Wave,Sound,Wind
1、
話は遡ること、数時間前。
季節は丁度、6月…ジメジメとした雨季である。
朝7時半、生徒たちが賑わう通学路にて、
「うわぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!?」
…朝の爽やかな光景を台無しにするような、1人の少年の絶叫が響き渡る。
周りの学生達がなんだなんだ、と視線を送る先にいるのは明るい髪の少年だ。
少し癖っ毛のある栗色の髪。特徴的なのは、ピン止めで止められた前髪。
明るい茶色の色彩の瞳を持っており、やや女の子らしい顔立ちのその少年の目にはうっすらと涙がたまっていた。
「ああ……ああ…ぼ、僕としたことが…!」
ブカブカのセーターに身を包む少年――天道翔は、顔を覆うようにしながらその場に突っ伏す。
そんな彼の目の前にあるのは、やや泥のついた直角に曲がってしまっている茎。その茎の先には綺麗に咲く一輪の花。
その光景から察するに、翔はうっかり花の茎を踏んでしまいこんな無残な姿にしてしまったようだ。
それに気づいた瞬間、周りの学生たちは「何だそんなことか」とスタスタ歩いて行ってしまうが、翔にとっては死活問題なのだ。
「折角大地に芽吹いて綺麗に咲き誇ってたのに…それを僕は…僕はぁ…!!」
ポタポタ、と地面に落ちていく涙。それによって地面の茶色がやや濃い色になっていく。
『大丈夫だよ…?』
不意に、脳内にそんな…綺麗な声が響いてきた。
涙目のまま花を見てみると、涙の滴でキラキラ輝く花がそう言っているかのように見えた。
「で、でも…お花さん…!」
『だって…私精一杯咲いたもの…♪ ホント、幸せだったわ…♪』
「…うう、ホント僕のせいで…!」
ふわっ、と温かい風が吹くと、花の良い香りが翔の嗅覚を刺激した。
まるでその香りが、翔を慰めているようだった。
『…ほら、私のことは置いて…もう行きなさい…学校へ…』
「そ、そんなの無理だよ…! ぼ、僕のせいでこうなったのに…!」
『…良いから…早く…! うっ…!』
「…お花さん…!? お花さぁん!?」
「……何、朝っぱらから花相手に愛のドラマ始めてるわけ翔は?」
急に背後から聞こえた低めの声。そしてそれと同時にスパコーンッ、と翔の頭が軽くたたかれる。
思わず地面に顔を激突しそうになったが、なんとかそれをこらえる事に成功した。
翔はきっ! と後ろに立っている少年を睨み、
「何するのユウマぁ!?」
「……朝から通学路で悪目立ちしている友達の目を覚まさせてあげたんだけどね…?」
ふぅ、とため息をつく黒髪の少年。
黒髪に藍色の瞳。高身長で体格もよく、しかもイケメンというなんとも羨ましい彼の名前は新橋ユウマ。
翔にとって、高校に入学してから一番最初の友達であり、親友だ。
「悪目立ちなんかしてないよ!」
「……いや、現実に聞こえない花の声と会話してる時点で凄いしてたから」
「……はっ、そうだお花さん…! お墓作らないと…!」
翔は慌てて花へと視線を戻して、涙でやや柔らかくなっている土を両手で掘り始める。
ブカブカのセーターの裾に土が少々つくが、そんなこと花のお墓のためならどうでも良い。
と、そこで不意に後ろからため息が聞こえてきた。
どうしたのだろう? と思っていると、
「…あのさ、翔。……まぁ、お墓作るのは良いんだけど学校に遅刻しない時間内に作ってね?」
「いや、そうはいっても適当なお墓は作れないよ…! ユウマは先行ってていいよ?」
「お前放置しといたらまた変な漫才始めるだろ」
「漫才じゃないって!? ともかく、真面目に作らないと…! 例え学校に遅刻しても…!」
「ちなみに翔がお花のお墓作って遅刻した回数入学してからすでに12回だからね? 3回遅刻で1回欠席扱いだから既に4日休みと同じ計算……」
「どうしよう進路に響く…!? ただでさえ僕成績悪いのに…!?」
それでも、全く手を緩めることなくせっせと土を掘っていく翔。
その姿を見て、ユウマは再び「はぁ」とため息をつくと、翔の横にしゃがみ込んだ。
「……?」翔はきょとんとしてから「…手伝ってくれるの…!?」
「目を輝かせるな。…どーせ、いっても聞かないんでしょ。但し5分ね。5分で終わらせるよ」
「……わかった!」
その5分後、大地に立派なお花のお墓が完成した。
2、
「やー、ホント遅刻しないで済みそう…! ありがとう、ユウマってホント器用だね…!」
「…そう? まぁ、翔が不器用なのもあると思うけどね。…にしても朝から男子2人でお花のお墓作ることになるとは思わなかったよホントに…」
ふっ、と苦笑しながら呟くユウマ。
まぁ、こんなふうに毎回文句を言いつつも手伝ってくれるからユウマは優しいな、と翔は思う。
格好いいし、強いし、優しいし……翔にとって、ユウマは憧れの兄のような存在だ。
『そりゃあ、モテるよなユウマ…!』
そう。この少年はもの凄くモテる。
入学してからまだ2か月程だが、女生徒からかなりの回数告白されている。
そりゃもう、周りのモテない男子が「あんなに女生徒いたかうちの学校…!?」と恨むレベルで。
「まぁ、でもほら…。僕が踏んだお花のお墓を作らないわけにはいかないし…」
「……、ホント翔って優しいよねー…。高校生男子とは思えないピュアな優しさ」
「…そうかな?」
「そうだよ」ユウマは頷き、「お花踏めばお墓つくって、蟻とか踏んだら泣きながら全力で土下座してお墓つくって…」
普通じゃないかな? と思う翔だが、どういうわけか内心で読んできたユウマに先に「普通じゃない」と言われてしまった。
くそう、内心をすっかり読まれたか…と翔は思いつつ特に反論はしないでおいた。
基本的にユウマと口論になった場合、自他共に認めるバカの自分はまず勝てないのだ。
「…そっか、僕普通じゃないかぁ…。でもユウマには言われたくなかったなぁ…」
「…俺のどこが普通じゃないと?」
「いや、そんだけモテる要素のバーゲンセールみたいなくせしてそんな…!」
「……え、モテる要素のバーゲンセールって何…?」
苦笑しつつ返してくるユウマ。
が、全て事実である。現に今も後ろから1人女の子が見てるし――、
『……って、え?』
不意に感じた視線に、翔は違和感を感じた。
なんだ? と思って振り返ると、横にいたユウマもどうしたのかと翔の視線を追ってみる。
2人の視界に同時に入ってきたのは、なんとも神々しい雰囲気の1人の少女。
腰の辺りまで真っ直ぐ伸びた赤い髪に、切れ長の金色の瞳。
肌も白くて綺麗だし、全体的に整った顔立ちだ。
制服の上から見ても抜群のプロポーションの彼女は、常人を逸脱した…それくらいの美人だった。
神々しいとはこういう少女のためにある言葉なのだろうとすら思えてくる。
が、唯一腑に落ちないのは…同じ学校の制服なのに見覚えがないこと。
こんな美人なら見たら忘れなさそうだが…、まぁ大きな学校だしなという事でそこは片づけておこう。
「………、」翔はしばらく見惚れた後に、「あっ、も、もしかしてユウマに用事…ですか…? だ、だったら僕退散しますねっ」
「え、ちょ、翔…」
後ろにいた、ということはもしかしたらユウマに告白しに来た女子かもしれない。
実際に翔はユウマといる時に何度となくそういう事例があったので十分にあり得る話だ。
そう思って退散しようと思ったところで、
「…生憎、新橋ユウマごときに興味はありません」
「えっ!?」
「………、」
やや高いトーンの声で放たれた言葉と同時に、去ろうとするのをやめる翔と、やや苦笑するユウマ。
そんな2人のことは露知らず。彼女は翔の方をみて、
「…私が用事があるのは誠に遺憾ながら天道翔あなたです。ですから新橋さんは先に学校にでもどこにでも行っててもらえません?」
「…え、まぁ俺はいいですけど…」
と言ってから、ユウマと翔の目がバチッと合った。
翔としては正直ユウマに行ってほしくなかった。
だってこの少女のこの口っぷりからするに、―どう考えても告白とかじゃないし。
むしろいきなり、決闘しましょう、と言われてもおかしくないし。
っていうか、先ほどからこちらを睨むような金色の目が怖くて怖くて仕方ない。
もの凄い美人な分、目線の迫力も倍増だ。
『だからお願い…! 行かないでユウマ…!』
「あ、じゃあ置いていくのでよろしくお願いしますね」
『ユウマぁ!?』
全くこちらの思いは通じず。
何とも言えずに翔が口をパクパクさせていると、ユウマは口パクで「ま、頑張れ」と言ってきたが何をどう頑張れというのか。
どうすればいいんだろうこの状況、と翔は思った。
そもそも女の子と2人という状況すら今まで陥ったことがない彼としては、これはかなり困った状況なのだ。
「え、えと、そ、それでななななな何の話ですか…!?」
「……、とりあえず自己紹介を。私は徳永波音と申します」
「…ああ、えと、それでそのととと徳永さんが何の用事で…!?」
波音は「別にそんな慌てなくても」と呆れたように呟いてから、切れ長の金の瞳をこちらへと向けて、
「…あなた、与えられてますよね〝資格〟を」
と言った。
〝資格〟…と言われても、翔には何のことだかさっぱりだ。
え…? と聞き返す前に波音は相変わらず無表情のまま、
――彼の平凡だった生活に終止符を打つ台詞を告げる。
「天道翔。氷を司る神と契約して、パーティーに参加なさい」
てなわけで、プロローグと合わせて第一話の連投でした…!
新連載『アヴェク・トワ』日本語で君と共に。
アレテオの方とは違ってバトル物になります…!
まぁ、色々期待と不安とを織り交ぜつつの投稿ですが…何かあれば、感想などで…!
ってか不安が大きいなこれ…!← ではまた次回に…!




