ふたりの海原
この小説でやりたかったことのひとつ。
それは
昭和の海軍軍人と現代の海上自衛官、
もし互いの世界を知ったらなんと
言うか・・・・。
昭和17年くらいの海軍軍人は
自衛隊が専守防衛を掲げならがら
防衛力しか持っていないことを
"お花畑"と批判し、
『いつから日本はアメリカの傀儡国家に
なったのだ?』と嘆くだろう。
現代の海上自衛官は
自衛戦争を掲げながら多くの国民を
犠牲にした旧軍の矛盾を指摘するはずだ。
とまあ、こんな感じで今回も
作者の妄想です。
現代海原と昭和海原が激突します。
1944年 2月22日 午前 呉 戦艦『武蔵』連合艦隊司令部
「豊田長官。マリアナ沖海戦の結果です。」
連合艦隊参謀の神重徳大佐が
豊田副武連合艦隊司令長官に結果を報告する。
アメリカ側は正規空母4隻、軽空母7隻を喪失
(これは過大報告であり、本来は正規空母2
軽空母4沈没)
日本側は空母『蒼龍』を失ったとの
ことだった。
「よくやった!今回はこちらの勝利だ。」
豊田大将は嬉しそうだ。
開戦の際、山本五十六の航空機一辺倒の作戦を
暗に批判し、戦艦の活用も視野に入れるべきだと
主張した大艦巨砲主義者。
その後は海原参謀の意見を取り入れ、旅順ドックの
開設や、『薩摩』建造に尽力した。
初代旅順総督の座を宇垣纏中将に譲ったのち、
呉鎮守府長官、そして1ヶ月前に連合艦隊司令長官と
なった。
参謀には、天才的頭脳を持った神重徳と
『薩摩』の生みの親、海原。
参謀長には草鹿龍之介が指名された。
「長官。今サイパン沖に巨大な低気圧が
接近しております。今が好機です。」
「『大和』『武蔵』を中心とした戦艦部隊を
殴り込ませましょう!」
殴り込みを主張するふたりをなだめたのは
草鹿だった。
「貴様らの気持ちはわかる。だが、勝算はあるのか?
こちらは大和型、長門型をのぞけば旧式戦艦
ばかりだぞ?『薩摩』ができるまで
まってもいいのではないか?」
草鹿の意見ももっともだった。
すると海原はいいことを思い付いた。
「長官!私はこれよりブルネイに向かいます。」
・・・・
同年 2月23日 ブルネイ
『やはぎ』砲雷長 海原は埠頭で海を眺めていた。
明日の出港のために積込みを指揮した帰りである。
そこにひとりの男が現れた。
連合艦隊の海原参謀だった。
「こんなところでなにをしているのだ?」
「怪しいことはしていない。ただの考え事さ。」
「ほう。それは興味深いな。」
『やはぎ』砲雷長の海原はしばしの沈黙を破って言った。
「俺たちはなぜこの時代に来たのか。
この世界でなにができたのか。
それを考えていた。」
「貴様らのもたらした情報は日本の運命を
大きく変えた。
米軍兵器の性能から敵の戦術、日本軍の敗因まで
あれだけの情報があれば負けることはない。」
「俺はあんたたちに聞きたいことがある。」
「ほう。」
現代海原の顔が強張る。
「この戦争はなんだ!?
なんのための戦争だ!?
元々恐慌から日本国民を救うために起こした
紛争じゃなかったのか!?
それをこんな世界大戦にまで発展させやがって!
あんたら、それでも軍人か!?」
昭和海原はムッとした。
「勘違いするな。世界大戦を引き起こしたのは
ドイツのヒトラーだ。
我々ではない。
我々は"自衛のため""アジア解放のため"に
戦っているのだ。」
現代海原は怒りと悲しみに満ちた目で言った。
「あんたらはいっつもそうだ!
戦争を起こすやつは決まって"自衛のため"
"自衛のため"と自衛を理由にする!
自衛ってのはな、"国民や領土を守るために"
"必要最小限の武力を行使すること"だ!
航空母艦で他国を好き勝手爆撃することは
自衛とは言わねえ!!」
すると、昭和海原はいきなり現代海原の
胸ぐらを掴んだ。
「調子に乗るなよ。
俺からも言わせてもらう。
防衛力のみで抑止力をもたず、"専守防衛"だの
"戦争放棄"だの綺麗事を言っているお前らの組織のやっていることはただの"軍隊ごっこ"だ!
覚えておけ。」
昭和海原は低い声で脅すように言うと、
現代海原の手を離して行ってしまった。
太陽は西に傾いていた。




