表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アヴェク・トワ  作者: リラ
Ⅲ Wind
41/49

動き出した時間

1、


『…リズが強制返還された…』 


 突如認識疎外がなくなり、フウの気配を読み取れるようになったことからアイはそう判断する。


 念のためリズの気配を探るが感じられないところからこの読みはおそらく間違いないだろう。


 これにて今回の戦いも一件落着、といったところだろうか。


『ま、フウも翔もそれなりに頑張ったわね』


 翔、という単語が脳内に浮かんだ瞬間にアイは目を伏せる。


 自分の頭をなでたあの大きな手で、幼馴染のことも抱きしめてなでていた。


『………、そうよ。要するにあいつにとっては大した意味はないってことじゃない』


 ならば自分も気にしなければいい話なのだ。


 そういう風に割り切れるはずだ。ただのパートナーなのだから。


 にも関わらず、


『どうしてこうもイライラするのかしら…』


 イライラ、というかもやもや、というかなんか変な感覚だった。


 そういえば10年前、光関連でもこういう思いをしたことがあるような気がしてデジャヴを覚える。


 しかし、それがなんだったかはよく思い出せない。


『…うーん…とりあえず先に帰ろうかな…』


 なんとなくこの状態で翔と顔を合わせたくはなかった。


 いや、会わなくてはいけないのだが、せめて落ち着いてから顔を合わせたいものだ。


 ならば少し先に帰って自分が落ち着くのを待つのが得策だろう。


 そんな思考に耽りながら体を翻すと、


「…本当に良かったのですか」


 待っていましたとでもいうように波音が待ち構えていた。


 気配が感じられなかったことから風属性お得意の気配を消すということをやってのけていたのだろうか。


 そんなハイスペックな彼女のその質問の意図がわからないままに、アイはとりあえずこくりと頷いた。


「…いいんじゃないの。今回も無事大団円じゃない」


「…大団円、なんですかね」


 まるで自分の気持ちを見透かされているかのような波音の発言にアイは渋い表情を浮かべた。

 

 大団円。


 その言葉通りはずなのに、この心のもやもやはなんなのだろうか?


「まぁアイさんが良いというなら私はいいのですがね」


「なによそれ」


「…しかし、これで残りの神は5柱ですか」


 今まで3柱倒して、アイとフウの2柱が協力しているのだからそういうことになるだろう。


 なんだかんだ3柱倒すまではあっという間だった感覚だが、


『今後はそうもいかないだろうし…』


 それよりも。


 アイ的に気になるのは、翔が刺されそうになった時に突如現れた炎だ。


 炎を扱う神には心当たりがないわけではないのだが、


『どう考えてもアイツではない。アイツが私を助けるわけはないし…、そもそも力がアイツの比じゃなかった』


 あの炎から感じられた力は、もっと大きなものだった。


 下手をすれば、あの炎を放った者は自分以上の実力者である可能性がある。


 歴代順位2位かつ、前勝ち抜き者である、自分以上の実力者である可能性が。


『ってあれ…? そもそも歴代最強の神って…誰だったっけ?』


 前にも、似たような感覚を覚えた気がする。


 いたはずなのに、どういうわけか思い出せない…そんな感覚。


 不思議な感覚に疑問を抱きつつ、アイはひとまず波音と共に倒れているであろうフウの元へ向かうのだった。






 そんな思考に耽るアイの遥か上空かなた。


 ふよふよと風に漂いながら1人の女性は口元に笑みを浮かべた。


「ふぅっ。危なかったわねー」


 それは、明るい女性の声だった。

 

 彼女は長い黒髪を風になびかせながら、ふんふん♪ と軽く鼻歌を歌う。


「やーねぇ。久々に炎出したらかなり力落ちちゃってたわ。…けど近くに人間がいたことを考えるとあれくらい抑えられたほうがよかったのかもねん」


 誰に話しているわけでもないその声は、歌のように軽やかで。


 明るい声色のまま、彼女は続ける。


「さて…ひとまず力回復のためにも、まずはパートナー探しからかしらねん」






2、


 7月9日。


 もうすっかり夏くらいの気温になったこの日、フウは横浜市内にある墓地に来ていた。


 リズ戦での負傷はもうすっかりわからないほどに回復し、神の治癒能力の高さを痛感させられた。


「ううううー…今日はなんだかあっついねぇ…」


 本来お嬢様である波音よりもお嬢様らしいブラウスを身につけた亜里沙が唸るように声を出す。


 久々にこの暑さだからなのか、すっかり参ってしまっているようだ。


 それに対して黒の日傘を差す波音は涼しげな顔で、


「日ごろから鍛錬していればこの程度の暑さ大したことはないですよ」


「……暑さって鍛錬でどうにかなるものなのか?」


 フウのツッコミも華麗にスルーして波音はすたすたと先を歩いていく。


 パートナーが死闘を繰り広げたというのに相変わらず涼しい顔つきの奴だなぁ、と思っていると、


「ふふふ、ああ見えて波音様が一番焦ってましたからねー♪ フウ君が最初にいなくなったとき☆」


「え?」


「な、何を言っているんですかカレン。そりゃ自分のパートナーに何かあったのではないかと思えば心配にもなります。足を引っ張られては困りますから」


「ふふふ、波音様ってば焦ると早口になりますよね可愛いー♪」


 カレンンンンン!! となんだか声になっていない波音の叫び声にフウは思わず笑いをこぼす。


 相変わらずな面々だが、やっぱり今はここにいる時が一番落ち着く。


「でも心配してた割に特にみんな治療とかはしてくれなかったよな…」


「まぁ神様だからすぐに治るのかなぁと」


「いやまぁその通りなんだけどな…! 実際もうピンピンしてるし…!」


「神様の治癒力で言えばちょっと刺されたくらいなら1日で治りますからねー。…特別な神具などを使わない限りは」


「さらっとお前重要なこと言ったよなぁ!? なんでお前がそんなこと知ってんだよ!?」


「そりゃわかりますよー♪ メイドですから♪」


「ああとりあえずその言葉が聞けて今はちょっと安心したよ!」


 フウが負けたらメイドですから、という言葉は使用禁止になるところだったのだから。


 これを聞くとああちゃんと勝てたのだなと思える。


 そんなことで勝利を実感するのもなんだか不思議な気がするが。


「まったく。フウ、ここはお墓ですよ。ぎゃんぎゃん騒がないでもらえますか」


「うぐっ…」


 波音に注意されると、フウはぐうの音も出なくなってしまう。


 相変わらず身分的には高い位置にいるはずなのに、このメンツの中では自分の立ち位置低い風を司る神だ。


 さて、と波音は言葉を区切り、


「では私と亜里沙は光さんのお墓へ。…カレンはお母さんのお墓でしたっけ?」


「そうですね。フウくんもきますか?」


「…ん、ああ、そうだな…」


 なんとなく光の墓参りに自分がついていくのは阻まれるのでどちらかといえばカレンの方へ行きたいのが本音だったし、フウはあっさり頷く。


 誘ってくれたカレンもそんな胸の内を理解していたのかもしれない。


 なんだかんだでこのメイドさんが物凄く気を遣えることを彼はよく理解していた。


「それでは波音様。また後ほど。…変な奴が現れたらすぐにそちらへ行きますからねー♪」


「流石メイド兼ボディガードだな…」


 正直波音が適わないほどの変な奴もそうそうは現れないだろうと思うのだが。


 そんなこんなで波音たちと二手に別れて、フウはカレンの後ろにとてとてとついていく。


 しかし、夏だろうがお墓に来るときだろうがメイド服なんだなぁと思っていると、案外カレンはすぐ近くの場所で足をとめた。


「お、もうついたのか?」


「ええ、ここです」


 心なしか普段より優しいカレンの目線の先にあるのは、咲城家之墓、とかかれたものだ。


 カレンの先祖達が代々眠っているそのお墓にカレンはそっと花束を供える。


 が、先客がいたのだろうか。既に花が供えられていた。


「……ユウマくんが来たんですかね」


「ん、妹じゃなくてか?」


「…お花のチョイス的にね。…ほんとマメな子ですからねー義理の弟くんは」


 そう言いながら、カレンはゆっくりとしゃがむとお線香に火をつけてそっと供える。


 細い煙がゆっくりと空へのぼっていく。


 彼女はそれをしばらく見つめた後に、ゆっくりと左手と右手を合わせると、目をつむって何かを語り掛けていた。


 今は亡き、彼女の母に向けて。


 母という存在がいないフウからすれば、一体今カレンが何を語り掛けているのかの想像はつかないけれども。


 それでも、


『亡き存在に…何かを伝えたい気持ちは…俺にもわかる、な』


 そんなことを考えていたら、語り掛けを終えたカレンがすでに目の前に立っていた。


 彼女は相変わらずこちらが何を考えているのか見透かしたかのような目線で、


「フウ君をこっちに呼んだのは向こうに行くと気まずいかなーって気を遣っただけではないんですよ?」


「…え?」


「実はですねー、日向さんのお墓…ここにあるんです」


「…え、なっ…!?」


 フウは思わず目を丸くした。


 日向には父親がいたが、その父親には虐待されていたし、確かにどうなったかは気になっていた。


 が、まさか


「い、いやいやこんな近くにあるって…!?」


「あなたが日向さんと会ったのはこの辺なんでしょう? なら日向さんの地元はこの辺。おかしくありませんよ。…ちゃんとお婆さんと同じお墓で眠っていますよ」


 ほら、とカレンが指した先には、確かに竹下家之墓、と書かれたものがある。


 見覚えのあるその苗字は紛れもなく、日向の苗字だった。


 フウはしばらくぽかんとしてその場に突っ立っていると、


「はい、これお花」


 カレンがいつの間にか持っていたお花をフウに差し出してくる。


 これを見越して買っておいたくれたのだろうか。


 相変わらず気の遣えるメイドさんである。


「では私は先に波音様の元に戻っていますから」


「ま、待てカレン、なんでお前…っ」


「リズさんとは決着つけたけど、結局過去と決着つけなかったでしょうあなた」


 ぎくっ、とフウの背筋が凍りつくのがわかった。


 確かにリズとの戦いには勝ったが、フウは正直過去に打ち勝ったとは言い難い。


 というのも、リズがフウに化けた時、結局フウはそのまま怪我を負ったし、もう一度リズが同じ手を使った際に勝てたとは思えないからだ。


 それを見透かしているカレンに驚きを感じつつも、メイドさんのスペックにはもう突っ込まないと決めたので何も言うまい。


「…別に決着なんて大げさなものじゃなくていいです」


 ただ、とカレンは続け、


「…言いたいこと、あるんじゃないですか」


「………なんでお前ってこう、いろいろお見通しなのかなぁ」


「メイドさんですからね♪ ってことで、私は先に波音様のところに行っていますからごゆっくり☆」


 おい、という前に気づけばカレンの姿は見当たらない。


 相変わらず忍者のような奴だな、と思ってからフウはゆっくりとそのお墓を見る。


「……日向…」


 名前を呼びながら、フウはお墓に花を供える。


 少し小さめのお墓だったが、思えは日向は人より少し小柄だった気がするし丁度いいのかもしれない。


 ツン、と鼻につく花の匂いがなんだかやけに切なく感じられた。


 何故だろうか。こんなに晴れた日は、特に思い出すからだろうか。


 日向と一緒にみた、春の景色を。


『言いたいこと、なんて…たくさんありすぎて…わかんねぇよ…』


 このこみあげてくる思いは、果たしてどこへゆくのだろう。


 一体、誰かに届いてくれるというのだろう。


 そんなことを思いながら、フウはお墓を見上げる。


 少なくとも、もう、――本当に伝えたかった人物に正確に届けることはできない。


 それでも、


「………日向…」


 あの最後の日、


 フウは彼女に何も言ってやることができなかった。


 最後に自分が彼女に言った言葉は、やめてくれ日向、戻ってきてくれ日向、の二点張りだった。


 あの日からずっと自分の中では時が止まっている気分だった。


 日向は、最後に自分に「ごめんね」と「ありがとう」の二言を伝えてくれたのに。


 フウは、伝えることができなかった。本当に、伝えたかったその言葉を。


 ――だから、



「……日向。――愛してる」



 過去形なんかじゃなくて。


 現在形で。


 あの日、伝えられなかった言葉を紡ぐ。


「…あの時のお前が、本当に心の底から笑っていたかなんてわからねぇ」


 けど、とフウは続け、


「…勝手かもしれないけど…それでも確かに俺は、お前の笑顔に救われたんだ」


 笑顔を見れるだけで幸せな気分になれたのは初めてのことだった。


 こんなにも、守りたいと思う笑顔は初めてだった。


 今でも鮮明に思い出せる綺麗な笑顔を思い出して、フウは言う。


「…だから、俺はお前が好きだよ」


 15年も遅くなっちまったけどな、とフウは付け足す。


 15年なんてフウからすればとるにたりない時間だが、日向にはそうはいかない。


「ふっ、そうだよなお前もう三十路のおばさんだもんな」


 少し茶化す感じに言うと、別にフウが何かしたわけでもないのに風が少し強く吹いた。


 まるで彼女が少し拗ねているかのように。


「…って流石にそれは俺の考えすぎか」


 ぽかぽかと暖かい陽気がフウを包み込む。


 フウが、愛している彼女のように暖かい日差しが。


「…ようやく…ようやくだな」


 やっと、フウの中で止まっていた時間が動き出していく音がした。


「お前はもうここにいないけど…、少なくとも俺は今幸せだぜ。すげぇ暖かいやつらに囲まれてんだ。……本人たちには内緒だけどな」


 しーっと、人差し指をたてるポーズで、フウは日向に話しかける。


 彼女が「えー?」といいながらくすくす笑っているところが想像つく。


 それでもやっぱり、


『…お前を忘れるくらいの恋が胸を焦がすまでは…まだ誰のことも愛せそうにねーや』


 まぁ告白するまで15年も経ってしまったチキンだ。


 仕方のないことだろう、とフウは思う。


 とはいえ、神様はどうせ長生きなのだからそこらへんはのんびりいけばいいだろう。


「……じゃあな、日向」


 フウはゆっくり立ち上がると、


 最後にもっとも伝えたかった言葉を彼女に告げる。


「ありがとな!」


 その瞬間、優しい風がフウを包み込んだ。


 今いる人々と共に、風を司る神のフウは、また新たな日常を歩き出す。













































 都内某所。


 1人の少年が、銀髪の少女の写真を手にぽつりとその少女の名をつぶやく。


 アイ、と。


「…もうあれから15年もたつんだね」


 だけどね、と少年は続け、


「……今度こそ、僕たちは一緒になるんだよ…。そうだろ、アイ?」


 ヒュオオオオオオ、と強い風が吹き荒れる。


 次の嵐は、もうすぐそこまで来ていることに、今は誰も気付いていないのだった。




To be continued...


と、いうわけで風編は終了であります…!

無事年内に完結できてよかったです。


風編はフウのお話であり、リズのお話でもある、そんなお話でした。

リズに視点をあてて話を見るとまた違った物語が見れるかなーと思い、リズの方にも焦点をあてるようにして書きました。

信じることは難しいけれど、この戦いを経て果たしてリズはどう変わっていくのか

今後の彼女の行く末もお楽しみに…☆


さて、今のところ情けないところしかない翔ですが、次章は翔のお話になります

翔が臆病者になった理由、そしてそこからヒーローになれるのか…?

第四章、ヒーロー編2015年から始めていきますのでよろしくお願いします!


それではみなさま、よいお年をー☆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ