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ゆーれいの。

改訂前との変更点

・お兄ちゃん、浩紀→浩樹

・期限、2ヶ月→3ヶ月


あとは遥ちゃんが俺っこから僕っこになってます。


その他諸々気が付いたら変更点載せていきます。



 さっきまで、笑ってたのに。

 また明日、今度の連休にどこに遊びに行くか決めるって話してたのに。


「おい、樹。なんでそこで寝てるんだよ……。なんで、なんでだよ」


 部屋の隅ですすり泣いている樹のお母さんの声が妙に頭に響いてる。


「なあ、おい。なんでだよ。さっきまで……馬鹿みたいに笑ってたじゃないか」


 どんなに声をかけても樹は目を開けることはなくて。

 ただ突然に訪れた別れが信じられなくて。


「また明日、って言ってたじゃないか!!」


 馬鹿みたいに泣き叫ぶことしか出来なかった。


 ただ泣いて、ひたすら泣いて、涙を流し続けた目が痛みを覚えたころ、両親に手を引かれて病室を出たのだろう。気がついたらベンチに一人で座っていた。


「もー。遥ちゃん、顔ぐちゃぐちゃだよ。女の子なんだからちゃんと拭かないと……」

「んー、分かってる……!?」


 聞こえるはずのない声が聞こえた。


「うえっ!? あ! ……ええ!?」

「うん、とりあえず落ち着こうか。女の子やめてるよ」


 はーい、しんこきゅーう、って樹の間の抜けた声に合わせて深呼吸を繰り返す。


「ふー……、うえ!?」

「あー、もうそれが遥ちゃんだからいいや」

「い、いつき、なんでそこに……うえ!?」

「びっくりでしたのは分かったから少し落ち着こうか。ここ、病院だし」


 困ったように笑うのはたしかに樹で、病室でいくら声をかけても目を覚まさなかったはずなのに……。


「なんで樹、だって、事故って」

「なんで、って言われても僕もよく分かんないんだよね。でも……」


 そこで樹は言葉を切ると、その場でふわりと宙に浮いた・・・


 目を見開いて固まる僕に、樹は苦笑いをした。

 そして少し寂しそうな顔で口を開いた。


「こういうこと、らしいね。僕が死んだことには変わりないみたい」

「樹……」

「……でも僕、ちょっと良かったな、って思う」

「え? なんて?」

「んーん、なんでもない」


 寂しそうな顔から一変、にっこりと笑うと樹はその場でくるりと宙返りをした。


「おおー、遥ちゃん見た? 宙返りがこんなに簡単に」

「うん、見た! ……って、おい、今はそんな話」

「今だからいいんだよ」


 僕の言葉を遮るように樹は言った。


「今、僕はこうして遥ちゃんのそばに居る。ちょっとだけ心の準備期間が出来たと思えばいいじゃん」

「でも、」

「それで遥ちゃんがさっきみたいに泣くことがなければ、僕はそれでいい」


 これでこの話は終わり、と樹は立ち上がった。

 いつものように手を差し出されて、僕はその手をいつものように掴もうと手を伸ばす。


 だけど、伸ばした手は何にも触れることなく空を切った。


「あー、そうだね、僕ユーレイだし。だからほら、泣かないで遥ちゃん」


 わたわたと慌てる樹を見て頬へ手を持っていくと、冷たい雫に触れた。


「え、あれ、なんで僕」


 ぱたぱたとこぼれる涙を、僕は慌てて両手で拭う。

 そっと樹の手が伸ばされて、だけどその手は僕の頬に届かずに、涙はそこを素通りした。


「……もう、泣いたら涙拭いてあげられないね」


 樹がまた困ったように笑った。


「もう泣かない」


 唇をぐっと噛んで、涙を堪える。

 そんな僕を見て樹は苦笑した。


「ゴールデンウィーク、一緒に遊びに行けなくなっちゃったね。……ってごめんごめん! 泣かないで」

「樹がそんなこと言うからだろ!!」


 せっかく耐えてたのに樹のせいでまた涙がこぼれ落ちた。涙を拭くことは出来ないくせに、泣かせることは出来るんだから。

 むすっと膨れた僕に、樹はおろおろと周りをうろついた。やっぱり樹は樹だ。


「じゃ、じゃあさ、僕遥ちゃんについていくし!」

「それ、周りから見たら僕一人じゃない? 一人で行けって?」

「あ、いや、そういう意味じゃなくて……」


 やっぱりまたおろおろとする樹を見て、思わずくすりと笑いが漏れた。


「よかった、やっと笑った」


 ほっとしたように息を吐いた樹に、僕が口を開いたところで背後から声をかけられた。


「……遥ちゃん? なに一人で喋ってるの?」


 その声にびっくりして慌てて振り返ると、ちょうど病室から樹のお兄さんの浩樹ひろきさんが出てくるところだった。


「今、夜だし声響いてたよ?」

「え、あ、ごめんなさい!」


 思わず立ち上がりながら大きな声を出してしまった僕に浩樹さんが口元に指を立ててしー、と言った。


 慌てて口を両手で押さえた僕に前では浩樹さんが、後ろでは樹が苦笑していた。


「とりあえず座って、静かに話そうか」

「はい……」


 浩樹さんに促されてベンチに座り直す。僕の隣に浩樹さんも腰を下ろすと静かに口を開いた。


「もしかして、樹?」

「え? あ、はい。そのー、信じてくれるんですか?」

「そっかー。樹が、か」


 実はね、と前置きをして、浩樹さんが同じく中学生の頃の友人の話をしてくれた。だから、見えなくても樹のことを信じてくれたのだ、と。


「今日はもう帰りなよ。また明日からお通夜とか葬儀とかもあるからさ」


 たしかに、今日はもう遅い。学校もあるから、僕は浩樹さんに別れを告げて一度家に帰ることにした。




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