葬式の日
お久しぶりです。
新連載です。
題材が重いので、重くなりすぎないようにしたいと思います。
では、どうぞm(__)m
南無妙法蓮華経……
南無妙法蓮華経…………
読経の声を聞き流しながら、少年は思い出す。
少年――加羽 千晃は孤独だった。
母親を早くに亡くし、父親は忙しく働いていてなかなか会うことはない。
そんな父親に代わって千晃の世話をしてくれたのは、祖父だった。
「お帰り、千晃」
柔らかく微笑む祖父の顔が浮かんできて、視界が涙で滲んだ。
もうそんな表情を見ることもないのだと思うと、寂しさが募る。
――今日は、祖父の葬式だ。
「おめでとうございます、加羽のお爺様」
場違いな挨拶が耳に飛び込んできて、千晃は我に返った。
「編……!!」
「よくものこのこと現れたな!!」
「千晃に謝れ!!」
親戚の面々が怒声を上げるのに驚きつつ、彼は招かれざる客の姿を覗き見た。
黒いレースがあしらわれた真っ赤なドレス。
黒タイツの足を包む、エナメルの赤い靴。
不謹慎極まりない格好の少女が、嫣然として立っていた。
「千晃……?」
彼女は眉間に皺を寄せて呟き、周りを見渡す。
そして少年の姿を見つけると、笑みを浮かべた。
「千晃『くん』なのね」
少女が千晃に近づいてくる。
それにつれて、千晃の中に言いようもない不安が渦巻いた。
目の前の少女が纏う、掴み所のない雰囲気のせいだろうか。
「私はもうお暇するけど、お爺様にこれを渡してくれるかしら?」
彼女はそう言って、千晃の手に何かを握らせた。
それは、赤と緑の葉を象ったバッジだ。
「え、あの……」
千晃が顔を上げたときには、少女は既にこちらに背を向けていた。
「千晃くん、相手にしなくていいから」
親戚の一人の男性が千晃の肩をポンと叩いた。
「えっと、あの人は……?」
千晃が問うと、男性はため息を吐く。
「赤刎 編っていってね。君のお母さんの遠い親戚なんだけど、とにかく異常なんだ」
「異常……?」
「そう。アイツの持論は――」
「死ぬってすごく幸せなことなのに、何で誰も気づけないのかしら?」
赤刎編は不機嫌そうに呟いて、道端にしゃがみ込んだ。
そこにはもう動かなくなってしまった蝉が転がっている。
微笑んで手を合わせると、彼女はポーチを取り出した。
中には、先ほど千晃に渡したバッジが大量に入っている。
そのうちの一つをつまみ上げると、蝉の隣に並べるようにして置いた。
「おめでとう。貴方もやっと幸せになれたのね」
いかがでしたでしょうか?
次回以降も異常者に絡まれる主人公をお楽しみください。
読んでくださりありがとうございましたm(__)m