樹!? いつからそこに!!」

「こら、遥ちゃん。人に指を差しちゃいけませんって教えたでしょ!」

「樹は幽霊だから問題な……じゃなくて!! なんで僕の部屋にいるの!」


 ああー、なんて手を叩いてにっこりしても許さないんだからね!


「僕、幽霊だった」

「そこ!?」


 ツッコミ疲れて朝から肩で息をする僕を指差して樹はケラケラと笑った。

 人には注意しておいて自分はいいのかよ……。


「それは、置いておいて。遥ちゃん、早く支度しないと遅刻するよ?」


 樹にほら、と示された時計を見れば八時の十分前。


「ちょっ! それを早く言え!!」


 慌てて布団から出ると僕はリビングに駆け込んだ。


「ご飯はちゃんと食べるんだよー」


 樹の呑気な声には心の中で知るか!!って返しておいた。



―――――




「ま、間に合った……」

「おはよー、遥」


 朝ごはんもそこそこに学校へと向かい、なんとかギリギリ間に合わせることが出来た。


「ねえ、遥聞いた? 三年のバスケ部の先輩の……」

「……樹のこと?」

「そう、井上先輩! 背高いしバスケも上手いし、本当に急だったよね……」

「私、先輩に憧れてたのにー」


 友人たちが残念そうな顔をしていう。まあ、樹とそこまで親しくないし、こんなものか。

 僕が一人ぐっ、と言葉に詰まっているといつの間にか隣にいた樹が面白そうに声をあげた。


「へー、僕のこともうそんなに噂になってるんだ。ね、遥ちゃん聞いた? 憧れてた、だってよ!」

「それはよーござんしたね」

「え、遥? 今なんか言った?」

「え、あ、ううん。なんでもない」


 樹のせいで僕が不審者みたいじゃないか!

 やっぱり僕以外の人には樹は見えてない!ってことだけど。


「(樹、また放課後屋上で)」

「ん、了解」


 小声で言った僕にびしっと敬礼で返す樹に僕はがくりと脱力した。

 僕にしか見えないからってふざけすぎだよ……。


「遥、どうしたんだろ」

「ほら、井上先輩と仲良かったから」

「あー」


 友人たちから哀れみの目を向けられて僕はいたたまれず、そそくさと自分の席についた。


 その日は一日なんにも手につかず、ただぼーっと先生の声を聞きながら黒板を眺めたり、窓の外を眺めたりしていた。

 先生方も普段は注意してくるのに事情を知っているのか今日ばかりは何も言ってこなかった。


 そしてあっという間に放課後になった。

 無言で荷物をまとめる僕に話しかけてくる人は誰もおらず、かけたとしても「バイバイ」という挨拶だけだった。


 荷物をまとめ終えると僕は残っていた友人たちに別れの挨拶を告げて教室を出た。


 向かうのは廊下の端、屋上へと続く階段。

 ゆっくりと登って屋上の扉の前に着くと、ギィっと音をたてながら開けた。


 外の明るさに一瞬目を細め、また開くとそこにはすでに樹がいた。


「いやー、幽霊って階段登るのも楽だね」

「いや、樹は幽霊じゃなくても運動部なんだから余裕だったでしょ」

「まあ、そうだけど」


 いつも通り軽口を叩きながら、屋上の床に寝転ぶ。

 昨日と同じように、憎いほど晴れ渡った空。

 なんとなく手を伸ばしてみた。


「あ、遥ちゃんも空掴んでみたいの?」

「ばっ、樹じゃあるまいしそんな」

「ひどーい。なんかでも幽霊だから昨日よりも空近そうだよね」


 そう言うと樹は宙に浮かび上がって空へと手を伸ばした。


「あ、待って……!!」


 その姿があまりにも儚くて、僕は飛び起きて手を伸ばした。

 僕の手が宙を切ってべシャリと転んだところで樹がはっと気がついて僕のところに文字通り飛んできた。


「は、遥ちゃん大丈夫!?」

「……なんか声、笑ってるけど」


 じとっと見上げれば案の定樹は口を押さえ、ぷーくすくすというような顔で笑っていた。


「もー怒った」

「わー、ごめんって!!」


 怒ったふりをする僕に、慌てるふりをする樹。いつもの光景。

 なんだかおかしくて、僕たちは顔を見合わせて笑った。



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