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3

竜は少女の姿に気がついていない。


一つ瞬きをし、その大きな口から小さな吐息を吐き出した。


するとどうだろう、竜の姿が消えていくではないか。


少女の目はますます釘付けになる。


竜は人の形に姿を変えた。


顔は後ろを向いている為わからない。


しかし、月の光に照らされて、地面に着く程長く癖のない黒髪が美しく輝いている。


溜め息を吐きたくなる程の見事な御髪が主の動きに忠実に揺れ動く。


闇に溶け込む黒い衣を纏い、その姿はまるで夜の王とでも云うような気品に満ち溢れている。


少女は思わず足を一歩踏み出す。


バキっ。


枝を踏み折る音が静かな森の中で際立って響いてしまった。


少女はあまりの恐怖と緊張で動けなくなってしまった。


竜がこちらに気づいてしまった。


ゆっくりと少女の方へ振り返ったのだ。


目が合う。


人の姿をした竜は若く美しい青年の形だった。


日焼けのない白い肌、切れ長の目、鼻筋の通った高い鼻、形の整った赤い唇。


今まで見た中で最も美しい形だ、と少女は思った。


「きれい…」


思わず口に出てしまうほどの美貌だった。


青年の黒曜石の澄んだ瞳がだんだん猫のように黄色味帯びていく。


そしてその美しい形の唇が動き、声帯を震わせ、地の底に鳴るような低い声を出した。


「森を去れ。人間の娘」


青年はそれっきり何も言わずにその場を去っていく。


闇に紛れていく青年の後ろ姿に少女は慌てた。


感じていた恐怖はどこへ行ってしまったのだろうか。


胸の高鳴りと好奇心に従ってそっと後をついていった。


しかし、早くも青年の姿は暗闇に隠れて見えなくなってしまった。


「どこ?」


少女は枷がジャラジャラ音が鳴るのも気にせずに青年が消えた方へと闇雲に歩き始めた。


右足を引きずり、痛み、血を流しても、それでも逸る心を抑えることなど出来なかった。


少女はとうとう疲れ果て、木の根元に腰を降ろした。


まどろみの中で思い浮かべるのは、あの低音の落ち着いた声、黒い瞳、白い面、黒い髪、そして優美な竜の姿。


森の中は寒いはずなのに、顔が熱くなってくる。


動悸がして、自分自身がおかしくなってしまったようだ。


少女は青年とまた会えたらいいなと、そればかりを考えた。


そして、体を休めるべく、痩せ細った掌で土の混じった落ち葉を掻き集め、チクチクと痛い針葉樹に突つかれながら、その上に丸まって眠った。


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