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アヴェク・トワ  作者: リラ
Ⅱ Promise of Mudder
17/49

新橋兄妹


 茜色に染まる貴方の背中に願う。


 どうか、このまま、と。ただ、それだけを。



Ⅱ Promise of Mudder



 10年前。


 そこは、絶望の真っ暗闇の中だった。


 目を閉じれば、聞こえてくるのは大好きだったあの少年の声。


〝アイ――〟


 自分を呼ぶ、あの愛おしい声はもう聴くことは出来ない。


 暗い。暗い。暗い。悲しい。悲しい。悲しい。怖い。怖い。怖い。


 あんなに大切だった人すら失って、――もう自分はどうやって生きていけばいいのだろう。


「……っ、ひかる…」


「せんぱいっ」


 突如。


 背後から明るい声が聞こえてきた。


 ゆっくりと振り返ると、そこにいたのは緩やかなウェーブがかった金髪を2つに結んだ少女だ。


 彼女は青い瞳で真っ直ぐこちらを見ると、太陽のように暖かい笑顔を浮かべて、


「クッキー焼いたんですっ。先輩が好きな甘めの奴。食べませんか?」


 それは、非常に優しい声で。


 アイはなんだか泣きそうになってしまったので、彼女に背を向けた。


「…せんぱい?」


「私に構わない方がいいわ…」アイは今にも消えそうな声で、「色々事情は知ってるでしょ? 神がパートナーを…ケガさせるまではともかく自らの手で殺すなんて前代未聞だって」


 だから構わない方がいいわよ、とアイはもう一度告げる。


 そう告げると後ろで彼女がくすっと笑ったのが分かった。


 何故笑うのか。その理由は全くわからなかったけど、


「残念ですけど私はそれくらいで先輩を喜ばせるためのクッキーづくりをやめたりしませんよ?」


「………、」


「なんであれ、先輩が私の先輩であることに変わりはありませんっ」


 最後の「ねっ」という声は自分の真横から聞こえた。


 彼女はやっぱり温かい笑顔を浮かべながら、こちらに甘いにおいのするクッキーを差し出してくる。


 ほんのり温かいそれは、今のアイの心を溶かすには十分すぎて、



「……ありがとうね、ミカ…」






1、


「それで? 昨日は授業サボってどこ行ってたの?」


 ライを勝ち抜いた翌日の朝。


 ユウマの開口一番のセリフはこれだった。


「え…」


「いや、遅刻の常習犯だけどサボりは珍しいじゃん。翔は。何してたのかなーって」


「ああああそういえば僕サボったんだったぁ!?」


 確か唐突にクラス抜け出してアイの元へと向かって行ったのだ。


 それを思い出して翔は思わず顔面蒼白状態になる。


 サボったことがバレれば担任ことよっしーに何を言われるか――、


「ああ、それは大丈夫。ちゃんと誤魔化しといたから」


「ご、誤魔化せたの!? あのよっしーを!?」


「俺自身サボり魔だしそこは楽勝」


 しれっというユウマだが、彼女はそこまで簡単にどうこうなる教師ではない。


 やっぱりこの少年只者じゃないよなぁ。


 そんな事を思いつつうーん、と翔が考え事をしていると、


「で、昨日は何してたの?」


「今日はやけに食いついてくるねユウマ!?」


「さっきも言ったじゃん。滅多にサボらないからさ、翔は。何でか気になるだけ」


「えっと実は…」


 と、そこまで口にしてから翔は思った。


 神様のピンチを救いに行ってましたなんて言えない。言えるわけがない。


 というか救ったという程大層なことはしてない。


『考えろ僕…! もっと何かマシな説明方法が…!』


 転入生と一緒に神様を倒してきました。意味がわからない。


 兄のお墓詣りに…そんなに時間かからないし、授業サボるほどのあれではない。


 眼帯にシルクハット、マントの少年と談笑していた。もっとも論外。


『浮かばなかった……!』


 適当な言い訳でこの少年を誤魔化せるわけはないし、だからといって神がどうこう言ったらただの変人確定だ。


 さて、どうするべきか。そんなことを考えていると、


「…翔? 朝っぱらから何そんなところに突っ立てるのよ?」


 突如背後から聞こえてきたクールな美声。


 銀髪を風になびかせながら、アイがこちらへ向かってきていた。


「あ、アイっ。おはよう」


「おはよう。こんなところで何くっちゃべってんの?」


 一緒に家を出ると周りに怪しまれるのではないか、という理由でアイと翔は家を出る時間をずらしている。


 それにも関わらず追いつかれたということは彼女の言う通り、結構くっちゃべっていた証拠だろう。


「大したことでは……。あ、そういえばアイとユウマは初対面だっけ」


 翔はぽんっ、と手を打つをすかさず


「アイっ。こっちは新橋ユウマ。僕の入学当初からの友達なんだ!」


「…どうも」


 唐突に紹介されたので、ユウマがぶきっちょな感じでぺこりと頭をさげる。


 それに対してアイはクールな表情から一転――にこやかな笑顔をつくると、


「初めまして新橋くん。私はアイ・グラハム」


 同じクラスの者同士よろしくね、と綺麗なお辞儀を披露してみせた。


 えっとー…と思わず押し黙る翔だが、そういえばアイは転入初日も完璧なお嬢様っぷりを見せつけてくれていた。


 となるともしや、翔以外のクラスメートの前ではこのキャラを貫くつもりなのだろうか?


 似合っていないわけではないが、素を知っている翔的には何とも妙な感覚を覚えたりしなくもない。(到底本人には言えないが)


「……流石グラハム家のお嬢様。…で、翔はなんでそんな名家のお嬢様と知り合いなの?」


 そこで、翔の背筋がギクッと凍る。


 確かに一昨日転入してきたばかりの美少女お嬢様と、バカで平凡なこの少年天道翔の接点はと問われれば普通に生活している限りまずない。


 でもまさかパーティーのことを素直に話すわけにもいかないし。


 えっと…と本日2回目の言い訳の場で翔が戸惑っていると、


「実は私幼少期に日本に来た時にたまたま翔のお兄さんと知り合って色々日本のことについて教わったのよ。その時に翔とも知り合ったから…まぁ幼馴染みたいな関係かな?」


 それは絶妙なタイミングでのアイのナイスフォローだった。


 というかこの少女、言い訳を前もって考えていたのかなというくらいナチュラルな喋りだ。


 女神の助け(揶揄でなく実際に)に翔が感激していると、その理由でユウマも納得したらしく「なるほど」と相槌を打っていた。


「そんなのはともかく、こんなところでいつまでも喋ってたら遅刻するわよ…?」


「確かに…。これ以上遅刻の記録を積み重ねるわけにはいかない…!」


 翔は真面目だねーとかいう声が後ろから聞こえた気がしなくもないが、成績の良くない翔にとって出席はかなり大切なものだ。


 せめてその辺だけでも教師の信頼を得なければいけないのだ。


 遅刻記録13回。これ以上はとにかく避けたいものだ。(ちなみに13回ともお花さんのお墓作りにて遅刻している)。


 そんなことを考え歩き出そうとした時、


「あれ」


 と、不意に言ったのはユウマだ。


「どうしたの?」


「…いや、お弁当家に忘れたかなーと。道理で荷物軽いと思った」


「え、大丈夫?」


 ユウマは「んー、」と少し考える素振りを見せてから、


「まぁ学食で食べればいいんじゃね?」


「その必要はないわよ」


 と、唐突に第三者の声が聞こえてきた。


 勝気な感じの、透き通った綺麗な声。


 その声の主である少女は、右手に緑色の袋を持ってユウマの後ろからゆっくりと歩いてきた。


 綺麗な茶色のストレートヘアーは胸の辺りまで伸びており、勝気なその瞳もまた同じ色彩を持っている端正な顔立ちの少女。


 抜群のプロポーションを持ち、街を歩いてたら間違いなくいろんな人達に振り返られるであろう彼女を見ると、ユウマは「あ」と声を出し、


「エリカ。なんだ、わざわざ持ってきてくれたんだ」


「ついでだからよ。どうせクラスも近いしね」


 エリカと呼ばれた少女は呆れた表情でユウマに緑色の袋を手渡す。


「今日中身何?」


「卵焼きとたこさんウィンナーとうさぎりんごと…まぁもろもろ」


 そんな仲の良い2人を見て不思議そうなのは翔の横にいるアイだ。


 彼女は黄色いリボンで後ろに結んだ髪をゆらしながら首を傾げ、「…あの2人付き合ってるの?」と翔に小声で尋ねてきた。


「…ああ…、違うよ。エリカさんはユウマの妹」


「…妹?」


 アイは怪訝そうに目を細めて、再びエリカの方を見つめる。


 確かに兄妹揃って抜群の容姿である彼らだが―――、


「……あんまり似てないわね…」


「…ははは…、なんせ血がつながっていないらしから…」


 小声で説明すると、アイがさらに驚いた表情になる。


 そう、実を言うと翔もそこまで詳しくは知らないのだがユウマとエリカが血の繋がっていない兄妹であるらしい。


 異母兄妹とか異父兄妹ではなく、全くの赤の他人。


 所謂養女、という形でエリカはユウマの妹になっているようだ。


「…それは…さぞ苦労したのね…」


 と、アイは色々思う所があったようだ。


 そんな事を口にしながら彼らの方を切なげな表情で見ると―――、


「うさぎりんご、綺麗に作れた?」


「馬鹿にしないでくれる? 私は今やうさぎだけでなくりんごで様々な彫刻をつくれちゃうわよっ」


「へー、そりゃすげぇ。何に役に立てるんだか知らないけど」


「ちょ、馬鹿にしてんでしょ! グリーンピース未だに食べれないくせに!」


「それを言ったらエリカだってメンマ好きじゃないじゃん。ラーメン食べるといつも残してるし」


「う、うっさいわね! ど、どうもあれはなんか食べられないのよ…!」


 滅茶苦茶仲良しだった。


 何も知らない人から見たら仲良しカップルに勘違いされそうな域で仲良しだった。


「………、」アイは少し黙って、「……うん、まぁもの凄く仲良さそうな兄妹ね」


「あはは…でも本当、ユウマ達は仲良いよ♪ なんかこういうのに血の繋がりとかって関係ないんだなぁ…って思えてくるもん」


 実際にそれは翔も良く感じる。


 翔には血の繋がる兄がいて、翔は兄のことが大好きだったから仲の良い兄弟だったといえるだろう。


 けど中には血がつながっていても仲の良くない兄弟などもいるわけで。


 それを考えると、彼らは本当に仲良し兄妹だと言えるだろう。


 例え血がつながっていなかったとしても。そんなの関係ないと言わざるを得ないくらいのレベルだ。


「やっぱり…」


 兄弟っていいよね。


 言いかけた言葉を翔は慌てて胸の中にしまった。


 それは翔が言うと、アイの胸を締め付けることになるだろうと思ったからだ。


 アイは今でも翔の兄――光を死なせてしまったことを後悔している。


 それを弟の翔がさらに後悔させるようなことは言えない。


 自分の兄は、波音とアイを守るために命を落とした。


 そう思って、兄を誇らしく思うのが今の翔に出来る事だろう。


 そして、


『…兄が守ろうとしていた、この子を守る事も…』


 そう思いながら、翔はアイの方を見る。


 とはいえ、アイは十分な強さを誇る氷の女神で、翔が守る必要などないのかもしれない。


 それでも、この間泣きながら何故助けにきたのかと訴えてくるこの少女を見て翔は思ったのだ。


 兄の代わりに――、自分がこの少女の孤独を助けられないだろうか、と。


「……な、何よ人の方じっと見て」


「え、い、いや、な、なんでもっ!」


 と、そんな事を考えていたせいかアイの方をかなり真剣なまなざしで長いこと見つめてしまっていたようだ。


 若干頬を赤くするアイに対して、なんとなく翔は動揺してしまう。


 どことなく気まずくなった雰囲気を戻すために翔は「えーと、えーと」と会話を探し、


「あ、あ! アイはその、兄弟とかっているの?」


「私に兄弟?」


 翔の残念な頭で色々必死に考えて、無理矢理話題を前に戻そうとしてみたのだが……、


「いないわね。まぁ上位個体が力を分散して作ったのが私達下位個体の神だから一応奴らを兄弟と呼んでもいいのかもしれないけど、正直兄弟と言えるほど仲がいいわけでもないし、パーティーにおいてはどいつも敵だからね」


「何か色々ごめんなさい!」


 予想以上に何とも言えない答えが返ってきたので頭を下げる翔。


 アイはなんで頭さげてるのよ? と不思議そうにしていたがまさかそう返ってくるとは。


 けれど、そうだとすると猶更この少女辛かったのではないだろうか?


 兄弟と呼べる他の神々は基本的に敵で、パートナーには毎回裏切られて。


 その状況下で良くここまで――、


「あ、でも」


 アイは思い出したように


「強いて言えば1人。…いるわ、私にも妹のような存在が」


「おお…! 妹のような存在…! やっぱり神様ですか?」


「ええそうよ」彼女はにこりと笑い、「…凄く平和的な子で毎回パーティーからはリタイアしてくんだけどね。でも凄く根が優しい子よ」


 なるほど、と翔は思った。


 その子のことを語るときのアイの表情を見る限り、アイにとっては本当に妹のように可愛い存在なのだろう。


 そういった存在があったことに多少安堵した翔もアイと同じように笑顔を零した。


「平和的な子、か…。アイの妹的な存在…僕も会ってみたいなぁ」


「……滅茶苦茶かわいい子だからって手出したら殺すわよ」


「待って!? 違うよ!? そういうの狙ってないよ!? お願いだから殺気籠った目で睨まないで!?」


 完全に保護者モードに移転したアイに思わず身震いする翔。


 流石氷を司る神。目線が氷点下30度くらいの冷たさだった(経験したことないけど)。


「…まぁ、本当に平和的で…優しくて…可愛くて…笑顔が素敵な、私の自慢の〝後輩〟なのよ」


 空を見ながらその子を思い出すアイの表情は、また優しく懐かしさのともったものになっていた。






2、


『次のニュースです』


 ざーっ、とラジオから雑音と共にニュースの声が聞こえる。


 少女は今狭い小屋の真ん中に正座をしていた。


 ウェーブがかった金髪を下で2つに結んだ少女は顔はあげずに耳だけをそちらへ向けた。


『ここのところ、東京都で茶髪の女性が相次いで狙われるという事件が相次いでおり、現在5名の女性の死亡が確認されています』


「………っ」


 ぐっ、と少女は拳を握る。


 そうしても死者がかえってこないのは重々承知していたが、そうせざるを得なかった。


『5名の女性は全員刃物などによる傷はなく、殴られ蹴られるなどの暴行で亡くなった模様で―――、』


「ただいま」


 そこで、不意に自分の後ろから声が聞こえてきた。


 その声にびくっと背中を震わせてから、ゆっくりとそちらを振り返ると茶髪の少年がそこに立っていた。


 切れ長の黒い瞳がこちらへ向く。それだけで少女は全身が強張るような気がした。


「…なんだそのニュース。俺が殺った奴か」


秀則(ヒデノリ)くん…!」


 少女は立ち上がり、その少年に向き合うと、


「やめてください…! その力はそう言う風に奮っていいものでは…!」


「うっせーな。お前はまたそれかよ。俺がやることを大人しく見る。それがおめーの役目だろ」


「そう言うわけにはいきません…! 私の力はそんな…」


「じゃあ俺を殺して止めればいいだろ」


 あまりにも無慈悲に放たれたその声に、少女は思わず身震いした。


 分かっている。この少年は本気でこんなことをいっているのではない。


 自分にそれが出来る訳がない、と分かっているからこそ言っているのだ。


「なぁ? どうしたんだよ?」


 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべる少年に、少女は何も言い返す事が出来ない。


 そんな態度にうんざりしたのか、少年は「ふんっ」と言いながら再び体を翻し、


「その覚悟もねぇよわっちい神が俺に指図してんじゃねーよ。ったく、イラついたからまた殺ってくるわ」


「…ッ、秀則くん……!」


 名前を呼び終える頃には、彼はもういなくなっていた。


 少女はその場に立ち尽くしてから、へなへなと地面に座り込む。


 こうして今回も何もできないのだろうか。


 なんで自分はこう非力なんだろうか。


「…ごめんなさい…アイ〝先輩〟…」


 懺悔の言葉がただそこに響く。


 彼女への助けは――まだ現れない。

祝、新章突入!

ってことで第二章突入!

さて、この章では人気者の彼にスポットがあたりますよ!


勿論、翔くアイも出番あるのでご安心ください。

あとは新キャラも結構出ます! ちらっと出てくるくらいのキャラはまだ覚えなくても大丈夫なのでゆっくりキャラの名前覚えてあげてください


とりあえず今のところはエリカさん重要キャラですよっと。

そろそろキャラ増えたので整理用にプロフでもあげようかなと思ったり…ごにょごにょ…


では第二章も翔くんと、そして彼と、頑張ってまいります!ではではー!

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