同じ人、違う人
4話目です。
なんだか話の進展が遅いですね。すいません。
では、どうぞm(__)m
その少女は、聡明だった。
神のように全知全能とまではいかないが、多くの知識を持っていた。
しかし、多すぎる知識はときに人を殺す。
現に彼女は、その膨大な知識に呑み込まれるようにして――自らの命を絶ったのだった。
「千晃くんは、生まれ変わりってあると思う?」
いつも通り待ち伏せしていた赤い死神もとい赤刎編が、突然そんなことを聞いてきた。
「……まぁ、あるんじゃないですか」
「あら、意外ね」
彼女はわざと目を丸くして言う。
千晃はそれには取り合わず、無言で先を急かす。
そんな目で見ないで、と肩を竦めながら編は苦笑した。
「私はね、全部覚えてるの」
「何をですか?」
千晃が聞き返すと、彼女は笑みを濃くした。
「赤刎編、勾田悠人、小林陽菜、三野遥、七原拓也……」
数人の男女の名前を並べ始めた編を、千晃はきょとんとして見つめる。
彼女は何が言いたいのだろうか。
「『私』の今までの名前を遡ってるんだけどね」
「遡る……?」
「前世、前前世、前前前世……って感じかしら」
彼女が言いたいのは、つまり『繰り返してきた転生の中で、前世までの記憶を覚えている』ということなのだろう。
あり得ない話だが、彼女は決して嘘をつかない。
そうでなければ、彼女は持論に忠実に生きていないだろう。
それは身を持って知っていた。
「でね、一番最初の『私』の名前は――」
「赤刎 文、だったの」
今の『自分』と同じ苗字の氏名を挙げ、編はにんまりと笑う。
「調べてみたら、曾祖父の父の姉だったわ。皮肉よね」
「はあ……」
千晃は曖昧に相槌を打つ。
元より彼女の話は理屈っぽくて好きではないが、今日はいつにも増して回りくどい。
「文には貴方も会ってるはずよ?」
「……え」
編の突然の言葉に理解が追いつくまで、たっぷり数秒かかった。
それが意味するのは、ただ一つの真実。
「自殺愛好会」の会長は、他ならぬ赤刎文本人である、という真実だ。
「でも、あの人は高校生でしたよ?」
「当たり前じゃない。高校生のときに死んだんだもの」
目眩がした。
彼女が幽霊だったと言いたいのだろうが、どうにも信じられない。
しかし、微笑を浮かべる編の目は真剣だった。
「つまりアイツは昔の私。転生するときに魂から一部切り離されちゃったみたいでね。もうずっと、鬱陶しいくらい付きまとってるわ――ストーカーみたいにね」
ストーカーはどちらだ。
千晃はその言葉をぐっと飲み込む。
情報は揃った。
彼女への用事は終わりだ。
「……ありがとうございました。では」
「もう行っちゃうの? また明日ね」
彼はそれを黙殺して、アパートの自室へと入っていく。
編は、彼の姿が見えなくなるまで、狐のような癖のある笑みを崩さなかった。
しかし、突如不機嫌そうに顔を歪ませて虚空へと呼びかける。
「盗み聞き? 相変わらず悪趣味ね」
「貴方には言われたくないわ」
どこからともなく現れた文が、編より少し低い声で囁く。
「私の受け売りでしか『死逢わせ』を語れないくせに」
彼女は嘲笑うようにそう言って、その姿を再び夜闇の中へと消した。
「――否定はしないけどね」
編はぽつりと呟いて、帰宅するべく踵を返す。
誰もいなくなった公園を、皎い月明かりが静かに照らしていた。
いかがでしたか?
余談ですが、作者は幼い頃、胎内にいたときのことを覚えていたそうです。
次回は編さんの年齢がわかるかもしれません。
読んでいただきありがとうございましたm(__)m