Chicken and God
地にいる僕から見て、
天に立つ君のなんと輝かしいことか。
『Chicken and God』
何で、自分は今こんなことになってるのだろう。
目の前にいる……巨大な化け物を見ながら少年、天道翔は真面目にそう思う。
『待て待て待て…! 落ち着け。おかしい。僕はごくごく普通の男子高生なはずなんだがなぁ…!?』
巨大な化け物の正体は、何やらバチバチと紫電を散らす金色の龍。
そしてソイツが狙っているのは、間違いなくこの自分である。
どうしろっていうんだよ…!? と思いながら翔は目の前の金色の龍を見上げる。
体長は10m程。とてもじゃないが、普通の少年にどうにか出来るものではない。
『…ど、どうしよう…。まずこれ何…ホントに龍…!? なんでこんなのがいるんだよ…!? 龍とか今まで見たことない…ってか架空の生き物だと思ってたんだけど…!?』
ダラダラと滝のように流れる汗。
が、こちらの事情など全く知らない龍は真っ赤な眼光をこちらへ向け、
「グルォォォオオオオオオオオオオ!!」
「うわぁぁぁあああああああああああああああああ!?」
自分へ向けて襲い掛かってくる金の龍。
龍の大きな口がほぼ目前まで迫ったところで、翔はこう思った。
『……あ…僕死んだ…』
せめて最後に両親に何か一言ずつくらい言いたかった。
そんな事思いながらゆっくりと目をつぶり、覚悟を決める翔。
だが、そんな翔に待っていたのは残酷な命の終わりではなかった。
「グルォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!?」
「ッ!?」
不意に聞こえる、龍の悲鳴のような鳴き声。
あまりにも大きな鳴き声に耳を押さえながら翔はそっと目を開けて、驚愕の光景を目にした。
――ある1人の小柄な少女が、上空から振ってきて龍の頭にとび蹴りをかましていたのだ。
少女は銀色の髪と、黒の上着をなびかせながら、くるくると空中で何回転かするとストンッと両足で軽やかに地面に着地。
それから翔の方へと視線を向けて、「大丈夫?」と透き通った声で尋ねてきた。
「………、」翔はその光景にポカーンとしたまま、「…え、えっと…君は…?」と問いかける。
「…ああ、自己紹介がまだだったわね」
まるで、昔映画で見て、憧れたヒーローのように。
黒の上着を風になびかせる彼女は格好いい笑みを浮かべながら、
「私の名前はアイ。氷を司る神のアイ。……よろしく、パートナーさん?」
「……か、み…!?」
この日、
アイと名乗るこの少女との出会いが、今まで普通だった天道翔の人生を波乱の方向へと導いていくことになるのだった……。