第十七章 絶望の終わりと希望の悲しみ
サディケルの死を見届けた四人。アルスは青く、どこまでも続く空を眺めていた。
その視界に、デストロイドが入る。
「デストロイド、お前は大丈夫か?」
その声でアルスの隣に降りてくる。
「アルスよりはマシだ!」
「ハハ、そりゃそうだな…。」
「それにしても…よく倒したな。この男を…。」
「…ああ。でも、最後の言葉が引っかかるんだ。…もしかしたら、こいつもクリスと一緒で、気付いていたのかもしれない。自分のしていることを…」
「それでも、今更引き返せない…、てとこだったんでしょうか?」
アルスの言葉をキルが遮る。
「かもしれない…な。実際のところ、最後の攻撃の時、本気で俺を斬りつけようって感じじゃなかった。」
「心のどこかで、自分が死ぬことを望んでいたのかもしれないね。」
マイカが付け加える。
「でも彼は多くの悲しみ、憎しみをいろんな人に与えた。まるで自分の気持ちを味わえ、というように…」
リーナも静かに呟く。
「奴も、独りじゃさみしかったのかもしれない。誰か一人でもそばにいてくれる人がいれば…こんなことにはならなかったかもしれないな。」
「お前達は、本当に良い奴等だな!ここまでやった奴を許すなんて。」
「別に許した訳じゃない。サディケルのしたことは、何があっても許されない。俺だってまだ奴を憎んでいる。…でも、少しはサディケルの気持ちを解ってやっても、いいんじゃないか…って思っただけだ。
…それより、お前はこれからどうするんだ?」
「…わからん。かなりお前といたから、考えてなかった。」
「……そうか。」
「このまま、アルスさんといればいいじゃないですか?」
「………それは出来ないんだ。」
「………………。」
アルスの言葉に、黙るデストロイド。
「???」
「そんな事より、もう帰りましょ!」
「そうね。全て終わったんだし!」
マイカとリーナが促す。
「そうですね!多分五課の皆さんが、盛大なパーティーでもしてくれそうですね!」
キルは、楽しそうに二人の元に駆け寄る。だが、アルスは動こうとはしない。
「アルスさん?行きますよ!」
三人がアルスを見る。
「………まだ、終わっていないんだ…。」
三人に背中を向けたままそう呟く。
「アルス…さん?」
アルスがゆっくり三人の方に振り向く。
『!!!』
三人は驚く。こんなに悲しそうなアルスの笑顔を、…今まで一度も見たことはなかった。
「アル…ス…?」
「エネミーロック」
三人の足元に魔法陣が浮かびあがる。
「これ…は、一体…なんのつもりなの…?」
リーナが動揺しながら聞く。
アルスは再び、背を向けると、ルーイン・ストーンが転がっている場所へ歩く。
「終わりなんてないんだ…。この、ルーイン・ストーンがある限り!」
アルスは、ルーイン・ストーンを一つ掴むと、それを握り締めた。
「アルス…、それは仕方ないよ。その石は…壊すことは出来ないんだから……。」
マイカが言った。
「もし…あるとしたら?もし…遥か昔から、確かな言い伝えがあるとしたら?皆は……どうする?」
声が震えていた。
皆気付いた。
あの…、あのアルスが、
泣いている。
「あ…る…す…?それは……どういうこと?」
マイカの声も震える。
「ルーイン・ルーラァの…現れる次元の中で、ルーイン・ストーンを…体の中に封印し、…魔力を暴走させて、爆発させれば…この石も…消滅すると、言われている。」
――空気が凍りつく。アルスのしたいこと、考えていることが、…三人に伝わった。
自然と、涙が零れる。
戦いの終わりに流した涙とは違い………冷たく、悲しみの涙が…。
アルスが続ける。
「こんなものがあるから。こんな石があるから!…争いが起こるんだ。悲しみが増えるんだ。
この先何年後、何十年後、何百年後、何千年後!!必ず今と同じ争いが起こる。必ず人類が滅ぶ運命が訪れる!!……そんなこと…あってはならないんだ!この世界に!……こんな物…あってはいけないんだ。」
アルスが振り向く。
その目からは、大粒の涙が、次々と溢れていた。
「わかってくれとは言わない。……ただ、許して欲しい……。」
アルスは空を見上げる。
(こんな筈じゃなかったのに…………どうして、涙が止まらないんだろう)
「アルス……さん。僕達は…、僕達はコンビでしょ………?僕も……連れて行って……くださいよぉ」
泣きながら、足が崩れ落ちるキル。
「キル……俺は、お前に会うまで復讐のことで一杯だった。……けど、キルと出会ってからは、楽しかった。…復讐のことも、辛かった過去も…お前といれば忘れられた。………俺は、キルに何度も救われた。だから……お前は生きるんだ。これから先、多くの人達を……幸せにするんだ。それが、……俺が、お前に依頼する………ブラックリベラル初代としての、最後の仕事だ。」
「なん…で…、なんで僕をひとりにするんですかぁぁ!アルスさんが……いないなかで……僕ひとりでなにができるというんですかぁぁ!!」
「お前はもう独りじゃないだろう!!……お前の隣には、俺以外の…仲間がいるじゃねぇか!」
「ウワァァァァァァ!!」
キルは、もう泣くしかなかった。
改めて思った。五課に入ろう―と言ったのも、僕の事を思ってのことだった。
マイカさん、リーナさんと仲良くなって笑っていたのも、僕に仲間が出来たからだった。
最初から、最後まで。僕のことを考えてくれていた。
僕は、なんて強くて、なんて大きな人と一緒にいたんだろう……。
「マイカ、リーナ………済まない。五課に入れなくて……。また、……四人で遊びに行けなくて。短い間だったけど……楽しかった。キルを…………よろしく………頼む。」
マイカとリーナは、もう、コクンコクン、と、頷く事しかできなかった。
それを見て、アルスはそっと、長年使ってきた自分の剣を、三人の前に置いた。
「デストロイド!お前にも…逢えて良かった。お前と契約できて……良かった。……ありがとう!」
「私は……お前にこの方法を教えたことを、後悔している。………アルスは、私が見てきた中で………最高の奴だった。……私を、仲間として……見てくれた。……お前のことは、この先、…何千年生きようが、絶対忘れん!」
デストロイドの目から、一筋の涙が落ちた。
涙があるのかわからないドラゴンから、一筋の涙が……。
アルスは、黒いケースを手に取った。
そして、皆の方を向いた。
「俺の命を、この星の未来に捧げる!キル!マイカ!リーナ!…後は、お前達が見守ってくれ!!じゃあ…お別れだ!!!」
アルスはケースの中からルーイン・ストーンを取り出し、他の四つのそばに置いた。
すると、石は光り出しその近くに、異次元の空間が出現した。
アルスはルーイン・ストーン全てを持ち、躊躇なく入っていった。
――その三分後。異次元の空間は、静かに消えていった。アルスと、ルーイン・ストーンと共に。
そして、アルスの名前をさけぶ声が、どこまでも響いていった。
異次元にも、届くかのように………。
こんにちは。悲しいお話になりましたが、最初からこれだけはあったものですから…。アルスは始めからそうすることを望んでいたので、別に、サディケルが石を集めることに反対していたわけではないんです。だから、始めにルーイン・ストーンを五課から奪っても、自分で持たずに五課に返したわけです。そこにあればかならずサディケルが現れると思って。それでは、次が最終話です。では!