兄―新橋ユウマ―
0、
才能か、遺伝か。
何かは良く分からないが、新橋ユウマという少年は幼少期から比較的何でもできる少年だった。
勉強はその入りさえ教えてしまえば大体のことが分かるようになり、家庭教師が教えることがないといって投げてしまう程で。
スポーツもやり方さえわかればあとは独学でできるようになってしまい、そのスペックは子供の中ではとても高い、と評価されていて。
一通りの武術を習い、ある程度こなすことができていて。
だから、そんな彼にとって〝努力〟なんて言葉は割と無縁な言葉だった。
「ユウマは今でも十分出来るけど、もっと出来るように努力しようとは思わないのか?」
「…別にそこまで出来なくてもいかなぁと」
子供ながらに父の言葉をバッサリ切り捨てると、父が苦虫を潰したような顔になる。
「でも、男ならやはり強くあって大切な誰かをだな…!」
「大切な誰か…?」
「そうそう、父さんなら無論母さんがそれにあたる…!」
ラブラブなのは結構なことだが、まだ7歳の少年には色々早すぎた。
父の言いたいことが良く分からない。
そんな風に思っていた、ある寒い日のことだった。
母親からお遣いを頼まれて町に出ているときに、1人の少女と出会った。
「………、」
茶髪のストレートヘアーが腰の辺りまで伸びた少女だった。
それだけなら、別にユウマは気に留めもしない。
気になったのは、彼女の格好。
この季節だというのに、薄手の長そでとペラペラのジャージ生地のズボン。
まるでパジャマでそのまま外に出てきてしまったような恰好で、その少女は体育座りをしていた。
「………そんなところで何してるの?」
特に深い意図があったわけではない。
ただ、少女が気になって…こんなところで何で1人でいるのか気になって…だから話しかけた。
「………誰?」
ユウマの声に、少女がむくりと顔をあげた。
可愛らしい顔立ちの少女だが、彼女の目から生気が全く感じられなかった。
よく見れば服はところどころ破けていて、ひざはすりむけていた。
そして、何よりも――彼女の身体は小刻みに震えていた。
「………、」
今でも、何でああしたのかはわからない。
ただの気まぐれだったのかもしれない。
けれど、なんとなくその少女が気になって――、
「…俺は、新橋ユウマ。訳ありっぽいけど…とりあえずうちにおいで?」
これが、今のユウマにとって妹にあたるエリカとの出会いだった。
そしてこの後に、なんだかノリの軽い両親たちがうちの子になっちゃいなさいよー♪ 的なノリでエリカを養子として迎え入れた…というのがざっくりした流れだ。
今でも両親のその許容力というかノリというか…まぁその辺には恐れ入る。
けれど、親に捨てられたのが尾を引いていたのか。
彼女はなかなか新橋家の人間に心を開いてはくれなかった。
そんなある日のことだった。
「お前、親に捨てられたんだろー?」
「…ち、違…。別に私だって好きで捨てられたわけじゃ…!」
「親も嫌だったんだよ! お前みたいな奴!」
「…?」
声の音源は小学校の真ん中に位置する中庭だった。
そちらへ視線を向けると、視界に入ったのは数人の男子に囲まれたエリカだった。
突如現れた新橋ユウマの妹。そりゃ、複雑な事情があるとバレるのはあっとういう間なわけで。
だからって、何故、
「やーい、この捨て子ーっ!」
「………、」
今まで色々傷ついてきた少女をそんな風に更に傷つけようとする?
これ以上彼女を苦しめるな。
彼の中にあるのは、ただそれだけの想いだった。
「……俺の妹に何してんの?」
「あ?」
声をかけると、同級生の男子がユウマの姿を見て一瞬ビクつく。
が、すぐに侮蔑の笑みを浮かべると、
「…なんだよ、新橋。いいだろ、別にただの他人だろ? お前何他人のために怒ってるわけ?」
その言葉を聞くと、地面にしゃがみこむエリカが顔を俯かせた。
その通りだ、と思っているのだろうか。
ユウマはエリカを見て、少年たちを見て、ぐっと拳を握ると、
「………他人じゃない。妹だよ。」
シンプルに即答した。
その回答に驚いているのは、少年たちだけではなくエリカもだった。
彼女は茶色の色彩の瞳を何度もパチパチと瞬きさせてこちらを見つめていた。
が、そんなの気にせずにユウマは続けていく。
「お前らさっきの俺のセリフ聞こえなかったの? 俺の妹に何してんの、って言ったじゃん。エリカは俺の妹だよ。それを傷つけるっていうなら…俺はお前らを許しはしない」
「はっ…! やれるものならやってみろ!!」
喧嘩の後は、大体いつも擦り傷だらけだった。
別に買ったとか負けたとか、そんな大げさなことはなかった。
が、流石に5人の少年相手に無傷で喧嘩が終わる事はまずなかった。
「どうしてぇ…」
そんな彼を見て、彼女は泣いていた。
「どうしていつも私のために無茶するの……」
ポロポロとこぼれる涙がアスファルトを濡らしていく。
ユウマはほっぺたに貼ってある絆創膏を押さえながら「うーんと…」と少し困った表情をする。
皮肉なものだな、と彼は思う。彼女を泣かせるのが嫌で喧嘩したのに結局泣かせているなんて。
でも、
「…逆だろ。エリカのためだから無茶するの」
「………ふぇ?」
「俺面倒くさがりだし、普通こんなめんどいことしない。…でも、エリカのためだから…だから無茶できるの」
何回も言ってるじゃん、とユウマは付け足して「お前は俺の妹だって」
そう、それが彼にとってのすべてだ。
普段同級生の男子と喧嘩なんてらしくないことはしない。
そうまでするのは、全部――ただ今まで傷ついてきた妹を助けるためだった。
その言葉を聞いて、彼女の目から再び涙があふれ出してくる。
彼女は何を思ったのか、急にぐっと拳をつくると、
「わ、わかった。じゃあ私も強くなる…! ユウマにケガばっかりさせたくないもんっ」
その言葉に、ユウマは思わず目を丸くした。
守ってやるっているのに、どうやらこの少女に素直に守られるという選択肢はないようだ。
「おっ、頼もしいね」ユウマはくすくすと笑いながら、「でも俺も妹に守られるようにはなりたくないし…じゃ、一緒に強くなろっか」
すると、何故かさっき泣きやんだはずのエリカが再びボロボロと涙をこぼしていた。
「え、何でまた泣いてるの…!?」
「うーっ、だってぇ…」
そんな彼女の頭をぽんぽん、と撫でると、少し彼女は落ち着いたのか涙をふきはじめる。
全く、こんなんじゃしばらくは到底強くなれなそうだな。
そう思いながら彼女を見ていると、彼女はゆっくりとユウマの方を見上げて、
「…ユウマは…私から離れていったりしない?」
と、少し不安げに問うてきた。
ユウマは少し面食らってから、くすくすと笑い、
「うん、俺はエリカの傍からいなくなったりしないよ」
と言った。
こんな弱虫な妹を放ってどっかにいけるほど彼は無神経ではないのだ。
一緒に強くなる。彼女を守るために強くなる。彼女が他に誰か頼れる人を見つけるまでは――そばにいる。
そんな決心を夕焼けに染まる景色の中で彼は抱くのだった。
1、
「………、」
互いに、無言のまましばらく時が流れた。
突如現れた少年はエリカを守るように前に立つと、ちらりと彼女の方を見た。
気を失ったのか、少し涙を流しながら彼女は地面に横たわっていた。
「……さっさと事を片づけて、保健室に連れてくから少し待ってろ」
少年はそうボソッと呟いてから、自分と再び向き合う。
「さっさとねぇ」
突如現れた少年にイラつきを覚えつつ、彼は手で鉄パイプを転がしながら、
「さっさと事を片づける…ってのはあれか? 自分が俺にやられてどっちも死んでしゅーりょーってな感じか?」
「さぁね。やってみたらわかるんじゃね?」
そのさらっとした受け答えに、更に苛立ちを覚える。
今の自分はこんだけ強大な力を持っているのだ。
にも関わらず、何故この少年は何一つ恐怖を覚えない?
「…なら、その妹を助けにきたこと……後悔させてやるよ…ッ!」
思いっきり、鉄パイプを振りかぶる秀則。
そう、話は簡単なことだ。
恐怖を覚えさせてやればいい。一発殴れば、すぐに分かる。
何故なら今の自分は剛力の力を持っている。
こんな男、一発鉄パイプで殴れば一撃であの世へ葬ることができる。
そう、そのはずだった。
パシンッ! と小気味いい音がその場に響いた。
最初は何の音かと思ったが、すぐに正体がわかった。
――目の前の少年が、鉄パイプを右手で受け止めた音だった。
「な…ッ!?」
まともに手で受け止められる攻撃ではなかたはずだ。
おかしい。だって、自分の身体には絶対の剛力の力が宿っていて、
――ただの人間なんて、一撃でバラバラにできてしまうのに。
「…こんなもんか」
はっ、と気づいた時には視界には空がうつっていた。
投げ飛ばされたのだ、と気づくのに時間はいらなかった。
「こ、の野郎…ッ!」
ぎりっ、と歯を食いしばる。
こんなのは何かの間違いだ。
そう、焦りすぎて攻撃の力を弱めてしまったに違いない。
自分がただの人間に負けるわけがないのだから。
「…まぁ認めるよ。確かにお前は力が強い…人間とはかけ離れた力の強さだと思う」
そこに、少年の声がふりかかってくる。
「でも、あくまでそれだけだ。攻撃速度がはやいわけでも、武術の型ができているわけでも、試合経験とかがあるわけでもないだろ?」
彼は冷静な声のまま、
「お前はただ力が強いだけのそれだけの奴だ」
「黙れ黙れ黙れ―ッ!!!」
秀則は素早く起き上ると鉄パイプを手に目の前の少年に殴りかかる。
しかし、今度の攻撃も彼に当たらない。
さっきまでの余裕が、いっきに焦燥にかわる。
ただ力が強いだけの奴、という言葉が重くのしかかってきた。
「わかったろ?」
ゴンッ! と脳を揺さぶる一撃が、少年から放たれる。
殴られたのだと気付くのにさほど時間はいらなかった。
痛みが、嫌っていう程現実を知らしめてくる。
「…ぐっ…!」
「何度やってもお前は俺には勝てない。……わかったら大人しく自首しろ」
冗談じゃない。
自分は、強くなくてはならないのだ。
自分は、今、世界で一番強いのだ。
こんななんともない男にやられるなんて――冗談じゃない。
『ちっ、どうにかして打開策を…!』
そう思っていた時だった。
「お兄ちゃんたち、何してるのー?」
「「………、」」
少年の後ろから、女の子の声が聞こえた。
そこに立っていたのは、綺麗な白い髪を持つ5歳くらいの少女だった。
こんなところに来るとは、迷子か何かだろうか? 近くに母親らしき人物は見当たらない。
『…妹を庇うようなお人好し…。そうだ、この手があるじゃねぇか…!』
にやり、と口元に笑みを浮かべる。
すると、薄らこっちの狙いを理解したのだろうか。初めて少年の顔に焦りがうまれた。
秀則が鉄パイプを少女めがけて投げようとすると、少年が走って少女の前に立ちはだかった。
が、――秀則の狙いはそちらではない。
投げようとふりかぶった鉄パイプを手に、彼はいっきに地面に倒れているエリカの元へ走る。
そう、幼い少女を守るために立ちはだかった少年の手が届かない、エリカの元へ。
「…しまっ…!」
焦る少年の声が聞こえるが、もう遅い。
既に振りかぶった鉄パイプはエリカを狙って真っ直ぐに振り下ろされる。
ゴンッ…! と鈍い音がその場に響いた。
2、
風が強く吹いていた。
学院上空。
ゆっくり、ゆっくりと銀色の翼をはばたかせながらその少女はやって来た。
「…まともに会話するのは久々ね、ミカ」
かつて、師事していた少女の声だった。
銀色の美しい髪を持つ少女の声だった。
体育祭、ということでジャージをきていたが、その上からはいつも通り黒のジャケットを羽織っていた。
「…お久しぶりです…女王…」
「…あら? 昔見たく先輩、とは呼んでくれないのかしら。…その綽名は堅苦しくてあまり好きじゃないわ」
そう口にしながら、アイがぶんっと右手を奮った。
その仕草だけで彼女の右手には綺麗に透き通った氷の剣がつくられていた。
それを見て、ミカも同じく右手に剣を取り出す。
彼女の身長を超えた、長く強大な剣を。
「………お相手、願えますか。アイ先輩」
「………、」アイはしばらく黙ってから、「そうこなくちゃね」
3、
ドンッ! と鈍い音がその場に響いた。
秀則が振りかぶった鉄パイプは、気絶しているエリカに当たる事はなかった。
そう。つまり――エリカを抱きかかえるように庇ったユウマに当たった。
「…ッ!」
咄嗟に庇おうとしたので上手く衝撃をずらすことはできず、鉄パイプはユウマの背中に直撃した。
背中を揺さぶる、電撃のような衝撃。もしかしたら骨もやられたかもしれない。
表情が歪まずにはいられなかった。
「お、お兄ちゃ大丈夫ー?」
5歳くらいの少女が心配そうに駆け寄ってこようとしていたので、ユウマは気絶しているエリカを抱きかかえたまま、
「こっちくんなッ! さっさと逃げろ!」
彼にしては珍しく、低く鋭い叫び声だった。
驚いた少女はおどおどした後、こくりと頷くとその場から走って去って行ってくれた。
「優しいな。あの子供のせいで自分が怪我したのに逃がしてやるのか?」
背後から秀則の声が聞こえる。
その攻撃を仕掛けた張本人がよくいう。そんな口すらきけなくなっていた。
『たった一発で…このザマとは…』
内心で自分に毒を吐くユウマだが、それで事態が好転するわけではない。
こんなダメージを背負ってでも守った妹の顔を見て、彼はギリッと歯噛みする。
背後で秀則が鉄パイプを振りかぶるのがわかった。
しかし、エリカを抱えた状態のユウマに避ける術はなく――再び脳を揺さぶる一撃がユウマを襲った。
「………ッ!」
「…へぇ」秀則はくすりと笑うと、「今の一撃で気絶しねぇとは大したもんだな」
「そりゃどうも…っ」
「けどあんだけ格好よく登場しといてこのザマとは情けねぇなぁ?」
「そこに関しては俺も凄く同意だな」
ゴンッ! と次の攻撃はユウマの右足を狙ったものだった。
骨が折れるような、嫌な感触がユウマを襲った。
とはいえ、感覚が麻痺してきているのか。もう痛みはほとんど感じなかった。
見事な形成逆転。新橋ユウマが優しすぎるが故に見えた弱点。
彼の優しい心理を西園秀則は逆手にとった。
ユウマはふっと口元に笑みを作ると、秀則の方を精一杯睨みながら、
「…こういう卑怯な手を使わないと俺やエリカを殺せないとはね」
「………ふん、こういう状況でまだそんな口が叩けたとはな」
秀則は両手で鉄パイプをもてあそびながら、
「そんなこと言っても恰好つかねえぜお兄さん? 諦めて妹を差し出せば助けてやってもいいのによー…。強情は早死にするぞ?」
「…はっ、妹1人まともに守れないような兄なんて死んだ方がマシだろ」
「ほー?」
もうほとんど頭は働いていなかった。
それでも彼の芯はブレたりはしない。思いはただ1つ――妹を守る。
彼にとっては、最初から最後までただそれだけなのだ。
夕空の下で交わしたあの約束と、あの誓いに従うのみ。
「なんでそうまでしてエリカにこだわる? …いや、質問が違うか。なんでそうまでして、--茶髪の女性にこだわる?」
何か。何か打開策はないだろうか。
ほとんど働かない頭を動かし、ユウマは必死に時間稼ぎの質問をする。
今、彼はほとんど動くことが出来ない。
回復を待つなり、どこかで打開策を探すなりしなければ彼が守りたかった妹と共にどちらも死んで終わりだ。
「……ふん、答えてやる義理はねぇけどせめて冥土の土産に答えてやろう」
それは、と秀則は続け、
「--復讐さ」
「…復讐?」
と、そこで初めて自分の声が震えていることにユウマは気づいた。
剛力でパワーアップした少年に鉄パイプで何発も殴られて。一体彼の体には今どれだけのダメージが蓄積されているのだろうか。
「そう、復讐だよ。……俺を捨てて行った母親へのな」
「…捨てた…?」
「ああ。俺の母親はほかの男つくって俺と父を捨ててった。…そっから俺は父親から暴力を受ける日々だよ、もとからDV癖のあるやつだったみてぇだが」
秀則はぐっ、と拳を握り、
「――力が必要だった。すべてをねじ伏せるだけの力が。…そして今俺はそれを手にしている。今こそあの女への復讐の時なんだ」
「まさかとは思うけど…自分の母親と同じ茶髪の女性を狙ってるみたいなオチじゃないよね?」
「おーおー、察しがいいじゃねぇか。…忌々しいんだよ、茶髪の女を見てるだけで反吐が出るくらいにな」
話を全て聞いたうえで、ユウマの感想は一言につきた。
馬鹿馬鹿しい。
この少年は、今まで自分が狙っていた少女も、親に捨てられていると知ったらどう思うのだろうか。
父親に捨てられ、借金を押し付けられ、それでもここまで前向きにやってきた少女。
無論その過程で助けはあったが、彼女はそれに素直に感謝できる少女でもあった。
そんな少女を一番間近で見てきたからこそ、ユウマはこの少年のやっていることを素直に許せなかった。
「…ったく…いろいろ安いやつだな」
「……へぇ、まだそんな減らず口が叩けんのかよ?」
ゴンッ! という音とともに脳が揺さぶられた。
ユウマから苦しそうな吐息がもれる。
腕からエリカがするっと通り抜けていき、ついにユウマも地面に倒れてしまった。
立ち上がろうとして腕に力をいれるものの、蓄積されたダメージのせいで体は言うことを聞いてなどくれなかった。
ユウマの下にある地面もほんのりと赤く濁っていることから、頭からは血が滲んでいるのだろう。
思わず意識が遠のきそうになった。
このまま倒れることができればどんなに楽なことだろう、と彼は思う。
しかし、倒れそうになるユウマの脳内には茶髪の綺麗な少女の笑顔が思い浮かぶ。
あの少女は、一体何を思ってこんな危険なところに1人で出向いたのだろうか。
怖いなら最初から怖いといってくれればよかったのに。
来る時も、ユウマ助けてってただ一言言ってくれればよかったのに。
それなのに、どうして彼女はそうしなかったのか?
理由なんてわかりきっていた。
新橋エリカは、自分の兄であるユウマに迷惑をかけたくなかった。傷つけたくなかった。
自分のせいでほかの人が…特に大切な兄が傷つくところはみたくなどなかった。
そんなエリカの優しさを、この目の前の少年は殴り蹴り、鉄パイプで踏みにじった。
「………、」
身体のどこからか、みしっという嫌な音がした。
鉄パイプで殴られた影響か、頭のくらくらするし視界もふらふらしていた。
それでも、気に留めないでユウマは立ち上がろうと全身に力をいれる。
立ち上がるのに面倒くさい理由など必要なかった。
ただ立ち上がりたかった。
理屈などいらなかった。
新橋ユウマが立ち上がる理由。そんなものは小さいころから1つしかない。
ただ1人傷ついた新橋エリカを守るため。
そのためだったら、新橋ユウマは何度だって立ち上がれるような気がした。
第二章もなかなか大詰ですね…!
さて、前回の「いもうと」に引き続きまして今回は「おにいちゃん」
前回の対になるお話として書かせていただきましたー!
次回は続きではなく、少し視点がずれてアイたちの方へ
いよいよ事件も終幕間近なのでお楽しみください♪
次回——「彼女の幸福論」




