第五章 依頼
ウェールズ研究所を爆破してから三日。二人は《ドリーム》という喫茶店で、カウンターに座り優雅にくつろいでいた。
「なんでも、情報によれば五課の連中がお前らを捜してるらしいぞ」
いれたてのコーヒーをアルスの前に置くと、カーフはそう言った。
「あちゃー、やっぱり捕まえようとしてるんですね。せっかくケース返したのに…」
キルは巨大パフェを頬張りながら顔をしかめる。
「まあそんな事で許して貰える訳ないわなぁ。」
アルスも出されたコーヒーを飲みながら言う。
「グラハムを殺したのもお前らなんだろ?」
カーフは新聞を見ながら言った。
「あのオッサンが悪いんだからな!俺達を利用しようなんて百万年早いんだよ!」
人気の少ない裏路地にあるため客の出入りは少ない。というか、いつも客がいないので気軽にこんな話が出来る。
「アルスさん…。元からグラハム殺すつもりだったじゃないですか。」
キルが呆れた顔で言う。
「まあな。あんだけ悪事を働いて、バルパレスも証拠が無いから捕まえられなかったんだ。俺等に感謝して欲しいぐらいだぜ!でも…、顔見られたからな、見つかるのも時間の問題――」
カランカラン!
珍しく客が来た、と思ったらそこには見覚えのある顔が…
「お久し振りね。お二人さん!」
そこにはマイカとリーナが立っていた。アルスとキルは二人の方を見て唖然としている。
「いらっしゃい!まあ掛けなよ。」
「馬鹿野郎、カーフ!俺達を捕まえに来たに決まってんじゃねーか!!」
カーフの優しい言葉にアルスは慌てる。それを見たリーナが、
「フフ、心配しないで!別に捕まえに来たつもりじゃないから。」
マイカとリーナはアルスの隣の椅子に座って
「コーヒーを二つお願いします。」
と、注文する。
「はいよ!」
カーフはすぐに準備に取り掛かる。
「どういう事ですか…?」
キルは疑問をすぐにぶつけた。
「その前に、自己紹介しようか!私はマイカ・スティーナー。五課の隊長をしてます。」
「私はリーナ・フラック。同じく五課の隊長をしています。」
二人の自己紹介が終わった時に、
「お待ちどうさま!」
と、カーフはコーヒーを差し出す。リーナが
「ありがとうございます。」
といって二人はそれを受け取る。
「あっ、僕は…」
と、自分も自己紹介しようとするキルだったがアルスからチョップが飛んでくる。
「馬鹿かお前は!ここに来た時点で全てバレてんだよ!」
それを見ていたマイカとリーナは笑っていた。
「やっぱり。悪い人達じゃなかったね、リーナ」
「クス。そうだね。」
「当たり前だ!!誰だ!俺等を悪党みたいな言い方をした奴は。」
アルスがすぐにツッコミを入れる。なんだか、すでに馴染み出している四人。アルスはフー、と深呼吸をして落ち着かせる。
「それで、捕まえる気が無いならなんでここに来たんだ。」
二人は目を合わせリーナが口を開く。
「今日はブラックリベラルの二人に依頼を頼みに来たの。」
「…依頼…、ですか?」
キルが目を丸くして聞き返す。それにマイカが答える。
「そう!詳しい内容は五課で話すから、付いて来て欲しいんだけど…」
「ちょっと待てよ。俺達の依頼料は安かねーぞ。」
それにリーナが微笑みながら答える。
「そこは取引をしましょう。」
「取引…ですか?」
リーナの意外な答えに二人は耳を傾ける。
「そう。もし依頼を受けてくれるのなら、あなた達は自由の身。断るのなら明日にでも、あなた達を指名手配にする。」
リーナの言葉に驚く二人。
「だって、さっき捕まえる気は無いって…」
キルが思い出したかのように言う。
「そうよ!今日だけはね。」
マイカの言う通り、今後も捕まえない、なんて一言も言っていない。アルスは少し考えて答えをだす。
「わかったよ!この依頼、タダで引き受けてやるよ!」
アルスの答えに、マイカもリーナも満足そうだ。
「交渉成立ね!少し歩いた所に車を停めてあるの。そこまで行きましょ!」
リーナに誘われるまま二人も店を出る。
車の場所まで行くのに大通りを歩く四人。しかし、そこから妙な違和感を感じるアルスとキル。
「アルスさん、アルスさん。なんか…視線が痛いんですけど…。」
小声で喋るキル。
それに小声で返すアルス。
「お前もかキル!何なんだ、このみんなからの冷たい視線は…?」
答えは簡単だった。
それはマイカとリーナにあった。
二十歳という若さで隊長となったこの二人。尚且つ、高い魔力とこの可愛さ。
バルパレスどころか民間人にもかなりの人気があるのだ。そんな二人が歩いていることで視線が集まるのは仕方ない。しかも、一緒歩くなんて、一般人にしてみれば夢のまた夢。なのに見知らぬ男が一緒に歩いているということで、怒りや憎悪、嫉妬や怨念といった感情がこの視線には凝縮されていたのだった。そして、車に辿り着いた時には、二人は今まで感じたことのない疲れを体感するのだった。
車を走らすこと十分。五課へ着いて車から降りる。
「改めて見ると、凄い施設ですねぇ!建物は大きいし、綺麗だし。」
以前侵入した時は夜で暗かったし、屋上に降りたため気がつかなかったが、正面から見てみるとキルの言った通りだった。
「フフ、さあ行くわよ!」
関心するのもほどほどに、四人は中へ入って行った。
アルスとキルは二人について行くが、すれ違う人全員に握手を求められた。
「なあ…、俺達って、此処じゃ人気あんのか?」
アルスが気になって聞いた。
「そうよ!ブラックリベラルは、前から少し人気あったし、バルパレス支部に初めて侵入した二人だからね。」
マイカは苦笑いでそう言った。それを聞き、キルのテンションが上がる。
「アルスさん!侵入して良かったですね!!」
キルの頭に本日、二度目のチョップをするアルス。
「着いたよ。」
リーナは部屋の前で止まり、ノックをした後、二人を引き連れ中へ入った。
「初めまして。私はここの支部隊長をしているクリスです。宜しく。」
クリスは二人に握手を求める。二人は、またかよ!、というように五課に来て何度目かの握手をした。そして五人はソファーへ座り、話を始める。
「それで、俺等に頼みたい依頼とは?」
クリスは真剣な表情で頷く。
「実は、三ヶ月前にアルディアのユナシリムの森という場所の奥深くで、古代遺跡が発見されてな。今までそこの扉を開ける方法を調べていたんだが、一週間前、ようやくそのパスコードを解析して開けることが出来たんだが…、中はモンスターも徘徊している状況だった。だから君達にこの二人と協力して、古代遺跡を調べて来て欲しいんだ。」
「何故俺達が必要なんだ?この二人が行くなら、俺達は必要ないだろ?」
クリスはちょっと苦笑いを浮かべる。
「一応、場所は古代遺跡。何が起こるかわからんからな。用心の為だ。…それと、正直な話、五課にいる皆がブラックリベラルの闘いを見たい、と言い出してな。」
「それが本音かよ!…まあ引き受けたしな、やってやるよ!」
アルスとキルは頷く。
「そうか!それは助かるよ。それから、今日はここに泊まって行ってくれ!明日の朝、出発、ということにしよう。マイカ、リーナ。二人を部屋まで案内してあげてくれ。」
『わかりました。』
そう言って話は終わり、アルスとキルは部屋へ案内された。
「じゃあ食事の準備が出来たら、呼びに来るから。」
そう言うと二人は戻って行った。
「それにしても、古代遺跡ってどんな感じなんでしょうかね?」
ベッドに横になりながらキルが尋ねる。
「そうだな…、三千年前に一度、人類が滅んだのは聞いたことあるだろ?」
キルは頷く。
「その時は、今よりもっと高い技術力を持っていたらしいからな!まあ、いつの時代に造られたかはわからないけど、今ではお目にかかれない物もあるかもしれないぞ。」
アルスとキルは、マイカとリーナが呼びに来るまで遺跡の話で盛り上がった。その後の食事も、五課では初めて、と、いうぐらい、うるさいものだったらしい。
ここまで読んで下さった皆さん。こんにちは。もっと短く済むと思っていたのですが、長くなってしまいました。しかも自分で見てみたらビッシリ!って感じで。僕自身あんまりビッシリ書いてあるのは嫌いなんですが、それを自分で犯してしまいました。スミマセン。次の次から気をつけたいと思います。次も多少長くなるかも知れませんが、この先の鍵を握る人物がチラッとでてきますので、ここまで読んでくれた人なら、次回作も最後まで呼んで頂けると心から願っています。