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アヴェク・トワ  作者: リラ
Ⅰ Chicken and God
3/49

非日常への招待状

1、


『ふぅ…なんとか学校間に合いそうだな』


 翔と別れた後、黒髪の少年――新橋ユウマは自分の腕時計を見ながらそう思う。


 だが、自分はともかく翔の方は間に合うかギリギリだろう。


 これで遅刻13回にならないと良いけどなアイツ、と思いながらユウマは学校への歩みを進めていく。


『にしても…』


 腑に落ちないのは、先ほどの出来事だ。


 あの赤髪の少女が現れた時に、翔はその気配に気づけたのに自分は気付けなかったということ。


 自分で言うのはなんだが、彼は人の気配などには敏感に気付く方だと自負している。


 にも関わらず、全く気付くことができなかった。気配を全く感じることができなかった。


『…どういうことだ…?』


 自分が全く感じなかった気配を、翔は何故か感じ取れていた。だからこそあそこで振り返った。


 そこがどうもユウマ的には引っかかって仕方がなかった。


 言っちゃなんだが、翔は割とぼーっとした性格だし何よりいろんなことに鈍感だ。


 そこも考慮すると、そんな少年が人の気配にああも敏感に気付けたのもまた妙な話しに思える。


 ………翔には失礼な話だが。


『…こう…なんだ? 人間とはまた違う何かが関与しているような…例えば異能とか…』


 と、そこまで考えて。


 ユウマはいやいやいや、と首を振った。


 彼はかなりの現実主義者だ。そんな事はないだろう、と信じたいのだが……。


『いやでも…現に知り合いにとんでもなくハイスペックな人がいるからあながち否定は出来ないな…』


 人間とは違う何か。異能。そういうのが存在する可能性を、彼は安易に否定はできなかった。


 そもそも彼自身…過去に異能らしき何かと触れた事があるのだ。


 それらから判断すると、異能がないと割り切る事はなかなかに難しい側面がある。


 とはいえ、どっちにせよ判断材料が少なすぎる。


『今はとりあえず考えるだけ無駄かな…』


 そう決断を下して思考を終了させると、彼は少し足早に学校へと向かっていくのだった。






2、


「天道翔。氷を司る神と契約して、パーティーに参加なさい」


 高いトーンで告げられる、命令口調の言葉。


 徳永波音の突然の発言に対して、正直翔は戸惑う他なかった。


 先ほどから出てきている単語…資格、神、契約、そしてパーティー。


 これらをもう一度、翔は頭の中で整理してから、


『だ、ダメだ…! この子全然何言ってるのかわからない……!』


 まぁ、そうなるのも当然の話しである。


 そもそも天道翔という少年はあまり物事に対する適応力が良いタイプではないし、そうでなくても意味不明な状況に陥れば誰だってこのように混乱するだろう。


 しかし、波音はそんな事すら全く気にせずに相変わらず淡々とした口調で続けていく。


「そして参加したらぜひとも私に協力していただきたい。我々には手を結ぶだけの理由がありますし」


「え、いや、あの…」


「危険な戦いではありますが、パートナーが氷の神ならなんとかなるでしょうし、」


「え、いや…」


「そもそも既に資格を与えられている時点で命は危ないわけですしまぁ仕方ないというか」


「ちょ、ちょっと待ってください!?」


 目をグルグルさせながら翔が叫ぶと、波音は訝しげに目を細めた。


 先ほどから会話の主導権を握ってペラペラ話してくる様子を見れば判断は可能だが、おそらく彼女は自分が話している最中に話を中断されるのが好きではないのだろう。


 しかし、翔としてはこの訳の分からない話を続けられた方がたまったものではない。


 波音は「ふぅ」と溜息をついてから、


「一体なんです?」


「いや、それはこっちのセリフ…!? 徳永さんこそさっきからなんですか…!? 資格とかパーティーとか良く分からないんですけど…!?」


「……やれやれ、そこからですか…。既に神の力を感じたから既に知っていると思ったのですが…」


 後半の言葉はほとんど翔には聞き取れなかったので、おそらくこれは独り言だったのだろう。


 ブツブツ何かを言っている波音だが、ここでまた口を挟むと彼女の機嫌を損ねるというか色々面倒なことになりそうなので今は黙っておく。


 基本的にバカな彼だが、人との衝突を避けたがる性格故にこのような処世術だけは無駄に身に染みついているのだ。


「まぁ、でしたら説明からですね」


 ようやく説明してくれる気になったらしい波音はこほん、と咳払いを1つしてから、


「この世には神様がいるんですよ」


 と告げる。


 その言葉と共に、鋭く吊り上った金色の瞳が翔を射抜く。


 相変わらず全身から溢れ出る神々しい雰囲気に、今までの無表情とはまた違う神妙な面持ち。


 そのあまりにも真剣な雰囲気に翔はごくん、という音を聞いた。


 それが自分の喉から発せられた音である事に気付いてから、彼はゆっくり波音と目線を合わせて、


「…あ、あの…僕もの凄く腕のいい精神科を知ってるんですけど……ごふっ!?」


 どこからか出てきた紫色の扇子で思いっきり頬をぶたれる翔と、クールな表情のままの波音。


 …いや、クールな表情のままだが先程までの無表情や神妙な面持ちとはまた違う。そこから感じ取れるのは静かな怒りだ。


 波音は紫色の扇子を自分の制服のポケットへと閉まってから、「あぅぅ…」と何やら頬を抑えて涙目になっている翔の制服のネクタイをくいっと引っ張り、


「誰が精神科に行く必要があるのですか。誰が」


「…い、いやだって神様って……っていうかネクタイ引っ張らないでください首がしまる…!?」


「では話を続けて構いませんか? 尚、今後もこのような反応をした場合は扇子ではなく本物のグーですからね風で勢いをつけたかなり痛いのをお見舞いしますから」


「風!? わ、わかりましたごめんなさい大人しく聞きます!」


 分かればいいのです、と言いながら翔のネクタイから手を離す波音。


 何だか朝からとんでもない少女に捕まってしまった翔は軽く咳をしてからげんなりした。


 あのままユウマと学校に行っていればまた普通に楽しい日常を遅れたのになぁ…と思いつつも、もう引き返せない過去である以上は考えても仕方ないだろう。


「では続けますが…、まずこの世に創造神たる神が存在していたわけです」


「…ああ…聖書とかによくある感じの…?」


 半ばやけになりながら適当に返答すると「ええ」と同意の返事があった。


 本当に聖書や物語の世界としか思えない内容だが、その辺ツっこむとどうやらかなり痛いグーが飛んでくるようなので今は黙っておくのが吉だろう。


「ですが世界を創ってもその神はずっと1人ぼっち。何もすることがなく退屈だったそうです。…そこで、神が考えました。そうだ、自分のこの身に余る力を使って何か暇つぶしをしよう…とね」


「…暇つぶし?」


「ええ、そうして始まったのが『パーティー』という戦いです」


 そこで、翔の心臓がドクンと鳴った。


 神様の暇つぶしで戦いが始まる。それは極めて平和主義の翔には考えがたい事だった。


 そもそも神とはなんなのか? 何故そんなことをしたのか? 疑問ばかりが翔の頭を支配していき、全く理解が追いつかない。


「創造神は自分の力を使って10柱の神をうみだし、そのそれぞれに属性を与えました。そしてその神々の力比べをすることにしたのです」


「力比べ…」


「そう、それが『パーティー』。これは基本的にどのような手を使うもよしとされています。既に不定期ながら何度も行われているようで、毎回心理戦、頭脳戦、卑怯な手なども多々あったようです。こうすることで神の力だけでなく知性など、様々なものが試されますが…これだけでは毎回勝者が偏ってしまいます」


 勝者が偏る。それは致し方ないことなのだろう。


 神によって実力は異なるのだろうし、属性とやらもそこに影響してくるだろうから勝者は段々と固定されていってしまうのかもしれない。


 だが、それでは暇つぶしで戦いを始めた神にとっては何も面白くない。――ではどうするのか。


「そこで導入されたのがパートナー制度です」


「…パートナー?」


「ええ。協力して敵を共に倒す人間のパートナーをつけることで真の戦いをしようという制度のようですね」


 なるほどつまり神々の間の固定された強さを、人間を導入することでかき乱そうというわけだろうか。


 確かに毎度違う人間を選ぶのならそれなりに変わってきそうな物だ。


「ちなみにこのパートナーというのは創造神によって毎回選ばれるようです。そして選ばれた者はパーティーに参加する『資格』を持つことが出来る。…私や貴方のように」


「…え?」


「ああ、言い忘れていましたね」


 波音はふと気づいたように、


「貴方が氷を司どる神のパートナーの資格を持つのと同様、私は風を司る神フウのパートナーとしての資格を有する者ですから」


「…か、風……」


 だからさっき風という言葉を口にしていたのか、とふと翔は思い出した。


 しかし納得がいかないのは自分が氷を司る神のパートナーの資格を持っているということだ。


 まず彼女は何を元にそれを判別しているのだろう? 自分自身でも良く分かっていないというのに。


 『パーティー』暇つぶしで始まった10柱の神々の『戦い』


 『パートナー』神々の協力者としての『資格を有する者』


 それだけのスケールの話しを前に、正直翔は戸惑いしか感じられなかった。


 そんな戦いが行われていること自体信じがたいのに、自分がその参加者の資格を持っているなんて猶更信じられない。


 ただ、どちらにせよ翔の答えは1つだ。


「……む、無理です!」


「はぁ? 何を言ってるんです?」


「いやいや選ばれたとか言われても本当に…! だ、だって僕…人を殴ることすらできないし…!」


 そう。天道翔はとことんまで戦闘などには向かない少年だ。


 子供のころから喧嘩など一度もしたことがないし、不良とうっかり喧嘩になれば逃げるしかない。


 そもそも彼は戦うにはあまりにも優しすぎる。


 そんな彼が戦いに首を突っ込むなどという事はどう考えても無理な話なのだ。


「………、」


 必死な翔の方を波音はじっと見て、


「…まぁ断ることも確かに可能でしょうけど……もう既に貴方は狙われている事を知るべきですね」


「え?」


 翔が疑問の声を発するのとほぼ同時。


 後方からバヂバヂィッ! という音。その音に翔は左程聞き馴染みはないが分かった。――電気だ。


 疑問を持った時には時すでに遅し。バチバチと弾ける紫電が翔へと一直線に向かってきて――、


「ええい避けなさいバカ!」


「え、ちょ、ぐぇっ!?」


 自分よりも身長の高い波音に首根っこを掴まれて後方へ引っ張られる翔。


 首をしめられそうになったものの、波音のお陰で紫電はギリギリ鼻先をかすめていった程度で済んだ。


 避けられたことに安堵しつつも、何でこの少女は直接的ではないとはいえ首を絞めてばかりなのだろうと少々涙目になりながら思う。


「…不意打ちですか。これは貴方今後も狙われそうですね」


「……い、いや、けほっ、ね、狙われるってけほっ」


「咳で何を言ってるかわからないのですが」


「誰のせいですか!? いや、ありがとうですけどね助けてくれて…! けほっけほっ」


 叫んだせいで、余計に咳が止まらなくなってしまった。


 そんな翔を見て呆れたのだろうか。少し上の位置から「はぁ」とため息が聞こえてきた。


「…ま、どうするかは貴方次第ですよ」


「え?」


「危険な戦いに参加するか否か、最終的に決断するのは貴方です。あくまで私の発言はいわばこの戦いへの『招待状』の役割にすぎません。ただ参加するのならぜひ私に言ってくださいね、協力してほしいので」


 それだけ言うと、波音はくるりと体を翻して学校へと歩き出した。


 スタスタ歩いていくのを見るに一緒にはついてくるな、ということだろうか。


 まぁ別に翔としても一緒に行こうとは思っていなかったので、あんなに急がなくてもいいわけだが。


 と、スタスタと速足で歩いていた波音は何故か途中でいったんピタリと足を止めて再びこちらを見てきた。


 どうしたのかな、と思っていると、


「……でも早めに決断しないと大変ですよ」非常に冷めた表情のまま、「決める前に殺されるかもしれませんしね」


 その言葉に、翔の背筋がゾクッと凍る。


 人が殺されることなど何とも思っていないような鋭い金色の瞳。


 突き放すような冷酷な声と表情。そして言っている内容に、翔は金縛りにあったかのように動かなくなってしまった。


「……では」


 それだけ言うと、波音はそれ以降は一切こちらを振り返らずに学校へと向かって歩いて行く。


 そこでようやく金縛りが解けて動くようになった体に安堵を抱いた翔だが、手に冷や汗をかいているのが分かって再びため息をつくのだった。

と、いうわけで今回は以上です…!

わーい、説明多いねー…! これでも上手くまとめた方なんだけどね…あまり良い感じには…ここで言い訳しても仕方ないが…!

次回の更新までにはスランプ脱して精進したいね…頑張ります!


次回以降翔はどうするのか…! ってなわけで、また次回の更新でお会いしましょう♪ ではまたー♪

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