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アヴェク・トワ  作者: リラ
Ⅰ Chicken and God
14/49

Truth of the Past【裏】

0、


 出会って最初の頃は、必ずどのパートナーも最初はこう言った。


 ――僕は絶対に君を見捨てない、と。


 しばらく経つと、みんなこう言った。


 ――お前は化け物だ。一緒にいるとこっちの身が危なくなる、と。


 そして、しまいにはどのパートナーも自分に刃を向けてきた。


 最初はなんで…って思った。


 二度目は、ああ…またか…と思った。


 そして、三度目以降はもう痛みも何も感じなくなった。


 きっと、自分の事など受け入れてくれる人なんか誰もいない。


 この強さのせいで、誰も近くに寄ってきてなんかくれない。


 強さゆえの孤独。もうそれに対して、痛みなんかも感じなくなった。


 丁度その頃だった。そんな自分を受け入れてくれる、最高のパートナーと出会ったのは。


 今度こそ自分は幸せになれるんじゃないだろうか。


 そう淡い期待を抱いた直後。最終的にはその幸せを――自分の手で壊してしまったのだった。






1、


 アイにとって転機となる出来事が起こったのは今から10年前のことだった。


 定期的に行われるパーティーという名目で地上に派遣されたアイは、そこで自分の今回のパートナーである天道光との出会いを果たした。


「………神?」


 栗色の髪を風にゆらしながら、少年は首をかしげる。


 神やパーティーについて、なんとなくの説明はしたものの、この少年の反応は至って冷静だった。


 普通ならそんなもあるはずがない、と多少取り乱したりするものなのだが…。


『変な奴』


 それが、アイから光への第一印象だった。


「…まぁ信じがたいだろうけど…でもそういったものがあるのよこの世には」


 この頃のアイは人間不信、というかすべてにおいて不機嫌そのものだった。


 誰と話す時も笑顔をつくらず、ずっとそっぽを向いて、人と目を合わせようとしない。 


 出来ることなら誰とも関わらずに生きていこう、なんて。そんな事寂しいを思っている時期だった。


「そうか…」


 パーティーの参加に対して、前向きなのかそうでないのかよく分からない光の半端な返事にアイは少し目を細めて、


「嫌なら嫌でいいのよ、むしろ…途中で刃を向けられるより私的にもそっちの方が楽だし」


「え?」


「…どのパートナーもそうなのよ。途中で私の強さに恐れをなして私を殺そうとするの。後からそんなことするくらいならいっそ最初からやってくれた方が楽でしょ?」


 ふっ、とそこで初めてアイは笑みを浮かべた。


 しかし、それは可愛らしい笑顔ではなく嘲笑だった。


 それは別に光への嘲笑でも、他の人間への嘲笑でもなく、おそらくは彼女自身への嘲笑だった。


 アイのそんな笑みと言葉に光はしばらく沈黙を貫く。それから優しい笑みを浮かべると、


「そうか…なんというか…寂しかったな」


「………、え?」


 目の前にいる男から出てきた予想外の言葉に、アイは思わず顔をしかめる。


 しかし、光の顔はいたって真面目なものだった。


 別にからかっているわけでも、ふざけているわけでもなく、心の底からそう言っている表情だった。


 何故。何故、今この少年はそんなことが言えたのだろうか。


 自分は神だ。その中でもかなりの強さを誇った少女だ。

 

 こんな桁外れの…いわば化け物に対して、この少年は〝寂しかったな〟と言ったのだ。


「…っ!」


 何か得体のしれない感情がアイの中を渦巻いていく。


 怒りか、悲しみか、それとも他の何かか。とにかく無性に落ち着いていられなくなった。


「何よ…それ! 別に私は寂しくなんかないわ…!」


「………、」


「寂しいとかそんなこと思ったことはない…! ずっとこうだったんだから!! ずっと…そういうのを我慢してきたんだからっ!!」


「そうか」


 自分は何を口走っているのだろうか。


 こんなにも激昂して、何を言っているのだろうか。


 そんな事を思うアイだったが、光はそんなアイの激昂に対してもいたって冷静だった。


 いたって冷静に、でも少しだけ優しく笑いながら、


「…なら、もう我慢しなくていい。私は何があってもお前を見放さない。…約束しよう」


「………、」


 意味が分からなかった。


 何故、こんな化け物じみた自分に対してこんなにも優しい笑みを浮かべてくるのか?


 どうせ、そんな優しい事を言っていたって…いつかは自分に刃を向けるくせに。


 何故そこまで自信満々に言い切れるのか?


 我慢しなくていいとか。見捨てないとか。約束するとか。


 ――そんなの不可能に決まっているのに……!


「…そんな約束…絶対に守れないわよ。今までだって…、みんな最初はそういったわ」


「…約束っていうのは守るためにある。だから、守ろう。きっと」


「………、」


 そう即答した少年は、今度もやっぱり真剣なまなざしだった。


 人間なんか信じられない。どいつもこいつも、しまいには刃を向けてくる。


 でも、もう一度、信じてみようと思った。


 この人なら…信じられるかもしれない、と。そう思う事が出来たんだ。






「それが…アイと天道光の出会いだった」


 フウは、いったん話に区切りをつけた。


 この季節に全身真っ黒な帽子とマントは暑いのだろう。


 帽子をぬいでそれでパタパタとあおぎながら彼は話を続けていた。……暑いならこの格好やめればいいと思うのだが。


 フウは帽子のせいでぺちゃんこになった髪の毛をせっせと右手で整えながら、


「わかるか? アイにとって光はさ…特別な存在だったんだよ。たぶん…恋心があった、といっても過言じゃないと思う。ま、アイに言っても否定するだろうけどな」


「………、」


 アイツ素直じゃねーからさ、とフウは続けるが、一方で翔は別の事を考えていた。


 アイにとって、光は特別な存在だった。それはきっと間違いないのだろう。


 お墓に毎年お花を供えていたエピソードといい、フウの話しと言いそこはもう否定のしようはない。


 ならば、何故彼女は光を殺したのだろか?


 アイが殺したのでないという可能性もあるが、その場合は何故彼女はそんな嘘をついたのだろうか?


 アイの行動の意味が全く分からず、そんな疑問が光の頭の中をグルグルと渦巻いていく。


「…アイツ等は、本当に相性よかったんだよ。ゴールデンコンビって言われるくらいアイツ等のコンビネーションはすごかった。普通にいけば…楽勝で勝ち抜きだっただろう」


「…普通にいけば?」


「………、ああ。アイツ等は順調に敵を倒して…いよいよ敵は残り1つってとこまできたんだよ」


 そこで、翔は昨日のアイのセリフを思い出した。


 闇を司る神が波音を誘拐して人質にした、というあのセリフを。


 その翔の表情を見てフウはこくりと頷き、


「ちょっと知ってるみたいだな。そう。闇を司る神は…勝つためにアイツ等と仲の良かった波音をさらったんだ」


「…波音さんを…」


「波音がパーティーを止めたがっているのはそういうことだ。無表情で淡々としているように見えて、アイツは未だにそれをひきづっているからな…」


 そう告げるフウの表情は凄く悲しげだった。


 それに伴い、翔の表情にも影がさしていく。


 光の話しをするときの波音はどんな気持ちだったのだろう。自分と会った時の波音はどんな気持ちだったのだろう。


 そんな事を考えながら、思わず黙り込んでいるとフウが「こほん」と咳払いをした。


「波音の話しはとりあえず置いておこう。話を進めるぞ」






「波音を助けに行くって…! これは罠よ、せめて作戦を練ってからにしないと…!」


 アイの右手にはくしゃくしゃになった紙が握られている。


 その紙に書いてある内容は極めて容易。波音を救いたければ光1人で指定された場所へ来い、というものだった。


 それを見た瞬間、光は迷うことなく1人その場所へ向かおうとした。


 しかし、アイからすればそんな怪しい場所へ光を1人で行かせるわけにはいかない。


 勿論、言って聞かない奴であるということはアイも十分理解していたわけだが。


「…いや、作戦を練っている時間はない。1人で来いと言われている以上、行かなくては波音がどんな目に遭うか…」


「………、それはそうだけど…」


 理屈では分かっているのだ。


 今、波音を救うには素直に向こうの指示に従わなくてはいけないということくらい。


 でも、闇を司る神の本質を理解している彼女にはわかる。


 あまりにもこの指示に従うのは危険すぎる、と。


「…大丈夫だ」そう言ってから光は笑い、「きっと連れて帰ってくるから。だからお前はここで待っていてくれ」


「……光…」


 それだけ言うと、光はアイに向かってふっと微笑んだ。


 そして約束だ、というようにアイの頭をぽんぽんと撫でるとそのまま波音の元へ向かうべく走っていく。


 光の背中が自分から遠ざかっていく。それでも、アイはその場から動けなかった。


 追う事もできないし、だからといって素直に光の帰りを待つことも出来なかった。


 結局、アイが光の笑顔を見たのは――これが最後となる。






 しばらく時間が経って、不審に思ったアイは仕方なく指定されていた場所に向かった。


 本当は自分が向かうべきでないこと、頭では理解していた。


 脅迫文には光だけで来るように書いてあったのだから。


 でも、だからといってそのまま放っておけるわけがなかった。


 空が曇っていくのを見ながら、アイの心の中で嫌な予感がどんどん膨れ上がっていく。


「…無事でいてよ…光…」


 か細い声が、空へと消えていく。


 アイへ全力で光の呼び出された吹き抜けの廃工場へと向かっていき、そしてそこで衝撃的な光景を目にすることとなった。


「……!」


 まず目に入ったのは、20代前半くらいに見える男。


 深紅の瞳に漆黒の髪。黒のロングコートを着ているその男の正体は――、


「……闇を、司る神…」


 属性で呼ぶと、闇を司る神は口元だけを少し歪め、ローファーで足元に倒れている少年の頭を踏みつけた。


 アイの目が、大きく見開かれる。


 地面に真っ赤な鮮血を流し、闇を司る神の足元に倒れているのは――ほかでもない自分のパートナーだったのだから。


「……ひ、かる……」


「……っ」


 光から少々吐息が漏れたのをアイは感じた。


 血だらけだが、彼はまだ生きている。そのことにアイは少し安堵するが、すぐに気付く。


 生きてはいるが、どう見ても光の怪我は重傷だ。今から病院に連れて行ったとして、――それで果たして間に合うだろうか? と。


「…遅かったな。氷を司る神、アイ」


「……ぁ…」


 闇を司る神の声に対して、何も声が出せない。


 今のアイを支配する感情は恐怖。それは別に目の前の闇を司る神への恐怖ではない。


 光が死んでしまうのではないか、大切な人を失うのではないかという恐怖。


 こんな感情、今まで味わったことがなかった。


 ましてや、恐怖で声が出なくなるなんて、そんなこと想像したこともなかった。


 闇を司る神はアイの目線に気付いたのか、踏みつける力をさらに強め、


「ああ、コイツか? 面白い男だ。あのガキの安全を保障してほしければ動くな、といえば素直に従ってくれた。おかげですんなり倒せたよ」


「………ッ!」


 恐怖の感情が、いっきに怒りへと塗り替えられる。


 アイは知っている。光がどれだけ優しい人間であるのかということを。


 自分にとって利益になるか、害になるかなどを彼は気にしない。


 彼はどんな事情があろうと、助けを求める人には誰でも手を差し伸べる…そんな人間だった。


 本当に優しい人だった。アイの人間不信の心を完全に溶かしてしまうくらい。


 そして、そんなに優しい人間であるが故に、彼は今波音を守るために血まみれになっていた。


 アイにはそれが許せなかった。


 親切な人間が、優しい人間が、その気持ちを踏みにじられ倒され、


 そんな状況、これっぽっちも許そうなんて思えるはずがなかった。


「…光の…優しい心を………」


 ぐっ、と氷の剣を持つ手に力が入る。


 ギンッ! と殺気のこもった青い瞳を闇の神へと向け、


「…踏みにじってるんじゃないわよ―――ッ!!」


 いっきに、10メートルくらいあった距離をアイは詰めていく。


 戸惑いはなかった。今の彼女には斬るだけの理由も覚悟も存在していた。


 ぶんっ、と真っ直ぐ頭上に掲げられた氷の剣を見て、闇を司る神はふっと笑ってから…、


 素早い動きで、足元に立っている光を自分の盾にするよう前に突き出した。


「ッ!?」


 瞬間、アイの剣は光を真っ二つにする寸前で止まった。


 1000年以上生きて来て、何かを斬るのを躊躇ったのは今回が初めてだった。


「…う…っ」


 剣を持つ、自分の手が震える。


 いつもアイは、自分の正しいと思う事のために自分の力を使い、剣を奮ってきた。


 こんなふうに剣を止めた事など今まで一度もない。


 今、剣を奮って闇を司る神を倒さなくては――自分がどうなるかということをわかっていてもだ。


 そんなアイを見て闇を司どる神は嘲笑、という名の笑みを浮かべて、


「…珍しいな。お前が剣を止めるとは。……冷酷で、何を斬るにも躊躇しない奴なのに」


「………いいから光を開放して」


「…こんなに良い盾をみつけたのに素直に開放するとでも?」


「………、」


 しばらく、両者のにらみ合いが続く。


 アイは視線を駆け巡らせながら色々と手を考えるが、ダメだ。


 下手に斬ろうとすれば確実にダメージを受けるのは光の方だろう。


 認めるのは癪だが、闇を司る神は自分の剣を完璧に読むだけの能力は持ち合わせている。


 下手に剣を振れば光を剣の軌跡にあわせてずらしてくるだろう。


 そんなリスクを背負って、剣を奮うのは無謀にも程がある。


 考えを色々と駆け廻らせていると、闇を司る神が低い声で、


「さて…、生憎俺にも色々と事情があってな……。倒すぞ、氷神」


 そう告げられた次の瞬間。


 アイの小さな体が後方に10メートル程吹っ飛んだ。


 勢い的にはそれ以上に飛んでもおかしくなかったが、後ろにあった壁にぶつかることで止められた。


「ぐぅっ…!!」


 ミシミシッ…! と壁に直撃した背中からなんともえげつない音が聞こえてくる。


 情けないことに、今の一撃でもかなりのダメージだった。


 流石に本気ではなかっただろうが、それなりに実力のある神の腕力で振るわれた攻撃だ。


 アイの小さな体には結構な打撃であるのに間違いはなかった。


 痛む全身を引きずりながら、それでもアイが立ち上がろうとしたところで、


「…何をする貴様…ッ!」


「……っ!」


 今までぐったりしていた光が、最後の力を振り絞って、司る神を後ろから羽交い絞めにしたのだ。


 どこにそんな力が隠されていたのか、とアイは思う。


 相手は神だ。人間――それもただでさえボロボロの光が羽交い絞めに出来る相手じゃない。


「…やめて光…! それ以上やったらアンタ…」


 死んじゃう。


 そう言おうとして、アイはその言葉を飲み込んだ。


 それを言ったら、本当に光が消えてしまうような気がしたから。


 光はぜぇ、と息を吐きながら、それでも必死の形相で


「アイ…っ! 今のうちに、早くっ…コイツ、を…斬れ…っ!」


「なっ…何言ってんのよ…! そんなことをしたら…アンタだって…ただじゃ済まないのよ…!」


 言うまでもないことだった。


 闇を司る神に剣を突き刺せば、後ろから羽交い絞めしている光だってタダではすまない。


 そもそも、今にも倒れておかしくない体なのだ。


 今こうやって羽交い絞めにするだけで十分彼の体にはダメージを洗えているはず。


 にも関わらず、


「私は…お前が、傷つくところなどは見たくない…っ。だから…早く…っ!」


「ひかる……」


「貴様…ッ」


 ああ、なんて鈍いのだろうこの少年は。 


 本当分かってない、とアイは思った。


 アイが1番傷つくのは、他でもない光がいなくなることなのに。


 何でそう、肝心なところをわかってくれていないのだろうか。


『もしこのチャンスをダメにして…私が倒されたりしたら、きっとコイツは自分のせいで、っていって悲しむんだろうな…』


 闇を司る神を羽交い絞めしていられるのはあと少し。


 もし、光を避けて攻撃しようとしても、それでは闇を司る神へのダメージとしては不十分だろう。


 そして一発で確実なダメージを与えられなければ、折角の光の努力は無駄に終わってしまい、アイの方が倒される可能性もぐんとあがる。


 もしそれでアイが倒されれば、それはきっと光の心に深く残ってしまうだろう。


 自分のせいだと、傷をずっと心に残し続けるかもしまうだろう。


 だったら。


「………、」


 その痛みは――――すべて自分が背負う。


 きっ、とアイの青い瞳に強い光のようなものが宿った。


「…思えば、アンタには色々と…私の痛みを押し付けたわよね」


 ずっと1人ぼっちで寂しかった少女を、彼は受け入れてくれた。


 時に強く当たっても、どんなに厳しい事を言っても。


 彼は受け入れてくれた。アイを1人の少女として、優しく受け入れてくれた。


「だから、この痛みは私がもらってくね」


 俯く彼女の表情は、儚げで消えてしまいそうな笑顔だった。


 アイは氷の剣を構え尚しながら、自分の頭の中でもう一度唱えなおす。


 パーティーでの勝ちの条件は2つ。


 1つめは、相手のパートナーを殺すこと。


 しかし、闇を司る神はパートナーを使い捨ての道具としか扱っていないため、気絶させて常に近くにおいておくだけという手法をとっている。


 そのため彼のパートナーがそもそも誰なのかすらアイは知らない。


 ならばとるべきはもう1つ。神を強制的に天界に返すこと。


 これは相手の神に一定以上のダメージを相手に負わせ、神の中にある〝核〟を壊すことで可能となる。


 そして、それは――この渾身の一撃で可能となるはずだ。


「…終わりよ…闇を司る神……」


 アイは剣を横に薙ぎ払ってから、静かに真っ直ぐ上に掲げた。


 それに時間はいらなかった。ためらいもなかった。


 頭上に掲げられた剣はキラリと輝いて、それから間もなくして



 ――いっきに振り下ろされた。



 鮮血が、あふれた。


 それが誰の血であるのか、そんなことは考えたくもなかった。


 闇を司る神の背中からドサッ、と何かが倒れる音がしたが、それに気を留める暇もなくアイは次の行動へとうつる。


「ぐっ…まさか…! こんな…!」


「闇を司る神……」彼女は剣を真っ直ぐに突き立てて、「強制返還ッ!!」


 次の瞬間。


 バシュンッ! という音とともに、彼の姿が光に包まれて消えていく。


 それこそが強制的に天界へと返還をした証拠だ。


「………、」


 静かになったその空間で、彼女は虚空を見つめる。


 今、この時点で、アイの今回のパーティー勝ち抜きが決定した。


 しかしそれは、空しい勝利だった。中身のない勝利だった。


 彼女は倒れている少年の元に近づいていく。


「…ひかる…」


 ザァァァァ、と雨の音が聞こえる。


 アイのその小さな声をかき消してしまいそうな雨音。


 光からの返事はなかった。確認しなくてもわかった。


 心臓がもう動いていない。目には全く生気がない。


 今度こそ、本当に息をしていなかった。


「…私、初のクイーンだよ…」


 彼女はポツリ、と呟く。

 

 吹き抜け工場内にも雨はどんどんさしこんできて、地面に零れ落ちるのが雨か涙か良くわからなくなる。


「…ねぇ…? 返事してよ…? アンタと引き換えにクイーンになって…何が嬉しいのよ…」

 

 返事がないことなんてわかっていた。


 それでも、彼女は問うことをやめることはできなかった。


 今ここで問う事をやめたら、本当に光が死んでしまったことになってしまうと思ったから。


「…ねぇ、知ってる?」


 アイは光の頭のすぐ横にしゃがみこんで、雨に濡れないようにそっと抱きかかえると、


「……私、アンタのことが…好きだったのよ…?」


 そのセリフすら、雨の音にかき消される。


 相変わらず返ってこない返事に、アイはそっと――もう冷たくなってしまった光の手を握った。


「…帰ってくるって…言ったじゃない…。なのに…なのに………。ッ!!」


 優しくて、バカみたいにお人好しで。


 自分の事を真っ直ぐに信じてくれて、頼ってくれて、助けてくれて。


 多くの痛みを、自分の分まで背負ってくれて。



「約束は…守るためにあるって…言ったじゃない…。なんで……、何で最後の最後に…約束破るのよぉ…ッ!」



 今までの約束なんてよかったのに。


 アイはただ、光が生きててくれれば、嬉しかったのに。


 一番守ってほしいのは無事に帰って来てくれること。この約束だったのに。


「……いやぁぁぁぁああああああああああああああああああああ…ッ!!」


 アイの悲痛な叫びが、その場を支配する。 


 雨はしばらくやみそうになかった。


 まるで、少女の悲しみの声をかきけすかのようにずっと振り続けているのだった。






2、


「…以上が、アイの過去の概要だ」


「………、」


 一通りの説明を聞くと、その場に訪れたのは沈黙だった。


 翔はしばらく何の言葉も発することは出来なかった。


「…その後のアイには…目もあてられなかったな…。しばらくは光の死を認められなかったみたいだしな…」


 アイだって、心の奥底ではわかっていたのだ。光が死んだという事。


 だって、彼女は嫌ってほど知っていたから。どうしたら、自分の力で人間を殺せるかなんて。


 けれど、頭と心は別で。認めたくなかったんだ。


 もう光に会う事が出来ないというその事実を。


「パーティーの例の景品も、光を生き返らせてくれ…って上位個体にすがってさ…。まあ、上位個体は頷いてはくれなかったけどな」


「………え、何故…?」


「…まぁ色々あるしな。遺族の混乱とか、あとは人間界と天界と冥界のパワーバランスがどうとか。それと上位個体のポリシーでもあるらしい。死んだ奴は戻ってこないからこそ、生きている期間に価値があるってな」


「………、」翔は少し黙ってから、「ちなみに、その時アイさんは結局何を願ったんですか…?」


「それがさ、ホントお人好しなんだよアイツ」フウは少し笑みを浮かべて、「光が死んで、波音もそうとうなダメージを受けてたんだ。だからアイツは上位個体に、どんな形でもいいから波音を支える存在を与えてやってくれってさ」


「…それは…叶えられたんですか?」


「今の波音を見れば分かるだろ? 叶えられてなきゃアイツも今ここまで生きてこれなかっただろ」


 フウは深緑の瞳を翔の方へと向け、


「…で、お前はどう思う?」


「え?」


「…大切な人を、誰かに殺されるのと…自分の手で殺すの。…どっちの方が…悲しいと思う?」


「………、」


 その問いに、翔は答えることはできなかった。


 そんなの、そうそう簡単に比べることはできない。どちらも悲しいのは確かなはずだ。


 でも、少なくとも言えることが1つある。


 アイは確実につらい思いをしてきたのだろう、ということ。


 これだけは断言できる、間違いない事実だ。


「俺はさ、その時のアイの判断が正しかったのかはわからない」でも、とフウは続け、「少なくともアイは…自分のためではなく、光のためにそういう判断を選んだ。他人から見れば自分勝手だと思われるかもしれないけど…でも、だからアイはお前に対してハッキリと自分が光を殺したって言ったんだと思う」


 そう。


 たとえどうであろうと、自分が光を刺して殺したのは確か。


 だから、彼女は否定しなかった。否定や言い訳をしないのがある意味彼女にとってのけじめだったのだ。


 自分勝手な決断を下して殺した。それは間違いないから、責任は自分がとると。


「………、優しい優しいって…優しいのは彼女の方じゃないですか…」


 翔の声が、ぽつりと零れ落ちる。

 

 一体彼女は、今までどれだけつらい思いをしてきたのだろう。


 信じては裏切られ、もう信じることをやめて。


 やっと信じる人を見つけたと思えば、その幸せもあっけなく壊れ。



 ―ボロボロだった少女は、1つの心地よい場所を見つけて、


 ―本当にそこが大好きだ、と思って、


 ―しかし、そこすら闇に侵食されて、


 ―でもなんとか心地よい場所を護ろうとして、


 ―結局自分で全て壊してしまった。


 ―もう二度と、自分が心地よい場所にいられるなんて思わずに。


 ―すべての覚悟と責任を背負ったうえで。



「………、」


 その時。


 遠くの方からバヂイッ! という音がした。


 聞き覚えがある。この音は最近良く聞いた、紫電が弾ける音だった。


「…この音…電光、だな。…ヤバい…。アイの奴今戦ってるぞ…」


「え?」


 フウはさっきまでにない程、険しい目つきだった。


 無論それにも理由があって、


「…アイツ…昨日からずっとお前と一緒にいないんだろ? …そうなると…アイツ今…まともに戦えるような体力…ねーぞ」


「…そう、ですか…」


 そうだ。アイが何度も言っていた。


 パートナーは力の補給源である、と。


 力の補給源がなければ、彼女がこのまま戦い続けるのはキツいだろう。


 いや、フウの険しい表情から察するにもう既に危ない状態なのかもしれない。


 光はゆっくりと歩きだす。


 そのつかめない行動に、フウは少しきょとんとしていた。


「おい、お前どこに…!」


「助けに行ってきます」


 翔は一言で告げた。


 それ以上の言葉なんて、きっと必要ないと判断したから。


 だから、翔は今はこれだけ告げておく。


「…僕のパートナーを、ね」


 その瞬間、翔の右手に青色の光が灯った。


おいおいおいおい久々じゃねーか!←

って感じの更新ですね申し訳ないです。笑


リアルの忙しさを言い訳にすると長くなるので割愛しますw

まぁ書ける時にゆったり書いて行くので気長に待ってくださると…m(_ _)m


さて、今回はアイの過去だったわけですが…ヘビーです。なかなかの重さです。

自分の手で愛する人を無くした少女。

彼女の行く末はどうなって行くのか。

そしてヘタレ少年はどうするのか?笑


アイ編もうすぐ終了ですので

どうぞ見守っていてくださいな\(^o^)/

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