ナショナリズム 1
20XX年 12月23日 13:00
中国軍の攻撃は1300きっかりに始まった。
全世界がこの戦いの行く末を固唾を飲んで見守っている。
日本でも海上保安庁の巡視船に護衛されたテレビ局の船が
全国に映像を流している。
中国軍の攻撃は潜水艦の魚雷から始まった。
慌ただしく動き出す連合艦隊の駆逐艦と巡洋艦。
何隻かの駆逐艦は爆雷を投射するが、撃沈には至らない
ようだ。
一方の中国軍の潜水艦も、ホーミング機能は使えない
(連合艦隊は艦体の主成分が海水のため、追尾できない。)
ため、浅瀬からの直線魚雷攻撃を行うしかない。
それでも、6隻近い潜水艦からの一斉魚雷攻撃は
400mほどの艦体を持つ『薩摩』をとらえるには十分だった。
巨大な水柱が立ち上ぼり、『薩摩』に3本の魚雷が
命中したことがわかる。
当然、その程度で沈むような船ではないが、『薩摩』の
被雷によって、艦隊を覆っていた電磁パルスが消えた。
いくら『薩摩』といえど、電磁パルスのドームを展開するには
莫大なエネルギーが必要である。そのエネルギーを
艦体の修復に回さないといけなくなったため、電磁パルスが
消えたのだ。
中国側もこれを狙っていた。
中国海軍空母『遼寧』から発進した殲15が連合艦隊から
100km離れた上空から待ってましたとばかりに
空対艦ミサイルを発射した。
狙いは『薩摩』ではなく、周囲の護衛艦、『大和』や
『武蔵』である。
だが、追尾機能なしのミサイルなど当たるはずがない。
はずだった。
「おお!」
緊急対策本部で何人かの大臣が声を漏らす。
ミサイルは艦隊の上空で爆発。
その猛烈な衝撃波と爆風は海水でできた艦体を持つ
『大和』『武蔵』に大きなダメージを与えた。
通常どおり鉄でできていたらかすり傷のはずなのだが、
主成分が海水のため、水蒸気爆発のようなものが
発生し、艦体を大きく破損させたのだ。
傷を負った艦隊をさらに大量の魚雷が襲った。
・・・・
同刻 東京 新宿
駅前には平日だというのに多くの、いや、ほとんどの人が
足を止めて連合艦隊と中国軍の戦闘に釘付けになっていた。
「またやられたぞ!」
『信濃』の右舷に4本の水柱が立ち上る。
既に駆逐艦や巡洋艦も『大和』『武蔵』を庇って被雷
しており、連合艦隊の数は半分ほどになっている。
「くそ!『大和』!なんで1発も撃たない?
お前の主砲なら、あんなやつら・・・・。」
「無理だ。戦艦は潜水艦に対して無力だ。」
驚くことに、駅前のテレビの前で議論する人間は
半数が若者だった。
若者の政治離れが指摘される中で、多くの若者が
この国の行く末を語り合っていた。
・・・・
同刻 ホワイトハウス
「『大和』・・・・。大日本帝国の栄光と滅亡の象徴か・・・・。」
「天皇が今の日本の象徴だとするなら、『大和』は
大日本帝国の象徴です。」
大統領補佐官の一人が付け加える。
「潰しておくべきかもしれんな。
あの忌々しき大戦から70年。我がアメリカは日本人の
愛国心を封じ、ただ欧米に従うことだけを教え込んできた。
日本人を徹底的に悪者にすることで二度と我々に歯向かうこと
のないように押さえ込んだつもりだった。
だが、東シナ海に現れたあの戦艦は日本人の愛国心を
刺激し、日本を欧米の支配から目覚めさせようとしている。」
淡々と話す大統領。
しかしそこには大国アメリカのトップとしての
余裕があった。
「私は日本のことをそれなりに理解しているからわかる。
あの船はただの戦艦ではない。
我々でいう『ワシントン』、いや、それ以上の価値のある
名前を与えられた戦艦なのだ。
日本人のSoulなのだ。日本人のナショナリズムを
煽るあの戦艦は一刻も早く海の藻屑にしてやらねばならない。
やれるな?」
「もちろんでごさいます。我が軍が勝つ確率は90%
以上。あのような海賊連中に負けるはずがありません。」
世界最強の国、アメリカの自信。
それを携え、第7艦隊が戦場へと向かっていた。




