第5話「青龍」
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青龍が現れた場所までは、ほんの数時間でついた。とは言っても、馬車で行けば、2週間はかかる道のりなのだが。車並みの速度で走れ、いくら走っても疲れないレルアにとっては、造作もない距離だ。
「それにしても、すごい濃密な魔力だな…」
普通の場所の数倍も濃い魔力で埋め尽くされていた。所々魔力が可視化している。
「体が軽い…妖狐だからか?」
本で読んだのだが、魔力が濃いところに行くと、体が重くなるそうだ。場合によっては死ぬ可能性もある。
「ま、いいか。」
レルアは森に入ることにした。
森の中は富士の樹海のような感じだ。同じような気が並び、同じような道が続いている。レルアは青龍の気配をたどって、慎重に歩いている。
奥に行くにつれて魔力が濃くなっていく。
レルアにとっては体の調子が良くなっていくので、大いに結構だが。
「魔力のせいで、霧がかかったようになってるのはちょっとな…」
可視化している魔力が多くなったせいで、あまり視界が良くない。
それでも道の悪い場所をペースを落とさずに歩けているのは、流石というべきだろう。
何の進展のないまま、青龍がいるであろう洞窟までやってきた。
祠の前には、目に魔力を帯びた熊が2頭いる。恐らく、青龍を守っているのだろう。
ともかく、あの2頭を倒さないと青龍に会えないというのなら倒すしかない。
レルアは、気持ちを戦闘モードに切り替えた。
(まずは、どれほど入口を離れてくれるかだな)
確認のため、姿を表してみる。
2頭は、反応はしたがこちらに向かってくる気配はなかった。
次に、魔法で石を作り、左の熊に向かって投げる。
軽くなげたつもりの石は、音速に達していた。熊の腹に命中し、穴を開けてしまう。
「まじかよ…」
自分の力に呆れながらも、クマを観察する。
血を流し倒れる熊。もう1頭は無関心だ。
何と無情な事だろうとは思ったが、所詮は魔物なので仕方ない。
「わざわざ気持ちを切り替えた意味…」
取り敢えず、もう1匹も同じように殺す。
「どういうことだ?あいつらから魔力が抜けない…」
普通の魔物は、死んだら魔力が抜ける。しかし、あの2頭からは魔力の反応がある。つまり、死んでいないということになるのだ。レルアは死んだか死んでないかぐらいはわかる。
鼓動が発する振動を読み取ることで判断するのだが、完璧に止まっているのがわかる。狐族になり、より五感が鋭くなってもだ。だが、レルア直感と狐の部分が警鐘をひどく鳴らしているのだ。
ここから逃げろと。
直感を信じ、魔力の結界を展開する。
その瞬間、2頭が膨大な魔力を発した。
魔力がぶつかり合い、爆発が起こる。
「あっぶねぇ…魔法使えてよかったわ…」
見渡すと、辺りの木々が消し飛んでいた。いくらレルアでも、魔法がなければ大怪我をしていただろう。
「それにしても、爆発しただけなのか?」
熊がいた場所には、クレーターが出来ているだけで、熊はいなくなっていた。
この爆発で消し飛んだのだろう。
それに、2匹が守っていた洞窟は、全く傷ついていなかった。恐らく、結界でも張られているのだろう。
ここにいても進展がないので、警戒しながら洞窟へ近づいていく。
一歩歩く事に濃くなる魔力と気配。
それとは逆に、レルアの心は高鳴っていく。前世では強くなり過ぎ、命を危険に晒す戦いが少なかった。自覚はなかったが、そんな激闘に飢えていたのだろう。早く闘いたくて仕方なかった。
「これ。絶対この体に精神が引きずられてるな…」
そんな自分に呆れながらも、洞窟の入口についた。
案の定、入口には結界が張られていた。触れると、波をうち可視化する。
とりあえず、この結界の構成を読み取ることにした。
触れている手に集中する。
「ほぅ…固有の波を作って、それ以外の波を放つものを通さない仕組みか。」
つまり、この波と同じ波を放てば、この結界を抜けられるということだ。
「ま、これぐらいなら余裕だな」
そう言うと、触れていた手から結界の中に入っていく。
変装でも多彩な才能を見せたレルアにとって、生命の波動を真似することなど、息をするようにできるのだ。
洞窟内は、外の禍々しい魔力ではなく、心を落ち着かせるような魔力が流れていた。
「これが本当の青龍の魔力なのか?」
それを確かめるためにも、先に進む必要がある。
洞窟の中を進んでいくと、前から蜘蛛の魔物が襲ってきた。
糸を吹きかけてきて、動けなくさせようとしてくるが、レルアは持ち前の夜目と動体視力で難なくかわす。
そして、足に力を込め、一瞬にして蜘蛛の後ろに行った。
「まぁ、蜘蛛ごときにやられてたら、生き残れないわな。」
その言葉の後に、どさっ、と何かが落ちた音がした。振り返ると、蜘蛛が横にスライスされ、絶命していた。レルアは、すれ違い間際に手に魔力を流して、蜘蛛を切りつけたのだ。
「これ、剣より使い勝手いいな…」
刃こぼれの心配がなく、魔力がある限り切れ味抜群なのだ。
それに、拘束された時、拘束具を切れる。そのため、不意打ちができるということだ。
「いかんいかん。つい、思考が前世のものになってしまった…」
頭を振り、思考を切り替える。
そして、再びあるきはじめるのだった。
置くまで来ると、青く輝く巨大なドラゴンがいた。
どこまでも神々しく、美しい。敵意は全くなく、それなのにすごい重圧。
正しく別次元の生き物だ。
レルアは、青龍に話しかけてみる。
「すまん。俺はお前を討伐しろって命令できてるんだが、お前なにかしたか?」
明らか失礼な質問だが、青龍は無反応だった。
(なるほど、俺は話す者とみとめられてないのか。)
ならば、力を示すのが一番の方法だろう。
レルアは、体全身に魔力を流す。それも、体が悲鳴を上げる直前までだ。それゆえ、周りからはレルアが紫色のオーラを出したと見えるだろう。
実際は、超濃密な魔力が、体内からあふ出したことによるものだった。
その異変に気づいた青龍が、こちらを見て目を細めた。
「いくぞ!」
レルアは一気に加速し、青龍に殴りかかる。残像さえ残す速度に加え、山を吹き飛ばす威力の拳を、青龍は自らの爪で防ぐ。
青龍は、まだこちらに関心はないようだ。
ならばと、距離を取り魔法を使う。
狐族の村で見た、魔法陣を使って使用してみることにした。
「さて、行くぞ?」
手から出た巨大な黄色の魔法陣。そこから出たのは、雷にも匹敵する雷撃だった。
爆音を出し、青龍に向かって牙を向く。さすがの青龍も、雷の速度には対応出来なかったようで、腹部に直撃した。
「グガァァァァ!!!」
苦しむ青龍。
しかし、それとは裏腹に、魔力がどんどん高まっていくのがわかった。
「いいね、いいね!ようやく本気に鳴ったか!」
そして、闘いは次のステージへと移るのだった。
物足りなかったら、感想にてお願いします。
ネタバレっぽいですけど、戦闘シーンはわざと簡潔に済ませてます。
その理由については、時期にわかります…