状況の変化
それからふた月が過ぎた。
勉強もそれなりについていけている(つもり?)し、大学の外でも付き合いのある友達もできたし、和臣君の仕事も簡単なことからだけど始めていて、それなりに充実していた。
ただお母さんの方は最近顔色が悪い気がしていて、心配していた。
そんな時、お母さんが発作を起こしたと病院から連絡が入った。
私は震える手と声で和臣君に連絡をした。
和臣君は私を迎えに来てくれて、一緒に病院へついてきてくれた。
お母さんはナースステーションの隣の部屋にいた。
看護師さんからナースステーションの窓越しにお母さんの様子を見せてもらった。
ぐったりとしたお母さんの様子。
私と和臣君は、言葉も出なかった。
「ちょっと、いいかな?」
声がすぐ近くで聞こえて、振り返ると和臣君の肩に手を乗せた担当のお医者さんが立っていた。
「佐々木君も、勿論一緒に。」
和臣君は、家族立ち合いのすべてに彼が立ち会うことへの許可を既に取ってあって、こういう話の時にはいつも当然の様に一緒にいてくれる。
それは本当に心強くて・・・。
私はそれに甘えていることを自覚しながらも、和臣君の袖を震える手でつかむ。
そんな私の肩を和臣君はギュッと抱いてくれた。
その腕は、確かに震えていた。
「ここはしばらく使わないから、少し休んでいくといい。
帰るときは、ナースステーションに声をかけて。
これから大変だと思うけど、不安なことは何でも言って。相談に乗るから。」
先生はそう言うと、部屋を出て行った。
”次に発作が起きたら命の保証は出来ない。次の発作が起きたら、直ぐに手術を行う。”という言葉を残して。
「和臣君。」
もう視界はほとんどない。
けど、肩に乗せられた腕と、私の手を包んでくれる大きい和臣君の手の温かさが私を前に導いてくれる。
「俺がそば居る。」
・・・けど、こんな苦しい道に、和臣君を道連れにしていいの?
・・・けど、私はこの手を放す勇気は、無い。
お母さん、お願い、頑張って。私を置いて行かないで。
ごめんなさい、和臣君。強くなる様に頑張るから。もう少し、この手を離さないで。
ぼそぼそと声が聞こえて、目を覚ますと、私の視界にリビングのテレビの真っ黒い画面が見えた。
顔の周りまで感じる暖かな布団の感触。
そして、左側の頬の下には、固い・・・・・・・・・・・!!!
びっくりして飛び起きる。
隣には同じくびっくりしてこっちを見ている和臣君がいた。
「悪い、後で掛け直す。」
そして、そう言うと電話を切って、私に微笑みを見せた。
「おはよう。」
いつもよりも優しい笑顔。
「お、はよう。」
状況についていけなくって、ゆっくり返事を返しながら、頭をフル回転して状況を分析。
病院からは、和臣君に支えられるようにして車に乗って、帰った。部屋までもそんな感じ。
記憶は微妙におぼろげ。
それでも、このソファーで和臣君に背中をさすられながら、泣いていたことを覚えている。
けど、けど、それ以上の記憶が・・・なかった。
窓の外が既に白み始めていて・・・私は泣きすがりながら、いつの間にか寝てしまっていたんだと言う事を自覚した。
「ごめんなさい・・・。
ありがとう。」
和臣君は寝れたのかな。
ジャンバーを着たまま、足にはソファーにいつも置いてあるひざ掛けが掛っているだけの状態。
私の使っていた布団は私のじゃないから、きっと和臣君の。
すがりついて寝てしまった私を起こさない様にこんな状態で朝までついていてくれたんだ。
「どういたしまして。
けど、俺も一人になりたくなかったんだ。」
クシャッと頭を撫でて、そのまま私の肩を抱き寄せる。
「俺にとっても、もう一人の母親って感じだし。」
言われて、私はジワッと涙を浮かべて、うなずいた。
そんな私の顔をそっと覗きこんだ和臣君は私から少し体を話して、真剣な瞳で私を見つめた。
「ちょっと話があるんだけど、大丈夫か?」
まじめな声に、私は頷く。
「美佐子さんの心配事を軽くする方法を考えたんだ。」
私はびっくりして和臣君から体を離して振り仰ぐ。
和臣君は私をまっすぐ見つめて、ゆっくりとその考えを話しはじめた。
「美佐子さんの心配事は、真央、君なんだ。
医療費の負担をかけてしまうであろうこと、真央に自分ついていられない上に、精神的にも負担を負わせてしまうこと。
それを少しでも解消出来るように、俺達は一緒に生活する事になったよね。」
そう。お母さんは入院し始めの頃から最低でも3か月は入院する事になるって言われて。和臣君は自分の所に私を引き取る事を提案してくれた。
私が寂しくないように。
「けど、美佐子さんの心配事は正直解消されていない。」
それもわかってる。
あまりにも大きな負担を、いくら和臣君からの提案だと言っても、背負わせてしまっているということだ。
勿論生活が落ち着いたら和臣君が何と言ってもお金は返していくつもりでいる。
けど、それだってどうしても長い期間がかかるだろうし、負担は金銭面だけではなく、こうやって甘えたな私の生活の面倒まで見させてしまっている。
解っているけど、和臣君は私たちから手を放す気は全くなさそうだし、私もそんな強引な和臣君の手を何が何でも離す・・・という強さは、持てなかった。
お母さんはそんな私の弱さも知っていて。
お母さん一人だったら、きっとここまでの手助けを受けることはしないはず。
だけど、最後の最後には和臣君の差し出した手を取ってしまっている。
「だから、俺と結婚しよう。」
それは、あまりにも唐突な、和臣君からの提案だった。
まだまだこれから。和臣のターンは続きます。(笑)
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