HERO―アイ―
0、
小さい頃、きっと男の子なら誰でもヒーローに憧れた事があるのではないだろうか。
まぁ無論何事にも例外というのもは存在するかもしれないが、例に漏れず翔は幼少期ヒーローに憧れた男児の中の1人である。
今でも忘れない5歳の時に見たヒーロー映画の主人公。
助けを請われれば、相手がどんな人であろうと決して見捨てずに助け、
醜い悪を倒し、困っている人を一発で助け出す主人公。
そして毎回世界に平和を取り戻し、みんなの笑顔を守る…そんなヒーローに憧れを抱いた事があった。
「…僕、将来ヒーローになる…っ!」
5歳の誕生日プレゼントに買ってもらった変身ベルトを腰に装着して、なんとなくヒーローのようなポーズをとりながら兄の前で宣言する翔。
そんな翔を見ると、高校生の兄は目をパチクリさせてからクスクスと笑いだした。
何がおかしいのかわからず、翔はむすっとして、
「なんだよー! 僕本気だぞ! 本気でヒーローになるんだからっ!」
「はいはい、お前の本気はわかったよ」兄は相変わらず笑いながら、「…で、ヒーローになってお前は具体的にどうするんだ?」
「具体的に? それはもちろんっ、困ってる人を助けてー、世界を平和にする! 世界を救うっ!」
目を輝かせながら言うと、兄は「おお」と感嘆の声をあげた。
その声を聞いて、やっと自分の本気がわかってくれたのか、と翔は満足げに「えへへー」と無邪気な笑顔を浮かべる。
そんな翔に対して微笑みながら、兄はポンポンと翔の頭を撫でて、
「じゃ、この世界の将来は安泰だな。小さいヒーローさんのお陰で」
「任しといて…! そういえば、お兄ちゃんは将来何になりたいの?」
「え、俺か?」
随分唐突な質問だな、と兄は少し悩む素振りを見せた。
まぁ翔としては尊敬する兄が一体何になりたいのか非常に気になった一心だったわけだが。
案外難しい質問だったのか兄はしばらく悩んで、そして翔の方を見てまた微笑みながら、
「そうだな…、俺もヒーローになりたいな」
「ほんとっ? お兄ちゃんも一緒なら百人力だね…!」
「んー…といっても、俺はお前のなりたがっているヒーローとは少し違うかな。世界は世界でも、この世界なんて広い世界じゃなくてたった1人の奴が願ってる世界とでもいうのか」
どういうことだろうか、ときょとんと首を傾げる翔。
兄は「やっぱ難しかったか」と苦笑するが、相変わらず意味はわからないままだ。
流石に5歳児では兄のいう事を理解するのはなかなかに難しかった。
「まぁ要するに、自分の守りたい奴を守れる人間になりたいってことさ」
「…お兄ちゃんの守りたい奴って…?」
「まぁもちろんお前ら家族もだが…、」そう言って兄はここ一番の笑顔を浮かべて、「他にもいるんだ。本当は誰かに助けてほしいのにそれすらいえず1人でなんでも背負い込んでしまう優しい奴が。そいつを守れるヒーローになりたいよ」
そう言った兄の笑顔は、今まで翔が見たどの笑顔よりも輝いていて、
兄ならきっとその人のヒーローになれる。
翔はそう信じて疑う事がなかった。
そう――あの日、兄が死体になって帰ってくるまでは。
あの瞬間、翔にとって一番のヒーローは失われた。
そうして、翔のヒーローになりたいという夢はあっけなく崩れて行ったのだった。
1、
「………、」
目の前にそびえたつ巨大な金の龍。
それを見て、翔は最早言葉が出なかった。
開いた口が塞がらないとは今の自分を指すに相応しい言葉なのだろう。
そんなことを思いながら翔は汗ダラダラなまま笑みをつくり、
「わ、わー。す、すっごく大きな龍さんですねー♪ 確かに珍しい動物だー♪」
「だろう。人間に見せてやるのはお前が初めてだ、喜べ」
「わーい♪ ……って違うだろぉぉおおおおおおおおおおおお! なんだよあれ!? なんだよあれ!?」
翔が龍の方を指差しながら全力でツっこむと、金髪の男はふぅとため息をしてから、
「…見て分からないか? 龍だよ」
「そういう事を聞いてるんじゃないよ!? 何であんなのがここに!? 実在してたの!?」
「目の前に実在しているだろう」
ダメだ話が通じねぇ…! と思わず戦慄する翔。
龍は今のところは自分の周りをグルグルと旋回しているが、いつ襲い掛かってきてもおかしくない状況だ。
というよりむしろ、襲い掛かってこない方がおかしいだろう。
「まぁ仲良くしてやってくれ。俺のペットなんだアイツは」
「ペット!? ペットなの!? なんでもうちょい他の動物にしなかったの!?」
「…可愛いなと思ったんだ。ジョン」
「アイツ名前ジョンなの!? ネーミングセンスどうした!?」
「何か悪いか? ポピュラーな名前だろジョン」
「まぁそもそも龍の名前のポピュラーなのがどれとかそこからツっこまないとな気もするけど…!!」
ダメだこの金髪男何を考えているのか全く見当がつかない。
先ほどから龍の方を見ても全く表情を変えないが…、そもそも龍がペットってなんだよ。
何をどうすればいいかわからず、翔は頭を抱えてしまった。
「大体アンタさっき仲良くっていったけど」翔はきっと男を睨み、「どうやって仲良くするのさ…!」
「アイツは人間とじゃれ合うのが好きだから放っておけば勝手にじゃれついてくる」
もっとも、と金髪の男は続け、
「じゃれつかれて死ぬ可能性の方が高いがな」
それ以上会話を続けている余裕はなかった。
グルォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!! という咆哮が翔の耳を劈く。
その咆哮が、金の龍が翔の脳天めがけて襲いかかってくる合図だった。
「う、うわぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!?」
咄嗟に、頭を抱えたまましゃがみ込む翔。
その行動が幸いしたのか、龍は綺麗に自分の頭の上をかすっていった。
龍が自分の頭を通過した時の風圧で地面に倒れそうになりながらも、翔はガクガクと震える。
ああ、今の自分って傍から見たらどんだけ格好悪いんだろう。
そんなことを思わなくもないが、この状況なら流石に仕方ないのではないかとも思う。
『ど、どうしよう…!』
こんな時、尊敬する兄や、いつも冷静なユウマならどうするのだろう。
いくら考えてもこんな非現実を前に何も答えは出てこなかった。
グルォァァァアアアアアアアアアアアアア! と再び龍の咆哮が耳を劈いた。
「……!?」
今度は避けている時間はなかった。
目の前が金色に染まる。そしてその次の瞬間には、翔の体は宙を舞っていた。
宙を舞った体が地面に落ちて、痛みを感じるまでは何が起こったのか全く分からなかった。
金色の龍が行ったのは単純明快。自身の長い尾を横へ振った。それだけだ。
しかし、それだけの行為で翔の体はいとも簡単に吹っ飛んで地面へと叩きつけられてしまった。
肺の中の酸素がいっきに吐き出されるような、そんな気持ち悪い感覚に翔は口元を右手で押さえつける。
『う…、く、そ…呼吸が…』
ぜぇぜぇと息をつきながら呼吸を整えようとするが、全然落ち着かない。
今自分の心臓がどれくらい速い脈を刻んでいるのか全く想像もつかなかった。
『た、たないと…また次の攻撃が…ッ!』
地面にたたきつけられたせいか、自分の白を基調とした制服はすっかり泥で汚れてしまっていた。
顎が擦り剥けたのか、少々血が出ているのもわかる。
先程口元を抑えた時に自分の手についたその血を見ながら、翔は苦笑を零した。
『はは…何で…だろう』
何で、自分は今こんなことになってるのだろう。
今日も普段通りに過ごせるはずだった。
ユウマと普通に学校へ向かって、瑞希に怒られながら授業して、家に帰って家族と食卓を囲む。
そんな平凡で幸せな生活を送れるはずだったのだ。
〝早めに決断しないと大変ですよ。いつ殺されてもおかしくありませんから〟
朝に波音から聞かされた言葉が、今になって現実味を帯びてくる。
最初に聞いたときはそんなわけないだろう、と思っていた。
パーティーの事に関してもそうだ。いくつも仮説をたてることができても根拠はない。
きっとこれは何かの悪い夢だろう。ずっとそう思っていた。
思っていたが、流石にこの状況になれば翔だってわかる。このままでは本当に殺されてしまう、と。
『ああもうなんでこんなことに…! おかしいよ僕は普通の男子高校生なのに…こんなはずじゃないのにさ…!』
そんなこっちの思いは露知らず。
金色の龍は相変わらずバチバチと紫電を散らしていた。
目線がこちらへ向いていることから狙いが自分である事は嫌って程わかっている。
しかし、相手は体長10mの龍だ。普通の少年にどうにか出来るものではない。
ダラダラと滝のように流れる汗。
が、こちらの事情など全く知らない龍は真っ赤な眼光をこちらへ向け、
「グルォォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「うわぁぁぁあああああああああああああああああ!?」
自分へ向けて襲い掛かってくる金の龍。
龍の大きな口が大きく光られると、奥でギラギラと何かが光っているのが見えた。
ぱちぱち、と音をたてる、まるで炎のようなそれは。
――紫電だ、と認識した瞬間に翔は全てを察した。
『……あ…僕死んだ…』
これがヒーローものの映画ならば、ここで颯爽とヒーローが登場してくれるものだが、現実はそう甘くない。
だって、自分にとって一番のヒーローだった兄はもう死んでしまったではないか。
この世界には都合がいい時に現れるヒーローなんていないのだ。
だから今更助かるなんて思ってない。むしろここまで良く生き延びた方だ。
せめて両親に一言何か言葉を残したかった。それだけが悔やまれるが仕方ないだろう。
そうして死の覚悟を決めた翔だったが、
―――そんな翔に待っていたのは残酷な命の終わりではなかった。
視界が光る。
龍の口から紫電が放たれたのだとわかり、そのあとすぐだった。
どういうわけか、翔に届く前にその電光は四方八方様々へ散ってしまったのだ。
「…な…」
何故そんな事が起きたのか。
理由は翔の目の前に立つ――綺麗な銀色の髪をなびかせた少女にあった。
彼女は突如翔の前にふってくると、そこから虫でもはらうかのように、右手だけで龍の紫電を翔にあたらな場所へとはらったのだった。
「……、な…」
声が出せずにいると、龍がもう一度口を開いて紫電をはなとうとするのがわかった。
が、翔がそれに対して危ない、と少女に叫ぶ前に事は片付いていた。
それは一瞬、少女がただ、龍に向かって右手を伸ばした。それだけだった。
それだけで、目の前の龍が全身を氷で凍らされていたのだ。
「…ひとまずこれでしばらく動けないかしらね」
少女は納得したように呟くと、体は龍の方を向いたまま顔だけこちらを見た。
「遅れて悪かったわね。…大丈夫だった?」
透き通るような綺麗な声が、翔に向けられる。
目の前の少女と、凍った龍と、今まで起きた出来事を頭の中で整理して、
それから何もわからなくなった翔はしばらくぽかんとしてから、「き…、君は…?」と問いかけた。
肩から羽織っている黒いジャケットの袖と、彼女の綺麗な銀髪が同時に風になびいた。
改めてよく見ると、非常に綺麗な少女だった。
光り輝く水色の瞳に、紫外線なんてものに縁がなさそうな白い肌。
そして、先ほどのような事を出来るようにはとても思えない華奢な身体。
まだバチバチいっている先ほどの紫電すらも、彼女を引き立てるためのエフェクトにすぎなかった。
「…ああ、自己紹介がまだだったわね」
桃色の唇が、
翔への平穏の終了を告げるゴングのように、その言葉を告げる。
「私の名前はアイ。氷を司る神のアイ。……よろしくね、パートナーさん?」
「か、み…!?」
これが後に、パートナーとして通じ合い、様々な戦いを乗り越えていく、
氷を司る神のアイと、そのパートナー天道翔の忘れることの出来ない出会いだった。
と、いうことでようやく冒頭のシーンですよみなさん…!←
メインヒロインも登場して私は勝手にテンションマックスです!←
そして初めて挿絵らしき何かといれてみたのですが…入ってるかなちゃんと?←
まぁちょいちょい挿絵いれてこうかなぁと思います。
絵があると多少イメージがつきやすいかなぁ…と思うので…!
そんなわけで絵の練習も…ええ、頑張ります←
ではまた次回も早めの更新心がけますのでその時にー♪
ではではですよー♪
2015/11/7 追記;挿絵かえました。前の方はみてみんで閲覧可能です!