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幸せということ  作者:
3/10

期待と不安

「疲れた~。」

 一人の部屋。

 私は思わず声に出してそう言った。

 

 結局荷物は一人で片付けた。

 もともと荷物は少なかったし、服とかの私物も、和臣君に片付けて貰うのは少し恥ずかしかったし、家具は揃ってるからと、持ってきていなかったから。


 たたみ終わった段ボールを支えに立ち上がり、改めて部屋の中を見渡す。

 本当に広い部屋。

 まだ少し寒さが残るこの時期なのに、温かい日差しのおかげで部屋の中は本当に心地よく、光を浴びた気持ちよさそうなベッドに私はふらふらと歩み寄り、ゆっくりと座ってみた。

 柔か過ぎず、固すぎず。

 そして、新しい手触りの布団カバー。

 色は私の好きな薄いピンク。

 私は思わず布団に顔をうずめる。


「気持ちいい~!」


 日の光で温められたフワッフワの布団が、本当に気持ちいい。

 今までお母さんと一緒に小さい部屋で、慎ましいと言える生活を送ってきた私には、夢の様な生活。

 もともとうちとは違い、大きい会社の重役をしているお父さんを持つ和臣君とは生活レベルは違っていたけど、親の援助も無く、一人でこんな生活が出来る和臣君を本当に尊敬してしまう。


「真央、ご飯出来たよー。」

 そのまま寝てしまっていたようで、和臣君のこの声で目を覚ました私は、飛び起きる様にベッドから降りて、リビングへ向かった。




「ごめんね、私の仕事なのに。」

 しょんぼりしてしまう。

 いつの間にか寝てしまって、私は結局本来自分がやるべきごはん作りを和臣君にやらせてしまった。


「いいよ。引っ越し当日にこき使うつもりはなかったし、真央、部屋の片づけ手伝わせてくれなかったし。」

「だって荷物少ないし、なんか、ちょっと・・・。」

 少し顔に熱を感じながら、うつむくと、和臣君は、クスッと小さく笑う。

「さ、冷めない内に食べよう。」

 うん。おいしそう。


 元々料理の上手な和臣君。

 ナスとキノコとベーコンのスパゲティーと野菜サラダ、チーズがのっている野菜スープ。

 どれもおいしそうで、なんだかハードルを上げられてしまった気がした。

 けど、とってもおなかがすいていた私は、直ぐに気持ちはそっちに行って。

 おいしくご飯を平らげてしまった。

「洗濯は各自。

 食事と掃除は真央に頑張ってもらいたい。

 もちろん、俊介の部屋は立ち入り禁止。

 俺の部屋も、俺が頼んだ時だけにして。

 月の1/3は忙しいから、日常的な手伝いは期待はしないで欲しい。

 食事も、余り一緒には出来ないと思う。

 朝は真央が起きた時に俺がリビングに居たら用意して。

 それ以外の時は、用意しなくていい。

 明け方まで起きていて、ってパターンが多くて、朝は食べないことが多いから。

 夜も、用意してもらいたい日は連絡する。

 済ませて帰る日もあるし、仕事に集中したい日もあるし、家に帰らない日もある。

 後、会社の仕事の方は、1、2週間位してここでの生活になれたら始めよう。

 俺も俊介も今ちょっと立て込んでるし、それくらいになったら、ゆっくり説明するよ。」

 そっか・・・和臣君も忙しいんだよね。

 ・・・仕事も実は楽しみにしてたりする。

 けど、1、2週間の猶予は正直ありがたいかも。

 それに、毎日普通の家族の様に仲良く過ごせるなんて・・・お母さんとだってそんなに一緒に過ごせる時間は少なかったし、ちょっと期待しすぎていた。

 和臣君には和臣君の生活が有るんだし、しようがないんだよね。

「うん、解った。」

 私が頷いて見せると、そんな私の頬にそっと手を添えて和臣君は、優しく微笑みを見せてくれた。

「そんな顔されると、仕事したくなくなっちゃうだろ。

 俺も真央との時間は大切にしたいと思ってるから、出来るだけ一緒に食事も取るつもりだよ。」

 和臣君の言葉に、私は今度はうれしくなって私も微笑む。

「ありがとう、和臣君。

 頑張っておいしい料理作れるようになるからね。」

「・・・真央の料理は十分おいしいよ。」

 そう言った和臣君の表情が甘く揺れた。

 たまに見せるこの和臣君の表情は、見る度私の心臓をドキッとさせる。

 本人は無自覚なのだろうけど、本当にカッコいい和臣君が甘い微笑みなんて、本当に自重してもらいたい。(本人には言えないけど・・・)

 私は不自然でない様に視線をそらし、”ありがとう”と小さく答えた。






 

 ベッドの目覚ましが鳴る。


 手を伸ばして目覚ましを止めようとするけど、目覚ましがそこには無く、手だけをもそもそ動かす。


 そのうちに、布団の手触りの違いに気づき始め、ガバッと起きた。

「そうだ。和臣君の家に来てたんだった・・・。」

 慌てて目覚ましを止め、ベッドから立ち上がる。

「うーん。」

 気持ちのいい朝。

 カーテンを開ける。

 15階からの景色。

 朝の光を浴びて、キラキラ見える。

 

 私はそこでもう一度大きく伸びをして、ベランダに出た。

 空気はまだ冷たい。

「気持ちいい!」

 自然と口から洩れる程。

 目の前の景色を覗き込むと、道路が小さく見えて、日曜日のまだ6時なのに、車はぼちぼち走っている。

 学校はあっちかな。

 あ、お母さんのいる病院見つけた。

 じゃあ、学校はこっちかな。

 あ、グラウンド付の建物見つけた。

 今日から通う大学。

 正直、勉強も人間関係も上手くやっていけるか不安。

 けど、お母さんの病院も近いし、和臣君もそばにいるし、頑張らなくっちゃ!!!

 お母さん、頑張るからね。



 ・・・けど、最近、お母さんしゃべるのも辛そう。

 お母さんも頑張ってね。



 ベランダの手すり越しに病院を見つめてお母さんのことを考えていると、急に首根っこをつかまれて、私はベランダの手すりから体を離された。


「キャッ!」

 驚いて小さな悲鳴を上げる。


 そして顔を上げると、そこには昨日の俊介さんが呆れた顔をして立っていた。


「お、おはようございます。」

 思わずどもりながらも挨拶をした。

 そんな私に、俊介さんはフーッとため息を一つこぼす。


「解ってるかもしれないけど、ここは15階。

身を乗り出すな。落ちたら死ぬ。

 ここで死なれたら迷惑だから。考え事しながら身を乗り出すなら、別の場所にしろ。」

 それだけ言うと、クルット身をひるがえし、さっさと自分の部屋に向かって歩き出した。


 心配してくれた?

 けど、結構キツイ事言ってったよね。

 

 感謝をしたらいいのか、怒ったらいいのか解らない。

 元々、怒ることも少ないんだけど。


 思わず悩んでしまったけど、とりあえず心配をしてくれたんだからと、“私はありがとうございます。”と声を掛けた。

 

 そんな私に、少し驚いた顔で振り向いた俊介さんは、それでも直ぐに顔の向きを戻して部屋に帰っていった。


 余り顔を合わす事も無いと言われた俊介さんだけど、突然現れた見ず知らずの私を邪魔にすることも無く受け入れてくれて、心配までしてくれた。

 

 なんだか少し、ここの生活への不安が和らいだ気がした。

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