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幸せということ  作者:
9/10

和臣の決意(和臣視点)

 和臣視点です。

 以前に予告を入れたのに忘れていました。

 

 チュッ!


 小さいリップ音をわざとたてて真央の額にキスを落とす。


 これは今までの関係から決別するための一歩。


 真央の驚いた表情。

 戸惑いの表情。

 

 そして、それまでも赤かった顔が、さらに真っ赤に色づく。


 真央が俺の事を全く恋愛の対象としていなかったことを今何度も思い知る。

 はっきりと解っていたはずなのに、どうしても心の奥でズキッと痛むものがあった。


 けれど、それ以上に、俺の目の前で真っ赤になって俯く真央をかわいいと。

 驚き、戸惑う真央を愛おしいと思う。


 さらなる加速を感じる自分の気持ちが、真央を追い詰めないように。

 俺は今までの自分を思い出す。

 

 大事に大事に育てた真央への気持ち。

 初心を忘れて夢中になりすぎないように。






 初めてであったのは真央が6歳の時。

 俺が自宅の隣に建つ母親の音楽教室でピアノを弾いている姿を真央が窓から覗いていたんだ。

 誰もいないはずなのに強い視線を感じて振り返ったその先に、窓の枠から目から上だけ見せてこっちを覗いている少女が見えた。

 週に1回しか開いていない本当に道楽の音楽教室。

 この後も何の予定もないこの教室で、俺はその子を手招きして呼んだ。

「ピアノが好きなの?」

 逃げそびれて、ビクビクと姿を現した少女はまっすぐで真っ黒な長い髪、大きな瞳、高揚して染められた頬。まさしく美少女としか形容しがたい姿だった。

「きれいな、音だったから。」

 おびえている様で声は若干震えて、消え入りそうだった。

 俺はそんな少女に一瞬見ほれそうになりながらも、そのおびえた様子がかわいそうで、出来るだけ柔らかく微笑みを見せた。

「じゃぁ、時間があるならもう少し聞いてもらえるかな。

 誰かが聞いてくれてた方が緊張感があって練習になるから。」

 俺がそう聞くと、真央はぱぁーっと晴れ渡るような笑顔を見せた。

「嬉しい!もっと聞きたい!」

 その笑顔がとても可愛くって、俺はその日から週に1度程度真央へピアノを聞かせたり、教えたりしていた。

 そのうち彼女の母親の美代子さんが挨拶と日頃のお礼をしに来た。

 彼女の家は母子家庭で、習い事をさせる余裕が無いことをその時に聞いた。

 彼女の母親はそれでもまっすぐな明るい笑顔で。

 あぁ、真央はこの人に愛されてるんだなと強く感じた。

「いえ、俺も真央にピアノを教えるのが楽しくって。いい息抜きになってるんですよ。」

 俺の心からの言葉に、美代子さんはお礼を言いながらも、ホッとした表情を見せてくれた。


 その頃、彼女はいたけど、それでも真央との約束は優先させていた。

 近所のかわいい少女。

 友達のこと、勉強のこと。母親のこと。

 小さい真央は俺に色々なことを質問し、相談し、報告してきた。

 残念なことに、真央は余り器用では無く、ピアノはあまり上達しなかった。

 けど、俺の所へ通う事は続き・・・俺は徐々に真央を本当の妹の様に感じていた。

 

 


 そして月日は経ち真央は高校生になった。

 高校生になっても真央は素直で、正直で、目鼻もはっきりとした美少女と言っていい顔だちで。魅力的な少女に育っていた。


 そんな真央を連れて、俺は買い物に出掛けた。

 けど、俺が少し離れたその隙に真央は声を掛けられていた。

「お兄ちゃんと一緒に来ているので。」

 そう断った真央に、お兄ちゃんなんか、置いてっちゃおうよ。

 そんな言葉が聞こえる。

 俺はあわててその会話に体ごと割り込んだ。

「お兄ちゃんは愛称。

 彼女は俺の彼女。

 人の彼女を困らせないで。」

 思いのほかきつくなったその口調に真央はびくっと体を震わす。

 俺は、そんな真央の肩を抱き寄せてその場を離れた。

 強く感じた独占欲。

 俺はその時に、自分の気持ちを自覚して、フウッと小さくため息をついた。

  

「これからは、名前で呼んで。

 こういう時には”おにいちゃん”じゃ弱すぎる。」

 真央への想いは、スッと俺の心になじんだ。

 きっと俺の心はもうずっと前から真央を思っていたんだと自然に納得出来た。

 けど、恋愛ごとに本当に疎い真央に無理はさせたくないと思い、俺は少しずつ前へ進もうと決めた。

 

 真央が俺を名前で呼ぶ。

 真央が俺を頼る。

 真央が俺に微笑みかける。

 真央が俺に涙を見せる。

 

 真央の存在は俺の中で大きく大きくなっていった。

 

 そんな時に美代子さんは発作を起こした。


 たまたま俺と電話で話をしている時で、俺は苦しむ美代子さんと一緒に救急車で病院へ行った。

 そしてそれから美代子さんの心臓病と付き合うことになった。

 

 すべてが真央のため。

 

 目的が一緒の俺と美代子さんは、それまで以上の信頼関係を結ぶことになる。

 けれど、本当の家族ではない俺に、美代子さんはある一定以上の距離を保とうと必死だった。

 

 きっと真央の存在がなければ、俺は美代子さんの意志に従っていた。

 基本、俺は自分のことは自分で決めるべきだと考えている。

 アドバイスとかは別で、自分の人生の決定権は自分にあるべきだから。

 けど、真央のことを考えたら、美代子さんの言うことは聞けなかった。

 俺は真央のことになると、自分を抑えきれなかった。


 けれど、それは美代子さんの負担を減らしながらも、増やしている。

 

 俺の出来ることはなんだろう。

 どうなれば真央も美代子さんも幸せになれるだろう。


 真央を幸せにしたい。

 美代子さんを救いたい。


 そして俺は考え至った。


 真央に気持ちを伝えよう。

 俺を好きだと・・・俺と結婚したいと思わせよう。

 そして真央と美代子さんと家族になって、家族として支えよう。


 そう思った瞬間、俺はあまりの幸せな未来に眩暈を起こした。

 俺の願望。

 その願望がこの考えの源だとしても、俺はもう突き進むことしか出来そうになかった。

次は俊介視点を・・・書く予定です!?

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