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アヴェク・トワ  作者: リラ
Ⅲ Wind
33/49

七夕祭

1、


 七夕祭――ミルキーウェイ・フェスタ。


 そう呼ばれるこのイベントは、7月6日の12時頃から準備が始まり、7日の午後5時頃まで行われるもので内容はその名の通り、七夕を題材にした祭典だ。


 天文部から望遠鏡が駆り出され、星の観察が行われたり、大量に集められた笹に短冊をかけたり、また夜店なども並べられ非常に風情に溢れたイベントなのだ。


 一応、「告白の祭典」の1つとしても人気があるらしい。…翔にはあまり関係がないのだが。


 この間の栞菜の件でいろいろ失礼な目に遭わせてしまったことと、この間から妙にアイに元気がないということから、翔はこのイベントにアイを誘ってみることにした。


「…ってことなんだけど、どうかな…?」


 思えば女の子をこのような催しに誘うのが初めてな初心少年翔は、ドキドキしながらアイにそう問うてみる。


 いや、別にデートとかに誘っているわけじゃないしナチュラルに「いこうぜ?」といえれば理想なのだが。


 生憎と翔にはそんな男前さはないのだった。


「………、」


 しばらくアイから返事が返ってこなかった。


 なんでお前とお祭りなんかいかなきゃいけねーんだよとか思われていたらどうしようか。


 そんな風に不安に思っていた翔だったが、案外その不安は的外れで――、


「………七夕って何?」


「…そこかぁ…!」


 そうか、七夕を知らないのかアイは…と翔は頷く。


 彼女たちが住む場所にはそういったイベントはないのだろうか?


 それともアイが無頓着なのだろうか?


 どちらが真実かはよく分からないが、とりあえず彼女に説明してあげる必要がありそうだ。


 翔は部屋の片隅から「たなばたのほえん」という本を取り出すと、


「はい、これにざっくり書いてあるあるから…!」


「どう見ても幼児向け本なのに何でこんなの持ってるのよ」


 アイは冷めた目で突っ込みながらぱらぱらーっと本をめくっていき、


「なるほどね、内容は理解したわ」


「読むの早い!」


「ちなみに私この星の近く通ったことあるわよ。前にちょっくら宇宙に行った時に…」


「なんかもう次元が違う!?」


 とまぁ、そんなこんなで一応興味を示してくれたアイを連れて、現在翔は学校の七夕祭にきていた。


 なるほど夜店も出ているし、体育祭のようにただにぎやかーな感じではなくちゃんと風情がある。


 日本人としてはなんだかそういった風情や趣にそれなりにひかれたりするものだ。


『んー…ユウマも来ればいいのに…』


 メールを使って連絡をとってみたのだが、返ってきた返事はそっけなく。


 妹の邪魔をしたくないからいいや、とのことだった。


 妹の邪魔、というところが気にかかったが…どういうことなのだろうか?


 というかユウマなら探そうと思えば余裕で一緒に回る人を見つけられそうなものだというのに。


『勿体ない話だよなぁ…』


 イケメンな親友の顔を思い浮かべつつ、翔は素直にそう思う。


 まぁとりあえず今日はアイの元気を取り戻すべく頑張ろう。


 今翔が考えるべきはそこだけだ。


『とりあえずアイは…』


 と思って目線をアイへ向けてみると、


 彼女は夜店を見ながら「わー…」と目をキラキラさせていた。


 流石芳城ヶ彩のお祭りだけのことはある。神様もすっかり虜になっているようだった。


「晴れて良かったね、アイ」


「…天の川とやらが綺麗に見えそうだものね。…まぁ宇宙では見たことあるんだけど天の川だって知らなかったしね」


「う、うん、宇宙でね…」


 とりあえず喜んではもらえているみたいだった。


 なんか色々不安になるところはあるもののこの感触なら大丈夫だろう。


 確か最初の方に一緒に買い物に行った時はクレープを食べて上機嫌にしていたような気がする。


 また、以降家で翔がスイーツ系をつくってあげると嬉しそうにしていた…ということから恐らく彼女は甘党だ。


 食べたことがなさそうな甘い物を食べさせてあげればおそらく上機嫌なまま家に帰ることができるだろう。


『すっごい餌付けみたいだけどまぁいいかな…!』


 とはいえアイが何を食べたことないかなど分からない。


 天界にどんな食べ物があるかも知らないし、彼女の普段の食生活など聞いたこともないからだ。


 見た目的には和風なものはいけそうな気がするが…浅はかだろうか?


『見た目は外人でも日本語ペラペラだしなぁ…』


 むしろ日本人である翔より日本語をよく知ってそうな勢いだ。


 さてどうしたものかな…と思いつつ翔が考えていると、アイが翔の服の袖をそっと引っ張ってきた。


 考え事をしていたので「ぬわっ!?」と変な声を出すと、アイは少々驚いた表情をし、


「…何変な声だしてるのよ…」


「あ、いや、べ、別に…」


「ねぇ、それよりあれ。あれ食べてみたい」


 と言って、彼女の白い指が指し示すのはチョコバナナの屋台だった。


 うーむやはり甘党なのは間違いないか…と思いつつ、翔は「いいよ」と笑って見せた。


 そういや自分もチョコバナナなど食べるのはいつ振りだろうか?


 そう思いつつ翔は屋台に近寄っていき、400円おいて2人分のチョコバナナを購入する。


 定番のチョコだけでなく、イチゴ味やラムネ味などもあったが一応ここはオーソドックスに普通のチョコ味を購入しておくことにした。


「はい、これ」


 2本の内の片方を渡すと、アイは「ありがとう」と言いながらそれを両手で受け取った。


 相変わらずの無表情だが、よく見ると目がキラキラ輝いている。


 よほどうれしいんだなぁと思いながら翔はくすりと笑った。


「溶ける前に食べよっか」


 早めに食べないと手がチョコでベタベタになる経験から翔はそう促し、まず自分が一口食べた。


 口の中にいっきに甘さが広がっていく。けれどなかなか程よい甘さだった。


『んー、流石美味しい…チョコとかもしかして凄い高いの使ってるのかな…』


 この学校なら可能性は十分にある。


 というのも、夜店の中にも黒毛和牛のステーキ串や松葉ガニのカニ汁…のような異常な物が存在しているからだ。


 いや、食堂のメニューなどを考えるに実際この学校の金銭感覚的には普通なのかもしれないが。


 とはいえ翔の家は徳永家程お金持ち! というわけではないし、流石にそれを普通と思える金銭感覚は持ち合わせていないのだった。


「アイ、美味しい?」


「んっ♪」


 チョコバナナを食べながら少女から珍しく嬉しげな返事が返ってきた。


 普段無表情な少女が、満面の笑みで、嬉しそうな返事。


 この時、全然女慣れしていない翔の心臓は思いっきり飛び跳ねたという。


 何だか嬉しさのあまり周りにお花が飛んでいる少女を見て、翔は素直に「可愛い」と思った。


 ドキドキしながら翔はチョコバナナを食べ進め、


『そ、そうか…これが俗にいうギャップ萌えとかいうやつなのか…!』


 などと勝手に思考する。


 無論、こんなこととてもアイ本人に言う事は出来ないが。


 けど少しは機嫌も戻ったかな? と翔はアイの方を見る。


 しかし200円で女神様の機嫌がなおるとは恐るべきチョコバナナである。


「…んー、それにしても…」


 翔はきょろきょろと辺りを見渡す。


 〝七夕祭〟というだけのことはあり、辺りには浴衣を着た人たちが結構いた。


 やはり日本人だからか、なんとなく浴衣という物を見ると自然と「あ、いいよなぁ」と思うものだ。


 折角ならアイの浴衣くらいきればいいのに…と思った翔だが、生憎と天道家に女物の浴衣はない。


 正確に言うと、翔が幼少期に来ていた子供物の浴衣しかないのが事実だ。


 あれば是非とも着てほしかったなぁ…などという若干の願望を抱く翔だがまぁ仕方ないだろう。


『浴衣もなかなか高価なものだしなぁ…レンタルとかしてればいいんだけど…』


「してますよレンタル♪」


「ぬわぁ!?」


 本日二度目の驚き。


 何時の間にやら背後から聞こえた声は、どことなく聞き覚えのあるものだった。


 振り返ると綺麗な茶髪のメイドさんがにこにこしながら、「こんばんは♪」と話しかけてくる。


「か、カレンさん…! 何でこんなところに…」


「いえ、お祭りの警備を任されまして。警備員として参加してるんですよ」


 と言いながら、カレンはメイド服の袖についている〝特別警備員〟とかかれた勲章を見せてくる。


 翔はしばらく黙ってから


「…か、カレンさんって…警備できるんですね」


「そりゃもう。私はメイドですから♪」


「っていうかさりげなく今僕の内心読んでましたよね…?」


「そりゃもう。メイドですから♪」


「相変わらずメイドさん凄いですねぇ…!」


 お褒めにあずかり光栄です♪ と言いながらカレンは一礼する。


 こういった動作は非常に綺麗で、思わず見とれてしまいそうなるほどなのでその辺は流石だなぁと翔は思う。


 が、今はそんなことよりも、


「え、っていうかレンタルしてますよっていうのはどういう…」


「そのまんまですよー? 校内で浴衣レンタルと着付けをしてくれてるんですよ。行ってみてはいかがですか?」


 と言いつつ、カレンは地図の書かれた紙を翔に手渡す。


 手書きとは思えないくらい綺麗な地図を見ながら翔は「おお…」と思わず感嘆の声を漏らしてしまった。


 しかし、カレンがいるということはもしや、


「あ、はい、当然波音様たちもいらっしゃってますよー♪」


「今また読みましたよね僕の内心!?」


「だから言ってるじゃないですかー、メイドなんですからと♪」


 もうそれでいいや…と思いながら翔は頭を抱える。


 しかし波音達もきているとは。


 広い校内だから会えるかは分からないがまぁ挨拶くらいはしておきたいものだ。


 そんなことを思っていると、チョコバナナを食べ終えたアイがじっとこちらを見ていた。


 翔はカレンに「ありがとうございます」と頭を下げると、


「アイ、浴衣レンタル出来るみたいだからいってみようか?」


「……浴衣? ああ、この道行く人たちが着てる…?」


「うん、折角の記念だしいってみよ?」


 和服に多少興味があるのだろう。


 アイもこくりと頷いたので、翔はカレンが書いてくれた地図を見ながら歩いていく。






 10分後。


 翔は地図と、電子タブレットを見ながら「ううむ…」と唸る。


 幾度となく遅刻を重ねるうちにいろいろな近道ルートを模索するようになり学校の地理にはだいぶ詳しくなったと思っていたのだが…、


『どこだここ…!』


 辺りはなんだか薄暗いし、ホーホー…となんらかの生物の声が聞こえる。


 カレンの地図は見たところかなりわかり易くできているはずなのでこれは、


『…僕がポンコツってことでオーケーかな…』


 さて困ったものだ。


 お祭りの喧騒とはかけ離れた場所へきてしまった。なんだかお化けとかも出てきそうだ。


 とりあえず来た道を戻らないとなぁ…と思っていると横にいるアイがひょいっと翔の手から地図をひったくった。


「あっ」


「……どうせ迷ったとかでしょ、アンタ」


「うぐっ…!」


 ジト目の少女の視線に耐えられず、翔は思わず目を泳がせた。


 そんな翔の様子にアイは呆れたのか、「はぁ」とため息をつくと、


「…ったくもう。私についてきなさいよ」


 と、無駄にキラキラしたオーラを飛ばしながら言った。


 …もしも自分が女の子だったら間違いなく惚れているかもしれない格好良さだ。


「ちなみにそこに段差あるから気をつけなさいよ」


「あ、う、うんっ」


 あれ…? と翔は首をかしげる。


 今日の七夕祭では自分がしっかしアイをリードしていくつもりだったのだが…、


『いつの間にかリードされてるなぁこれ…』


 相変わらず情けないな自分…と思いつつも、翔は自分より背の低い少女にてとてととついていくのだった。






 アイについていった結果、しっかり目的地にたどり着いた。


 そこには大き目のテントが張ってあり、どうやらその中で男女別に行っているようだった。


 流石この学校のスタッフさんは凄いよなぁ、と翔は思う。


 日頃から校内の清掃活動などをしているのに、加えて浴衣の着付けまでできてしまうとは本当恐れ入る。


 そんなことを思いながらテントの中へ入ると、そこにはずらーっと浴衣が並べられていた。


「わー…」


 と、翔より先に感嘆の声をもらしたのはアイだ。


 まぁこれだけ多くの浴衣が取り揃えられていればかなり圧巻であるし、当然のことだろう。


 しかし帯や草履なども用意されているようだし、それに加えて着付けもやってくれて無料とは流石の芳城ヶ彩クオリティーである。


 どれにしようかすっかり決めあぐねているアイを見ながらくすくす笑ってると、


「…何だ。お前にも女子とデートするだけの甲斐性があったんだな」


「のわぁ!?」


 本日三度目の驚き。


 どうでもいいが何故みんな背後から現れるのだろう、と思いつつ翔はその人物を見つめる。


 声だけでも十分誰か分かるくらい翔がお世話になっている人物。


 美人なのにいつも格好がジャージというなんだか勿体ない事をしている担任教師――慶田瑞希だ。


「べ、別にデートじゃないです!」


「しかも相手は美少女転入生――天道、お前…」


「なんですか! なんなんですか!」


「遅刻ばっかのくせに甲斐性あったのか…」


「だーかーらー!」


 遅刻に関してはごめんなさいですけど…というと、「本当にな」と言いながらふっと笑われる。


 まぁ13回もわけのわからない理由で遅刻している翔をなんだかんだで面倒見てくれてるのでこちらとしても何も文句は言えない。


 翔はほんの少し火照った顔をおさえながら、


「と、とにかく、アイの浴衣をレンタルしにきたんですっ」


「おめーはきないの?」


「うーん、迷ったんだけど着崩れても困るし…」


「お前子供みたいにはしゃぎそうだもんなぁ」


「先生どんだけ僕を幼稚だと思ってるんですか!?」


 いやだってお花さんのお墓とかいうような奴じゃん?


 というような目で見られてぐうの音も出ない翔。


 目線だけで最早何を訴えているか分かるようになったのはあの目線を幾度となく向けられているからだ。


 自分も手慣れたもんだなぁと思いつつ、


「で、何で先生はここに?」


「あー、私着付けできるから手伝ってるんだよ」


「………、」


「何だその意外だなぁ、みたいな目は」


 いや、そのまんま…と思いつつ翔は瑞希を見る。


 失礼な話だがこの女性美人ではあるが、中身はてんで違う。


 生徒をすぱこーんっと殴ってくるし、口調も乱雑だし…到底そんな女性らしいことができるようには思えない。


 …しかし自分で言っておいてなんだが本当に失礼な話だ。


「じゃあアイの着付けお願いしますよ、先生っ」


「グラハムのかー?」


 瑞希は未だに浴衣の柄で悩んでいるアイを見て、「ふむ」と頷く。


 そしてささっと身近にある浴衣を手に取ると、


「どれ、私がバッチリ着付けしてやるよ、あ、浴衣は私が独断で選んだがいいな?」


 と、神様相手にも関わらず彼女を強引に試着室の方へ連れて行くのだった。





 そういや前にも似たようなことがあったなぁ、と待ち時間の間に翔はぼんやりと思い出す。


 そう、確か先月。丁度アイに会ったばかりの頃だ。


 2人で一緒に洋服を買いに行って、彼氏彼女に間違われて、店員に無理やり服を着せられて、


『あの時、アイ照れてたけどすっごい可愛かったなぁ』


 思い出して翔はふっと微笑む。


 まぁ元があれだけ可愛いのだから似合うのも当然と言えば当然なのだが。


 あの後、ライのせいで仲違いして。


 それでもやっぱり放っておけなくて。


 そこからずっと一緒にいるけど、実はまだ1か月も経っていないことなのだ。


『んー…一緒にいる時間が長いからもっと長く一緒にいるものだと思ってたな…』


 時期にすると実に短い。


 自分はまだまだ彼女の事を全然しらないのだな、と翔は思う。


 知っている事と言えば、氷を司る神であるということ。


 前回の勝ち抜き者で兄のパートナーだったということ。


 そして、その兄のことが好きだったということ。


 そこでチクン、と胸が痛む感覚がした。


『またこの感覚…何だろう?』


 不思議に思っていると「お待たせ」とアイの声が聞こえてきた。


 瑞希はもうさっさといなくなってしまったのだろうか?


 それにしても着付けにしては偉い早いなと思って翔はゆっくり振り返り――、


「………!」


 思わず言葉を失ってしまった。


 白地に紫の柄の浴衣、同系色でまとめられた帯、いつもと少し違う髪型になった銀髪、


 日本人の浴衣姿以外を見るのは初めてな翔だったわけだが、――素直に綺麗だった。


「…なんかこれ、着慣れないわね。動きづらいし、戦いづらそう」


 もう一生戦わないでいいからずっとその姿でいいのではないか。


 などと馬鹿なことを思ってしまうくらいに綺麗だった。


 翔は赤い顔を隠すようにふいっとアイから視線を外し、


「さ、さー、準備も整ったし…あ、天の川みにいこっかー」


「…何か動きカクカクしてるけど大丈夫? …あ、ってかアンタ案内しなくていいわよ。どうせまた迷子になるから」


 失礼な、と言おうとしたが思わずアイに見惚れてしまって何も言えなくなる。


 翔は「ああもう」と言いながら顔を覆い隠した。


「っていうか、」


 アイはふと何かを思いついたように、


「星って天文部の天体望遠鏡で見るって言ってたわよね?」


「え、あ、うん…そうだけど…」


 質問の趣旨がよくわからないまま返事をするとアイはすっと手をだし、


「必要ないでしょ。私が特等席で見せてあげる」


「………ん!?」


「…氷の絨毯」


 と言うと、瞬間翔の真下に氷の絨毯が生成された。


 氷の力ってこんなこともできるの…!? と翔が驚いていると、アイはふわりと浮きあがり、


「さ、行くわよ」


 そう言って、軽やかに空へ向かって飛び立った。


 どうすれば、と思った翔だったがそんな彼女を追うように氷の絨毯も空へと浮かぶ。


 初めての感覚に「うぇ…!?」と戸惑うも、慣れると乗り心地は悪くなかった。


 翔はとんとん、と氷の絨毯を叩き本当に氷であることに感動しつつもアイの方を見る。


 こんなにビュンビュン飛んだら浴衣は着崩れしてしまわないだろうか。


 そんな心配を抱いていた翔だが、意外とそこに関しては大丈夫そうだった。


 それだけ瑞希の着付けがしっかりしているということでいいのだろう。


 ある程度上空までくると、アイはピタリと止まった。それに伴い、翔ののった氷の絨毯も止まる。


「は、はやかった…」


 割と三半規管は強い方なので酔ったりはなかったが、いつ落ちるか心配で生きた心地はしなかった。


 なんせ生まれて初めての飛行体験だ。


 そんなことを思っていると、アイはすっと空を指差し、


「ほら、見なさいよ」


 と、呟く。 


 その綺麗な声に合わせて、ゆっくりと空を見上げて――思わず言葉を失った。


 普段なかなか空なんか見上げようと思ったことはなかったが、これは凄かった。


 翔の視界に映るのは満点の星空。


 薄紫色の空にキラキラ光る星、綺麗な一等星からほんのり輝く星まで様々だ。


 わぁ…としばらくしてから声を出した。


 アイは見慣れているのか。別に普通の表情のまま、満足げに翔の反応を伺っているだけだった。


「凄いね…! 星ってこんなに綺麗なんだ…!」


「あれが天の川ってやつなのかしら」


「あ、うん、それだね!」


 横浜でこんなに星が見れるとは。


 そんな感動を抱きながら翔は満点の星空を見上げる。


 上空までくると最早360度星に囲まれているような感覚だった。


『プラネタリウムみたい…いや、これは本物だけど…』


 思わず目を輝かせながらしばらくその景色を見つめる。


 そうか、空が飛べるとこんな景色を見れるのか。


 それを考えると若干隣にいる少女を羨ましく思ってしまう。


「けど、晴れて良かったね。今年は織姫と彦星会えるかな」


「…会えるんじゃない。ほら」


 と言って、アイはすっと右手で氷のアーチを描く。


 丁度2人の位置から見て、天の川に綺麗な氷の橋を掛けるように。


「…アイって結構ロマンチストだよね…!」


「はぁ。何意味不明なこと言ってるのよ」


「いや、でもこれで織姫と彦星は会えるよね」


「……そうね」


 と、途端にアイが寂しそうな表情になった。


 どうしたのだろう?


 なんとなく不安に思って翔は「えーっと、」と言ってから、


「あ、下おりたら短冊かく? ほら、さっき言った願い事のやつ」


「……願い事か…」


「アイは何をお願いするの?」


「そうね…」あいはぽつり、と「もう二度と会えない人に…一目で良いから会いたい…かな」


 彼女の言葉を聞いて、翔は思わず押し黙る。


 それが誰の事を指しているのか、なんて。聞かなくてもすぐにわかってしまったからだ。


 光輝く星空を見ながら、翔は兄のことを思い出す。


『…なんで、死んじゃったのかな…本当』


「おりよっか」


 翔がそう言うと、アイは少し弱弱しい笑顔でコクリと頷いた。






 それから、しばらく沈黙が続いていた。


 アイが、自分より先を無言で歩いていって、自分はそれについていく。


 傍から見たら喧嘩したカップルのようだ。


 だが、別にそういうわけではない。


『どうしたのかな…』


 そうは思ったが、翔にはその理由を聞こうとは思えなかった。


 なんとなく、その行為は自分の首をも絞めるような気がしたから。


 何故そのように思ったのかは、自分でもわからなかったけれども。


 と、そこでアイはピタリと足を止めた。


 気付けばもう学校の入り口付近だった。


「………、」彼女は少し黙ってから、「…10年前も、ここに来たわ」


「……え?」


「七夕ってやつではなかったと思うけど…お祭りで。光と一緒に」


 兄もこの学校に通っていたし、まぁ来たことがあっても不思議ではなかった。


 翔的に問題はそこではなかった。


 今、こうして話している彼女の声が――どういうわけか震えていた。


「……ひかる…」


 振り返った時、彼女は泣いていた。

 

 その美しい青色の瞳からポタポタと涙が零れ落ちていた。


「……っ」


 全然、吹っ切れていないのだと思った。


 自分といる時、楽しそうにしているからそれなりにもう吹っ切ったことかと思っていた。


 けれど、そんなことはなかったのだ。


 今でも彼女は――兄を思い出して涙を流す。


 もしかすると、自分が知らないだけで…彼女はもっと泣いているのかもしれない。


「………、」


 翔はぐっ、と唇をかみしめるとアイへ向かって歩いていく。


 理由なんてなかった。


 自分でそうしようと考えたわけではなかった。


 無意識のうちに、翔はアイの頭をそっと自分の方へ引き寄せていた。


 しばらく、時がとまったような感覚に陥る。


 翔は少し顔を赤らめながら、優しく、そっと


「…お願いだから、泣かないで」


 とつぶやいた。


挿絵(By みてみん)


 アイの身体が小刻みに震えているのがわかった。


 彼女はそっと、自分の小さな手を翔の服にかける。


 それに対して翔はあいている方の手を帯の辺りまでそっと回そうとして、そのままぎゅっと握った。


 ――そうだ、彼女が望んでいる相手は自分ではなく兄なんだ。


 それが分かった瞬間になんだか切なくなってきた。


 何故、自分がそんなことでショックを受けているのかもよくわからなかったが。


 自分の腕の中で泣き続ける少女を見ながら、翔はやはりもう一度心の中で呟く。


 兄さん、あなたは何で死んでしまったのですか、と。






2、


 天道家に遊びに行ったら留守だった。


 翔の母親に聞いたら、今日は七夕祭だから学校にいるんじゃないかと言われた。


 七夕祭というのが何かよく分からなかったが、折角なら翔と一緒にまわりたい。


 そう思った少女――八代栞菜は芳城ヶ彩の入り口のところに立っていた。


 いかんせん人が多くていけない。


 入っていいのかもよくわからずおどおどしていると、


 視界に見慣れた栗色の髪を見つけた。


「あ、おにい――!」


 と、そこで彼女の言葉は止まった。


 その理由は実に明確だった。


 栗色の髪の少年が、――銀髪の少女を抱きしめていたからだ。


「………え…」


 静かに、静かに、闇が少女に近づきつつあった。


ってことで七夕祭りいかがでしたか?

二ヶ月ずれでごめんなさい←w


今回はまぁ翔とアイにがっつりピントをあてました!( *'ω'* )

あまりお祭り感味わえなくてごめんなさいだけどね!←


ってなわけで次回修羅場です。

そして次回更新ですが、少々遅れると思われます…

ただいま作者が牧場実習で10日間の実習に励んでいるところでして。

九十九里の方にいるのでPCが使えなくて…(゜∀゜)←つらい


そんなこんなでのんびりお待ちください。それではまた次回ー!

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