森
ざわざわと木の葉が騒ぐようにざわめいていた。
真っ黒な森は来る者を拒むかのようにそびえていた。
満月の夜の闇を煌々と照らし、僅かに青っぽく見える空一面には星がきらきらと光っている。
ホウホウと梟の鳴き声が風に乗って微かに聞こえていた。
ジャラリ。
と、無機質な音が夜風の音を裂くように響いた。
ジャラリ。
連なった金属と金属がたてる特有の音が、不可侵の森に近づいていた。
ジャラリ。
背の高い草の生えた草原に一人、小柄な少女が足を縺れさせながら歩いている。
年の頃は12、3歳といったところか。
少女はボロ同然の麻のワンピースを身に纏い、そこから伸びる手足は枯れ木のように細い。
ジャラリ。
一歩、また一歩と歩を進める。
身体中、泥や砂埃、そして黒くこびりついた血に汚れていた。
背中まであるふわふわとした茶色の髪も艶一つなく絡まり合い、風になびかぬ程にごわごわと固まっている。
ジャラリ。
彼女の青い瞳もまた、どこか遠くを見ているように動かない。
細い脚には草で切ったのか新たな鮮血が流れた。
ジャラリ。
少女の棒切れのような右脚には、溶接され、つなぎ目のない足枷が嵌められていた。
その足枷から伸びる鎖の先は直径20㎝はあるだろう鉄球に繋がっている。
その為少女はその足枷を、否、右脚全体を引きずるようにして歩いていた。
ジャラリ。
少女の目は森を目前に微かに揺れた。
「これが、竜の住む森…」
大丈夫。
恐怖など、今更感じない。
少女は足を踏み入れた。