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「連載ほっといて何やってんだ!!」って思っている方、その通りです、すみません……。
ちゃんと書きますので、許して下さい!
ちまちま書き溜めてたやつです。どうぞ読んでください。
王子達は魔の森に棲む少女に恋したらしい。
初夏の晴天の日、国に驚きがはしった。
「我が兄上達ながら、情けない…」
「偵察に行ったところ、魔の森に棲む少女は露出の多い格好をしていましたよ。髪も肩までしかありませんでした」
「いや、でも中身は善良かもしれないだろう?外見で判断するのはアテにならないからな」
「でも、見た目が第一印象になりますよ。ルーシィ様は、第一印象からよかったです」
「あと、お前の意見も参考にはならん」
ここは王の住む城。王女の部屋。そこで王女と執事は王子達について語り合う。
「まあ、王族とはいえ恋愛は自由だ。…だが、ルーシィに対する行為は許せないな」
「でも、俺にチャンスが回ってきました」
「女性側の外聞を考えてない婚約破棄の仕方。いくら上の兄上であろうと許さん」
「そうお思いですから陛下も廃嫡になさったのでしょう」
「それもそうか」
別に王女は王子達のことが嫌いなわけでもなかったので、放置した。
✳︎
「ルーシィ、よく来てくれたな」
「親愛なるメルーシャ様のお呼びですもの。来ないわけがないでしょう?こんにちは、アルフレート」
「こんにちは、ルーシィ様」
「…ルーシィが義姉上になってくれるのを楽しみにしていたのだがな……」
「私もメルーシャ様の義姉になりたかったですわ」
「……大丈夫か?」
「別に政略結婚でしたし、恋をしていたわけでもないので」
「それならまだよかった」
王女___改めメルーシャは上の兄の元婚約者ルーシィを部屋に呼んでいた。
にっこりと笑うルーシィは金髪に澄んだ空色の瞳の可憐な美少女。しかも性格もいいときている。
「……だが、私はお前を呼んだはずはない」
メルーシャは、慣れた手つきで自分の手をとっていた男の手を振り払った。
「…団長とシュトーレン伯爵、どちらで呼べばいいか?」
「レイでいいよ」
「馬鹿伯爵、寝言は寝てから言え」
「メルーシャは照れ屋だなあ」
「だ・れ・が!!あと、お前にその呼び方を許した覚えはないぞ!!
「わかってるよ、君の本心は」
「…言ってみろ」
「『何で伯爵の前だと正直でいられないんだろう…。私のバカっ!!』でしょ?本当、天邪鬼な唇だよね」
そう言いつつ、伯爵___レイモンドはメルーシャの唇をチョンと突いてくる。
レイモンドはルーシィと同じ金髪に紫色の瞳と容姿が良く、仕事も出来るのに性格に難がありすぎるのが問題だった。
「馬鹿言えっ!私は正直者だ!あと、何なんだ、その気色の悪い話し方は!!」
「え?君の本心を代弁してあげたんだよ」
満面の笑顔でこちらを見てくるレイモンドの片手はいつの間にか腰にまわり、もう片方の手はメルーシャの一つに結った黒の髪に絡ませていて、レイモンドとメルーシャの距離は縮まっていた。
「何でこんなに近くなった!!」
「君が僕の花嫁になるからさ」
「戯言を…!!」
紫色の瞳がメルーシャの金の瞳を覗き込む。
距離が近いのをいいことに、メルーシャは膝蹴りをレイモンドの鳩尾に叩き込んだ。
レイモンドが悶絶している間に距離をとった。
「ううっ……相変わらずの激しい愛情表現」
「これのどこに愛情がこもってるんだ!お前が『花嫁』などと言わなければこんなことはしなくてもいいというのに!!!」
「でも、本当だよ?君が僕の花嫁になることは」
「本当になってたまるか!」
その時、ルーシィがおずおずと割って入る。
「あの……」
「ルーシィ様、その二人を止める必要はありません。無駄な労力を消費します」
「少しは止めろ!」
主人を放置し、一人でお茶を飲むアルフレートに苦情をだした。
「あの、そうではなくて…。メルーシャ様が、その……兄様の花嫁になるのは本当のことですわよ?」
アルフレートは驚きで持っていたカップを支え切れずに机に零し、メルーシャは動きが止まった。レイモンドだけがニコニコ笑って頷きながら、再度、メルーシャの腰に手をまわす。
「だから、メルーシャとルーシィは義姉妹になるんだよ」
「え、な」
「うわっ!」
メルーシャはレイモンドを振り払うこともせずに、テーブルを拭いているアルフレートを見ながらぼんやりとした頭で考えた。
「レイモンドと、結婚……?」
「そうだよ。君は僕の花嫁になる」
レイモンドの顔が少し傾けられて、近づいてくる。
頭は後ろにまわされた手で思ったより強い力で固定され、背けることは叶わなかった。
唇と唇が触れる寸前、メルーシャは自己防衛本能でレイモンドに渾身の頭突きをお見舞いした。
「うぐっ!!」
「ルーシィ、私と、この色ボケ伯爵が結婚って、どういうことだ?!」
「国王陛下が仰っられてましたよ?」
「父上は何を考えているんだ?!そして何で私に伝わってないんだっ?!」
「そりゃ、そうやって反対するからでは?」
陛下も面倒だったんじゃないですか?、とアルフレートは続けた。呆然とするメルーシャに、ルーシィが話す。
「あの、殿下達が廃嫡になられたでしょう?」
「そうだな」
「なら次の王位を継ぐ者として、身を固めなければ、ということだと思ったのですが…」
「何で私が王位を継がなければならないんだ!」
「忘れちゃったの?メルーシャは王位継承権第三位の王女じゃないか」
第三位の王女だからと今までお気楽に過ごしてきたのに______メルーシャは愕然とした。それに、国王の決定には実の娘であるメルーシャも逆らえない。
「王位だなんてとんでもない!!」
「でも、陛下の御子は廃嫡となった王子の他にメルーシャしかいないじゃないか」
「隠し子を探す!!」
「いないでしょ、そんな方じゃないよ」
「じゃあっ、兄上達を」
「僕がルーシィを辱めた者たちを許すと思ってるのかい?」
レイモンドはルーシィのことを溺愛しているのだ。ルーシィは『婚約者をどこの馬の骨かもわからない女にとられた』という烙印を押されるだろう。その原因の王子達を許すはずなんてなかった。
「なら、養子をとればいいじゃないか!!」
だが、希望はすぐに打ち砕かれた。
「だから、僕が婿養子になるんだよ。一緒にこの国を治めようね、メルーシャ」
✳︎
「私は、絶対にレイモンドの嫁にはなりたくない」
「それは何十回も聞きました」
「ああ、これで七十八回目だ」
「数えたんですか」
メルーシャは頷いた。まだ十四歳だし、何より本当に、レイモンドの花嫁にはなりたくないのだ。
「だからな、私は決めたんだ」
「何をです?」
「悪事を働くんだ!」
悪事をすれば、王子達のように廃嫡になれるかもしれない。
いい案だろう、というようにアルフレートを見るも、アルフレートはあまり興味がなさそうだった。
「はあ、そうですか」
「何だ、その気のない返事は」
「メルーシャ様にそんなことができるとお思いで?」
「できるさ!!」
「拾ったものを必ず届けるあなたが?」
「それは当然じゃないか?」
「大人はそうでもないですよ。ラッキーって感じでそのまま持っていく大人を何度見かけたことか」
「…お前もしたのか」
「俺は純真無垢な子供ので。ルーシィ様のハンカチをそのまま貰っただけです」
「こんな汚れた十八歳のどこが純真無垢なんだ!ど・こ・が!!!」
「俺は大人の階段を上ったんですよ。そんなことを言うメルーシャ様に悪事なんてできるわけがない」
「できる!!」
「じゃあ、何するんですか。国費でもちょろまかすんですか」
「それはっ……できなかったんだ」
「もうやってたんですか」
アルフレートの呆れ顔に、メルーシャはムキになる。
「国費で花を買ったんだ!それで、ルーシィにあげたんだよ。それをレイモンドに言っても、『花嫁は優しいね』とか言い出す始末だった!!」
「……どのくらいの花を買ったんですか?」
これくらい、とメルーシャが胸の前で大きさを表す。ちょうど、本程度の大きさだ。
アルフレートはため息を吐く。
「それじゃ、浪費じゃなくてただの贈り物ですよ。傷心のルーシィ様に花を贈られたんだ、とでも周囲は思ってますよ」
「でも、店では結構高いものだったぞ?」
「あのですねぇ自分のものを買うんですよ、そういう時は。それに、浪費するならこういうのを買うくらいしないと」
メルーシャが着ているドレスを指差す。
「ドレスか?でも、あまり必要ないんだよ」
「しかも、これより派手なものの方がいいです」
「でも、動きにくいし、あまり着ないから勿体ないんだ」
「ハイハイ、いつも騎士団に行ってますもんね」
メルーシャは王女らしくないが、騎士団によく遊びに行く。そして、同い年程の騎士に手合わせを頼むのがメルーシャの日課だ。そして、レイモンドは騎士団の団長である。
「それが無理なら何するんですか。誰かに処女を売るんですか」
「は?」
アルフレートが、あっさりと言ったことにメルーシャは一瞬ポカンして、すぐに首を振った。
「お、おま、なんてことを…」
「純潔でなければ結婚せずに済むかもしれませんけど………思いついてもいなかったみたいですね。その様子じゃ無理そうですし」
「なんて破廉恥なことを思いつくんだよ!」
「そういうお年頃ですから」
「私は絶対そんなこと考えないぞ!!」
「さあ?どうでしょうかね。で、本当にどうするんですか。やっぱり、あなたに悪事を働くなんてことできるわけないですよ」
「私だって、できるんだ!!」
メルーシャは、絶対に行動で示してやると心に決め、拳を握りしめた。
✳︎
次の日、メルーシャは街に出ていた。
もちろん、目的は悪事をはたらくことである。
動きやすい服にローブを羽織った地味な姿だ。フードは深くかぶっている。黒い髪に金の瞳というのは珍しいため、目立ってしまうのだ。だから、それらをすっぽりと覆うようにした。
しばらく歩いていると、一つの雑貨屋に目がいった。薄い水色の飾り玉がアクセントの金の髪飾り。金色なのに、決して派手ではない慎ましやかなイメージを持たせる。
「ルーシィに似合いそう……」
そう言って、手に取ってみる。
そして、ルーシィがこれをつけた様子を想像して、買うことを決めた。
「あの」
店の人に声をかけようとして、ハッとした。
目的を忘れてはいけない。自分は悪事をはたらきに来たのだ。
(……ちょうどいい、これを盗もう)
メルーシャはそう決めた。
髪飾りを掌の中に握る。あとはこのまま何もなかったかのように立ち去るだけだ。
立ち去る、それだけなのにメルーシャの足は棒になったかのように動かない。自分がこれを盗ることで店の人が困ることを想像してしまうとダメだった。
もたもたしているうちに、男の客が来た。
この人が居なくなったらここから離れよう、とメルーシャは先延ばしにした。
「あの、これと同じもの、もう一つありませんか?」
「ここにはないですね。奥で探してきます」
店の人は親に店番を頼まれてでもいるのか、メルーシャと変わらぬくらいの少女だった。そして、警戒心もなく、店の奥に入って行く。
メルーシャは見てしまった。男が自分のしようとしていることをしたのを。手にとっていた売り物をポケットに入れ、走って去ろうとした。
メルーシャは自分が掌に握り込んでいたものを置いてから、男の進路に足を出した。男は面白いほど簡単に引っかかって転ぶ。
「な、何をするんだ!!!」
「お前こそ何をしている」
「お、俺は何もしていない!!!」
「あのな、騎士団に連れてこられる罪人だって、もっとマシな言い訳をするぞ?」
そこに、店の奥から少女が戻って来た。
「ありま……何があったんですか?!」
メルーシャは男のポケットを探り、盗品を取り出した。
「これ、この店のものだろう?」
「それは俺が盗ったんじゃない!!」」
「…じゃあ、誰が盗ったというんだ」
ため息を吐きつつ男に問いかける。
「お、お前が俺のポケットに入れたんだ!」
「なんて見苦しい」
いつの間にか、周りに人だかりができていた。そして、その中から不意に、聞き慣れた声が聞こえた。
「この方がそんなことをする訳がないだろう」
そう言いつつ出てきたのは金髪に紫色の瞳の____。
「レイモンド?!」
「シュシュシュシュトーレン伯爵?!」
メルーシャと男は驚きに目を見開く。そして、一瞬男の目が期待に輝いた。伯爵が庇ってくれれば______と。
「そ、そうですよ!俺が盗むなんて……」
「何言ってるの?なんで僕が罪人を庇わなきゃいけないのさ」
男の目は瞬時に絶望に染まった。
「僕が庇うのはこの方だよ」
レイモンドがメルーシャの肩に触れ、フードを取り払った。
ローブの外に出る黒の髪と、露わになる金の瞳。この二つを兼ね備える者は、この世界に一人だけ。
「王女殿下、お迎えに上がりました」
「あ、ああ」
この場をおさめるためにメルーシャはとりあえず頷いた。
本当は迎えに来させたわけでもなく、撒いたわけでもなく、何故ここにいるのかも不思議に思っているのだが。
「騒がせて、すまなかった」
「殿下、この者はどうなさいます?」
レイモンドは綺麗な笑みを浮かべているが、目が、全く笑っていない。
「………騎士団に連れて行くか」
「君、殿下に感謝するといいよ」
レイモンドは底冷えのする笑みを顔に張り付けたまま男に近づいた。
「今度、こんなことしたら、僕がどうにかしちゃうかもね」
男がガタガタと震え、聞こえていたメルーシャはため息を吐いた。それは殺すと脅してるようなものだぞ、騎士団長______と。まあ、レイモンドは実際に脅したつもりなのだが。
聞こえなかったであろう周囲は不思議そうに見ていた。
「後で時間くらいあるから、行こう、レイモンド」
「はい」
「あのっ」
店番の少女の声がしてメルーシャ達は振り向いた。
「これ、よかったら貰っていただけませんか?」
そう言ってメルーシャに差し出されたのは、メルーシャが盗ろうとしていた髪飾りだった。
「いいのか?」
「これを見ていらっしゃいましたよね?だから、お礼に………」
少しの間迷ってからメルーシャは笑って受け取った。メルーシャの笑顔に少女は顔が赤くなった。
「ありがとう。また、来るかもしれない」
「は、はひっ!!」
噛んでしまった少女の慌てぶりをクスクスと笑いながら歩き出した。
「この、人誑し」
「レイモンド、何か言ったか?」
「空耳じゃないですか?」
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「で、なんでお前が街に出ていたんだ?」
メルーシャの部屋で、一番の疑問だったことを聞いた。
「アルフレートがうちにやって来てさ、ルーシィに会うついでのように言ったんだよ。『メルーシャ様に悪事なんて無理ですよねぇ?』って」
「それだけでなんでやって来た」
「僕の勘にビビッと来たから〜!」
ヘラヘラと笑うレイモンドにイラついて、メルーシャが投げた本はあっさりと避けられてドサッという音を立てて落ちた。
「メルーシャに悪事ができるわけないでしょ」
「馬鹿にしてるのか?」
「してない。君が悪事なんてする必要はないから」
レイモンドはメルーシャが悪事を働きたい理由をわかっているのだろうか。お前が原因だ、とメルーシャは心の内で叫ぶ。
「君が善良で正義感が強くて悪事なんて絶対にできないから、大切な人のためならなんだってする僕が結婚相手に選ばれたんだよ」
大切な人のためならなんだって、そう言ったレイモンドは真剣な目をしていた。
この男なら本当になんだってするだろう。人を殺すことにだって、躊躇いは無いはずだ。
「だから、君は僕と結婚するんだ!!!」
「絶対、イ・ヤ・だ!!!!!」
読んでくださり、感謝です(o^^o)