第三十八話「もしゃもしゃせん」
――カーリーside――
2週間かけて目的の国にたどり着いた。
ヤ・ジウの状態は改善はしていないが悪化もしていない。
これであれば"秘薬"を投与すれば回復するだろう。
さて、問題はその"秘薬"である。
遠乃にも説明した通り、この国での流通量は比較的多い。
その為、探す手間はほとんどかからない。
故に、お金さえあれば手に入る。
だが、お金がなければ入手は困難を極める。
強盗してもいいが、まだやらなければいけないことが多い。
お尋ね者になっているだけでそもそも動き難い上に、
強盗まですると本当に身動きが取れなくなる。
よって、強行突破は最終手段だ。
「まぁ、お楽しみはあとっていうしね」
俺は"秘薬"を取り扱っていると思われる、
ご近所1の薬屋に足を運んだ。
◆◆◆
薬屋は独特の臭いが立ち込めている。
スープカレーのような香りや、蝋の匂い、ピザのような匂いもある。
匂いに気を取られていると店の奥から店員が出てきており、こちらに喋りかけてきた。
「いらっしゃいませ。どのような薬をお探しでしょうか」
「あ~ボクの知り合いが大怪我しててね? 強い薬が欲しいのよ」
「強い薬ですか。こちらなどいかがでしょうか」
店員がピザによく似た薬を提示してきたが、これは欲しているものではない。
それから店員はいくつか別の薬を提示してきたが、その中にも"秘薬"はなかった。
見たところ、"秘薬"が店頭に並んでいる気配はない。
当たり前か。ここで扱うには余りにも高価すぎる。
見誤ったか。適当に切り上げて帰ろう。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あかんな。俺の趣味に合わんわ」
「そうですかぁ……」
「もっとこう、ホットな商品は無いの? めちゃくちゃアツイやつぅ」
店員がピクリと眉を動かし、こちらを品定めするように見てきた。
俺はそれにドヤ顔で対応する。自信を表すにはドヤ顔が最適や。
「じゃあ次、最後の薬の方に参りましょうか」
「頼むで」
「はい」
店員は店の奥に戻っていった。
数分後、手に黄色い袋を持って出てきた。
見た瞬間に御魔可視眼が反応した。
この魔力量。間違い無く"秘薬"や。
しかし、交渉は平常心が命。あくまで対等に話を進める。
「あ^~これかぁ。 ええもんやろな?」
「はい! こちらが最後の薬になっております」
「あ^~これかぁ、ええやん。袋ついてんねや?」
「はい、こちら備え付けとなっておりますので、お買い得です」
正直、袋とかどうでもいい。
これがあればとりあえずジウを復活できる。
ジウが復帰すれば、単純に人手が増えて俺も遠乃も大助かりや。
しかし国からの援助も無い今、高額商品の購入はキツイ。
だがまぁ、ドラゴンの一匹や二匹狩ればそこそこの金になるし、
ジウを復活させたら金策に走るのもありやな。
幸い現状の手持ちは5~6万ある。てことで、これが欲しい。
「お~ええやん。 気に入ったわ!」
「はい、どうでしょうか?」
「ナンボなん? これ。」
「はい、こちら14万3千円となっております」
俺の思考は一瞬停止した。
いままでの冒険の貯金+国の支援金の余りで5~6万ある。
この世界での生涯年収は2~3万円である。
つまり俺は凄まじく金持ちだ。
だが、その金があっても全然足りない金額を要求された。
「14万?……うせやろ?」
「いえ、本当です」
「こんなダッサイ袋付きの薬が14万てボッタクリやろ、これ!」
「いえ、効能的にも非常に優れている、というのもありまして」
分かってる。この薬がすごいのは分かってる。
いや、でも高すぎるやろ。パンピーの人生7回分の金額やぞ。法外すぎるんちゃうかな。
「はああああああああ、あ ほ く さ こんな薬の為に薬屋しよるんかい」
「もしゃもしゃせん」
「何がご近所1や。笑顔だけかお前は!」
「はい、もしゃもしゃせん」
しかし、こいつにクレームをつけても仕方がない。
よってここは、"秘薬"の製造元を聞き出す、もしくは大金を毟れるやつを聞き出すか。
どちらかといえば前者が良い気がする。金は後々に尾を引く可能性が高いからな。
「でもな、分からんでもないねん。その気持ち」
「はい」
「俺もメッチャこの薬欲しいねん。分かるなこの意味」
「あ、わかります(意味不明)」
「ほんならぁ、この"秘薬"の製造元を教えてくれたらぁ、コストダウンの交渉してきてあげる」
「え、そげなこと本当にできるんですか」
一もニも無くあっさりと製造元を教えてくれた。
守秘義務とかないんやろか……。
さて、交渉するにあたって必要なものは、【弱み】や。
クレーマーやっていく上で一番重要なのは相手の情報やな。
さ、町で聞き込みして、調べていくよ。こっちは。
値段設定は後々ガバガバになる可能性があります。
ご了承ください。