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2

月の光が届きにくい森では思ったより進むのが難しい。


明かりになるようなものは何処にも無い。


目の前の深い暗闇の中をただ歩いて行く。


見上げれば背の高い針葉樹の葉と葉の隙間からほんの少し、切り取ったような美しい夜空がチラチラと垣間見えた。


それでも明かりには到底程遠く、気休めにもなりはしない。


少女の目は、果てのない暗闇から夜空へと向き、上を見ながら歩き始めた。


ずっと上を見続けていた拍子に目の前の木に気付かず正面衝突してしまう。


額に火花が散ったかのような強い衝撃と、ぐわんとした眩暈が少女を襲った。


「うぅぅっ…」


少女は痛みと情けなさに思わず蹲る。


その時、辺りがほんの一瞬、一段と暗くなったのを感じる。


月や星が厚い雲で隠れてしまったのかと思い、上を見上げるが、さっきとちっとも変わらぬ夜空がそこにある。


「きのせい…?」


痛みはあるものの眩暈がおさまった為少女は再び歩き出した。


森の奥の奥へと進んでいく。


すると、光がパッと射し込む開けた場所が目の前に現れる。


少女はその光の射し込む所へと右足を引きずって小走りに駆け込んだ。


中心に立ち、空を見上げる。


煌煌と照る満月が、そこに鎮座していた。


少女は深い穴の底にいるかのように錯覚する。


瞬く星は美しく、激励しているかのようだった。


春の始めの冷たい風が舞い込んだ。


薄い布一枚の少女は全身を震わせた。


自身を抱き締めるように腕をさすって、寒さをやわらげようとした。


気休めではあるが。


ふと、少女は異変に気がついた。


自由自在に動き回る黒い点が、空に現れたのだ。


よく見ると鳥のようにも見える。


少女はふと思った。


その鳥のようなものが、どうやら地上へ降りようとしているように見えるのだ。


近づいてくるうちに、それが鳥ならざるものであると気付く。


そして開けた場所へ、その鳥ならざるものが大羽根を広げ、風を唸らせ、その巨体を着地させんと急降下させてきたのだ。


少女の身体は恐怖に打ち震えた。


そして、脳が命令を出すより早く、少女の身体は身の危険を感じ取り、走って木陰へと滑り込んだ。


鳥ならざる黒く大きな生き物が、ゆっくりと、大風を巻き起こしながら、少女が先ほど星を見上げていた場所に着地した。


少女はそっとその巨大な生き物を覗き見る。


それは大きな漆黒の図体をしていた。


そして鱗一枚一枚に漆が塗られているかのような見事な光沢を放っていた。


頭の天辺から長い尾の先まである毛も癖一つなく、これも花の油を使って梳かしたかのように艶やかで美しい。


大きなレースのカーテンのような薄い膜の張った翼を優雅に翻し折り畳む姿も気品にあふれてる。


そして黒曜石をはめ込んだかのように澄み切った大きな目に少女の目は釘付けになった。


竜だ。


少女は思わず息を飲んだ。


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