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アヴェク・トワ  作者: リラ
Ⅱ Promise of Mudder
18/49

Beautiful...?

1、


 どうしよう。どうしよう。どうしよう。


 女性の頭の中がどんどん真っ白になっていく。


 どうすればいいのか、何も考えられなくなっていく。


「…ひっ…!」


 恐怖で声が出なかった。


 気付けば後ろは壁で、その少年はもうそこまで迫って来ていた。


「…なんだよ…もう逃げるのは終わりかよ…?」


 口元に不気味な笑みを浮かべた茶髪の男はぐっと右手の拳を握りしめる。


 否だ。死にたくない。


 普通、男が拳を握ったくらいではそこまで思わない。


 けれど、この男の拳には人を一発で殺すほどの破壊力が秘められていることを彼女は知っている。


「ひっ…たす、け――――」


 その言葉を言い終える前に、無慈悲にもその拳が振り下ろされた―――。






2、


 徳永波音はイライラしていた。


「徳永様、ごきげんよう」


「ごきげんよう」


 言葉遣いこそ丁寧であるものの、もの凄くイライラしていた。


 彼女の目の前にそびえたつのはミカアカの校舎。


 赤を基調にした豪奢な制服をまとった女生徒達が次々と自分に頭をさげて去っていく。


 自分が理事長である徳永家の人間だからだろうか。このような扱いにはもう慣れていた。


 だから彼女がイライラしているのはそんなことではない。


『また、亜里沙が行方不明になった……』


 原因は例の如く、彼女の幼馴染である亜里沙が行方不明になったからというものだった。


 お昼休みはいつも一緒にお昼を食べるのが習慣になっているのだが、このように亜里沙がいなくなるのは珍しいことではない。


 大方迷子かどっかで動物と戯れているかだろうが…。


 波音ははぁ、とため息をつきながら『どうして亜里沙はすぐにいなくなっちゃうのかしらね…』


「まぁあの天然っぷりだから無理はないですよねー」


「ええ、本当………ってええ!?」


 突如横から聞こえてきた声にかつてない驚愕を見せる波音。


 だがそんな波音に対して、声をかけてきた張本人はきょとんと首をかしげると、


「どうなさいましたか波音様? 何故そのような驚いた声を…」


「いやいやどう考えても原因あなたですからね…!? 何故そんな急に現れるんですか…! しかもさりげなく内心読んでるし…!」


 一通りの抗議を受けると、彼女はただにこにこと笑いながら「…ま、メイドですから♪」と言った。


 メイドですから、なんて意味の分からないような…でもなんだか納得できるような言葉を発したのは波音よりも年上の女性。


 やや明るい色彩の茶髪。そして髪と同色の瞳。一見、穏やかそうな目元。


 さらさらの茶髪は腰のあたりまで真っ直ぐに伸びていて、全体的にスラッとした体型の美人だ。


 それだけならともかく、彼女の何よりも異質なところは――膝丈くらいまでのメイド服を着ているという点だ。


 この学内ならさほど目立たないのだが、街に出れば一転もの凄く目立つ服装。


 しかしこれは断じてコスプレではなく、彼女は波音の正規のメイドだったりする。


 咲城サキシロカレン。


 自分よりいくつか年上のとても有能なメイドさんだ。…まぁ、有能とかそういうレベルを遥かに逸脱しているところはあるのだが…。


「あ、そうそう。波音様が困っているのに気付いたので亜里沙さんでしたらつい先ほど見つけて先にあちらのお席にご案内させていただきました」


「よく見つかりましたね」


「亜里沙さーんって呼んだら普通に出てきましたよ?」


「私が呼んでもうんともすんとも答えないのに…!?」


「まぁ直接脳に訴えかけましたから普通はできませんよー♪」


「さらっととんでもない発言しませんでした!? 色々人間的に不可能ですが!?」


「メイド的には可能ですってば♪」


「なんか意味が分かるような、分からないような文面ですわね!?」


「気にしちゃダメですよ♪」彼女はにこにこと笑いながら、「メイドですから♪」


「ああ、なんかもうそれでいいです…」


 彼女が「メイドですから♪」という言葉を発するともう何も言えなくなる。


 それくらい彼女の「メイドですから♪」には重みがあるのだ。その重みを生じさせているのは過去の実績だろう。


 もう超人という域をはるかに逸脱した…そんなハイスペックすぎる自分の従者を見て波音は「はぁ」とため息をつく。


「そういえばフウくんから聞きましたよ♪ 無事天道くんアイさんペアーとの協力タッグが完成したって♪」


「ああ…色々大変だったんですが、なんとかあそこもパートナーとして成立したので…」


 フウ曰く、基本的にパーティーのことは一般人には言わないようにとのことだった。


 事情を知っている亜里沙などはともかく、その他の人間には口外しない。


 波音もそのつもりだったのだが、


『何故か知ってたんですよねカレンは…!』


 また頭を抱えたくなる波音。


 基本的に中学のころから鬼才として海外の中学でも有名だった波音だが、どうもこのメイドにだけは敵う気がしない。何をしてもだ。


 そして見事それを今回のことでも発揮してくれた彼女はフウを見た瞬間に「あら、パーティーご参加の風を司る神様ですか?」と聞いてきたのだ。


 もう意味がわからない。


「まぁまぁ波音様、私がパーティーのことを知っていたことを考えてもキリがありませんよ♪」


「だから何故そうさらっと内心を読むんですか…!?」


「メイドですもの♪」


 またこれだ。頭が痛い。


 とりあえず亜里沙のところに案内してください…と疲れ気味に言うとカレンはにこりを頷く。


 波音がカレンに背を向けたほんの一瞬。カレンはその笑顔を崩すと――


「…さて…、パーティーも今回で大詰めって感じですけど……。〝彼〟はどうしてるのかしらね」


 と、誰にも聞こえないくらい小さな声でつぶやくのだった。






3、


 世間でいう所のお昼休み。


 新橋ユウマは義妹であるエリカを学校に置いて別の場所へ足を運んでいた。


 エリカは最後まで「どこ行くのよー! お昼一緒に食べるって約束したじゃない!」と言っていたがまぁ彼女は友達が多いし自分と出なくても食べる相手はいくらでもいるだろう。


『この時間ならまぁ午後の授業間に合うか…』


 少し足早に自動ドアを通りながら、珍しく真面目なことを考えるユウマ。


 普段なら授業どうこうなど気にしないのだが、ここのところサボリ癖が酷く慶田に目をつけられているのでたまには真面目に出ておくかという考えである。


 ユウマが背にしたその建物は結構大き目な市立病院。入り口には大きく青南総合病院、と書かれていた。 


 彼が昼休みにわざわざここに来た理由はまぁ様々な事情があるのだが、断じて彼の体調が悪いとかそういうことではないとだけ説明しておこう。


「…さて…、」


 ユウマは腕時計を見る。


 普通に帰っても間に合わないということはないだろうが、急ぐに越したことはない時間だ。


 急ぐなら正規ルートで帰るよりも別のルートを使う方が得策だろう。


 と、いうことでユウマは手近な所にある裏道へと足を運びいれた。


 普段はあまり通らない道だが、生まれた時からずっと住んでいるユウマにとってこの辺の地理はお手の物だったりもする。


 が、そこで唐突にユウマのケイタイがブーッブーッと振動した。


 病院にいる間マナーモードにしていたことを思いだすとユウマはケータイの画面を見てわずかに顔をしかめる。


 画面に表示されている名前は咲城カレン、というとあるメイドさんの名前だったからだ。


「………、」ユウマは僅かに嫌そうな顔をしてから、「…えっと…もしもし…?」


『何でそんなに出るのが嫌そうな感じに出るんですかねー』


 最早どっから見てるんじゃないかというくらい行動を当てられて少々ビビるユウマ。


 けれど、これくらいこのメイドさんにとっては序の口なので何も言わないでおく。


「えっと…どうしたんですかカレンさん? 何か用事ですか…?」


『用事ですよー。校内を探してるのにユウマくんいないんですもん。外出ですか?』


「そんなところです」


 なんとなくいる場所もわかってるんじゃないかと思って冷や冷やしてしまう。


 何故ユウマが徳永波音のメイドと知り合いか。その説明はまぁとりあえず今は省略しておくとしよう。


「それで用事って…?」


『いやね、ちょっと聞きたいことがあったんですよ?』少々沈黙が続いてから、『――あなた、神に会ってませんかって』


 歩みを進めながらユウマがわずかに表情をしかめる。


 今、カレンはなんといった? 神に会っていませんか?


 普通の人に聞かれたら「は?」と聞き返すところだが、相手がカレンだ。


 冗談ということもないだろうし、わざわざ用事と称してまで電話をかけてきて聞くという事はそれなりの…


「…えっと…」


『その様子じゃ会ってなさそうですねー。…んー、おかしいなぁ…確実にユウマくんは選ばれると思ったんですけどね…』


「選ばれるとか選ばれないとかなんの話で――、」


 と、そこで。


 不意に何か違和感を感じとった。


 奥の道から薄らと感じ取れる…なんらかの〝異臭〟 


『…これは…血、の匂い…だな…』


 嫌な予感がした。ユウマはほんの少し前にもこの香りを嗅いだことがあった。


 どうか自分の記憶違いであってほしい。勘が間違っていてほしい。


「ごめんなさいカレンさん一旦きります」


 ユウマくん? というきょとんとした声をよそにユウマは容赦なく電話を切る。


 だが、今はこっちが優先事項だ。


 匂いをたどってユウマは奥の道の方までぐんぐんと進んでいく。


 そうしてたどり着いた場所で最初に目に入ったのは血みどろの死体と化した1人の女性と、――そのそばにいる1人の少女だった。


「ッ!?」


 真っ先に反応したのは、女性の横に座って包帯やら何やらをぐるぐると巻いている少女だ。


 真っ白な肌にウェーブがかった金髪、碧眼から判断するに外人だろうか?


 茶髪の女性はどう見ても日本人なので関係性はわからないが、ユウマは少し黙ってから、


「…日本語わかりますか?」


「え、あ、はい」


 思いの外返ってきたのは流暢な日本語の返事だった。


 ユウマはとりあえず安心すると、


「残念ながら包帯とかは役に立たないかと…もう息を引き取っているようなので…」


 と言うと、少女は泣きそうな表情で「ですよね…」と頷く。


「警察に連絡は?」


「いえ、まだ…」


「じゃあ俺がしておきます。…あなたは第一発見者でいいんですか?」


「あ、あの…その、私は…」


 そこまで言うと、少女はだんまりしてしまう。


 良く見ると、少女の身体は小刻みに震えていた。


 死体を見た恐怖からの震えなのか、それとも―――、


『この事件にかかわっているか…』


 と考えて、ユウマはその可能性をすぐに否定した。


 この女性はパッと見、刃物などで殺されたのではなく何度も殴られたことが死因だ。


 この少女の細い腕でそんなことできるわけないし、この少女が犯人ならわざわざとどまって包帯などを出している意味がない。


「…えっと…震えてるけど、大丈夫で――」


「ご、ごめんなさいっ!」


 え、と聞く前に少女はその場から走り去っていく。


 訳も分からないまま取り残されたユウマはとりあえずケータイを開いて、警察への連絡を優先することにした。


 あの少女のことはその後で考えればいいだろう。それにしても、


『…今の子、〝アイツ〟にそっくりだったな…』


 ユウマはそんなことを思いながら、空を見つめる。


 脳裏に浮かぶのは、自分の名を呼ぶ、ある1人の少女の綺麗な笑顔だった……。

今回少し短めです。

さて、またまた新キャラカレンさんですが…徳永家メイドにして、あるキャラと物凄くかかわり深い人物だったりします。

超人過ぎて作者も扱いにくいのですが、作者と彼女は実はかなり古くからの付き合いのキャラでもあるので大切に書きたいなぁ…と


とりあえず、ユウマがちょっとずつ出番を増やしていっていますね

さて、今後何がどうなって話がどう進んでいくのか…!

金髪の少女、殺人犯の正体、そしてアイと翔達もどう動いていくのか着目くださいっ


それではまたー♪

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