変化
「どっちが重傷なんだろうか。」
そう言いながら、俊介さんはリビングの冷蔵庫から、水のペットボトルを2本出し、1本を渡してくれた。
「ありがとうございます。」
穴があったら、本当に入りたい。
私はこの人に何を言ったの?
お母さんや和臣君の事なんて、全く関係ない人なのに。
けれど、お母さんへの不安や、和臣君には言えない気持ちを口に出して、なんだか少し気持ちが落ち着いた。
「話してみろ。
聞いてやる。」
すごく大柄な言葉。
けど、私の少し離れた隣に座ってこっちをちらっと見たその眼からは、心配をしてくれている事が直ぐに読み取れた。
どうしようと、少し考えたけれど、少し(思いっきりだったけど・・・)吐き出しただけで、不安で押しつぶされそうだった気持ちが、少し救われたから。
私は俊介さんの言葉に甘えて、ゆっくりの今の現状、お母さんが居なくなるかもしれない事への恐怖、和臣君が色々してくれている事への申し訳ない気持ちと、和臣君にいつか返すつもりでいる今までの、そしてこれからの莫大なお金への不安を話した。
「和臣君が私なんかを好きだと言ってくれた事が信じきれない。
だって、本当のお兄ちゃんと妹の様に付き合ってた。
本当に本当に大切で、大好きでだけど、付き合いたいなんて、考えた事ないし。
和臣君がそう言ってくれるのは、私たちの事を心配している気持ちが気付かない内に作用しているんじゃないかって。
その気持ちを本気にして、和臣君にOKをして・・・いつか和臣君が自分の気持ちが勘違いだったって気が付いた時に・・・それでも和臣君は私を見捨てたりはしない和臣君の負担になりたくないの。」
私がそう言うと、俊介さんは軽く鼻で笑って、私を見た。
「まず、和臣は勘違いなんかしていない。
和臣がお前に告白してきたという事は、確実にお前が好きなんだ。
万が一、今後和臣が他の女を好きになったとしても、絶対に勘違いだったなんて思う事は無い。
お前に告白している地点で、あいつは自分を・・・自分の心をしっかりと見つめなおした後だから。
あいつが何かを決断する時は、徹底的に自分を見つめなおし、分析しつくした後だから。
だから、それを勘違いかもしれないと思うのは、まず無駄。」
あんなに悩み続けた問題の一つを、“無駄”の一言で片づけられて、私はあっけにとられる。
「あと、お前はあいつを兄としてしか見ていない事を悩んでるけど、それも、無駄。
あいつが本気でお前を落とそうとしているなら、お前は落ちるね。
あいつをどんな形であれ、好きだと思っているならなおさらだな。」
当たり前の事を言っている様に、発された言葉。
私は何故かゾクリと体が震えた。
だって、私だって、和臣君をよく知っている。
こうと決めた事への対応の早さと積極性。
「お前がもう少しゆっくりと考えたいんなら、出来る限りあいつを避ける事だな。」
再び鼻先で笑いながら。
けれど、楽しい物でも見つけた様なその表情に、私は自分の立場をしっかりと把握した。
「俺が言えるのはこれくらいだな。」
あからさまにニヤッと笑った俊介さんの腕を、私は思わず叩いてしまう。
「楽しむのはやめてください!」
「これくらいの楽しみが無くっちゃ、面倒な同居人の面倒を見れないからな。」
―?―
「親の手術が成功で終わるまでお前は一人になる事を禁止。
また発作が起こると危ないから。
家にいる間で、和臣が居ない間は、俺の目の届く範囲にいる事。」
え~!?
「本当は和臣に見張らせておきたい所だけど、半引きこもりの俺と違って、あいつは家を空けることが多いから、俺が見ててやる。
ただし、目の届く範囲に居ればいいだけで、俺の生活に干渉はするな。」
「そんな・・・私は一人でも大丈夫だよ。」
私の言葉に、俊介さんは再び鼻先で笑う。
「説得力ゼロ。
とにかく言う事を聞け。命令だ。
ま、ドアを開けておくくらいで、今までと変わらない生活だけどな。」
それを聞いて、私は頷く。
目の前で心配をかけたのだから、仕方がないかもしれない。
「じゃぁ、迷惑をかける代わりに、ご飯とか準備してもいいですか?」
私の提案に、俊介さんは首を振る。
「でも、それじゃぁ、申し訳なくって。」
私がそう言うと、俊介さんはしぶしぶうなずく。
「和臣が居ない時だけ。
俺は生野菜を食べないから・・・いつものサラダは絶対に手を付けないからな。」
朝のサラダに手を付けない理由を聞いて、少しほっとする。
「はい。解りました。」
そうして、私の同居生活が急激に変化した。
意外と優しい俊介。
やっぱり半引きこもりだったけど。
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