第十六章 運命の決着 アルスVSサディケル
「ハア、ハア。! 見えた。あそこが屋上か!」
アルスが全力で階段を登っていると、その先に外の光が見えていた。アルスは一気に駆け上がった。
そこで見たものは、黒いケースを渡そうとしているクリスと、それを受け取ろうとしているサディケルの姿。足元には、四つのルーイン・ストーンが落ちていた。
「そこまでだ!クリス、サディケル!」
二人は声を出したアルスの方を振り向く。
「ほう。案外早かったね。レヴォルノの奴らも使えなかったな。いや、よく働いてくれた、と思うべきかな。なあクリス。」
サディケルは笑みを浮かべ、そう言う。
「クリス!お前は最初から俺達を裏切っていたのか!?」
「違う!!」
アルスの問いに、大声で否定をするクリス。
「コイツが俺の前に現れたのは、君の話を聞いたすぐ後だ!!」
「じゃあ、なんで!?なんでサディケルに従う!?こいつは俺が倒すと言った筈だ!!それが信じられなかったのか!?」
「それも違う!!……君を信じてたさ。…でも!仕方なかった!妻と子供を…人質に捕られているんだ…。」
「なん…だって…?……でもクリス。…その人質はもう……」
「この世にはいないよ!」
「なん…ウグッ!!」
アルスの言葉をさえぎったサディケルは、剣をクリスに突き刺した。クリスの手から黒いケースが落ちる。剣を抜き、黒いケースを手に取るサディケル。アルスはクリスに駆け寄る。
その時に、キル、マイカ、リーナが入って来た。
「これは…どういう事?」
マイカは状況がよくわかっていなかった。それはキルもリーナも一緒だった。黒いケースを手に持ち、笑っているサディケル。血を流し倒れているクリス。それを抱えるアルス。どうしたらそういう状況になるのかがわからなかった。
「バカヤロウ。人質を捕られているからって、それを渡しても結果は同じなんだ……。」
「すま…ない。アルス…君。…妻と…子供さえ助けられれば…あとは、君がなんとか…してくれると、心の…どこかで、思っていたんだ…。済まない…本当に、すま…な…い……」
そう言って、クリスは死んでいった。
「アルスさん…。一体、どういう事ですか?」
キルがアルスに聞く。
「こいつは…クリスはただ、妻と子供を助けようとしただけだったんだ!その為の行動は間違っているけど…、その思いだけで、一杯だったんだよ…。」
「そんな……!」
「クリス…支部隊長が。」
マイカとリーナは、今にも泣きそうだった。クリスを始めからレヴォルノのメンバーだと思ってしまった。その申し訳ない気持ちで一杯だった。
「ハハハハハ!馬鹿な男だよ。私が人質を生かしておくわけないと、よく考えれば分かるものを!本当に―――」
「黙れ。」
アルスがゆっくり立ち上がる。
「クリスは多分、心のどこかではそう思っていた筈だ。でも!そうじゃないと……まだ生きていると!思いたかったんだ。」
「そう思いながらも、これを持ってきたなら、馬鹿としか思えんがな!」
「確かに、クリスの行動は馬鹿かもしれない。でも、人の心は持っていた!お前と違ってな…。」
サディケルは黒いケースを下に置くと、剣を構えた。
「フン。人の心だと!そんなもの遥か昔に忘れたな!」
「じゃあ身を持って思い出させてやるよ。この俺が…。人の苦しみ、怒りを!」
アルスも剣を抜いた。二人が見つめ合う。…風が吹きつける。キル、マイカ、リーナにも緊張が走る。
先に動いたのはアルス。一気に間合いを詰め、サディケルに斬りつける。それを剣で防ぎ、弾かせると、逆に斬りかかる。サディケルの剣がアルスの頬を掠るが、身体を回転をして掠る程度に抑え、そのままの勢いでサディケルの左腕を斬りつけた。
そこまで深い傷にはならず、サディケルも構わずに、アルスの頭を狙って突きを出す。寸前でかわすと、剣を振り下ろす。それを顔のまえで受け止める。そのまま力の込め合いが続いたが、痺れを切らしたサディケルがアルスの体に蹴りを入れる。大きく後ろに跳ばされるアルスだが、上手く体制を整え、着地した。
「強くなったな、アルス。四年前とは別人だよ!」
「当たり前だ!俺は、お前を殺すため、平和を取り戻す為だけに生きてきた。今も、そしてこれからも!」
「こんなくだらん世界のどこがいい!?小さなことで争い、自分の事しか頭にないカスな人間共など消えるべきだ!!いじめや暴力、恨みや不安などを無くすには、一度滅ぼすしか方法はない!そのための浄化だ!!なぜそれが分からない!」
「分かりたくねぇよ。確かに人間は小さな生き物だ!簡単に争い、簡単に他人を傷つける。…でも、その中でも精一杯生きようとしている!精一杯未来を見つめている!不幸や不安は尽きないけどそれが人生だ!それが生きると言うことだ!お前にそれを壊す権利はない!!」
「戯れ言だな。人間は滅びるべきなんだ!お前もな!デルドスラッシュ!」
サディケルの唱えた魔法は、回転しながら、一直線にアルスを捉える。
「ゼロライド!」
アルスもそれを魔法でかわす。
一直線に向かって来る魔法を、上から降ってくる光が包み込み、爆発が起こる。その煙の中を突っ切り、サディケルを切る。煙の中から突然現れたアルスに少し反応が遅れ、肩から腹にかけて切り傷をおう。しかし、これも掠った程度で、サディケルは後ろへ跳び距離をあける。それを狙ってアルスは魔法を唱える。
「グレムゾンサンダー!」
着地したサディケルに向かって、上から落ちてくる稲妻。それを再び後ろへ跳躍してかわそうとするサディケルに、
「させるか!エネミーロック!」
サディケルの足元に表れる魔法陣。それは、動きを止める魔法だった。しかし、サディケルはそれ以上の魔力を足に込め、解放する。
だが、三秒でも動きを止められたのが、もう手遅れだった。稲妻はサディケルに命中する。
「ハァ、ハァ。やったか?」
煙が晴れた時、サディケルはまだ立っていた。…左腕を失った状態で。
「ハァーハッハッハッ!やはり君は、あの時に殺しておくべきだったよ!」
「ああ。それがお前の、唯一の失敗だ!」
「…そうだな。だが、勝つのはこのサディケルだ!君はここで死ぬんだ!イフリード!」
サディケルは魔力を解放させ、身体から空へ光が集まる。そこに、真っ赤なドラゴンが現れる。
「イフリード!こいつを殺せ!」
「ほう、あのサディケルをここまで…」
イフリードはアルスを見る。
「サディケル。お前は、何故俺が真実を知ったと思っている?」
「何!?」
「お前と一緒だからだよ!デストロイド!」
アルスは同じように魔力を解放させ、空にドラゴンを出現させる。
「まっ、まさか!貴様も契約者だったのか?」
「そういうことだ!デストロイド!そいつは任せる!」
「了解した。…さて。」
デストロイドとイフリードは目を合わせる。
「久しいな、イフリードよ。」
「フン、三千年前は何も出来なかったお前が、あんな青年についていたとはな…。」
「…俺は、アルスを契約者として、誇りに思っている。あの男をここまで追い詰めるとはな。」
「私も驚いたよ!サディケルは三千年前の奴より遥かに強い。それをここまでするとは…。だが、本当にサディケルに勝てると思っているのか?」
「勝てるさ。アルスなら。それに、私もお前に勝たせて貰う。三千年前に私の契約者を殺したお前を!」
「やってみろ!」
イフリードは長い爪でデストロイドを切りつける。デストロイドは翼を広げ、高く飛び、それを回避すると、口から、魔法弾を発射させる。それをサッとよけるイフリード。そしてすぐに、デストロイドの場所まで飛ぶと、爪を体に突き刺した。
「グァァァ。…くっ!」
デストロイドも同じく爪を突き刺す。
「グゥゥゥ!」
両者左右の爪を体に突き刺し、動けない中、イフリードがデストロイドの首に噛みつく。
「グァァァァァァ!!」
かなりのダメージを負うデストロイドは力を振り絞り、イフリードの体を、翼で叩き落とした。イフリードも途中で体制を整え、デストロイドの高さまで飛び上がる。両者五十メートルの距離をあけ、睨み合う。
「次で、終わりにしよう。」
そう言ったのはイフリード。
「そうだな…。勝った方でこの星の運命が決まる、と言っても過言ではないな」
「お前のその首の傷は深い。どっちが勝つかは解りきったこと!」
そこで、両者一斉に口から魔法のエネルギーを吐く。大きさ、強さは全くの五分五分。それがほぼ真ん中でぶつかり合う。しかし、首にハンデを抱えるデストロイドが徐々に押され始めていた。
一方、地上でも二人の戦いは続いていた。
片腕となったデストロイドに、最初は押していたアルスだったが、本気になったサディケルのスピードについていくことが出来ないでいた。
そのスピードは、遺跡で戦ったA001より速く、攻撃も不規則だった。感覚で感じ、避けることで一杯だったアルスも、徐々に切り傷が増え、全身が真っ赤に染まっていた。
(くそ、このままじゃ殺られる。どうする……。これしかない!)
一つの考えを出したアルスは避けながらその時を待った。
(今だ!)
ブシュッ。
サディケルが姿を見せた。アルスの脇腹に剣を突き刺したまま。
アルスはその貫通した剣の先を左手で強く握り締めていた。アルスの足下には、身体からか、手からかわからないが、血が大量に垂れていた。
「やっと捕まえたぞ、サディケル。」
アルスは右手の剣を逆手に持つと、同じようにサディケルの腹に突き刺した。
両者苦しみながら剣を抜くと、その場に倒れ込む。
「アルスーー!!」
「来るなぁ!…まだ、終わっていない!」
駆け寄ろうとするマイカを止めるアルス。
サディケルとアルスは、剣を支えに起きあがる。
サディケルは苦しそうに、何もできないでいたが、アルスは魔法を唱えた。
「ゴフッ、…サンダーアロー」
雷の矢を投げ飛ばすアルスをみて、構えるサディケルだったが、矢は遥か頭上、見当違いの方向へ向かっていった。
「ふっ、その怪我じゃ…ろくにコントロールもつけれないか。」
苦しそうに笑うサディケルだったが、それにアルスも笑い返す。
「仲間ってもんは…助け合う…ものだ。」
「何…?ま、まさか!?」
サディケルは矢の飛んでいった方向を見上げる。
空では、まだ魔力エネルギーがぶつかり合っていたが、デストロイドがかなり押されていた。誰の目からも、勝敗は明らかだった。…が、下から飛んできた雷の矢が、イフリードの体に突き刺さる。
「グッ、あのガキか!」
「デストロイドォォ!!」
下から、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「恩にきる。アルス…。」
デストロイドは最後の力を振り絞り、魔力エネルギーを増大させた。イフリードは集中力と目線を切ってしまったため、気付いた時はもう手遅れだった。
押されていたデストロイドは、それを増大させたエネルギーで、一気に押し返すと、そのままイフリードに直撃する。
「クッッソォーー!この私ガァァァ…………」
そこで、イフリードは完全に消え去った。
「バッ…、バカなぁ!…キサマ…よくも…!」
「サディケル…。残りは…俺達だけだ。…決着をつけようか!」
不適に笑うアルス。
それを見て、サディケルは感じた。次の一撃で、勝負に決着をつけることを。
「…ああ。そう、しようか。」
アルスとサディケルはそれぞれ剣を構える。
どちらもボロボロの状態。
下手な小細工は必要ない。
この剣での斬り合いにかける。
後は、精神力の勝負。
キル、マイカ、リーナも感じていた。次で終わることを。
三人には、この数秒の静寂が、やたら永く感じられた。
その静寂の中、二人は一斉に走り出す。
―――キィィィィン―――
乾いた、剣のぶつかり合う音。
二人は背中合わせで停止している。
カラーン
サディケルの剣が真っ二つに折れ、先の部分が落ちる。
そのあとに、サディケル自身が倒れ込む。
「…か、勝った。…アルスさんが勝った!」
「やったよぉ〜。かったよぉ!」
「アルス君が、かったんだぁ。」
三人が走ってアルスに近づく!マイカとリーナはすでに泣いている。
「アルスさぁん!」
「イテテテ!イテーよキル!」
抱きつくキルを、振りほどくアルス。
「信じてたよぉ、アルスゥ」
「さすがです…。無事で…よかっ…たよ」
マイカとリーナも泣きながらアルスを見る。
「…泣くなよ。二人共…。」
アルスが二人に微笑む。
「おれ…が……負けた…のか…。」
サディケルが呟く。
それを見たアルスは、ゆっくりとサディケルに近づく。
「サディケル…。お前の野望も、ここまでだ。」
「その…ようだ。この勝負は…、四年前に…勝敗…は、決まっていたのかもしれんな。……アルス…もっと…早くに、子供のころに……お前に…出会って…おきたかっ…た………」
サディケルの死によって、人類の滅亡を賭けた戦いは、幕を閉じた。
こんにちは。ついに終わりました。アルスVSサディケル!頑張りました。遺跡に次ぐ長さになりました。さあ、このサディケルですが、話の中で少し感づいた人もいるかも知れませんが、不幸な男なんです。小さな村で生まれたサディケルは、小さな時からイジメられ、唯一親切に接してくれた親を村の人に殺されました。当時十五才の時です。サディケルは村人を全員殺しました。その時から少しずつ人を恨んで行きました。都心に出てきたサディケルは、その思いを一層高めていきました。そして、ある日、イフリードに出会い、人類の浄化を決心した、ということです。次の話は、戦いの終わった直後の話です。では!