月夜の死神
二日連続投稿です。
相変わらずヒロインが異常者です。
では、どうぞm(__)m
ネオンに彩られた街を抜けて、中性的なルックスの少年は家路を急ぐ。
名は加羽 千晃といい、これまた中性的だ。
都内の大学に通っている彼は、父親の元を離れて大学近くのアパートで独り暮らしをしている。
大通りを出て自宅に続く小道に入ると、千晃はその視界の端に何かを捉えた。
見覚えのある、赤い色。
「グッドイブニング、千晃くん」
真っ赤なドレスを纏った少女が、嫣然として立っていた。
月明かりに照らされたその姿は、まるで不吉な死神だ。
「赤刎 編さん、ですよね」
「覚えててくれたのね。ありがとう」
褒めてなどいない。
忘れられるはずがないのだ。
彼女は1週間前、千晃の祖父の葬式に現れた。
そして不謹慎な言動の数々を行った挙げ句、彼に奇妙なバッジを渡していった。
お爺様に渡しておいてくれ、と告げて。
「貴方の家、この近くなんでしょ?」
上がらせてよ、と彼女はにこりと笑って言う。
「え、でも……女性を家に上げるのはちょっと」
「意外と真面目ね」
異常者を自宅に招きたくない一心で言い訳すると、編は残念そうに息を吐いた。
そうだ、とわざとらしく前置きして彼女は話題を変える。
「お爺様に渡しておいてくれた?」
バッジのことだろう。
千晃は眉を寄せて俯く。
「……あんなもの、祖父には必要ありません」
「へえ、『あんなもの』ねぇ」
編の笑顔が僅かに引き攣った。
怒っているのかもしれない。
「わかってない。全然わかってないわ」
いつもより威勢のいい口調で言われ、やはり怒っているのだとわかる。
「『死』は無上の幸せよ。私はそれを純粋に祝福しているの」
至極真面目にそう語る編は、少し穏やかになった表情で笑う。
本当に幸せそうな表情で笑うのだ。
「『死』に出逢うから『死逢わせ』――私はそう思ってるわ。嗚呼、なんて甘い響きなの!」
その姿に、千晃は身震いした。
美しさに対する感動ではなく、彼女の言動が孕む異常性に対する生理的嫌悪によるものだ。
「僕には理解できません」
「いいのよ。慣れてるわ」
笑みを濃くして、彼女は続けた。
「でもね、私は嘘はつかないわ。貴方もきっといつか私の言い分が正しいってわかるはずよ。だって私は、」
「あの世を知っているんだもの」
結局、編はあの後すぐに帰ってしまった。
一体何がしたかったのか、それは彼女自身にしかわからないのだろう。
ただ一つ言えるのは、先週の葬式と今日の一件で千晃が赤刎編を完全に嫌うようになったということだけだった。
いかがでしたでしょうか?
次回辺りから少しずつ現実離れした話になってくると思います。
読んでいただきありがとうございましたm(__)m