第三十九話「好きにしてください」
聞き込みを開始した。
まずは酒場にいくことにする。
酒場は情報の宝庫だ。必要そうな情報は全部聞いておこう。
カウンターでばっちぇ冷えているビールを3つ受け取り、
丸テーブルに2人で座っている男の2人組みに声をかけた。
「ほら、お酒でも飲み。お代いらんわ」
「え?あ、あぁ、サンキュー」
「あざっす」
とりあえず最近のトピックスを聞いてみた。
秘薬製造所の弱みはこなれてきてからだ。
「最近さぁ、なんか変わったこととかあったぁ?」
「最近か。そういえば神を名乗るやつが仲間を集めてるらしいぞ」
「あ~俺も聞いたことある。"知将"とか"炎神"を引き入れたとか」
「そうなんや……」
この神ってのは髭クマのことか?
"知将"も"炎神"も世界に名を連ねる強者だ。
ますます状況は悪化しているな……。
やはり髭クマに対抗するには、仲間の復活以外にも必要なことがある。
まずは武器、それからもう少し地力もつけなな……。
「俺さぁ、めちゃめちゃ良い武器が欲しいねんけど……刀ぁ」
「刀かぁ……不死鳥仕事人の中野君がこの町に来てるって噂あるなぁ」
「あとは、あの有名な奴に載った平山鍛冶師もこの町に店構えてるな」
「おおーええやん!」
武器も順調に揃いそうだ。
この鍛冶師たちにもクレームつけて安く仕入れなければ。
双剣使いとして2本は持っておきたいからな。
俺はさらに強い酒を2人にガンガン飲ませた。
こいつら2人はかなり情報通のようで色々な噂を知っており、
鍛冶師2人の内、1人はかなり有益な情報が得られた。
これなら1本分はタダでいけるかも知れない。
2人の酔いもかなり回ってきたところで、
そろそろ本題の"秘薬"の件を切り出していく。
「それでさ、ここら辺で薬の売り上げトップの製造所があるやろ」
「ああ、あるな」
「こんど見学したくてな。オーナーの情報とか知ってる?」
「あそこのオーナー、オン・ナキシ先輩か」
「あくどい噂も多いな」
「その噂も、教えてくれりゅやろな?」
それからほとんどの情報を根掘り葉掘りきいた。
あとは酒で潰して、記憶を薄れさせるだけや。
「俺らが知ってる情報はこれでほとんどだぜ……」
「うっぷ……」
「わぁ~ありがとありがと」
このあと俺はさらに一週間を情報収集についやし、
今回の情報の信憑性と整合性を上げていった。
そろそろ、"秘薬"を貰いにいこか。
◆◆◆
早速、製造所にアポイントを取った。
"秘薬"の製造は社外秘らしいので、普通に工場見学としてのアポイントだ。
なんとオーナーのオン・ナキシ先輩が対応してくれるらしい。
そして工場見学の当日、
ニヤニヤとゆがむ口元を押さえながら、オン・ナキシ先輩のもとへ向かった。
「どーも、カーリー申します」
「オン・ナキシだ」
軽く挨拶をし、握手をかわした。
強気そうな目と常に不機嫌そうな顔が特徴的だ。
その後、説明を受けながら工場を案内された。
正直どうでもいい内容ばかりだったので内容は割愛する。
工場見学が終わった後、普通に外に出されてしまったので、
工場の営業終了後にお酒を持って忍びこんだ。
「はぁ~疲れたな」
「あ~オン・ナキシ先輩おつかれさまです」
「おう、お疲れ。って、まだいたのか」
「早いですね今日は。お酒いかがですか」
「おう」
忍びこんだことには気づいていないようだ。
普通に挨拶されて困惑した。
それはさておき、早速本題を投げかけることにした。
「先輩でも、有名ですよ」
「なにがだよ」
「すごい人やなぁ~って」
「なにが凄いんだよ。なにが凄いんだよ」
「なんか、凄いこの業界の売り上げでトップやないですか」
「そうら」
お酒を2口くらい飲んだくらいから、オン・ナキシ先輩のろれつが怪しくなった。
それに構わず更に問い詰めていく。
「なんでそんなトップとれるんですか?いつもいつも、毎月」
「私が頑張ってるからだよ。頑張ってるんだよ」
「あ~頑張ってるんだ。それはそれは……」
「おう」
「でも違う噂を聞いたんだよぬ~ん」
「なにを聞いたんだよ」
ちょっとだけ顔を青ざめさせながらこっちを睨むオン・ナキシ先輩。
お酒のせいなのか、話題のせいなのかは判断できなかった。
そろそろ核心に触れていこうか。
「え~ん沼田(隠語)こんなん聞いたら先輩怒ると思うし」
「ゆえよ」
「そんな怖い顔したらいえないよぉ」
「ゆえよ」
「えぇ~」
「ゆえよ、なんだよ」
「先輩ってさぁ、不正してるって本当?」
「な、なんの話だよ」
動揺した。
これでほぼ俺の勝利は確実になった。
あとは揺するだけ。
「ちょっと金額の大きい違法の"薬"作ってさぁ、売り上げに加算してるとか聞いたけど」
「なんの話だよ」
「そのままだよ、先輩」
「そんなこと知らないよ。私は」
「ふ~ん。証拠もってるんだよね」
「お前もう、早く帰れよ」
「え?バラしちゃうよ?」
「な、何の話だよ」
「会社ごと追放になっちゃうよ?」
「何の話だよ」
「"秘薬"の話だよ。先輩」
オン・ナキシは口元を両手で覆った。
もう言い逃れが出来ないのだろう。
俺は追い討ちをかけ、交渉へ持っていく。
「この、この今の状態の深刻さを先輩は分かってないよね」
「くっ……」
「これ、国に渡したら先輩は明日からブタ箱だよ?」
「な、な、何の話だよ」
「ねぇ、ねぇ、ねぇ先輩!!」
俺はオン・ナキシの腕を掴み、思い切り顔を近づける。
彼女は怯えたように後ずさりをはじめた。
「な!?なんだよ!やめろよ!離せ!!」
「賢 く 生 き よ う よ」
「ナンダヨ!ヤメロ、ハナセ」
「ボクの言うこと聞いてくれたら、ごまかしてあげる。この話」
「くっ……殺せ……」
「もう一つの噂もバラしty」
「好きにしろよ。その代わりそのことは絶対言うんじゃないぞ」
「好きにしろって。そんな言葉使いおかしくない?好きにしてください。でしょ?」
「好きにしてください……(即堕ち)」
俺は勝利した。
この屈服させる感じがクレーマーの醍醐味やな。
即堕ち2コマやったけど。
「好きにしてくださいって誰に言ってるんですか」
「カーリー……」
「ん~?カーリー様。でしょ?」
「カーリー様……」
「最初からそうやって素直に……そんな偉そうな口ばかり叩いて」
「くっ……コロセ」
その夜、俺は"秘薬"をタダで手に入れた。
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あかんわぁぁ