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対決

全ての者が死に絶えて・・・どれくらいの時が経っただろう・・・・・。

瓦礫と死臭の中からムクリと影が起きあがった。

ノーボディ「痛てててて・・・・私だって“殺される時”はこれで結構痛いんだぞ・・・・・」

首をさすりながらも辺りを見回した。その時・・何者かの自分を捉える視線を感じた。

ゆっくりと後ろを振り返って言った。

ノーボディ「フン、やはりアンタだったのか・・・・・レオナルド」

そこに立っていた者は、バレンタインの銃で心臓を撃ち抜かれて死んだレオナルドだった。

ノーボディ「・・・ま、実を言うと大方予想は付いていたがね。一連のヤツ(ネクロマンサー)

      の行動を見ていると・・余りにもガキっぽい!」

レオナルド「いやいや見かけをバカにしちゃあいけないよ・・・人間は見かけが全てではないが

      時には見かけが精神にまで影響を与えてしまう」

ノーボディ「しかし自らを不死化させているとは誤算だったよ・・・」

レオナルド「本当はもう少し“未熟な魔法使い”の役を演じていても良かったんだが・・・

      バレンタインの銃口を見たとき潮時かな、と思ってな」

ノーボディ「・・・ヤツ(バレンタイン)が頭を狙って撃ってきた場合はどうする積もりだった?」

レオナルド「・・・別に、弾丸ぐらいなら外れたふりをして避ける自信はあったさ・・・

      俺はそんじょそこらの魔法使いとは年季が違う!」

百年近くを生きているといわれる大魔法使い「ネクロマンサー」はコツコツと歩き始めた。

レオナルド「それにしてもお笑いじゃないか・・・かつて俺を外法と罵った人間共も一皮剥けばこの

      有様だ!人間なんて結局自分のエゴを最優先させる・・自分が一番可愛い生物なんだよ

      ・・・・そんな奴等が俺を非難する権利なんかあるのかァ?

      俺はただ・・己の知的探求心を満たしていただけだ・・そこへいきなりやってきて全て

      の地位も財産も没収された挙げ句、俺は辺境へと追放された・・・その後、俺が如何な

      る苦闘を重ねて生きてきたかは分かるまい・・・外法の烙印を押された俺は・・何処へ

      いっても爪弾きにされ蔑ろにされた・・・・・

      いや、それより何より俺の研究が人々に理解されなかった。一部のアホ共のために偉大 

      なる研究が潰されようとしていることが俺には耐えられなかったのだ・・・・」

ノーボディ「・・・その為に、こんな茶番を仕組んだのか。お前・・・見かけもガキだが中身もやっ

      ぱりガキのままだな・・・・」

ノーボディは礼拝堂の中の4つの死体の周りを歩き始めた。

ノーボディ「ここにいる者達は皆それぞれの理由を背負い・・・この戦いに参加した」

ノーボディ「“忠誠”」ヒロユキの死体

ノーボディ「“野望”」鬼山の死体

ノーボディ「”復讐”」バレンタインの死体

ノーボディ「そして“愛情”」ナイチンゲールの死体

ノーボディ「・・・そのどれもが、それぞれ譲れないものだったんだ・・それをお前は無理矢理おな

      じ物差しで測ろうとしたのか・・・・」

レオナルド「五月蠅い!!!」レオナルドは叫んだ。

レオナルド「俺の研究は人間が神と同等の能力を持っていることの証明だ!!!

      いつか人間は“死”をも克服する事が出来るであろう、その時知るのさ・・・ちっぽけ

      な倫理観で魔術の可能性を詰む事がどれ程愚かしいか・・・歴史はルールを変える者に

      よって創られる・・・今までもそうだし、そしてこれからもな!!!」

激昂に疲れたレオナルドは肩で息をすると少し落ち着いて呼吸を整えた。

そんなレオナルドを、ノーボディは相変わらず死んだ魚のような瞳で見つめていた・・・

レオナルド「・・で、お前は一体何者なんだ?どうやらただの魔法使いでも無さそうだが・・・」

ノーボディ「やはり憶えてないようだな・・無理もないか。お前にとって私は・・何百体という失敗

      作の一つに過ぎないのだからな」

レオナルド「・・・・・?」

ノーボディ「本来自我を持たず、生者を機械的に襲うだけのゾンビに誤って魂までを甦らせてしまう

      事がある・・・不完全な外法“反魂の法”だ」

レオナルドはそこまで言われてようやく遠い記憶を甦らせた。

レオナルド「ああそうか・・・お前研究の初期段階で色々やってた頃の実験体の一つか・・・・・」

ノーボディ「その通り・・甦った死体は、その躯が朽ち果てるまで永遠に地上を彷徨い歩く・・・

      なまじ自我を持っている分、余計に残酷ってもんだよ」

ノーボディはレオナルドをキッと見据えて言った。

ノーボディ「何故お前の研究が阻害されたと思う・・それは私のような人間をもう増やさない為だ

      お前が私を甦らせた時・・私の家族は疾うに死に絶え、私の国は何百年も前に滅んでい

      た。分かるか・・今の私には愛する者もいなければ憎むべき敵もいない・・・・・

      ノーボディだ、今の私は完全にノーボディ(誰でもない)なんだよ!!」

ノーボディはその時はじめて感情らしき感情をむき出しにした。

レオナルドはしばしの沈黙の後に口を開いた。

レオナルド「・・・・それならば何故俺に会いに来た。復讐か?俺を殺しに来たのか・・・?」

ノーボディは首を横に振った。

ノーボディ「お前を倒したところでもう私の躯が元に戻るわけではない・・・

      お前の前に現れた理由は、お前の凶行を止めさせる為と、今の私の気持ちを知ってい

      て欲しかった。ただそれだけだ。」

レオナルド「そうか・・だが一つだけ言えることがある」

目がスッと細くなり彼は軽薄な笑みを浮かべた。

レオナルド「ゲームは俺の勝ちだ!」彼の手には先程の拳銃が握られていた。

 ドォン!!!

銃声が轟いた。・・・いや、それは銃声にしてはあまりにも大きすぎる。何かが爆発したような音

だった。拳銃はレオナルドの手の中で暴発したのだ。

レオナルド「・・・・・・・!!!」

レオナルドは自分の右腕が弾け飛んだのを片方の目で見ていた。破片が身体中に刺さりその一つが

右目を抉ったのだ。

ノーボディ「どうした・・銃弾はよけれても散弾は避けられまい・・・・」

レオナルド「・・・・・・・・がっ!?」彼は床に崩れ落ちた。

レオナルド「貴様・・・銃に何か細工をしていたな・・・・」

ノーボディ「お前が“死んでる”隙に火薬を多めに入れといて、銃口をガムで塞いでやった」

右目の傷は脳にまで達していたらしい。彼は自分の意識が次第に薄れていくのを感じでいた・・・

“脳”を破壊されればアンデットは死ぬ、それはレオナルドとて例外ではなかった。

レオナルド「・・・これで満足か・・俺を倒せてお前はこれで良かったのか・・・・・俺を倒した

      ところで、お前が死ねるわけではないのだぞ・・・・」

ノーボディはため息をついた。

ノーボディ「死にたいだけなら頭をぶち抜けばいつでも死ねるさ・・・私の望みは人と同じように

      普通に歳をとって死ぬことだ」

レオナルド「クククククク・・・・・・・・」彼は含み笑いを始めた。

レオナルド「その事だがな・・・まんざら方法が無いわけでもないぞ・・・・・」

ノーボディ「・・・・・!?」

レオナルド「ここより遙か東の果て・・やがて大地の終焉がやってくる。誰も乗り越えたことのな

      い断崖の先に魔界の神々が住む国があると聞く・・・・」

ノーボディは死んだ魚のような瞳でその話を聞いていた。

レオナルド「9柱の魔神と108人の魔王が15012隊の軍団を従えて守っている宝玉の中に反

      魂の法を完全なものとする触媒が隠されているらしい・・・・ネクロマンサーの俺で

      すらそれを手にしようとは考えもしなかったがな・・・・・

      征くのか・・・死ぬより辛い運命が待っているかも知れない・・ぜ・・・・・」

レオナルドはそこで事切れた。ノーボディは死体の死体となり果てた彼を見つめて静かに呟いた・・

ノーボディ「・・・どんなに小さな望みでも・・・生きる目的がある限り人は生きていける」

たった今、生きる屍だったノーボディに新たな目的が出来たのだ。礼拝堂の門を開き新たな道へと

歩み始めた。夜は明け、朝日が神々しく朽ちかけた教会を包んでいた・・・・

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