危険なお風呂
和臣君はお風呂にお湯を張ってから仕事だと言って家を出て行った。
お風呂のお湯は、少しぬるめで・・・ゆっくりと私は体を温めた。
この温かさは和臣君の優しさで。
そんな優しさも、時には厳しく、時にはワンマンな和臣君も私は大好きだった。
けど、恋愛対象・・・っていうか、いきなり結婚対象・・・と言われれば正直戸惑ってしまう。
今まで私は誰かと付き合いたいと願うほど好きになった人が居なかった。
勿論、かっこいいなとか、は、有るけど、どんな人も和臣君と比べて、やっぱり和臣君の方が・・・って結論に至って、自分のブラコンぶりをしっかりと自覚していたりもした。
告白も何度か受けた。
けど、恋愛は本当に大好きだって思える人としたかったから、私は今まで誰とも付き合った事も無い。
こんな私が和臣君の気持ちに答えられる日が来るのだろうか。
結局和臣君の事はそういう対象に見られませんでした、なんて、和臣君は良くても、申し訳なさ過ぎて、私には耐えられない。
正直、今は、断りたい。
いつか本当に和臣君の事を恋愛上の好きだと思って付き合いたい。
けど、お母さんの事を考えると断るなんて、出来やしない。
そこまで考えた時、すごく近くで扉の開く音がした。
びっくりして入口の方を見ると、脱衣室に人影が!!
「あ、あ、」
言葉にならない声を上げると、ガタッと音がして、人影が後ずさる。
「なんでこんな時間に風呂に入ってるんだよ!」
そして怒鳴り声。
久しぶりなのに、怒られてる私って・・・。
「す、すみません。今お風呂を掃除して上がりますから。」
どもりながらも、そう答えると、かすかにため息が聞こえた。
「洗うなら、俺の入った後にしてくれ。
湯は沸き増ししておけ。」
「はいっ!」
私の返事を聞くと、俊介さんは直ぐに脱衣室から出て行った。
すっごいドキドキした。
無防備に昼間にお風呂に入っていたけど、きっと私が居ない時間が俊介さんの活動時間なんだろう。
私はバスタブからゆっくり立ち上がると、湯船を見つめる。
俊介さんはこのお湯を使うの?
そう考えると、無性に恥ずかしい気持ちになってきて。
私は少し悩んでお風呂のお湯を抜いてやっぱりお風呂を洗うと再びお風呂にお湯を張った。
沸き増しって言っていたから、少し熱めにしておいた。
「遅い。」
部屋に声を掛けに行こうと思ったら、リビングからテレビの音がして、リビングに入ると、ソファーに座っていた俊介さんが振り返りもせずにそう言った。
「すみません。」
謝ると、ゆっくりと俊介さんは立ち上がり、私に一瞥をくれて立ち上がってそのままお風呂に向かって行った。
私は思わずため息を付いて冷蔵庫へ。
冷たいアクエ〇を取り出して、ソファーで飲む。
ついていたテレビを消すと、再び、お母さんと和臣君の事を考える。
頭の中では、ぐるぐると同じ事が回るだけ。
「あーっ!」
バカで決断力の無い自分に、呆れて、思わず声を出した時、“ガタンッ!!”と風呂場の方から大きな音が聞こえた。
私は驚いて風呂場へ向かった。
「俊介さん!?」
呼んでも返事がない・・・。
私は一気に血の気が引いて、体中が震えだした。
「俊介、さ、ん。」
もう一度声を掛けると、『う・・・ん。』と微かに声が聞こえて。
私は風呂場の扉に手を掛けて、震える手で扉を開けた。
そこには広いはずの風呂場の洗い場でうずくまる様にバスタブに寄りかかっている真っ赤な体をした俊介さんが居た。
「貧血、だ。大したことは、無、い。」
弱々しい声。
私はとりあえずタオルを一枚水に浸し、俊介さんの額や頬や首元を冷やした。
俊介さんは気持ちよさそうな顔を一瞬見せたが、直ぐに目を閉じると、私の手を力なく振り払った。
「もう大丈夫だ。出て行け変態女。」
何でこんな状態でそんな口がきけるの!?
私はショックよりも怒りが沸き起こり、思わず振り払われた手で再びタオルを掴み、力強く顔をタオルで押さえた。
「こんな状態で、何言ってるんですか!
とにかく逆上せてるみたいだから、体を少し冷やしてくださいっ!!」
私の大きな声に、俊介さんは一瞬驚いた様だったけど直ぐにいつもの俊介さんのムッとした表情に戻った。
「お前みたいなガキは俺の趣味じゃないから、俺の体で欲情されても困るんだ。」
な、何を~!!
「私だって、趣味じゃないし、変態じゃないです!
こんな状況で死んでしまう事も有るのに!」
”死”・・・その一言を口にしたその瞬間、私の目から涙が噴きだした。
一瞬で目の前で倒れたお母さんの事が頭に浮かんで。
「不健康な生活を送って、周りの人に心配かけてるのが解らないんですか!?」
泣きながら叫んでいた。
「倒れたりしないで!
死んだりしないで!
自分は承知で無茶してたとしても、周りにはそんな事全く関係ないんだから!!」
夢中で叫ぶ。
これは誰に向かって言っている言葉なのかすら、もう解らない。
ぐちゃぐちゃな思考の中、だんだんと息苦しくなってきた。
「おい、落ち着け、呼吸がおかしい。」
俊介さんの声色が変わる。
さっきまで寄りかかっていたバスタブから少し体を起こし、いつの間にか座り込んだ私の背に腕を回し、ゆっくりと撫でてくる。
「俺はもう大丈夫だから。」
そう言って撫でてくれる腕を私は振り払った。
「お母さんの、薬の存在を、何で和臣君だけが、知ってたの!?
何でお母さんは、死にそうな、発作を起こすまで、私に病気の事を、話してくれなかったの!?」
ずっと引っかかっていた。
その事が。
私が子供で、お母さんの支えになれなかった事が悔しい。
「私が、もっと、しっかりして、たら、お母さんは、打ち明、けて、くれ、たの!?」
そしたら、もっともっとお母さんを労われたのに。
「けど、私だって、自分なりに、頑張っ、て、来た、つもり、なのに、結局、和臣君、しか、お母さんを、助、ける、事が、出来ない、なん、て・・・。」
自分の呼吸が苦しくて、苦しくて。
それでも感情は昂ぶりは止まらなくって。
「お母、さん、お母、さん・・・。」
最後は何度も何度もお母さんを呼びながら喘いでいた。
「落ち着けって言ってるだろ・・・。」
苦しくって、視界がぼやけてきたその時、俊介さんのつぶやきを聞いた。
その瞬間、私の口は俊介さんの口でふさがれた。
何度も向きを変えて、その度に重なりは深くなる。
あまりの驚きに、思考が止まり、呼吸も止まる。
その瞬間、俊介さんは唇を離すと、私が持ってきた乾いた方のバスタオルを何回か畳んで、私の顔に当て、そのタオルごと私を力強く抱きしめた。
再び優しく背中をさすり、“大丈夫だ”と何度も何度も呪文の様に繰り返してくれた。
俊介久しぶり。
どう動く?・・・動かない!?
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