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幸せということ  作者:
4/10

甘い、飴

「おはよう。」

 リビングに入ると、和臣君が台所でコーヒーの準備をしている。

「おはよう。」

 挨拶を返して、私もキッチンへ入る。

 

 ほぼ毎朝の光景。

 コーヒーの香ばしい香りをかぎながら、私はフライパンを出し、卵を焼く。

 水を少し落として蓋をして、火加減を調節すると、冷蔵庫を開けて牛乳を取り出す。

「今日は俺もこっちにしようかな。」

 そう言って和臣君は私の分と一緒にバターロールをオーブンへ。

 私は冷蔵庫から野菜を出して、軽く水で洗って水切りをし、食べる分だけカット。

 お皿は和臣君が出してくれている。

 大きめのお皿二つの端に、軽く盛る。

 そして、少し小さめなお皿にも。

 これは俊介さんの分。

 一度も食べてくれたことは無いけれど、毎朝、サラダを用意している。

 食事を用意しようとしたら、和臣君に止められた。

 偏屈な俊介さんには迷惑なだけだからって。

 俊介さんは放っておかれる事を一番望んでいるし、私がここで生活をおくる事を許すに当たっての唯一の条件だからって。

 追い出されても困るし、望まない事を押し付ける訳にはいかないから、私は食事を用意する事を辞めた。

 けど、朝食のサラダはとってもおいしいし、体にもいいから。

 それに、食べて貰えなかったそれは、夕ご飯で食べればいいし。

 和臣君にお願いして、それだけは認めて貰った。

 ただ、俊介さんは殆どこっちの冷蔵庫は使わないから気付かないであろうこと、それに気付いても食べないであろうこと、そして、それでも私が落ち込まないことの念を押された。

 パンは有れば勝手に食べるみたいで、早くも私は近所のパン屋さんの常連さんになりつつある。

 俊介さんは私と同じバターロールが好きみたいで、バターロールとたまにホテルブレッドが減っている。

 “よかったら、食べてください。”

 メモを付けて、サラダを冷蔵庫へ。

 そしてフライパンの蓋を開けて卵をお皿へ乗せる。

「勉強、ついていけてるか?」

 オーブンがチンと鳴り、オーブンからパンを出し、それもお皿へ。

「うーん。今のところは大丈夫だとおもう。」

 だいぶ生活にも慣れた4月末。

 けど、正直勉強についていくのは大変だった。

 講義の後で新しく出来た異様に頭のいい友達にもう一度説明してもらったり、家に帰ってからネットで調べたり。


 今は和臣君のお仕事の手伝いも少しずつ始めている。

「今日は外で食事しようか。」

 和臣君はコーヒーをカップへ入れながら、優しく微笑む。

「うんっ!」

 和臣君は私を甘やかす天才。

 私が少しへばってきていることに気がついてくれてるんだ。

 仕事の時は容赦ないけどね。





 


 待ち合わせは病院。

 本当に学校と家が病院に近く、私はほぼ日参だった。

「お母さん。」

 病室に顔を出すと、お母さんはベッドを半分起こした状態でゆっくりと私に顔を向けた。

「おかえりなさい。」

 優しい微笑み。

「ただいま!」

 私も笑顔で挨拶を返す。

「そろそろ来る頃かなって思ってた。」

 私はお母さんのベッドの脇に椅子を運び、そこに座る。

「今日はいつもより元気ね。」

「うん。和臣君が外でごはん食べようって。」

「そう、よかったわね。」

 そんな私にお母さんはクスクス笑った。

「まだまだ色気よりも食い気みたいね。」

 えーっ!?私、そんなに食い意地張ってないもん。

 そう思い、思いっきり否定をしようとした瞬間、ゆっくり扉が開き、お母さん同様クスクス笑いながら和臣君が病室に入ってきた。

「確かにそうかも。」

 二人でクスクス笑うその姿がちょっと癪に障る気もしたけど、久しぶりにお母さんが元気そうにも見えて、私は笑われてるのに、嬉しい気持ちでいっぱいになった。

「そんなに食い意地は張ってないけどね。」

 ・・・一応訂正はいたします。


「和臣君、甘やかしちゃだめよ。」

「解ってますよ。

 飴と鞭をしっかり使いこなしてるだけですから。」

「食事は飴なの~?」

「そ。仕事は鞭!

 大丈夫。俺はそんなに甘くないですよ。」

 私にきっぱりと言い切った後、和臣君はお母さんにそういった。

 うーん。確かにそうなんだよね。

「そうだよ、お母さん。和臣君は、優しいけど、厳しいじゃん。」

 そういった私に、お母さんはすかさず頷いて見せた。

「確かに!」

 実は私だけじゃなく、お母さんも和臣君に怒られた事が有る。

 私たちは顔を見合わせて笑い出した。


 あ、お母さんちょっと苦しそう。

「美代子さん、笑い過ぎ。

 ちょっと落ち着いて。」


 私が気づく前に立ち上がった和臣君が、優しく背中をさする。

「ごめん、お母さん。」

 私もあわててお母さんの背中に手を入れさする。

「大丈夫よ。和臣君が、心配し過ぎなだけ。」

 そんなお母さんの言葉に、和臣君はため息を一つ零すと、立てていたベッドを戻した。

「はいはい。俺は心配性だから、安心させる為に、少し落ち着いてくださいね。」

「しょうがないわね~。」

 強がっているお母さんの返事。

 少し息苦しそう。

 私はお母さんに布団を掛けなおす。

「私、頑張ってるから。お母さんも頑張ってね。」

 私の言葉に、お母さんは勿論、と微笑みながら答えてくれた。





「もう少し、気を付けないといけないな。」

 食事中。反省会。

「うん。」

 和臣君は、落ち込む私の頭をクシャッと撫でる。

「明日は一緒に新しい花を持っていこう。」

 私は頷いてそれに答える。

「落ち着いた色にしようね。」

「そうだね、そうしよう。」

 夕食は私の元気の素の中華。

 

 和臣君チョイスの私への飴。


 けどね、和臣君・・・甘すぎて、ちょっと涙が出そうになるよ。

そろそろ話が進み始めます。

 

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