Tactics
1、
色々あった翌日の朝。徳永家にて。
非常に珍しいことに、咲城カレンという女性は困っていた。
もう一度言おう。普段完璧に何事もこなすメイドさんである彼女が困っていた。
原因はというと、
「あの、亜里沙さんはいつまで私を凝視すれば気が済むのでしょうか…」
「ふぇ?」
カレンに名を呼ばれた、自分の主の幼馴染である亜里沙という少女はきょとんと首をかしげる。
この様子だと、さほど気にして凝視していたわけではなさそうだ。
カレンはふーっとため息をついて、
「メイドは本来、人目などにはつかず、目立たず、影からご主人様を支える生き物ですから。あまり凝視されると少し調子が狂うというか…」
「でもカレンさん凄いんだもん…! 私カレンさん本当尊敬してるからさ…どうやったらカレンさんのようになれるかなーって思ってつい…」
えへへ、と笑う亜里沙だが、カレンとしてはこの少女にはこのままであってほしいと願うばかりである。
自分がいうのもなんだが、自分のような奴がもう1人いるとかちょっと気持ち悪いというか勘弁だ。
だが、純粋な目で見ている少女を適当にあしらえるわけもなく。
「…まぁ見ているだけで私になれるかは分かりませんが頑張ってください…」
「わーい♪ ありがとうカレンさんっ♪」
「流石のお前も亜里沙には弱いんだな」
と、不意に後ろからかけられる声。
カレンは「あら」と間延びした声で「フウくん」と声をかけてきた人物の名を呼ぶ。
名を呼ばれた人物は、相変わらず室内でもマントに眼帯シルクハットという暑苦しい格好をしていた。
これから夏だというのにいつまでこの格好なのだろうか? 暑苦しいことこの上ない。
「お前今酷い事思わなかったか?」
「気のせいですよ♪ …ま、亜里沙さんに弱いのは認めざるを得ません。…というか波音様があそこまで過保護になってしまう気持ちが分かるというか」
「あーな…亜里沙ってこう、本当放っておけない感じのオーラが出てるよな」
フウの言葉にカレンもこくりと頷く。
本当にその通りなのだ。放っておいても大丈夫だろう、となんとなく思えないのだ。
本人からしたら若干不本意かもしれないが、どことなく面倒を見ておかないと心配になってしまう。
「けどある意味才能ですよねそれも。人から愛されるというか、面倒を見てもらえるというか」
「確かになー」
「ふふっ。なんだか私の妹を思い出しちゃいます」
「?」その言葉にフウは首を傾げ、「…お前妹いたの?」
「意外ですか? いますよー、妹。別に亜里沙さんみたく放っておけない…ってわけではないんですけど…なんでしょうね? 凄く無意識のうちに人を惹きつけやすい子なんです」
本人は特に気付いていないんだろうが、姉のカレンからすれば羨ましいことこの上ない。
フウは「へー」と適当に頷き、
「ってかお前確か両親に捨てられて波音に拾われたんじゃなかったけ…? 妹ってどうしてんの?」
さらっとヘビーな過去を聞いてくるのは、きっと自分がそういうのを気にしない性分であることを知っているからだろう。
そして案の定気にしていないカレンはにこりと笑いながら、
「親切な男の子のお家に引き取られて幸せに暮らしてますよ♪」
「へー、そりゃあ波音並のお人好しが他にもいたもんだな」
ですねー、と相槌を打っていると、
「カレンいます?」
不意に。絶望のどん底から自分を救い上げてくれた自分の主の声が聞こえてきた。
「はい、いますよ波音様。いかがなさいましたか?」
「これからアイさん達がうちにきて話があるらしいので…お茶でもいれてもらえます?」
「かしこましました♪」
返事をすると、横でフウが「アイが…?」と首を傾げる。
しかし、学校に行く前にわざわざ出向くとはなかなか重要な用事なのだろう。
そう思いながらカレンは波音に一礼して、キッチンにポットを温めに向かっていった。
そんなことがあった10分後。
徳永家の客室に通された翔はきょろきょろと部屋を見渡していた。
「うわー…波音さん家って本当お金持ちなんですね…」
豪奢な部屋のデザインだった。
絨毯もカーテンも壁紙も、全部最高品質の物ではないだろうか?
天井には当たり前のようにシャンデリアがかかっており、金の縁でかざられたテーブルとイスもその部屋にあるべくしてあるかのように置かれている。
隣にいるアイは結構平然としている様子だ。…それを見る限り、10年前などにも遊びに来たことがあるのかもしれない。
「いらっしゃいませ♪」
と、不意に横から聞こえる声。
気付けば、そこにはお洒落なティーポットとカップをお盆に乗せて運んできた茶髪のメイドさんがいた。
「あ、お、お邪魔します…っ!」
「ふふ、そんなかしこまらなくても大丈夫ですよ♪ 波音様たちもすぐに来ると思うのでどうぞ席でゆっくりしていてください」
は、はいっと返事をしながら翔とアイは席につく。
初めて見るリアルメイドさんにどことなく緊張しつつも、流石に徳永家くらいにもなればメイドさんの1人や2人いるよなーと思う翔。
そう、だから別にそこは普通なのだ。だが、唯一気になるところとしては――、
『随分若いメイドさんだなぁ…っていうか…どっかで見たことあるような?』
綺麗な色の茶髪。同色の瞳。ストレートヘアー。
つい最近、どこかで見たような覚えがあるのだが…なんとなく思い出せない。
うーん、と考えているとバッチリお茶をいれているメイドさんと目があった。
「あ、す、すいません! え、えと…」
「いえ、お気になさらず♪ メイドなんて、普段なかなか見ないし珍しいですものね」
と、言ってにこりと笑うメイドさん。
この笑顔もつい最近…というか昨日くらいに見たような…。
『ああダメだ思い出せない…!』
思い出せないとなんとなくむずむずするものだ。
こうなってくると意地でも思い出したいものなのだが…。
「………妹さんとかいらっしゃいます?」
と、不意に横にいたアイが、この家に来て初めて口を開いた。
唐突な質問にメイドさんは少し間を開けてから、「はい」とシンプルに回答した。
「…え、アイ、どういうこと…? 知り合い…?」
「いえ、私もこのメイドさんと会うのは初めてだけど…。つい昨日このメイドさんの妹には会ったばかりよ。アンタも面識あるじゃない」
「え…っていうと…?」
「新橋エリカ」
と、答えたのはアイではなくそのメイドさんだった。
彼女はにこにこと笑ったまま、
「私の妹の名前ですよ、新橋エリカ♪」
新橋エリカ。その名前はユウマの義妹にして、昨日スーパーで晩御飯を決めてくれた救世主的存在。
というか、
「あああああ…!? 本当だ良く見ると本当にそっくり…!?」
「エリカも私も母親似ですからね♪ 妹と仲良いならどうぞよろしくお願いしますね」
はー…、となんとも言えない返事をする翔。
なんか性格とか、あと目元とかはどことなく違う気がするが、雰囲気はほとんど一緒だ。
ということは、だ。昨日聞いたエリカの過去から察するにこの人も同じ過去と言う事になる。
『となるとこのメイドさんもエリカさんと同じような経緯で徳永家に…?』
「あ、ちなみに私は咲城カレンという名前なのでメイドさん呼びはやめてくださいね♪」
「………へ?」
「あと、私がこの家でメイドをする理由はエリカとほとんど一緒ですよ。行き倒れていたところを波音様に救っていただいたからです♪」
「……え、えっと…」翔は冷や汗をダラダラと流しながら、「…な、なんで今考えていることがわかったんですか…?」
それは。
天道翔が初めて出会った本格的なメイドさんの印象を決定的に位置づけ、
また天道翔にメイドさんという言葉の意味をなんだかすごいものとして登録するに相応しい一言だった。
「まぁ、メイドですから♪」
カレンが部屋を去って、割とすぐに波音とフウが部屋に入ってきた。
波音が翔の前の席に、フウがアイの前に席につく。
しかし流石だな、と思うのはこの部屋に波音が非常にマッチングしていることである。
なんというか、大袈裟に言うとこの部屋は波音のために存在していると言われても納得できてしまうくらい似合っている。
「それで? 朝からどうしたんだ? …アイの表情を見る限りではあんま楽しそうな話しではなさそうだけど」
「…まぁ朝からわざわざ他人の家を訪ねて楽しい話…ってパターンはなかなかないわね」
アイは少し目を伏せながら、
「……ミカよ。ミカ」
「…ミカ?」
と、首を傾げたのは波音だ。
フウは当然同じ神であるので、その名前を聞いてすぐにピンときたのだろう。
彼は少々不思議そうな顔をしながら、
「…ミカって…。アイツは毎回パーティーを参加する以前にリタイアしてなかったっけか?」
「…そうなんだけど、今回はどういうわけか参加してるのよ」
ふむ、とフウが頷いてから、自分のパートナーが状況を飲み込んでいないことに気付いたのだろう。
彼は波音の方を向くと、
「…ミカってのは俺らと同じ神だ。属性は剛力。要するにすげー馬鹿力を奮うってとこ」
「…なるほど。で、そのミカさんとやらがパーティーに参加してるっていうのはそんなに珍しいことなんですか?」
「珍しいも何も初参戦じゃね? アイツは本当に争い事が嫌いな奴なんだ。アイツが戦っているところを俺は一回も見たことないね」
「へぇ…。神と言うのはどいつもこいつも好戦的なものだと思ってましたよ」
しれっとした顔で言う波音だが、翔も同じ意見である。
少なくともアイの過去に関係している闇を司る神、前回倒した電光を司る神、それにアイにしてもまぁ好戦的とまでは言わなくとも少なくとも平和的と言う評価はくだせない。
「ミカくらいだよ、あそこまで戦わないのは。お陰で天使の下剋上とやらにしょっちゅう狙われてたしな」
「下克上?」
「そ。自分たちより格上の神を倒せば地位が上になれるんじゃないかなんてバカなことを考えた天使たちが神を倒そうとする動き。…で、まぁアイとかに挑めばどうなるかは大体わかるだろ?」
「………、」翔は横にいる少女を見て、「…絶対狙おうと思いませんね」
「…アンタもだいぶ私に対して言うようになったわね…」
えへへ…、と苦笑するも事実だ。
この間の戦いであれだけ強いのを見せつけられておいて尚この少女を狙おうと思う馬鹿がどこにいるものか。いや、絶対いない。
「けど、ミカは…実際の強さはともかくとして、とにかく誰が相手でも攻撃をしない。…だから天使的には倒しやすいだよ」
「…なるほど…。でもそんな神を倒して地位を上にして嬉しいんですかね?」
「それが普通の考え方だけで天界は広いし、そういう考え方じゃないやつもいるってこと」
やれやれ、とため息をつくフウを見ると天界には天界なりに大変なことが他にもあるのだということが伝わってくる。
とりあえず今の流れでミカがパーティーに参戦しているのがどれだけ異常であるかということは翔、そして波音にもよくわかった。
「まぁ参戦してるだけなら問題ないのよ。問題はあの子のパートナーが殺人事件を起こしている事」
「…そんな過激なパートナーなんですか?」
「ええ。ここ最近、茶髪の女性が連続で殺害されるという事件が相次いでるんだけど…その犯人よ」
「ああ…あの事件の…」
この辺で起きている、という点と連続殺人、という点からやはり今はみんな知っているニュースだ。
この近隣の警察でも当然注意を呼びかけ、警戒態勢に入っているのだが……、
「神相手じゃ警察はかなわねえだろうなぁ」
と呟いたのはフウだ。
いくら行っているのがパートナーの方とはいえ、背後にあるのはミカの神の力。
そうなると、普通の人間である警察には到底敵うわけがない。
「実は、伏せられている情報なんですかシラヅキでも1人怪我人が出ていて…」
「え、そうだったんですか?」
翔が尋ねると波音は内緒ですよ、と念押しをする。
まぁ彼女のこういった情報は理事長である徳永家に入ってきたものだろうし、確かに無暗に言うつもりなどは到底なかったわけだが。
「この連続殺人で唯一の生存者だったんですよ彼女は。…まぁ怪我は酷くて今は入院中なんですけど…」
「私は昨日、ミカのパートナーと少し対峙したけど手加減をしそうには思えなかったわ。…何でその子だけ怪我で留まったのかしら…」
勿論、ケガで留まったこと自体は命を落とすに比べればいいことだ。
だが、色々不可解なことが多すぎる。
確かにアイの話しを聞いた限りでは、わざわざ殺すのを躊躇して怪我で留めるとは思えないのだが…、
「…そこはわかりませんが…、虫の息だったところを誰かが手当してくれていたみたいで…救急隊員が見つけた時何故か処置がある程度できていて、そのまま青南総合病院に運ばれたためなんとか命は救われたとか」
「……手当ねぇ…」
アイが目を細める。
心当たりがあるのか、それともただ考えているだけかは判断がつかないが、彼女的に思う所があったようだ。
「…さて。で、ちょっとばかし本題に入るんだけど実は昨日…新橋エリカってわかるかしら? その子がそいつに狙われてたのよ」
「…ああ、新橋さん…」
この学校の生徒でないフウだけは誰か分からない感じだったが、流石に波音は知っているようだ。
実を言うと、ユウマとエリカは校内でかなり目立っており、〝新橋兄妹〟としてみんなから注目を浴びているのでシラヅキの生徒ならまぁ割と知っていたりするのだ。
「そっか彼女も茶髪でしたっけ…。で、狙われてた…って助かったんですか?」
「ええ、なんとか私が止められたわ。…とはいえ、狙われ続ける可能性が高いと思うの」
と、そこまで話すとフウが話の趣旨を理解したようだ。
「なるほど、護衛だな」
「そういうこと。私達で交替であの子を護衛しようと思うの。…昨日一瞬対峙しただけだからわからないけど、あのパートナーの性格上ねちっこく狙ってきそうな気がするし…」
それに、とアイは続け、
「護衛を続けていればミカとも接触できる。ミカを撃破すればミカはパーティー敗北になってパートナーの剛力の力もなくなる。…そうすれば事件も解決できるわ」
ふむ、とフウが頷く。
多分今回の件で一番動きやすいのは、学校などに縛られていないフウだろう。
今後は体育祭というイベントも控えているし、アイ達生徒はどうしても動きに制限がかかってしまう。
「よし、護衛は俺がメインでやる。……俺も一般人の被害は出したくねぇしな…」
「………?」
最後の言葉だけ異様に力がこもっている気がしたが…。
その真意もわからぬまま、翔はとりあえず話の流れに乗っていくことしかできなかった。
「新橋さんといえば」波音がふと思い出したように、「昨日そちらのクラスの新橋くんが6人目の被害者の第一発見者になっていたそうですよ」
「え、ユウマが…!?」
翔は驚くと同時に、ああだから昨日いなかったのかと納得する。
しかし、兄妹揃ってそういった現場に遭遇するとは…こう、なんとも言えない感じだ。
血がつながっていないとはいえ、長い間一緒にいるとやはり似てくるものなのだろうか。
この場合はあまり似なくても良い気がするが。
「……おい、シラヅキ結構その事件に関与しちゃってんじゃねーか。大丈夫かよ」
「ま、まぁ…。本当早めに解決をするしかないですね」
「…ミカは私の後輩よ」
波音の言葉にアイは大きくうなずきながら、
「だから、あの子をこのままにしておくわけにはいかないわ」
2、
ちなみに今日の波音の家での朝会議のために、翔は結構な早起きをしていたりする。
よって、その後学校に直行し(また遅刻ギリギリだった)、そのまま何を言ってるのか全然理解できない授業となれば――、
『すっごい寝てしまった…』
となるのは当然なわけで。
朝の瑞希のHRの記憶まではあるのに、それ以降の記憶は一切ない。
気付けばもうお昼休みだ。
『また授業ついていけなくなるなぁ…』
なんてことを思いながら、翔はよいしょっと机の上に手作りお弁当を置く。
と、そのお弁当の前にピンクの包みに入った可愛らしいお弁当が置かれた。
「…アンタずっと寝てたわね」
アイだ。
ちなみに、彼女のこのお弁当も翔手作りのものだったりする。
中身は周りに何もツっこまれないように、なんと全部別のメニューで作った。
そんなことをしているから朝起きる時間が早くなるわけだが、まぁ料理に関しては好きなのでオールオッケーだ。
「…えへへ…どうしても眠くて…」
「そんなんで成績落ちたらどうするのよ? ここ名門校なんでしょ?」
「…えっと…まぁ…はい…」
確かに現実問題、これだと7月頭にある期末考査でとんでもない結果になってしまう。
そうなるとどうなるかって、瑞希に怒られる。うん。これに尽きる。
『はぁぁぁぁ…どうしよう…』
テストのことを考えて鬱になっていると、
「ユウマ。お弁当一緒に食べよっ」
と、扉の方からエリカの声が聞こえてきた。
その声が聞こえると同時に、クラスの男子たちが「うぉぉ、新橋さんだ…!」と顔を輝かせていたがまぁ置いておこう。
あれだけ整った容姿を持つ少女なら、隣のクラスで人気なのも頷ける。
というか、狙われたと聞いてだいぶ心配していたのだが、その笑顔は昨日見たそれと何一つ変わっていなかったので少々安心だ。
一方、話しかけられた当の本人であるユウマはというと、
「………別にいいけど…、クラスの友達と食べるんじゃなかったけ今日は?」
「まーまー細かい事は良いじゃないっ」
本当仲良いなぁ、と思いつつ翔はユウマとエリカの方を見る。
エリカはユウマの席の所までくると、お弁当箱を置く。
良く見ると、ユウマの物とお揃いだろうか? まぁ大きさは圧倒的にユウマの方が大きいわけだが。
「うーん…」ユウマは少し悩む素振りをしてから、「俺もうちょい量ほしいからコンビニでパンか何か買ってくるよ。すぐ戻るから先に食べてて」
「えっ」
珍しく、妹から聞こえた不満げな声を疑問に思ったのだろう。
扉に向かおうとしていたユウマがきょとんとした表情でエリカを見る。
「えっ…てどうしたの?」
「いや、その…」エリカは右手でちょこん、とユウマのYシャツの裾を掴むと、「…ゆ、ユウマ…行っちゃうの…?」
その瞬間。
普段クールなユウマの表情が、「はい…?」と珍しく驚いたかのような表情に変わった。
気が強くて、何でもできる自分の妹からこんなセリフが出てくるとは思っていなかったのか。
どういう心境でそういう表情になったのかは分からないが、ユウマはしばらく黙ってから、
「………、熱でもあるの?」
「ないわよッ! どんな評価よ!」
「…いや…エリカが急に小学生くらいの頃に後退したかのようなセリフを…」
「そ、それは……」
と、そこでエリカも自分が言ったセリフの意味に気付いたのだろう。
はっとなると同時に彼女は顔を真っ赤にして、
「ち、ちがっ、べ、別になんでも…へっ、私なんていって…!?」
「やっぱ熱あんのか…」
「いや、ちがっ…! な、なんでもないからさっさと行ってきなさいよバカユウマ!」
何で逆切れされてんだろう俺…と呟きながら、教室を出ていくユウマ。
と、そこでアイが翔にすかさず、
「…新橋についていって、昨日のその事件の目撃談みたいなの聞き出しておける?」
「…え? まぁなんとかやってみるけど…」
「じゃあ頼むわ。私は妹さんの方に聞いてみるから」
わかった、と頷く翔。
翔は今まさに教室を出ようとしているユウマの元へ向かうと、コンビニに飲み物を買いに行くという名目で彼についていくことに成功したのだった。
3、
かなりお買得な値段になっているクリームパンと、そのお供にカフェオレを買ったところでユウマの買い物は終了した。
隣では何の飲み物を買うかで翔がまだ悩んでいるが…、そういえばこの少年は優柔不断だった。
「まだ決まらないの?」
呆れた感じに声をかけると、翔は「も、もう少しっ」と焦った感じに返してくる。
内心では早く選ばなきゃ悪いなぁという気持ちと、でもどれにするべきか…という気持ちとで戦っているのだろう。
彼はしばらく「んー…」と悩んだ末に、
「ユウマ! ストレートティーとレモンティーどっちがいいかなっ!」
「………レモンティーかな」
「じゃあそうするっ!」
それでいいのか、とツっこもうとしたが、まぁそこでツっこんでも教室に帰れないので何も言わないでおく。
ちなみにユウマがレモンティーを選んだのは本当になんとなくだ。
翔もこんな感じでかるーく決めてしまえばいいのにな、と思いつつユウマは手早く会計を済ませた。
「そういえば昨日も夕飯のメニューで迷ってたらエリカさんがズバッと決めてくれたんだよねー」
「へー。てか、昨日エリカに会ったんだ?」
「うん、夕方ごろかな。隣町のスーパーで」
隣町のスーパーか…とユウマは僅かに考える。
いつも行くスーパーなら探しに行ったのだが隣町とは。
道理で昨日は探しても探しても見つからないはずだ。
「昨日隣町のスーパー、セール日だったからさっ」
「……アイツ本当所帯じみてるんだよなぁ…」
何が? と翔に聞かれると、ユウマは何でもないという代わりに首を横に振った。
セールのためにわざわざ隣町まで出向くとは…まぁそれがエリカの良い所であるわけだが。
というか、同じことをしている翔も十分所帯じみている気がしたが。
「そういえば昨日ユウマ、昼休み帰ってこなかったけどどうしてたの?」
翔の唐突な質問に、ユウマ「あー…」と昨日のことを思いだす。
まさか事件の第一発見者になってました、と馬鹿正直に答えるのもなんだ。
極力こういう事は伏せておいた方がいいだろう。
「ちょっと野暮用で」
と、適当にユウマは誤魔化しておく。
まぁ鈍感少年翔ならこれ以上ツっこんではこないだろう。
そんなふうにユウマは踏んでいたのだが、
「ならいいんだけどさ。僕心配してたんだよ? 何か変な事件にでも巻き込まれたんじゃないかなー…とか」
「………、」
もしかして知っているのか? とユウマは首をかしげる。
なんだかこれは翔らしかぬ発言だ。
ナチュラルな返答のように思えるが、翔は基本ユウマのこういった曖昧な発言にツっこんでくることはしない。
多分自分の性格を良く理解しているからなのだろうが、今回はそうではなかった。
しかも具体的な〝事件〟というワードも綺麗に織り交ぜていることから判断すると…、
「………もしかして俺がちょっと事件に巻き込まれたの知ってた?」
「うぇぇ!? な、なんで!?」
これはビンゴだな、とユウマは判断した。
しかし、聞き返した時のこの反応と言い、実に分かりやすい少年である。
「まぁ何が聞きたいのか知らないけど、ちょっと事件の第一発見者になっちゃっただけでそれほどのことはなかったよ。犯人と遭遇もしなかったし」
「そ、そっかぁ…。まぁ遭遇しなかったのは良かったけどね…危ない犯人みたいだし」
「へー、なんの事件の第一発見者かまで知ってるとは。どこ情報?」
「い、いやー、今日は天気いいなぁー!」
これで誤魔化しているつもりなんだろうか。
まぁあまり深く尋ねるのは可哀そうだ。言及しないでおいてあげよう。
「まぁ何を聞きたいのかは知らないけど…別に俺は手がかりとかは何も知らないよ」
「そっか…」
「あ」ユウマは思い出したように、「強いて言えば発見した時もう1人いたんだよね。女の子」
「女の子?」
首をかしげる翔に対して、ユウマはこくりと頷き、
「多分日本人じゃないと思う。金髪だったし。包帯とか持ってたからどうにかしようとしてたのかな…まぁあまり意味はなかったけど…」
「……金髪の女の子…」
「ま、とにかく俺が見たのはそれだけ」
う、うんっとなんだか曖昧な返事が返ってくる。
しばらく翔が無言になっていたので、もしかするとその金髪の少女とやらに心当たりがあるのかもしれない。
「…翔が何でそんなに喰いついてるかはわからないけど気を付けた方がいいよ。世の中関わらない方がいいことたくさんあるし」
「え、あ、まぁ…」
なんとも曖昧な返事が続くな、とユウマは思った。
元々お人好しな少年だ。
関わるな、といったところでもしかしたら無駄なのかもしれない。
「ユウマは…やっぱりそういう面倒事は避けていたい感じ?」
「そりゃね。極力平和に平穏にが俺のモットーだから」
何かに巻き込まれることで、自分以外の誰かを巻き添えにするのも…〝もう〟懲り懲りだ。
青南総合病院のベッドの上で眠る少女を思い出しながら、ユウマは心の底からそう思うのだった。
4、
「あの女どうなってんだよ。ボディガードたくさんってか?」
秀則の忌々しげな声を横に、ミカは黙っていた。
昨日の少女にはアイがつきっきりでついていたり、もしくは風を司る神が遠目から援護をしたりしている様子が認められた。
正直、今あそこに突貫していったところで未来は見えているだろう。
もっとも、自分にとってはその方がいいのかもしれないが。
「……どうするんですか、秀則くん。やっぱりあの子は諦めて…」
「ふざけんなよ。お前、知ってるだろ? 今俺は無敵なの」
彼は手近にある壁に、ごんっと拳をぶつける。
凄い軽い動作だったが、それだけで壁はあっという間に瓦礫へと化してしまった。
「…これだけの力を持った俺が、女1人諦めるなんてありえねぇ」
力を持った者にありがちな心理現象なのだろうか。
とりあえず、自分のパートナーに諦める意思はないようだ。
彼はしばらく、市内でもかなり有名な名門校の方に目をやり、
「…そーいや、もうすぐこの学校は体育祭だったな…」
彼はにやりと笑いながら、
「一般公開されるイベント…。いいチャンスかもな…」
彼の笑みは止まらない。
ボキボキと腕をならしながら、「どう調理するかなぁー」と楽しそうだ。
6月24日体育祭。新入生にとって初のイベントともいえる体育祭の開幕が近づいていた。
体調不良からのハースケで2週間もせずにまた体調を崩した李薇です←
うん、ちょっと無理しすぎた感はありました! 反省ですね!
およそ1か月ぶりの更新となりましたが今回なかなかボリューミーです今までに比べて。なんかおさまらなくて←
まずカレンさんとエリカの関係性ですね、はい、お姉さまです。
ユウマと知り合いな理由もそれですね。カレンさんから見てユウマはほとんど弟みたいなものなのです。
そしてエリカの挿絵入りました!
これだけでエリカファンを増やしてやろうという目論見で気合を入れた挿絵にしましたが…どきどき←
でもメインヒロインも忘れないでね←
さて、次回からいよいよ体育祭開幕。




