Aice and Wind
1、
「そんなわけで、メンツが揃ったわけですが…、」
波音にそう言われて、翔は今揃っているメンツを確認してみる。
まず自分、ごく普通の平凡な高校生天道翔。
隣にいるのが、ついさっきやってきた…なんだかヒーロー気質な少女氷を司る神のアイ。
そしてアイを連れてきてくれたという、なんだか奇抜なファッションをしている風を司る神のフウ。
そのパートナーで、理事長の娘であるというお嬢様徳永波音。
ラストが何故か未だに野生の熊とほわほわ言いながら遊んでいるある意味一番謎な少女橘亜里沙。
『な、なんか自分場違いじゃね? っていうくらい変なメンツが集結しているような…』
この中にいると、ただでさえ平凡な自分がますます平凡に覚えてくる。
自分がちょっと他人より秀でている部分といえば、まぁ主夫スキルの高さ位なものだ。
しかし、それですらここにいるメンツには何故か敵う気がこれっぽっちもしない。
「とりあえず面倒な事は嫌なのでいきなり本題に入ります。アイさん、私達と同盟を組みましょう」
「いいわよ」
「「はっや!?」」
即答するアイに対して叫びながらツっこむ翔とフウ。
が、一方で波音とアイの方は特に気にしていない様子で首を傾げる。
「何よ、物事は迅速果断に決めるべきでしょ?」
「いや、そうかもだけど少しは悩まないのかなぁ的な…!」
「だって波音とは目的が一致しているもの。不要な争いは避けるべきだわ」
まぁ言ってることは正しいのだが、なんかこう場の雰囲気のようなものがあってだなぁ…。
そんなことを思いつつも反論するのをやめて大人しくしておくことにした翔。
アイと波音のタッグ相手に口で勝とうなど10万年早いだろう。むしろ一生勝てないだろう。
「ってことだから、フウ。アンタとは今回戦わない感じみたいね」
「いやー、そこはマジで嬉しいぜ。初戦からクイーンと戦うとか冗談じゃねぇしな」
アイが言うと、フウは心底安堵したように息を吐く。
それを聞いた翔はきょとんとした表情になると、
「クイーンっていうのは…?」
「ああ…ってアイお前、パートナーに何も話してねぇのか?」
「…まぁ、自分の功績とは思えないから…あんま言うのも気が進まなくてね」
「まぁ…そうかもだけど…」フウは少し考え込むと、「クイーンってのはコイツの呼び名だよ」
と、説明を開始してくれた。
「呼び名…? クイーンが?」
「そそ。前回のパーティーでの勝ち抜き者である女神のことを俺らはそう呼ぶんだ。で、コイツは前回の勝ち抜き者だからクイーン」
へー、と翔は感心したような声を出すが、アイは特にクールな表情のままだった。
しかし、腑に落ちない点がある。
前回の勝ち抜き者であるならば、前回の時にでもアイはパーティーを止めるという願いを叶えられたのでは?
いや、それ以前にパートナである兄が死んだのに勝ち抜きと言うのは…?
ますます謎が増えてしまった翔だが、10年前のことを言うとわかりやすくアイの顔が曇るので特に言及はしないでおくことにした。
「アイさんは本当に格好いいんだよっ」
と、急に熊と遊んでいた少女亜里沙が会話にまじってくる。
「どんなピンチも一発でばしゅーんっしゅぴーんっと解決して、しかもそれを全く威張らず、いつだってクールな表情できめるんだから…!」
「亜里沙…途中擬音ばっかでわかりませんよ…」波音ははぁ、とため息をつき、
「でも確かに私達にとってアイさんは本当憧れの女性像そのものでした」
と言って、和やかな笑みを浮かべる波音。
そういえば、波音の笑顔を見るのは初めてな気がする。
そんな事を思いながら、翔は「へーっ」と感嘆の声をあげた。
まぁハイスペックなのは薄らわかっていたのだが…、やはりこの神様はそうとう凄い神様なのだろう。
しかし、そんなふうに褒められていてもアイの表情は何故か浮かない。
『……? どうしたんだろう…?』
きょとんとした表情でアイの方を見る翔。
と、視線に気づいたらしい。アイがじっ、と翔の方を見て、
「……何よ人の顔をじっと見て」
「あ、いえ!」
「そーいやアンタ私に話があったんだっけ? こっちの話しは済んだし今聞くけど」
そういえばそうだった、と翔は思い出す。
亜里沙の衝撃やら、波音との再会やら、風の神の登場やらですっかりアイと待ち合わせていたのを忘れていた。
「じゃあ聞きたいんですけど…何で転入してきたんですか?」
「………、だから昨日言ったじゃない。神はパートナーの傍にいることで力を得るって」
「いや、まぁ言ってましたけど…!」
流石に学校まではついてこないだろうと思ってた翔からすれば、驚きだ。
それに何より転入してくるならそう言ってくれればいいものを。
言ってくれてなかったせいで、教室で無駄に驚く羽目になってしまった。
「ってか話ってそれだけ? そんなの教室で聞いてくれれば良かったのに」
「…いや、転入してきたばっかの子にそんないきなり親しげに話しかけたら周りに怪しまれるかなと…」
ふーん、という適当なアイの返事をきくとあまり納得のいく返答ではなかったようだ。
おそらく彼女自身は、今自分がクラスでどれだけ目立っているのかわかっていないかのだろう。
だからこそ、何をどう怪しまれるんだ? と思っているのだろうが、
『いや…本当転入してきたばっかの…それも美少女にいきなり僕なんかが話しかけたら周りの男子達からの殺気必須だよなぁ…』
と、翔は内心で色々冷や汗ものだったわけである。
まぁ本人に言ったところでわかってはもらえないだろうから言わないでおくが…。
「ところで、俺ら一応共闘関係になったわけだし、自己紹介でもしとかねーか?」
唐突なフウの提案に、波音は訝しげに目を細め、
「とはいえ私は一応全員知ってるのですが…、」
「いや、そこらへんはそうかもしれねーけど俺と天道とかはついさっきあったばっかで面識ねーし」
「あ、そうですよね」
フウの言葉に翔が賛同する。
アイと波音、亜里沙は既に10年前に会っていたようだし、フウは波音のパートナーだからそこも知り合いだ。
しかし、翔は亜里沙とフウの2名には今日初めて会ったばかりだ。
しかもこれから協力するのならばある程度の情報は知っておきたいわけだが…。
「…はぁ。仕方ないですね」
と、波音はため息をつくと姿勢をぴしっとただして、
「私は徳永波音。そこにいるフウのパートナーで、一応この学校の理事長の娘でもあるので何かあれば相談してください…ってとこで良いですか?」
「あ、やっぱり徳永さんって理事長の娘だったんですねー…!」
翔がそう言うと、波音が「それが?」というような目で見てきたので特にそれ以上コメントはしなかった。
翔は知る由もないことなのだが、波音はこの学校に入ってから理事長の娘という事で様々な特別扱いや偏見などを受けた過去がある。
それ故にその肩書きに反応されることに少々敏感になっている…というわけだ。
「波音…お前の自己紹介は素っ気ないな…」
「そんなにいう事もないですし…誕生日とか言った方がいいですか?」
「ああ、いや、別にいいけど…」
フウが呆れたように苦笑すると、波音はそれ以上何も言わなかった。
どうでもいいが、この少女神様相手でもお構いなしと言うか…根っからの女王気質のようだ。
「あー、じゃあ次は俺だな。風を司る神のフウ。波音のパートナーだ。戦闘は…まぁアイには到底かなわないから今後精進していきたい、ってとこだな」
そう言って爽やかな笑みを浮かべるフウ。
他の神に会っていないのでなんともいえないが、翔的にフウが割と良識ある神のような気がする。
空気も読めるし、結構気遣いもしてくれるし、
『今後仲良くなれるかな…!』
と、両手の拳を握ってガッツポーズをつくる翔。
このメンツの中では翔の他の唯一の男子メンツだ。ぜひとも仲良くしていきたいところである。
「あ、じゃあ次私ねーっ」
そんなことを思っていると、今までずっと熊と戯れていた亜里沙が挙手をする。
「橘亜里沙。ミカアカ1年。波音の幼馴染。波音と一緒にいたからパーティーの事はもちろん知ってるけど、私自身は一般人であまり役に立てないかもなんだけど…よろしくですっ」
にぱっと可愛らしい笑顔を浮かべる亜里沙。
翔の勝手なイメージだが、ミカアカ…即ち女子学院に通っている女子は高貴な女王様タイプが多いかと思ってたのだが、亜里沙はそういったイメージとはむしろ逆な印象を受ける。
基本的ににこにこしていて、動物と仲が良くて…まぁ少々不思議なところはあるけど純粋な良い少女だ。
『亜里沙さんとも上手くやっていけそうだな…!』
人脈が広がったことを少し嬉しく思う翔。
だが、その広がりの原因が神々の戦いであることを考えるとなんだか微妙な気もする。
「…次は私だけど…、」アイは少し困った顔をして、「…私ここ全員元から知り合いなんだけど…」
言われてみて、ああそっかとなるフウ。
確かにフウとはずっと神として一緒にやってきてるわけだし、翔とはパートナーだし、亜里沙や波音とは10年前に出会っている。
「まぁとはいえ、翔とは昨日会ったばっかなんだし紹介してやれって」
「…ああ…そうね…。じゃ、氷を司る神のアイよ。一応前回勝ち抜き者で歴代順位2位ってことになってるから、困ったことがあったら言ってくれれば助けにいくわ…ってとこかしら」
「アイさんそんなに強いんですか…!?」
翔が驚愕すると、アイが「まぁ…」と頷く。
前回勝ち抜き者はさっき聞いたからしっていたが、まさか歴代順位が2位とは思わなかった。
それはなんというか…翔が足を引っ張らない限りは楽勝で勝ち抜けそうな気もするが…。
『やばい僕頑張らないとだなぁ…てか、さりげなく助けに行くってアイさんやっぱりイケメンすぎる…』
昨日から女の子に負けっぱなしな翔はがっくりと肩を落とす。
そんな翔を見ながらアイは「感動したり落ち込んだり忙しい奴ね…」と呟いていたが原因が彼女であることはわかっていないだろう。
「ほれ、おめーの番だぞ」
「あ、そっか。えっと、シラヅキ1年E組の天道翔です。アイさんのパートナーなので…まぁ、迷惑をかけないよう頑張っていきたいと思います…」
「ああ、そんな事気にしてたのねアンタ。平気よ、アンタ1人にかけられる迷惑くらい私がちょちょいと解決するから」
「いえ! 極力かけないようにします…!!」
まぁそうしてくれるに越したことはないけど…ときょとんとするアイ。
今後もずっと女の子に守られるというのは男として情けない。…いくら向こうが強くてもだ。
これから頑張って強くならないとなぁ。そんな事を思っていると、アイが視線を翔からフウへ移し、
「そういえば、フウ。アンタ誰か神には既に会ってる? 私達以外で」
「おお、急に話題変えたなお前も…。いや、今のところ俺があったのはお前らくらいだ」
「そう…。じゃあ、コイツが昨日ライのとこのジョンに襲われてるから…最初の敵はライになりそうね」
アイは相変わらずクールな表情のまま、そう告げる。
と、しばらくの間黙っていた波音がしばらく考え込む素振りを見せてから、
「…一応10年前に私もちょいちょい神を見かけましたがライ神は電光を司る神である、という点以外はあまり記憶にありませんね。どんな神なんですか?」
「ライのことは私よりフウに聞いた方がいいわよ」
と、アイが目の前にいるフウの方を指差す。
それに合わせて翔もフウの方を見ると、フウは「あー…まぁ…」と少々苦笑を零していた。
「電光を司る神は…そうだな。どんな神かと問われれば…、所詮でアイにぶつかるのが憐れになってしまうくらい弱い奴かな」
「え、弱いんですか!?」
思わず翔が叫ぶと、フウが「まぁ…」と頷く。
そういえば、先ほどアイは前回のパーティーの勝ち抜き者だと言っていた。
ということは、もしかすると以前のパーティーではライを倒していたりするのかもしれない。
しかし、ぶつかるのが憐れになるくらい弱いという事は……アイ楽勝なんじゃないだろうか?
そんな疑念を持ちながらアイの方を見ると、アイも翔の考えを察したのだろう。「ああ…」と言ってから、
「まぁ正直、真正面から一対一で戦えばライに負けることは100%ありえないと言えるでしょうね」
「やっぱりそうなんだ…」
「私を誰だと思ってんの?」
と言って、ふっと格好いい笑みを浮かべるアイ。
セリフといい表情と言い、やはりこの少女はかなりのイケメンである。
「ただまぁ、」とアイは続け、「パーティーはパートナーとかを上手く使った頭脳戦でもあるから。向こうの出方次第かしらね。…ライはちょっとずる賢いとこもあるし」
「頭脳戦…」
まぁ確かに、アイが来る前にパートナーを潰しておこうと自分を狙って来たり、ちゃっかりペットを連れて来ていたりするところを見るとまだ何か企んでいる気はするが。
でもいくら頭を働かせても、前回の勝ち抜き者と言う筋書きを持っているアイを打ち負かすことなど可能なのだろうか…?
「ま、戦いでは何が起きても不思議じゃないからな」
と、翔の心中を呼んだかのようにフウが真面目な表情でそう告げる。
「一応お互いに気は引き締めておこーぜ」
2、
同時刻、昨日翔が襲われた空き地にて。
人気のないそこに、2人の男女がいた。
一方の男は、昨日翔をここまで誘導してきた男――即ち電光を司る神のライ。
そしてもう一方は――、
「はぁ!? じゃあまだ倒せてないわけぇ!?」
黒髪を下で2つにくくった――特にそれ以上の特徴もない少女だった。
年は制服を着ていることなどから判断するに、高校生くらいだろう。
彼女はぷくーっ、と頬をふくらませて、
「どーすんのよっ! 氷の神とパートナーのひょろい男が会う前にパートナーの方を倒しておけばオッケーっていたのはアンタじゃない! それなのに…もう会っちゃったし」
「予想以上に氷を司る神が来るのが早かったんだ。とりあえずお前は少しは落ち着け、結衣」
結衣、と呼ばれた少女は「ふーんだっ」とそっぽを向くが、ライの方は特に気にかけなかった。
元々口うるさい少女なのはであった時からわかっていたので、今更気にすることでもない。
「で、今後どうするわけ? 他の神から倒してくの? 氷を司る神には勝ち目がない、ってアンタ言ってたけど」
「…ああ勝ち目がないな。あの神はああ見えて歴代順位2位の強さを誇っているくらいだしな」
「ちなみにライは?」
「俺は…まぁ底辺の方と言えばいいのか」
結衣のただでさえ睨むような視線が、更にキツいものへと変化する。
だが、そこは揺らぎない事実なのだ。真っ向から勝負して、自分がアイに勝てるわけはない。
ではどうするか。
「真っ向から勝負して勝てないなら、頭をつかうまでだ」
「…頭をねぇ。でも既にパートナーを葬る作戦は失敗してるわけじゃない」
「いや、話は簡単だ。要するに、氷の神とパートナーの間に決定的な溝を作ってしまえばいい」
「………、」結衣は少し黙って、「アンタねぇ…簡単に言うけどそんな簡単に引き裂けるものなわけ?」
机上の空論だと思っているのだろう。
結衣の訝しげな目が突き刺さるが…、しかしライにはちゃんと策はある。
今回のパーティー、アイのパートナーが天道翔だと知った時からこの作戦は考えていた。
「まぁ普通のパートナー同士ならそう簡単ではないが…、アイツらの場合は簡単なんだ。元からちょっとした溝が生じているからな」
「……というと…?」
結衣の疑問の声がしていたが、ライは特にそれ以上を説明する気はなかった。
彼は空を仰ぎながら、不敵な笑みを浮かべる。
『天道翔…10年前の真実を知っても、お前は尚あの女のパートナーであり続けようとするか…?』
晴れていた空が、徐々に曇り始めていた。
以上で終了です…!
さて、徐々にアヴェク第一篇〝変わりゆく日常〟もクライマックスへ向かっていくところでございます…!
次回辺りから起承転結の転の位置にさしあたりますが…どうぞよろしくお願いしますねー♪ それではまた次回の更新で…!




